Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

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オスロ警察殺人捜査課特別班 アイム・トラベリング・アローン / サミュエル・ビョルク 

ここ最近食指が動かなかった北欧ミステリ。なぜ読んだかといえば、失踪者 (Kindle版)」を読み終えた直後に紹介されたから。
帯に「北欧ベストセラー」とあったので、どんなものかいなとポチってしまったのだ。
正直、「世界中が震撼!」はしないと思う。が、結構楽しめた。


物語の舞台はノルウェー。主人公は前の事件で左遷を余儀なくされてしまったホールゲル・ムンクと、刑事を辞め田舎の島に引きこもって死ぬ日を待っていたミア・クリューゲルのコンビ。
初老の数学オタクで太っちょのホールゲルは、優秀な捜査官で、オスロ警察で殺人捜査課の特別班を率いていたが、ミアが起こした事件のせいで今は田舎警察に甘んじていた。
ところが、ある事件がきっかけで、ムンクは第一線に引き戻される。
小学校に上がる前の幼い女の子が木から吊るされているのが発見されたのだ。人形のようなドレスを着せられ、しかも首にはノルウェー航空の「I'm travering alone」のタグをかけられていた。
ムンクの復帰の条件はミアを連れ戻すこと。ムンクはミアが警察学校の学生だった自分に引き抜き、以来タッグを組んで事件を解決してきた秘蔵っ子だった。彼女はそれほど特別な才能に恵まれていたのだ。
今回もまた、ミアは写真をみただけで同様の事件はまた起こると見抜き、実際に次の犠牲者が発見される。しかも、この事件は2006年に女の赤ちゃんが連れ去られた事件と関わりがみられた。この事件はスウェーデン人看護師のヨアキム・ヴィークルンドが「誘拐の責任を取る」と書き残して自宅で首を吊ったが、赤ちゃんは発見されず、結局迷宮入りしてしまっていた。
そして最初の女の子パウリーネのバッグ書かれていた名前「JWリッケ」は、「ヨアキム・ヴィークルンドではない」という犯人からのメッセージだとミアはいうのだ。
事件の周囲には、謎めいた宗教団体が見え隠れし、ムンクの母親も全財産をその教会に寄附しようとしていた。
果たして犯人の目的は・・・

Edvard_Munch.jpg 
数学とクラシックと煙草をこよなく愛する太っちょのムンクと、第六感に優れ、アメリカ先住民のような面立ちとノルウェー人特有の青い瞳のミア。
こういうキャラも雰囲気も嫌いじゃない。「失踪者」とはうって変わってエンタメ性も強いつくり。

ただし、このボリュームからすれば価格はお高め。アマゾンの画像も昔の写メ並みなのに・・・
Kindle版だからなのかもしれないが、訳者あとがき」もなく、全然関係ない研修本の適当文字だけ広告を見せられるのは確かに白ける。色々事情もあるのでしょうけども。

しかも、本書はシリーズものでUKではこの第二弾も好評だ。
版元はこの本が売れたら、そのお金で第二弾の版権をとるつもりなのかもしれないが、真面目な話、売りたいなら最初から文庫で出してくれなくちゃ。
今時こんな「ザ・死霊」みたいな装丁の、厚くもない本、よほどの人じゃない限り2,000円も出して買わない。

Frode Sander Øien 

本書の著者のサミュエル・ビョルクはノルウェーの作家で日本初上陸だと思うのだが、本書にはほとんどなんの情報もない(少なくともKindle版にはない)。調べてみれば、著者は、いわゆるマルチタレントというやつらしく、シンガーソングライターで脚本家もこなすらしい。
小説デビューは本書らしいが、脚本家と聞いてなるほどと思うことしきり。

人形が着ている黄色いドレス、ミアの黒髪と青い瞳、ノルウェーの海岸に立つサマーハウス・・・
映像的でエンタメ性もあり、従来の「暗くて陰惨一辺倒路線、はいはい、北欧は大変なんですね・・・」的ではないのは買うが、個人的には二時間ドラマみたいというか、ややサクサクすぎている感じもしなくもない。
また、「ミレニアム」のリスベットのようなハッキング能力や直感像記憶といったはっきり名前のついた能力と異なり、ミアのそれが曖昧なものであることに不満を感じる人もいるかも。事件の真相についても、その経緯についても賛否あることだろう。
北欧ものからしばらく距離を置いていたせいかもしれないが、それでもなかなか面白かったかな。
ミアもムンクもこれだけキャラが立っているのに、返す返すもったいないなぁ!


category: クライム・警察・探偵・リーガル

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2017/03/09 Thu. 21:17 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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熊と踊れ / アンディッシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ 

猫の次は「熊」でというわけではないけど、本書「熊と踊れ」は週末の読書会の課題本。
翻訳ミステリ好きな方にとっては、今年最も楽しみにしていた作品なのではないかしら?

「こういう本って、別に語ることなんかないんじゃなの〜?」とも言われたけれど、
いや、いや、そんなことないですよ。

というか、そう思いたいけれども、、、、
ま、横浜読書会の常連さん向きではないかも…(笑)



著者の一人であるルースルンドは、これまでベリエ・ヘルストレムと組んで、「制裁」「死刑囚」ほかをはじめとした一味違う社会派ミステリを書いており、「三秒間の死角」では新たな境地の開拓を果たした。その実力は折り紙つき。

ちなみに、強面のヘルストレム氏は、自らも服役経験があり、刑事施設や更生施設の評論家でもあるという。特に、メッセージ性の強い「死刑囚」や、エンタメ要素を含んだ「三秒間の死角」では、彼の経験が余すところなくいかされ、物語を確固たるものにしている。

       

このコンビは不滅だと思っていたが、ルースルンドが今回タッグを組んだのは別の人物
どういう仕上がりなのかな?と実は少し不安に思いつつ読んだが、全く期待を裏切らなかった!

冒頭、この物語の中核となるエピソードが終わると、そこには、こんなメッセージが。
「どうでもいいことかもしれない。が、これは事実に基づいた小説である。」

そうなのだ。これは、事実に基づいたフィクションであり、その事実とはルースルンドが今回パートナーに選んだトゥンベリの家族がかつて実際に起こした事件を元にしているのである。

本書は謎解きもないしエンタメ性も皆無。言ってしまえば、事実を元ネタにした犯罪小説に他ならない。しかも、読んでから、幾日も幾日も心にくすぶり続ける。
「死刑囚」ほどではないが、読後感は良いとは言えない。だからこそ、「残る」。
それがルースルンド作品の良さなのだろう。

anders roslundstefan thunberg 
左がトゥンベリ、右がルースルンド 

日常的に父親イヴァンの激しい暴力にさらされ、そのなかで育ったレオ、フェリックス、ヴィンセントの兄弟。主人公の役割を果たすのは長男のレオだ。
前述の冒頭の物語の中核をなしているというエピソードは、イヴァンが息子達の前で母親をボコボコにするものだ。
レオたちの父、イヴァンは、セルビア系の移民で、非常に暴力的な人間だった。レオが喧嘩でやられたら、殴り方を教え込む類の男だ。タイトルの「熊と踊れ」(原題はBjorndansen「熊のダンス」)というのは、”喧嘩の、暴力の極意”のことなのである。
また、彼は、家族の結束を非常に重んじてもいた。妻には暴力を振うが、一方で家族を愛していもいる。(その実、イヴァンが息子たちに暴力をふるう描写は全く出てこない)

イヴァンの役割は、結局そのままレオに引き継がれることとなる。レオはイヴァンとは違い、頭がよく、忍耐力も備わっていた。ちゃんとした工務店の経営者で、精神的にも経済的にも、弟たちー フィリックスとヴァイントにとっては大黒柱的存在となったのだ。
だが、レオは大胆な計画を目論んでいた。仲間は、固い絆で結ばれた、弟のフェリックスとヴィンセント、幼馴染で兵役経験のあるヤスペル、レオの恋人のアンネリーダ。手始めとして、彼らは軍の基地から密かに大量の銃器を盗み出すことに成功する。そして、次はそれらを用い、スウェーデン史上類をみない銀行強盗を計画する。
強力な武器で武装し、それを使用することも辞さないと周囲に思わせることができれば、警察も手は出せない。「熊のダンス」の原理だ。

もう一方の主人公を担うのは、彼らを追う刑事のヨン・ブロンクスだ。ヨンもまた、レオたちと同様に"過剰な暴力"のなかに育ち、暴力に”囚われている”。そのため、彼は、片時も暴力犯罪のフォルダを手放すことができない。
コーデュロイのソファをベッドにしてオフィスに泊まり込むのが常のある定年間近の警部のようになりたくはないし、自分は彼とは違うと思いつつ、同じことをしている。親密な人間関係を築くこともできない。
だからこそ、連続して起きた現金輸送車襲撃と銀行強盗に、「過剰な暴力」の存在を感じとることができる。彼自身がよく知っている、目的を達成するためシスタム化されコントロールされた暴力を…

sweden-stockholm-old-town.jpg 

銀行強盗をやめることができなくなるレオと、彼らを追うヨン…
二人の男はともすれば、逆の立場であっても全くおかしくない。二人とも「過剰な暴力」のなかで育ち、そのことを強く意識して生きてきた。そして、形こそ違えど、その暴力の影に囚われている。

レオたちを追う、ヨン・ブロンクス刑事はモデルが実在しない架空のキャラクターであるというが、この、また別のレオだったかもしれない男、ヨンの存在はとても効いている。
レオとその恋人アンネリーと、ヨンと彼の元恋人の鑑識官との関係も、物語に一層の深みをもたらしてもいる。

当初は、頭脳派で何事にも慎重で周到な性格に見えたレオだったが、次第に「強盗という行為に溺れ」、依存症であることが明らかになっていく。レオは「熊のダンス」に囚われているのだ。コントロールしていると思っているものに、実は支配されている。
このレオに対する自分の見方は、ゆっくりとではあるが、180度変わっていくのだが、このあたりの描写力はさすが。
彼らの決着の行方については、あえて触れる必要もないだろう。

それにつけても考えてしまうのは、イヴァン自身はどうだったのだろうか?ということである。
よく「負の連鎖」というが、虐待されて育った子供は、自分の子供を虐待してしまうことが多いという。暴力もまた同様で、イヴァン自身もそうだったのではないか。
身内の、家族内の暴力であるがゆえに、他人から見えにくいその種の負の連鎖は、どうすれば、断ち切ることができるのか?

それとともに、父親と息子との濃密な関係性も印象深かった。レオは本来ならば、母親にひどい暴力を振るった父親を憎み、拒絶してしかるべきなのに、結局、断ち切ることができなかったのだ。理解できないこともないが、納得はできない。
私は(一応)女性なので、男の子と父親の関係というものと、男性という性にとっての暴力はどういうものなのかについては想像するしかない。なので、人それぞれであるにしても、週末の読書会では、是非男性陣に問うてみたいと思っている。


Paul Bocuse 

ルースルンドらしい暗く重いテーマであるが、唯一慰めとなるのは、ヨンの上司のカールストレム警視正がかなりグルメであるということだろうか。
何しろリヨンの三ツ星シェフ、ポール・ボキューズの料理本を愛読していて、週末にはトリュフとロブスター入りのラビオリを作るというのだ。
彼に限らず、レオたちが強盗成功を祝って抜くシャンパンも、ポン・ロジェにボランジェと、ラインナップがエレガント。いいなぁ、ボランジェ…!
これまでの小説には、こういった描写の記憶はないので、もしかしてトゥンベリがグルメなのかなぁ???


    








category: クライム・警察・探偵・リーガル

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tag: 海外ミステリ  早川書房  文庫  北欧 
2016/11/02 Wed. 19:59 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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パードレはそこにいる / サンドローネ・ダツィエーリ 

週末の読書会の課題本「熊と踊れ」のほうを先にレビューしようと思ったのだが、こちらは後に…
その「熊と踊れ」の直後に、読んだのがこの「パードレはそこにいる」
本邦初の作家によるイタリアン・ミステリーである。
あちらは、「制裁」「死刑囚」「三秒間の死角」でその実力を知っていたので、驚きはあったものの想定の範囲内だったがこちらは想像以上。

主人公は、事情があって休職中の女性警官(機動隊副隊長)コロンバと、これまたワケアリのコンサルタント、ダンテ・トッレの二人。ダンテは幼い頃に誘拐され、11年間農場のサイロに閉じ込められていた。そして、奇跡的に逃げ出すことに成功したのだ。筆舌に耐え難いその経験から得たことを活かし、今は誘拐や自発的失踪人の捜索のコンサルタントをしている

ここで、すぐさま思い出すのが「カルニヴェア」のダニエーレと、カテリーナ。
「カルニヴィア」のダニエーレも幼い頃に誘拐され、両耳を失い、トラウマを負っているが、ダンテも同様に片手に障害がある。そして、女性警官(イタリアでは憲兵隊や機動隊)が、もう一人の主人公として据えられているのも同じ。
ただし、本書「パードレはそこにいる」のコロンバは、カルニヴェア三部作のカテリーナに比べれば、かなり人好きするし、感情移入もしやすい。特に女性読者にはビッチなカテリーナのファンは少ないだろうし(笑)
違いは、「カルニヴィア」はヴェネツィア、本書はローマと、方や英国人、方やイタリア人作家によるものくらいだといっていい。それと「カルニヴィア」にはもう一人主人公がいる。
訳者によれば、本書の著者、ダツィエーリは、"よそ者からみたローマの様子”と、”心に闇を抱えた人間”を描こうとしたのだという。
本書は、イタリアンミステリとしては「6番目の少女」の系譜に連なるものだと言われるが、私が思うに、より近いのはジョナサン・ホルトの「カルニヴィア」だ。
キャラのみならず、予想外に大きな拡がりをみせる展開の仕方も似ている。


     


本書は確かに面白いのだけど、、、
でも、これはやっぱり「カルニヴェア」の二番煎じなのじゃないかなぁ…?
そう思うと、どうしても評価は下がってしまうんだよなぁ…
下巻に入るくらいまではそう思っていたが、考えが変わった。

これは、これでアリ!
アリどころか、今年読んだ中でもかなりエキサイティングな秀作といえるのじゃないだろうか。「似ている」のは確かだが、出来の良さがそれを打ち消すのだ。イタリアのおっさんさすがだわ〜!!!某「96時間」のパクリとは訳がちがうわ〜


Sandrone Dazieri 

「カルニヴィア」は終わり方こそ残念無念だったが、お気に入りの小説でもあったので、ついつい熱が入ってしまった。読まれてない方にとってはなんのこっちゃ、ですよね…?
話を本題に戻すと、、、、

物語は、ローマ郊外で首を切断された女性の遺体が発見されるところからはじまる。女性は夫と息子とともにピクニックにきており、その夫は疲れ果てた様子で妻と息子を探していたところを発見された。6歳の息子は行方不明。
夫が容疑者として逮捕されたが、捜査のやり方を案じたコロンバの上司で警察幹部のローヴェレは、休職中のコロンバに内々の調査を依頼する。
ローヴェレは出世争いの最中にあり、この件でライバルを出し抜けないかと目論んでいたのだ。ローヴェレの考えでは、ライバルは次期トップにはふさわしくないし、強引に間違った方向へ捜査を導こうとしていた。それに、うまくいけば6歳の男の子の命を助けることもできる。
ひとりではできないというコロンバに、ローヴェレが相棒として推薦したのがダンテだった。
ダンテは、自分を誘拐監禁した犯人、"パードレ"は未だ捕まっておらず、この事件の裏にも彼がいると確信していた。ダンテの直感は当たっているのか?コロンバは半信半疑のまま、彼とともに事件を追う。忍び寄るパードレの魔の手。しかし、そんな二人は孤立無縁の状態になってしまうのだった…

IMG_8061.jpg 

後半は、この冒頭からは想像もできないくらいの劇的な展開をみせる。
全てに理由が付けられており、それは、あなたがあらすじを読んで「???」と思われた箇所にもちゃんと用意されているのでご安心を。
その合間を縫うように、コロンバが心的外傷を負い休職している理由や、ダンテのさらに隠された過去もが明らかにされる。事件の真相のみならず、ここにもまたサプライズが隠されているというわけだ。

ちなみに、「パードレ padre」というのはイタリア語で「父」という意味。パパよりも改まった言い方らしい。

エンタメ性も高く、登場人物も親しみやすいし、読みやすい文体なのもいい。プロットも精密に練られており評価できる。
この後、三部作くらいにまでなりそうなのも「カルニヴィア」的なのだが(笑)、これはこれでお釣りがくるくらい、”アリ”なのだ。

決して読んで損はしない一冊(上下巻だけど)だと思う。
余程のひねくれものか、はたまた精神状態が良くない場合はその限りではないが。


晩秋の夜長にいかが?

     



こちらも暗いけど、読んで損はない傑作。
しかし、「制裁」は一時期よりもおさまったとはいえ、高騰してるなぁ!
去年なんて1万円超えとかしてたのよ…
版元のランダムハウスは潰れちゃったし、発行部数自体も少なかったんだろうな。
少しすると落ち着くのだろうけど、ルースルンドが新作を出すタイミングでまた高騰しそうだわ。

       


    

category: クライム・警察・探偵・リーガル

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tag: 海外ミステリ  早川書房  文庫  イタリア 
2016/10/30 Sun. 20:58 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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傷だらけのカミーユ / ピエール・ルメートル 

モロッコネタ続きなので、たまには読書ネタを…

この「傷だらけのカミーユ」は、モロッコにいく直前にDLし、飛行機の中やトランジットで読もうと思っていたのだが、結局帰ってからようやく読んだ。

本書「傷だらけのカミーユ」は、カミーユ・ヴェルーヴェン警部三部作の締めを飾る作品。
まあ、キテますよ・・・

      


「アレックス」「イレーヌ」を読まれた方は、ご存知だろうが、主人公のカミーユは145cmという低身長のパリ市警の警部だ。彼が率いるヴェルヴェール班には、ブランド品で身を固めた品も頭もいい御曹司のルイをはじめ、極度の吝嗇家で貰いタバコに命をかけているアルマンがいる(た)
フランスでの刊行は、「イレーヌ」が最初で、その次が「アレックス」だったが、日本では順序が逆になっているため時系列が逆になっているが、トリは本書。前2作品を読んでなくても楽しめるとは思うが、「悲しみのイレーヌ」とは直接話が繋がっているため、できればこちらと併せて読んだ方が楽しめると思う。

jewelry store robbery 
さて、物語は「悲しみのイレーヌ」で起きてしまった悲劇から5年、カミーユに新たな出会いが訪れるところから始まる。

彼女の名はアンヌ。しなやかなブルネットに澄んだ薄緑の瞳、まぶしい微笑みに"えくぼ”。40を過ぎても魅力は少しも損なわれていない。方や、カミーユは50歳で禿げていて、身長は145cmだ。そういう望みなどもはや持っていなかったし、イレーヌから他の女性に気持ちを移すことはえげつないことだとさえ思っていた。しかし、出会いというのはいつでも奇跡のようなものだ。
アンヌもまたカミーユと同じく過去に辛い経験をしていた。カミーユがアンヌを受け入れたのは、その辛い経験ゆえに未来を思い描くことができず、二人のことを「かりそめの関係」だと言ったからだった。そして、そう言いつつもアンヌはカミーユの一部になっていた。

身長145cmにして、実は多くの女性ファンを獲得しているカミーユだが、「いや〜、よかったわねぇ!」と思うのもつかの間、幸せはもろくも崩れ去る。

アンヌは宝飾店で強盗に出くわし、その一人から激しく執拗な暴力を受けて重症を負ってしまうのだ。命こそ助かったものの、美しかったその顔は叩き潰されてしまう。
しかも、アンヌはその宝飾店へ行ったのは、カミーユへの贈りものを受け取るためだった。
アンヌを襲った強盗一味は、有名なセルビア人が率いる一味と思われ、1日に立て続けに4件も襲っていた。
激しい憤りによって我を忘れたカミーユは、立場を利用し、大規模なセルビア人狩りを行う。
だが、それといった成果はあがらず、自らの立場すら危うくなってしまうのだった…

pierre lemaitre 
まず、最初に驚いたのは、カミーユシリーズで私が最も好きだったあのケチのアルマンが食道癌で亡くなってしまったことだ。これは結構、大きい。
だいたいにしてルメートルのこのカミーユ・シリーズは、激しすぎるほどの暴力と残忍さ非情さが描かれるのが定番なのだが、唯一それを和ませてくれるのがマルマンの存在だった。
したがって、本書には和みの要素ひとつもはない。和みどころか、今回カミーユはルイすらも頼ることなく一人で闘うことになってしまう。
しかも、カミーユは、一旦悲しみから立ちあがり新たな幸福を見つけた矢先に、不幸に見舞われるのだ。それも、自分自身に対してならまだしも、自分の愛する女性を傷つけられるという形で。

解説の方は、本書は「特捜部Qシリーズ」に匹敵する警察小説であると言っているが、本書に限っていえば、私はハードボイルドに近いのではないかと思う。
決して器用とはいえないカミーユの生き方は、マーロウのそれに当たらずとも遠からずといった感がある。
もしかして、この雰囲気を濃く出したいがために、アルマンを排したのだろうかと思うくらい。

ものすごい展開に驚かされる「アレックス」や、「イレーヌ」に比べれば、書き方それ自体は平凡かもしれない。
物語はカミーユ自身の視点と、犯人のそれの2つの視点から語られ、後半、その正体に驚かされるという趣向なのだろう。だが、カミーユ・シリーズのファンならば、最初から犯人の正体に気づいてしまうのだ。
そのため、謎解き自体が主体の類の小説たりえないのだが、陰影の濃いハードボイルドとしては読み応えがある。

賛否あるだろうな、という感じもするが、個人的には、「ルメートルさん、さすが!!!」と思う。







category: クライム・警察・探偵・リーガル

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tag: 文春文庫  このミス  フレンチミステリ 
2016/10/25 Tue. 20:20 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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ミスター・メルセデス / スティーヴン・キング 

ようやく読んだ「ミスター・メルセデス」キングの初のエドガー賞(長篇部門)受賞作という話題作でもある。
キングの懐が深いのは知っていたが、エドガー賞受賞というのはさすが!としか言いようがない。
読んだ感想としても、個人的には「これなら歴代受賞作に引けをとらない」と満足するものだった。
アマゾン星三つの人・・・マジですか????
ただ、「ジョイランド」が散々だった横浜読書会向けではないことは確かかな?(笑)

しかし、高いよ…せめてKindle版はもう少し安くしてくれてもバチは当たらないと思う。だって、厚紙とか使ってないじゃない?!
Stephen-King3.jpg 
さて、物語はリーマンショックに端を発した経済危機にいまだ苦しむ2009年にさかのぼる。日が昇る前から市民センターで開催される就職支援フェアに人々が長い列をなしていたところに、突如、グレーのメルセデス・ベンツが突っ込む。ドイツの重工業のたまものであるその頑強な車は、求職者たちを次々と跳ね飛ばし、死者8名という大惨事をもたらした。
当然警察は捜査を行ったが、これといった有力な手がかりもなく、事件は迷宮入り…
そのメルセデス・キラー事件を担当した刑事ビル・ホッジスも定年退職を迎え、今では安楽椅子で日がなビール片手にテレビを観る毎日。そして父親の形見の銃を手にし、良からぬ考えを先延ばしするよう努めていた。仕事一筋、敏腕刑事だった彼は、そういう刑事の例にもれず、妻とは離婚、孤独で生きがいを失っていたのだ。
そんなある時、ホッッジスの元に一通の手紙が届く。「親愛なるホッジス刑事」で始まるその手紙は、こともあろうか、メルセデス・キラー事件の犯人からで今のホッジスを嘲笑うものだった。
ところがこの手紙がホッジスを変えてしまう。鬱に悩まされ、日、一日と死を遠ざけることに苦労したいたホッジスは、生きがいを取り戻すのだ。それというのも、メルセデス事件はホッジスが最も気にかけていた未解決事件だったから。
そして、一方のメルセデス・キラーこと、ブレイディは新しいゲームに取り掛かろうとしていた。

こうして、退職した元刑事と、サイコキラーの戦いは幕をあけるのだが…

Stephen-King-Mr-Mercedes-Flashmob.jpg 

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フーダニットとかホワイダニット系のミステリーではないし、いわゆる警察小説でもない。だって、主人公のホッジスはもう警察を定年退職しているのだから。
どちらかというと犯罪小説になるのだろうが、語りはソフトで柔らかい。
あとがきで翻訳者の白石氏は「キング流のハードボイルド」ともおっしゃっている。が、キングには悪いが、ハードボイルド的カッコ良さはほとんどない。でも、そこがいいのだ!

「ジョイランド」の語りは、なぜだか(というか想像通り)えらく先月の読書会では評判が悪かったのだが、それがダメな人には向かないと思う。たぶん若い人にも向かないのかな?
主人公ホッジスに同化できるくらいの年齢層には、逆にバチっとはまるのではないかと思うがどうだろうか?
そもそもこのホッジスはある種キングの投影なのだ。(またもや!)特に、デブな老人なのに、魅力たっぷりの40代の女性ジャネルにモーションをかけられるところなどは特に・・・(笑)ま、たまにはいい思いもしないとね。

感心したのは、ホッジスが対峙するメルセデス・キラーことブレイディが、心理学的医学的見地から見た正しいサイコパスとして描かれていたこと。
私もサイコパス関連の本を割とよく読むのだが、作家によっては読者の興味をひくためだけに、ありえないキャラに仕立てることもあって、時々辟易してしまう。だが、ブレイディはそこに正しく位置してる。しかも、理由もなくサイコというのではなく、そのサイコが育まれ、形成される過程をもきちんと描いてもいるのだ。
さすがのキング品質なんだなぁ・・・

キャラ造形のうまさは折り紙付き。だからこそ、筋やプロットオンリーではなく、登場人物との共感を楽しめる人向き。
ホッジス、黒人の少年ジェロームと「ぼそぼそ女」のホリーというトリオは、キング自身もお気に召したのだろう。なんと本書は三部作の第一作という位置付けなのだとか。
ああ、それでああいうラストにしたわけね・・・と大いに納得したのだった。


  

category: クライム・警察・探偵・リーガル

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tag: 海外ミステリ  エドガー賞  キング 
2016/09/27 Tue. 15:44 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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