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読書日記、ときどき食日記

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遺伝子は、変えられる。〜あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実 / シャロン・モアレム 

少し前に「言ってはいけない 残酷すぎる真実」という本と、「日本人の9割が知らない遺伝の真実」というのを読んでいたので、まあね…知ってたけどね…と観念していたけれど、、、、
本書のタイトルは、なんと「遺伝子は、変えられる」!!!

しかも、著者は遺伝学者にして希少疾患専門の臨床医だ。従来の薬剤がきかない「スーパー耐性菌」に有効な「シロデリン」という抗生剤の生みの親でも知られている。


これはどういうこと?!と思って読んでみた。

というのも、「言ってはいけない 残酷すぎる真実」に書かれていたのは、科学的根拠に基づいたまさに”言ってはいけない真実”であったし、「日本人の9割が知らない遺伝の真実」は行動遺伝学の見地からそのことを裏付けしたものだったからだ。


で、どうだったかというと、、、


結論として「遺伝子は変えられないが、変えられこともある」
物事には悪い面もあるが、同時に良い面もある、それが本書の率直な感想だった。


「言ってはいけない 残酷すぎる真実」にあるように、いくら努力したからといって、誰もが藤井4段や、イチローやナダルになれるわけではない。
「カエルの子はカエル」…橘玲氏はかなり露悪的に書いているため、嫌悪感を抱いた方も多いと思うが、私個人としてはこれはこれで大いに納得できる本だった。
解釈の仕方によっては優性学的に陥る可能性もあるが、幸福の尺度を下げ逆にその感度を上げる生き方の推奨とも受け取れる。

   

本書の著者もその種のことを否定しているわけではない。
親からハンチントン病の病原遺伝子を受け継げば、現在のところその悲劇的な運命を変えることはできないのは非常に悲しい現実だ。

遺伝学者であり、同時に先天性希少疾患の専門医である彼は、これまで見てきた多くの希少疾患患者の例をあげつつ説明していく。
生まれつき骨折しやすい女の子、全身が骨化してしまう子、「ミレニアム2 火と戯れる女 」に出てきたニーダーマンと同じく痛みを全く感じない"先天性無痛無汗症"の赤ちゃん…etc
これらの症例を通して見えてくるのは、遺伝子の不思議だ。先天性の希少疾病患者と私たちの違いはごくごくわずかな変異の差であり、私たちは誰でも変異したDNAを持っている。

Sharon-Moalem-00.jpg 
ただ、先天的に運命づけらている遺伝子もあるが、その発現には後天的な要因が絡むものもあるという。そのスイッチをオンにするかオフにするかは、環境や食生活といった様々なことがらに起因しているというのだ。
例えば、ほうれん草を食べる人の多くは、発がん性物質がもたらす細胞の突然変異を抑制することが可能になる。簡単にいえば、ほうれん草を食べることで、遺伝子そのもののの発現を変えることができるのだ。
ほうれん草、すごいじゃないの!\(^o^)/
悪い例では、いじめもセロトニンを運搬する遺伝子に悪い意味で影響を与える。いじめは、その時期だけではなく、その人のその後の人生も変えてしまうのだ。いじめに加担することがどれだけ罪深いことか、教育にもいかしていくべきだと思う。

また、ある特定の遺伝子が発現したとしても、その”表現型”には様々なスペクトラムがあるという。その表現型があまりに軽度なために、一般に見過ごされていることも多いのだそうだ。そして、この表現型も変化しうる。
このような変化をエピジェネティックな変化というが、わたしたちがすることは全て遺伝子になんらかの影響を与えるらしい。さらに興味深いことは、この"エピジェネティックな変化"は子孫にも遺伝する

Spinach.jpg 
「遺伝子は、変えられる」というのも、また正しいのだ。
ことはメンデルのソラマメ理論のように単純ではない。白か黒かでは測れないのだ。
親からもらった30億個の文字が連なった「継承物〜inheritance」には柔軟性がある。

今日の遺伝学のトレンドは、遺伝的に受け継いだものが何をするかだけでなく、エピジェネティックな変化を通じて複雑なシステムにどのように影響を与えるのかに移っているという。


今や、個人で遺伝子検査ができるようになったことで、アンジェリーナのように、予め将来罹患する確率の高い病気の予防を講じることができるようになった。
しかし、反面で遺伝子情報をたてに、生命保険の加入を拒否されることもあるし、高額な保険料を課されるなど「差別」にあう可能性もある。結婚も叶わないというケースもでてくるだろう。

なんにせよ、良い面と同時に悪い面もあり、物事は遺伝子同様、多面的で良くも悪くも柔軟性があるのだ。

ああ、嫌だなぁ…と思う事柄があっても、大抵の場合その事柄は変わらない。変えられるのは、自分の受け止め方だけだと誰かが言っていた。
しかし、自分の受け止め方を変えることは、それによって自分の遺伝子も変えられるということでもあるわけで、その種の相乗効果も期待できるということでもある。。。


ところで、今は全仏オープンテニスもいよいよ佳境だ。
なにせナダルの全仏ラ・デシマ(V10)がかかっているので、ほぼ噛り付きでWowowを観ている。
しかし、昨日のジョコビッチの無気力試合ときたら…やっぱりアスリートはお肉を食べたほうがいいんでないの?やる気でないでしょ。
多くの人によい食習慣が全ての人にあてはまるわけではないということも、本書には書いてある。

それはさておき、修造(もう、あんな人に氏などつけない)が聞き捨てならないことを言っていた。
「錦織は天才で、ナダルは努力の人だ」

ナダルが努力家であることは確かだが、努力だけでグランドスラム・タイトルを14回も獲れないでしょうよ…( ノД`)思わず突っ込んしまう(苦笑)
貶めるようなニュアンスも感じられて(毎度のことだが)、ちょっとむかついた。
そうじゃない。正しくは、ナダルは才能も能力もある上で、より高みを目指し日々研鑽しているのだ。ナダルに限らずトップ選手は皆そうだと思う。それにしてもWowの修造解説はもう勘弁。

彼の叔父さんは元スペイン代表。遺伝的にも間違いなく彼はアスリートとして抜きん出ている。
それに、努力し続けることができるのは古今東西、成功者の共通点だ。何かを才能とか天才と呼ぶのならば、この能力以上にふさわしいものはないと思う。
今年の上半期のベストセラー本、「やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける」 に書かれているのもたぶんこのことだ。


で、オチは何かというと、、、
努力し続けることは、エピジェネティックなプラスの変化の連鎖を生むのかもしれないなぁと思ったのだった。

全仏ラ・デシマ期待してます!!!

   

category: ポピュラーサイエンス

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2017/06/08 Thu. 17:42 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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サイコパス・インサイド 〜ある神経科学者の脳の謎への旅 / ジェームズ・ファロン 

今朝、起きたら、『エヴリシング・オア・ナッシング:知られざる007誕生』をやっていたので、つい観入ってしまった。

007とは、まぎれもないあの人気映画シリーズのこと。原作者イアン・フレミングはどうやってボンドを生み出したのか、映画製作者たちはどんな苦労をしながら、あのシリーズを継続させていったのか等々を、ホームビデオによる秘蔵映像やスタッフのインタビューによって、まとめあげたドキュメンタリー作品である。時に映画のシーンを使った映像は、私の世代にとっては懐かしいの一言だった。
ショーンと制作サイドの不和と降板、プロデューサーの強烈な執着ゆえの長い訴訟、ティモシー・ダルトン起用の失敗とようやく実現したピアース・ブロスナンのボンド等のエピソードが語られている。
ブロスナンのボンドは、タメのあるアクションがかっこよくて私は割と好きだったのだが、大成功を収めたにもかからわず、4作で終わってしまった。それは冷戦終了という時代の流れによる原点回帰のためのものだったという。そして苦労の末に誕生したのが、あのダニエル・クレイグのボンドなのだ。あの作品のほの暗さとストイックなクレイグのボンドは今という時代に即しており、大衆にも受け入れられたのは周知の通り。
私は映画館があまり好きじゃないので、「スペクター」は観てないのだが、観たくなったな…
007_Stage.jpg

ところで、ボンドは、サイコパスであるとしばしば言われる。そもそもサイコパス的気質がなければ、スパイはつとまらないだろう。
しかし、サイコパスなどという診断は実は精神医学の世界には存在しないのだという。その診断基準は今もって論争の渦中にあるらしいが、共感性の欠如というのが最も大きな特徴らしい。


サイコパスについての説明を引用してみると、「サイコパスは人を憎まないこともあるが、愛し愛されるという私たちの多くがしている仕方で、人を愛することもない。サイコパスは人を思い通りに操縦しょうとし、嘘に長け、口がうまく、愛嬌たっぷりで、人の気持ちを引きつける。彼らは人が恐れるような結果を気にしない。(中略)しばしば衝動的で、罪悪や後悔の念に苛まれない。つまり、彼らは向こう見ずで危険な遊びに誘っておきながら、けが人がでても、肩をすくめるだけでおしまいにする」
いうまでもなく、これらの気質には程度があり、スペクトラムのどこに位置するかによって異なるが、言われてみればそのままボンドにも当てはまる。

slide-2 brain
ところで、サイコパスには脳に際立った特徴がある。彼らの脳は決まってある一定部位、情動を司る部位の機能低下がみられるという。
そして、本書の著者ジェームズ・ファロンは58歳の時、自分自身の脳に、そのサイコパス脳と同じ特徴を認めたのだった。その事実を発見したのは、まさしく全米のおぞましい連続殺人者たちの脳を、そうでないものとのブラインド対照させていた最中だった。

ファロンは、自らも認めるように、成功した脳神経学者で、有名大学の医学部の教授であり、三人の子供を持つ良き家庭人であり、多くの友人にも恵まれていた。これまでにどんな犯罪歴もなく、暴力的でもないことから、ファロンは自分がサイコパスだとは考えなかったが、サイコパス脳と自分の脳のパターンが一致していたことは、考えさせられる事実だった。

それに加えて、人間を形作るの8割は遺伝子型であると信じていたファロンは、また別の驚くべき事実を目にすることになる。彼の父方の家系は、かのコーネル大学の創設者に連なるもので、過去長きにわたり5指に余る数の殺人者を出してきた家系だったのだ。そして、調べてみると彼自身、いわゆる「戦士の遺伝子」を持っていたのだ…
この戦士の遺伝子(詳しくは、MAO-Aプロモーターの短形型)を持つ人は、怒りを抑制しにくいため、暴力的傾向が強いといわれている。これもシリアルキラーに多くみられる遺伝子型なのだ。
この遺伝子は、暴力的傾向の強い地域で蓄積されると考えられており、紛争地域などでは、この遺伝子型を持つ人が多いらしい。

余談だが、来週から全豪オープンテニスがはじまる。
現在ナンバーワンのジョコビッチもその遺伝子型を持っている可能性が高いのではないか。あの超攻撃的なスタイルもそうだが、怒りを制御できず、しばしばコートにラケットを叩きつける姿からもなんとなく想像できる。が、何より彼はセルビア出身なのだ。

ただ、ここでいらぬ誤解を招かなないように断っておくと、サイコパス脳で且つこの遺伝子型を持つファロンは、全く暴力的な人間ではないし、成功した科学者だ。
同様に、ジョコビッチもユーモアに富んだ、よき家庭人として知られている。

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自らに関する衝撃の事実を知ったところから、ファロンの探求の旅は始まる。自分は常に多くの友人に囲まれ、楽しくやっていると思っていたが、本当のところはどうだったのだろうか。戯れに同僚が「お前はサイコパスだ!」と言っていたことは、本当に冗談だったのか…。
自らの青年期から現在までの振る舞いを、脳の成長や働きのデータと照合しつつ説明する様は、なぜか恐ろしさを感じさせた。だって、あまりにも、冷静沈着にすぎるのだ!

また、サイコパス脳にみられるような脳の機能低下の場合、たいてい他の疾患、統合失調症、躁鬱、双極性障害を併発しているという。ファロンの場合も自覚症状は全くなかったが、実は双極性障害を患っていた。(彼の場合、長期間にわたっての軽躁状態がみられたという)
彼は、体重の増減が激しかったが、軽躁状態の時は、4時間睡眠しかせず、痛飲、大食による体重の増加があり、研究結果には目覚しい発見がいくつもあった。自分では愉快で楽しいやつだと思っていたが、他人からみれば、ただ騒々しいやつだった。
その上、全く無意識にこれまで家族を傷つけていたことも判明する。だが、彼はそのことについて「気にしない」でいられたのだ。

ファロンはこうした事実を公にし、またそれをテーマにした数多の講演も行っている。訳者曰く、こうしたことができるのも、サイコパス的な特徴らしいが(笑)
確かにファロンにはサイコパシーが多くあるが、反社会性もないし、暴力性もないのだ。過去に犯罪を犯したこともない。
彼は「マイルド・サイコパス」に分類されるといわれている。
サイコパスという事実を公表後、幾人がの友人は去っていったが、未だ彼には多くの友人がいるし、ティーンの時代から寄り添っている妻もそんな父を見捨てない子供たちもいる。

多くの人は、サイコパスを十把一絡に、危険なシリアルキラーだと認識しているが、決してそうでなく、スペクトラムなのだ、程度の問題なのだということを周知させるにも、良い本だと思う。

『サイコパス 秘められた能力』でも描かれているが、サイコパスは必ずしも悪いばかりでなく、その性質はいくらでも良い面に活用できるのだ。現に、かつてのファロンのように、自分がそれと気づかず、各界で活躍している人は多いだろう。
例えば、外科医師にもその割合は高いという。
繊細で高度な技術が求められ、失敗が許されない手術の場合、執刀する医師が恐怖心を抱かず、過度に患者に共感しないことは、そうでない医師が執刀するよりも成功の確率ははるかに高いだろう。冷静に、自らの通常の能力を発揮できるのだから。

シリアルキラーと同じ脳パターンを持つファロン自身に立脚したサイコパスの「三本の脚」理論は、興味深いものだ。「氏より育ち」というが、人間には「氏と育ち」双方がどちらも欠かすことなく大切だということなのだ。



サイコパス・インサイド―ある神経科学者の脳の謎への旅

ジェームス・ファロン (著), 影山任佐 (翻訳)
出版社: 金剛出版 (2015/1/30)







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tag: サイコパス  脳科学   
2016/01/16 Sat. 11:46 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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赤の女王 性とヒトの進化 / マット・リドレー 

祝日は食べまくり・・・
私は、実は今年はまたランニングをやりたいと思っている。そして、そのために是が非でも体重を落したいと思っているのだ。その昔、20代で走っていたころはなんと42キロ!ええ、今から比べると嘘のように痩せていた。それでも元々膝関節などが弱いため痛めがちだったのだ。それが、今やね……(滝汗)
「でも、でも、Spenthさんは毎日ジムにも行ってるじゃない?」とよく言われるのだが、悲しいかな、行っててコレなのである…。まあ、ジム友のお腹まわりをみれば一目瞭然だし、エアロバイクをえっさかほっさか40分漕いだところで、食パン1枚やらおかき1枚分という厳しい現実もあるのだ。だいたいね、スリムな人は何もしてなくてもスリムだって。
おまけに、四十路も半ばも過ぎているので全然上手くいかない。
FotorCreated.jpg
なぜかって、食べちゃうからなんですけどね…。
この日誘ってくれた友人は、在ニューヨーク4年、在おパリ3年、日本に帰ってもフレンチ!フレンチ!フレンチ!スイーツ!の高カロリーバターまみれの生活をしてるくせに、鶏ガラのように細い。全く羨ましい遺伝子だわ。
人の世の、なんと不公平なことよ…。

red queenさて、タイトルの"赤の女王"とは何ぞや。
しかもサブタイは「性とヒトの進化」である。
往年の杉本彩やポルノちっくな連想をしてしまった人は残念でした。
本書は”性淘汰”にかかる科学啓蒙書であり、”赤の女王”とはあのルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』に登場する女王のことなのである。あの女王は懸命に走り続けているが、風景もまた彼女に追いついてしまうため、永遠に同じ場所にとどまっている。この考え方は、進化の理論に大きな影響を及ぼし続けているのだ。速く走れば走るほどに世界もまた速度を増すために、進歩は少なくなる。
ま、いうなれば、運動すればするほどお腹がすいて食べちゃう私みたいなものですよ。

ところで、なぜヒトには、ほ乳類や地球上の生物の多くに、複数の性があるのだろうか。なぜクローンで繁殖しないのか?
本書では、地球に長く滞在し研究を行っていた架空の火星人ゾクが、母星の上司にそれを報告するという形で導かれる。なぜ、地球人はセックスをするのか?なぜ人一人をつくるのに、人が二人必要なのか?宇宙人がアメーバーのように、単為生殖をする存在ならばこれは大いなる疑問だろう。火星人ゾクは上司にこう報告するのだ。
「ある人々は病気を寄せ付けない方法だったからだといい、またある人々は変化に即応し進化を速めるためだといい、またまたある人々は傷ついた遺伝子を修復するためだというが、根本的には彼らには何もわかっていないのです。」と。

 peacock 本書では、様々な角度から性淘汰の謎が掘り下げられていくのだが、私が興味深かったのは、性嗜好は遺伝子によって影響を受けている可能性が多々あるということである。進化の世界では物事にはすべからく理由がある。ゲイの人たちの同性愛の性嗜好も、我々がいわゆる「美しい人」を魅力的だと思うことも、自然淘汰と性淘汰の結果なのだ。
そこで再び、冒頭の私の悩みに戻るのだが、現在ほど痩せた女性が好まれる時代はいまだかつてないのだという。いわれてみれば、今の若い女の子は細っそいもんなぁ…。昔、私の時代のアイドルが、例えば河合奈保子や小泉今日子が体重やウエストサイズをサバ読んでいたのは、確固たる周知の事実だったが今の女の子はリアルに細い。
かつて、シンプソン夫人は「女性は金持ちすぎたり、やせすぎたりすることはできない」と言ったが、今やそのあり得ない世界に突入している。
痩せているということは、食べられない第三世界を除けば、女性にとってのある種のステータスでもあるという。これをフィッシャーの性淘汰理論にあてはめると、男性は細身の女性を妻にむかえれば、やせた娘を持つことができ、彼女は良縁に恵まれやすい。良縁に恵まれれば、多くの子を産み立派に育てる経済的余裕ができる。したがってやせた女性を選んだ男性は、太った女性を選ぶ場合よりも、より多くの子孫を残せるということになる。
だが、著者はこの理論に納得しない。私もなにか妙だなと思う。それはまた、別の観点から掘り下げられていくのだが、その楽しみは読んでのお楽しみにしておくべきだろう。

本書は実は日本では95年に翔泳社から刊行された本であるという。この度早川から文庫として再出版されたのだ。刊行されて20年以上経ているということは、科学啓蒙書としてはちと古い。その間にも研究は進みこの問いの解答へ近づいているのかもしれないからだ。が、それを差し引いても名著だと思う。誰がどんな理論を発表し、それに対してどのような影響があったのか、性淘汰や進化の世界の歴史と同時にわかりやすく学ぶことができる。それとともに、自分たちの生命の不思議さに思いを馳せずにはいられない。



赤の女王 性とヒトの進化 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

マット・リドレー (著), 長谷川眞理子 (翻訳)
早川書房 (2014/10/24)



Kindle版はこちら→ 赤の女王 性とヒトの進化



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tag: 早川書房  英国  遺伝子   
2015/02/12 Thu. 12:33 [edit]   TB: 0 | CM: 4

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人類が滅亡する6つのシナリオ〜もはや空想ではない終焉の科学/ フレッド・グデル 

ナダル、ローマ準優勝おめでとう!!!
しかし、トップ選手がそのトップ地位を維持することのなんと難しいことか。
プロテニスのツアーというのは、特に苛酷なスケジュールでオフシーズンというものはないに等しい。常に肉体的にも精神的にもギリギリの状態だ。まだ目指す上がはっきりしている下位選手ならまだしも、トップ選手のプレッシャーは並大抵のものではないだろう。
フィギュアの真央ちゃんは来季休業するらしいが、ナダルも少しお休みしてもいいのじゃないだろうか。

本書に出てくるキーワードに”ティッピングポイント"という言葉がある。これはゆっくりと予測可能な変化をしていた物事が突如急激な変化をし始める時点をさす。
すでに積載限界の荷物を背負ったラクダは、ワラ一本載せただけで背骨が折れてしまうこともあるのだというが、この背骨が折れる瞬間こそがティッピングポイントだ。
そういえばフェデラーもどこかの時点からか、それまでのように勝てなくなってしまった…



future2.jpgさて、本書に挙げられている”滅亡のシナリオ”は未来予測ではない。
この本に書かれていることは、最悪の場合何が起こるか、ということで、SFも真っ青胃の恐ろしいシナリオである。予測ではないということは救いであるものの、かなり実現可能性も高いものであるのも確かだ。

この本に挙げられている人類絶滅の要因は、スーパーウィルス繰り返される大量絶滅気候変動生態系の均衡の危機バイオテロコンピューターの暴走である。

2009年に流行したインフルエンザウィルスは、幸いなことに致死性の高いものではなかったが、ほんの少し遺伝子の配列が異なっていれば全世界的に破滅をもたらすものだったという。
また、生物学者の多くは現在進行形で地球上の生物は大量絶滅に向かっていると信じている。過去起きた大量絶滅を考慮するなら、もはやそれを止める手だてはないかもしれない。

そして、炭素排出量の増大により今地球では進行形で温暖化が進んでいる。気候は今後、急激に悪い方向へと変化してしまう可能性があるのだという。気候変動におけるティッピングポイントは、もういつであってもおかしくはない。既に世界各地で旱魃は起きており、先のオーストラリアの旱魃は穀物の価格の高騰を招いた。オーストラリアでは既に降雨予想ができなくなっており、旱魃に襲われやすくなっているとも言われている。飢餓は争いも生む。これが世界規模で起これば人類をはじめとする生物は絶滅の危機にさらされる。

気候変動のために農作物の収穫高が激減する事態となっても、我々にはテクノロジーがある。DNA操作によって少ない水分でも生育する穀物を生み出すことができるし、それによって飢餓を予防することだってできるだろう。
だが、そのテクノロジーは諸刃の剣でもあるのだ。生物学は日進月歩で進化しており、病原体のゲノム解析も進んでいてネットで公開されてもいる。
作中では、平凡な高校生たちがMITのiGEMというイベントに参加し、生物の細胞を改造することに成功したという話が紹介されている。この改造自体は、何の悪意も他意もないもので学生たちにとって意義あるものだった。が、彼らの成功の裏には、ほんの2,30年前までは誰もなし得なかったことが、わずかなコストで可能になったということに対する脅威が存在している。近い将来、専門的な知識や資金がなくとも、誰にでも生物兵器が造れるようになっているかもしれないのだ。

最後のシナリオは人工知能の暴走だ。
映画「ターミネーター」に描かれてた機械が自我を持ち、人間から世界の支配権を奪うということは、当分あり得そうにないと著者はいうが、もしもソフトウェアに何かがあれば、我々のデジタル依存度からすれば、甚大な被害が生じる恐れがあるのは確かである。
恐ろしくもあり同時に不謹慎ながらもワクワクしてしまったのは、スタックスネットというマルウェアの逸話だった。
マルウェアというのは、他人のコンピューターに侵入して持ち主の意図とは無関係の動作をするプログラムだ。ウィルスやワームが歩兵ならば、このスタックスネットと名付けられたマルウェアはエリート中のエリート、特殊部隊の隊員のようなものだという。
作成者によって予め、技術的な知識を付与されトレーニングさえ施されており、いついかなる状況に陥ってもその知識を用いて自力で生き残り任務を成し遂げる。実際、スタックスネットが遂行した任務は、CIAの腕利きスパイでも不可能なことだった。イランの核施設の遠心分離機を故障に見せかけ破壊したのだ。

china1.jpgこれらから何を学ぶか。私は著者よりも悲観的かも…。

人類絶滅の二番目のシナリオの「繰り返す大量絶滅」を除けば、それらは全て"人間に起因"するものである。自業自得といえば、その通りだ。小さな池の水中の環境が破壊されてしまったとき、元の澄んだ水の状態に戻す鍵は池のなかの魚が握っているという。池が濁ると魚は数を増す。増えた魚たちは水をかき回し、沈殿物が浮き上がり植物は水は濁る。魚たちが水を浄化する動物性プランクトンを食べ尽くすことにより、さらに水は濁り、水中に光が届かないことで植物は死に絶える。死のサイクルだ。だが、一旦池から魚を排すれば、数ヶ月後には水は再び澄み植物も茂るようになるのだという。
この話のなんと示唆に富むことか。私たち人類は池の魚と同じなのである。
たが、人類を一旦地球から別のどこかへ移住させることは不可能だ。

人口は地球という池のキャパシティなどおかまいなしに増加を続けている。今世紀末には100億人を突破するともいわれており、ダン・ブラウンの『インフェルノ』にようなことが起こっても全く不思議ではない。

そして、そもそも人類の文明は繁殖を良しとして発展してきた。産まれてくる子供を制限するのは、そもそも人の本能や良心に反するものであるし、逆に寿命をのばすのは良い事として世間一般に認識されている。経済も人口が増え消費が増え続けることを前提に成り立っている。
しかし、どこかの時点で爆発する人口をどうにかしなければ、最悪の6つのシナリオの多くは現実のものになってしまうだろう。この矛盾はどう扱われるべきなのだろうか?
地球滅亡は太陽に飲み込まれる76年後だという話だった気がするが、人類の滅亡はそれよりもはるかに近そうである。




人類が絶滅する6のシナリオ: もはや空想ではない終焉の科学

フレッド・グテル (著), 夏目 大 (翻訳)
単行本: 320ページ
出版社: 河出書房新社 (2013/9/18)







マンアフターマン―未来の人類学

ドゥーガル ディクソン (著), 城田 安幸 (翻訳)
出版社: 太田出版 (1993/12)






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tag: 未来  科学    人口  絶滅  SF 
2014/05/19 Mon. 20:38 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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サイコパス  秘められた能力 / ケヴィン・ダットン 

psychopath.jpgサイコパスといえば何を思い浮かべるだろうか?

ドラマ『クリミナル・マインド』に登場するシリアルキラーか、はたまた『羊たちの沈黙 』レクター博士だろうか。
しかし、厳密に言えば、サイコパス=反社会的人格障害ではないのだという。

本書に登場するサイコパスは犯罪者にとどまらない。英国屈指の神経外科医、高名な法廷弁護士、特殊部隊隊員、億万長者の元トレーダーなどなど。本書には多くの「成功したサイコパス」が登場するのだ。JFLやビル・Cクリントンを筆頭に歴代の米国大統領もサイコパス度が高いと言われているし、かのジェームズ・ボンドも典型的サイコパスなのだそうだ。
サイコパスは社会の頂きに多くいるのだという。
それが証拠に、サイコパス度の高い職業のトップは企業のCEOであるし、先ほど出て来た弁護士、外科医がそこにランクインしている。そして、なんと聖職者もランクインしている!
サイコパスに関する本は多くあるが、本書がユニークなのは、サイコパスの謎に踏み込むと同時に、彼らをただ異質なものと恐れるのではなく、”そうでない我々”も、彼らから学べるものがあるのじゃないか、という視点を持っていることである。

jobs.jpgサイコパスの特徴は、カリスマ的魅力があり自信にあふれ、自己中心的で、冷淡で破滅的でさえあるが、非常に優れた一点集中力をもち、プレッシャーのもと冷静でいられることだ。とりわけ、このプレッシャーの元の冷静さというのは、社会で成功するのに役立つ。彼らは基本的に”恐怖”を感じないのだという。

あるトップクラスの神経外科医は「執刀する患者に思いやりなんて抱かない」という。オペのときは冷静無比な機械になり、手にしたメスやドリルと一体化する。脳という雪山に挑んでいるときは、感情の出る幕はないのだ。つまり、失敗したらどうしようなどということは捨て置いて、目の前の問題だけに集中できるのだ。
また、元トップトレーダーは「トップにいる連中は一日の終わりに出口にむかっているとき、何を考えているのか、わからない。すっからかんになったのか、大儲けしたのか。」と言っている。つまり、トレーダーは、いちいち大喜びしたり落ち込んだりはしていられないということなのだ。
精神的に弱いと身の破滅になりかねないし、感情を排せなければ到底生き残れないというわけなのだ。

感情を排して一点集中できることと、恐怖心の欠如は今の社会では間違いなく有利な能力だ。
失敗したらどうしようと皆が躊躇するシーンでも、勝負に挑めるので、チャンスが多い。また、失敗しても引きずらないためまた挑むこともできる。そして、他人のように感情に振り回されることなく、目の前の目標だけに集中できる。

CatchMe ifYouCan映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン 』でディカプリオが扮した実在の天才詐欺師フランク・W・アバグネイルはこう言っている。
「二匹のネズミがクリームの入ったバケツに落ちた。一匹はすぐにあきらめて溺れ死んだ。もう一匹はあきらめずにあがき、あまりジタバタするもんでクリームがバターに変わり、それをかきわけて脱出した。おれはその二匹目なのさ。」
ちなみに詐欺師もサイコパス度の高い職業である。

しかし、このセリフのなんと説得力のあることか。サイコパスの特徴のいくつかは、非常に魅力的だ。目の前の問題だけに一点集中する能力は、得られるものならば是非欲しい。そう思ってしまう私はサイコパス的なのだろうか?いや、株や為替であれだけビビるのだから、それはないかな(笑)
但し、サイコパシーは高性能なスポーツカーのようなもので、運転の仕方によっては死も招きかねないことを忘れるべきではない。サイコパスには恐怖心がないがために、早死する可能性も非常に高いのだという。

ところで、反社会的で服役している"法医学的サイコパス”と、エリートで"成功しているサイコパス”の違いだが、これはまだ完全には明らかになってはないないようだ。
これには反社会的サイコパスのほうが、" 衝動性”や"攻撃性”の調整つまみが高い位置にあるという研究者もいるし、逆にエリートで成功しているサイコパスが"一点集中”のスイッチを自在にオフとオンにできるのではないかという意見もある。
光には陰がつきものなように、英雄と悪党は紙一重なのかもしれない。

専門的でありながらも、誰もが興味を持つ内容や逸話を盛り込んでいるので非常に読みやすい。いたずらに恐怖心を煽るわけでなく、かといってサイコパスを賞賛するでもなく、多面的な視点で描かれているところも良いと思った。


サイコパス 秘められた能力

ケヴィン・ダットン (著), 小林 由香利 (翻訳)
NHK出版 (2013/4/23)


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tag: サイコパス 
2014/01/10 Fri. 19:07 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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