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読書日記、ときどき食日記

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果鋭 / 黒川博行 

あっという間に3月も下旬!
世の中は連日、森友学園問題やら、雪崩事故やら、旅行会社の倒産やらと賑わしい。

旅行会社の件は、客からしてみれば詐欺と言われても仕方ない。まだ多少なりとも余力が残っているうちに、会社をたたむという決断ができなかったのだろうか?

そうこうしているうちに、楽しみにしていた新刊がでた。
奇しくも、この「果鋭」という言葉には、"決断する"という意味があるらしいが、特に企業経営者には、腹をくくって決断することが求められる。そして、もちろんその責任をとることもね・・・。


さて、黒川博行の代表作は、建設コンサルタントの二宮と、イケイケ極道の桑原のバディもの「疫病神」シリーズだが、もう一つ人気のバディものがある。堀口と伊達の元マル暴担刑事コンビのシリーズものだ。
本書「果鋭」は、「悪果」「繚乱」に続く第三作目。シリーズものといっても、これ単独でも楽しめるように書かれているのでご安心を。

ただ、「悪果」「繚乱」も一旦、読み始めたらとまらない。
翻訳ものな気分じゃなかったここ数日ほど、「疫病神」シリーズとこの「堀やん誠やん」シリーズばかり読んでいた。黒川にまみれていた。
「日本の作家なんてね〜==」とおっしゃる、翻訳もの通のあなたにこそ、是非この面白さを知ってもらいたい。
なにも「疫病神」から読めとはいわない。どちらかといえば、関西系面白要素の増えている「破門」くらいからのほうがいいと思う。ちなみに「破門」は著者の直木賞受賞作だったりする。たいていの直木賞受賞作は面白くもなんともないが、これは例外中の例外だ。
どちらのシリーズも新刊がでたばかりだが、もう次が待ち遠し〜い。

IMG_5075_2osaka.jpg 

ところで、このシリーズの主役の堀口と相棒の伊達誠一(通称、誠やん)は、大阪府警の元マル暴担の刑事。伊達は柔道の有段者で、身体も大きくみるからに極道面だが、女房にはてんで頭があがらない。
堀口は恐喝がばれて依願退職を余儀なくされ、伊達は伊達で懲戒解雇されている(悪果」)。

マル暴担と極道は見た目も似ているが、やることも似ている。桜の代紋がある分、マル暴担のほうがタチが悪いくらい。塀の向こう側に落ちるのが極道で、こちら側にいるのが刑事だということだけで、本質は同じなのだ。堀やん誠やんも例外ではない。

さて、競売屋に拾われた二人は元マル暴刑事の経験をいかし金になるシノギをしていたが、それが首尾よくいった矢先に堀口は刺されてしまう(「繚乱」)。
実は私はこの「堀やん、誠やん(伊達のこと)」コンビのシリーズは、「繚乱」で終わると思っていた。堀口は死んだと思ってしまったのだ。
極道に腹と尻を刺された堀口は、命は助かったものの下半身に麻痺が残り、杖がなければ歩けない身体に。シノギはできず、女にも逃げられてしまう。
怪我から回復し鬱々とした日々から堀口を救い出してくれたのは、またしても相棒の伊達。
競売屋の仕事をしている伊達は、一緒に仕事をしようと誘う。パチンコホールのオーナー新井が、ゴト師から、玉の計数機の不正改造をネタに脅迫を受けているという。この脅迫者を"なんとかすれば"、悪くないシノギになる・・・

今度の二人のターゲットは、20兆円にものぼるパチンコ業界だ。
出玉は遠隔で不正に操作され、玉の計数機でも誤魔化しが横行している。だが、業界は積極的に警察OBを採用することで摘発を逃れているのだ。みかじめ料を払うなら桜の代紋にまさるものはないのだ。
季節ごとの贈り物はもちろん、管轄の署長が退職する際には、少なくない額の退職金まで支払われるというから恐れ入る。「警察の米櫃」と言われる所以である。
このあたりの裏事情は、世の中そういう風になっているのねと、わりとお勉強になる。そりゃ、まあ、こういうシステムだとカジノなんかできないわな。
大阪が舞台なのでそのノリではあるが、今回の堀やん誠やんのシノギも一筋縄ではいかず、かなりハードボイルドだ。

裏事情もさることながら、本書の醍醐味はやはり、堀やん誠やんコンビの妙だろう。バディものの例にもれず、堀口と伊達の性格はまるで違うのに、息はぴったり。
「一人でやれば、全部誠やんのシノギやぞ?」
「わしは、堀やんと一緒にやりたいんや」
「悪果」ではまだそれほどでもなかったが二人の仲は、いまやお互いがなくてはならない存在へと変化した。女性の私からみれば、こういうのっていいなぁと思うのだ。

ほら、女性同士は色々とあるから…
つい先日も、親友同士だとお互い常に口にしていた方達が、実はそうではないことを知って唖然としたばかり。意味わからんですよ。お互い嫌いなら「親友」でもないし、そもそもが「友人」でもなくない?「忖度」というのは最近の流行りだが、その件の「忖度」は超難度でしょうよ(笑)

また、伊達(誠やん)のキャラに、著者が透けてみえたりするのも楽しい。
「わしは顔は怖いけど身体は弱いねん」
「わしは嫁はんが死ぬほど怖い」
という黒川氏お決まりのセリフにもニヤリ。「大阪ばかぼんど ハードボイルド作家のぐうたら日記」というエッセイを読む限り、伊達は黒川さんそのものだ(笑)
本筋には全然関係ないが、「堀やん、わし腹減った。何か喰いにいこ」と、きちんきちんと食事風景が描かれているところも好き。
この二人は結構贅沢なものばかり食べているのだが、食べるということは大事だ。ただ、誠やんは尿酸値に気をつけたほうがいいと思うけども。


     

   

  

 

 

category: ミステリ/エンタメ(国内)

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2017/03/28 Tue. 16:10 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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喧嘩(すてごろ)/ 黒川 博行 

長らく翻訳もののミステリー(広義の)を中心に読んでいるが、最近、その意義を感じなくなってしまった。どれもこれも似通っているし、丁寧に読もうという気すらなくなり、内容が頭に残らない。(残っても意味はないが)
特に北欧系のものには正直辟易。芋料理ばかり食べさせられている気分になる。しかも同じ味付けで。
その時間さえ楽しければそれでいい、という人もいるだろうが、その実、満足感もほとんどない。
我ながら、無駄な読書をしているなぁ・・・と時々虚しくなる。

だからといって、新書や経済本、ノンフィクションの類は頭を使う。知識を得られるという喜びがあるし、刺激にもなるが、もともと頭の性能がよいわけではないので、そればかりだと疲れるのだ。


こういう状態のときに、気分転換させてくれるのが、黒川博行。

日本人作家を一段下にみている”翻訳ものかぶれ”のあなたにこそ、読んでほしい作家。
しかも、翻訳ものに比べると安いし、Kindle化もされているというサービスの良さ。

破門は直木賞を受賞作だ。芥川賞や直木賞受賞作なんて、詰まらないのばっかりやん。というアナタ。私もそう思う(笑)

ただし、「「破門」は別。
「破門」は、今や黒川博行の代表作となった「疫病神」というヘタレ建設コンサルタントの二宮と、イケイケ極道の桑原のコンビが活躍するシリーズものだ。
映画化もされ、現在、公開中だという。横山裕は非モテの二宮にしてはイケメンすぎだし、佐々木蔵之介はやや上品すぎる気もするが。
個人的にはシリーズ中、小作品な「破門」ではなく、「疫病神」「国境」に授与されてしまるべきだったと思うが、いずれにしても黒川博行の作品にははずれがない。シリーズものだが、どれから読んでも楽しむことのできるようになっている。
特に「国境」はシリーズ最高傑作との呼び声が高い。桑原のいうところの「パーマデブ」時代なので、時代は違うが今話題のあの国絡み。特に前半はいかにもまずそうなトウモロコシ麺や痩せた雀がご馳走だという、かの国の事情がしっかり描かれている。

それはさておき、「喧嘩」と書いて「すてごろ」と読ませる。「すてごろ」とは、素手の喧嘩のことをいうらしい。本書は、その「疫病神」シリーズの最近作にして、「破門」の続編だ。
二宮は、建設現場を荒らすヤクザをヤクザを持って制す「サバキ」の手配をすることを生業にしている自称、建設コンサルタントだ。彼の亡くなった父親がヤクザの幹部だったことから、その筋に多少縁があるというので、サバキで生計を立てている。が、暴対法の強化でビジネスは先細り。40歳になろうとしているのに、未だに母親からお年玉をもらっている。お年玉のみならず、母親への借金は100万やそこらではきかない。
その二宮が「疫病神」と呼んでいるのが、ヤクザの桑原だ。桑原と二宮は、コンビを組んでサバキをこなし修羅場をくぐってきた。イケイケの彼のせいで、肋骨を折ったことも一度や二度ではない。二宮からしてみれば、桑原の足元には地獄の釜が蓋を開けて待っている。
その割には、何かといっては桑原を頼り、ご馳走してもらっているのだが。
そんな桑原は、二宮の父親がいた組の幹部だったが、ある事件がもとで破門され、代紋を失ってしまう(「破門」)
組の後ろ盾のない桑原と、二宮が議員の利権をめぐって立ち回りを演じるのが、本書「喧嘩」なのだ。
文字通り、素手で喧嘩をすることとに掛けている。

このシリーズの何がいいって、ヘタレの二宮とイケイケ極道の桑原の掛け合い漫才的な会話がいい。関東の人間からみれば、大阪弁はそれだけで面白い。女の子がしゃべるとかわいいし、ヤクザがしゃべると凄みが増す。
だが、黒川作品のもう一つの良さは、エンタメ一辺倒ではないということ。毎回、サバキのネタとして裏社会のカラクリを垣間見せてもくれる。
このシリーズを読むたびに、自分は世の中の仕組みを何ひとつ知らなかったんだなぁ・・・と思う。
だいたい、議員報酬だけであんな家が建つわけもないのだが。

シリーズものは、マンネリに陥りがちだし区切りのいいところで終わるべきだと思うが、このシリーズだけは、まだ続いていって欲しい。

   

  

 

category: ミステリ/エンタメ(国内)

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tag: 疫病神  映画 
2017/02/23 Thu. 11:44 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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横浜1963 / 伊東潤 

私は"時代小説”は読まないので伊東潤氏は存じ上げないのだが、なんでも、東京オリンピックを翌年に控えた1963年の横浜を舞台にした社会派ミステリーだというので、早速DLして読んでみた。

というか、
今しばらくエルロイをペンディングしたかったのです・・・(汗)
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奇しくもその前に読んでいた「愛しき女に最後の一杯を」が1960年のアメリカの物語なので、時代的にはほぼ継続性がある感じ。でも、、、、ほぼ同じ時代ではあれど、勝戦国であるアメリカと、敗戦国の日本では、当たり前だが何もかもが全く違うんだな。

舞台がここ、横浜ということで、横浜にゆかりのある方は思い入れたっぷりに読めることだろう。
伊勢佐木町や、マリンタワーに行ってみたくなるかもよん。

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物語は、横浜港で若い女性の遺体が発見されるところからはじまる。遺体は全裸で、乱暴された形跡があり、腹部は米軍が使用するネイビーナイフと思しき刃物による刺し傷が複数みられた。そして、爪の間からは、金髪の髪の毛が検出されたのだ。
神奈川県警の外事課に勤務するソニー沢田は、上司からこの事件の担当を命じられる。この女性の身元を突き止めたうえで、犯人の目星をつけ、証拠を握ったところで、NIS(Naval Investigative Service)に伝えて送還してもらうのだ。

在日米軍兵士による犯罪は上陸当初から問題視されていたが、1952年に締結された「重要な案件以外、日本側は裁判権を放棄する」という密約によって放置されるに等しい状態だった。
だが、昭和30年代に入ると、世論がそれを許さない風潮もでてきたため、板挟みになった県警幹部はそこを落としどころにしようとした。つまり、ソニーが犯人を見つけ証拠をつかんだとしても、日本側は検挙はできない。

ソニー沢田は、"らしゃめん”と呼ばれる外国人専門の娼婦の母と、客の一人の間に生まれたハーフだ。だ。だが、外見は白人にしか見えない。その見た目と英語力は麻薬や覚せい剤の密輸事案での潜入捜査に有利だという理由で県警に採用されたのだった。

ほどなく、遺体の女性の素性が明らかとなり、目撃証言などからある将校が浮かび上がる。
ソニーは横須賀基地内の海軍犯罪捜査部(NIS)へと、以後の捜査を引き継いでもらうために赴くが、そこで出会ったのが日系三世のショーン坂口だ。ソニーとは逆に見た目は全く日本人の彼は、それでも米国人の軍人なのだった。
一旦は、ソニーの依頼を米国側の人間として冷ややかに門前払いしたショーンだったが、祖父の「正しいことをしろ」という言葉を思い出し、組織とは別に一個人としてソニーに協力することを決心するのだが…



本書の特徴はなんといっても二人の主人公にあるだろう。
外見的には白人にしか見えない日本人のソニーと、見た目は日本人だが米国人のショーン。
それぞれ厳しい人種差別と日々闘い、自分は日本人なのか、米国人なのかという自問の中で生きている。そして、彼らが生きているのは、戦った者同士、勝者と敗者がすれ違う街だ。

犯人がどうどかいうフーダニットなどよりも、当時の社会背景や登場人物の葛藤が本書の読みどころ。
在日米軍による犯罪は今なお、沖縄では問題の最中にあるし、日本人と米国の白人それぞれの無意識かにある差別意識もまた然り。
また、アウトサイダーであるソニーの目を通して描かれている「日本人という民族の気質」もそれが当たっているだけに耳が痛い(;_;)
 曰く、ー日本人は、いざ戦争になれば兵の末端に至るまで勇敢に戦うが、敗戦になった途端、米国人を神のように崇め、その指示に従うことに汲々とする。
仮に当時、ソ連や中国が日本を占領した場合、日本人はどこよりも完璧な共産主義国家を築き上げたにちがいないと、ソニーは思うが、それもさもありなん。
先の舛添さんの排斥なども、そういった"全体性"の結果なのかもね。

折しも、二度目の東京オリンピック開催を2020年に控えてもいるが、でもやっぱり、正直言うと中国系ハーフの女性議員が都知事になるのは嫌だなぁと思ったりして。
ソニーの苦悩を味わった後だというのに私ときたら…


  
 

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category: ミステリ/エンタメ(国内)

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tag: 国内ミステリ  社会派  戦後 
2016/06/17 Fri. 22:03 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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流 / 東山 彰良 

あっつい!!!
トシのせいかなんなのか、やたら暑さがこたえる。
ナダルも低調だし、もし今日負けたらちょっと洒落にならないんだけど…

あ〜ああああああああ…



とうことで、目先を変えて直木賞受賞作を読んでみた。
お笑い芸人が受賞した芥川賞のほうが話題になってるが、私にはここ最近の芥川賞受賞作が面白いとは思えない。
例のお笑い芸人の本は読んでないのでなんとも言えないが、芥川賞は、ここ数年ず〜〜っと、"話題性ありき”な感じが否めない。
ただでさえの出版不況に加えて、純文はさらに厳しいので話題作りに走るのも仕方ない。でもあの髪型は不潔そうでちょっとイヤだ!(笑)
とはいえ、詰まるところ、大衆文芸のための賞たる直木賞のほうが私向きなかも…




akira higasiyama

吉本の芸人の陰に隠れてしまったが、このたび直木賞を受賞したのは、東山彰良である。
ミステリー好きには『逃亡作法 TURD ON THE RUN 』
といえばピンとくるだろうか。彼はこれで、第1回『このミステリーがすごい!』大賞と読者賞をダブル受賞したのだ。ちなみに『路傍』 でも大藪春彦賞を受賞しているので、直木賞も穫るべくして穫ったという感じである。

『さすらい』では垣根涼介氏が解説を書くというので、『逃亡作法』をはじめとした数冊を読んでみたのだが、確かにオフビート!筆力があり、世界と自分との境界というものが際立っている。そして「はずれ」がない。

Amazonレビューには「文章が良くない」というのもあったのだが、これには「エエッ」とのげぞってしまった。
東山氏の筆力を否定するなら、殆どの日本人作家を否定しなければならないと思うけど…

この『さすらい』の帯で垣根さんは「ひきこもりの小説に泣いている暇はない。」と言っているのだが、まさにそれだ!世界は「流れ」続け、自分はその中心にいる。

台湾人である自分のルーツを描いた本書にも、それらは当てはまる。本書『流』はそんな東山氏の祖父のことを描いた自伝的作品であり、青春小説であり、歴史小説でもある。




さて、本書の舞台は1975年の台湾だ。
蒋介石が没したその年、主人公、秋生の祖父何者かに殺害される。祖父は、自らが営んでいた布地屋の浴槽の中で後ろ手に縛められ、身体をくの字に曲げて死んでおり、第一発見者は秋生だった。

秋生の祖父は山東省の出身で、戦時中は多くの共産党員を殺したそうだ。「有槍就是草頭王 (鉄砲があればならず者の王)さ」それが祖父の人生哲学で、国民党の遊撃軍時代からドイツ製のモーゼル拳銃を肌身離さず持っていた。
短気な反面、兄弟分の忘れ形見である宇文叔父さんを引き取って我が子同然に育てるほど義理堅くもあり、また孫の秋生のことは猫可愛がりに可愛がってもくれた。
警察の見立ては怨恨による殺人だった。だが、祖父には暴行を受けた痕跡はない。よしんば警察の見立て通りだとしても、その恨みが生まれた場所は中国大陸以外には考えられなかった。

当時、秋生は台湾で一番の進学校に通っていた。しかし悪友・小戦の手引きで引き受けた替え玉受験がばれ、退学させられてしまう。それもこれも祖父の死によって受けた経済的ピンチを救おうとした結果だった。秋生に残されていたのは、軍隊に入るか、名前さえ書けば馬鹿でも入れる高校に編入することのみ。迷わず後者を選んだ秋生だったが、それは同時に囚人服とどっこいの制服に身をつつみ、犯罪者予備校に通うこととかわりなかった。
そして、そこでの学生生活も一筋縄ではいかない。心の底では誰もが望まぬ状況でも、闘わなければならないことも多くあるのだ…。


old taipei

たぶん当時の台湾は日本より20年は遅れていただろう。あいにくと私は台湾に行ったことはないのだけれど、物語の端々からノスタルジーが漂う。
”こっくりさん”そっくりの子供の遊び然り、秋生の祖父が守られていたと信じていた”お狐さん”然り。台湾は、中国は、一見欧米よりも遠い国でありながらも、やはり日本の隣国なのだと妙に感心してしまった。
だからなのか、舞台はほぼ台湾で、日本人の登場人物はいないという設定であっても、自然とのめり込んでいけるのだ。

台湾で一番の高校に通っていた秋生の人生は、あれよあれよという間に転落していくが、悲壮感はなくどこか楽しげでユーモラスでさえもある。この怒濤感。このセンス。

物語を貫くのは「祖父の死の真相」なのだが、秋生と幼馴染みとの初恋の顛末や、ついにはヤクザになる悪友・小戦との悪さの日々などのエピソードが読ませる。かなり過激なのに、それでもキラキラ輝いていて、本当に垣根さんじゃないが「引きこもりの小説なんかで、メソメソ泣いてる場合じゃない」と思ってしまう。
体験をすることで、人は傷つき、学ぶ。ただ、全てを体験するのは無理なわけで、だから人は本を読むのではないだろうか。ならば、自分と同じよりも、自分ができない類いのことをしてくれる本のほうがいい。





東山 彰良(著)
講談社 (2015/5/13)

Kindle版はこちら → 流










新装版 逃亡作法 TURD ON THE RUN (上) (宝島社文庫)
新装版 逃亡作法 TURD ON THE RUN (下) (宝島社文庫)

東山 彰良(著)
宝島社; 新装版 (2009/9/5)








さすらい (光文社文庫)


東山 彰良(著)
光文社 (2009/5/12)








路傍 (集英社文庫)


東山 彰良(著)
集英社 (2010/5/20)







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category: ミステリ/エンタメ(国内)

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tag: 直木賞    このミス  台湾 
2015/07/27 Mon. 19:57 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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億男 / 川村元気 

昨夜ですね、オットが内階段でコケて、どうやら捻挫したらしいのです。
それもこれも、6年もスポーツクラブの幽霊会員をしているため、体重管理がなっとらんからですわ。
仕方なく付き添いで整形外科に行ってきたのだが、月曜のしかも整形外科となれば、そりゃジジババで混み混みさ。まぁ待たされるだろうということで、DLしたのがこの『億男』なのである。なんでもこの間決まった本屋大賞のノミネート作品だとか。(大賞受賞は上橋 菜穂子『鹿の王』

本書は、宝くじで3億当たった男が、どうしよう、どうしようオロオロ、という本で、お金ってつまるところ何なんだ〜ということを描いたエンタメ小説。
ちなみに、2時間待ちの3分診療だったオットの足は、やはり単なる捻挫とのこと。湿布だけもらってそのままカイシャにいきました。

お金に関する本で最近読んだのは『21世紀の貨幣論』だが、あれがフルコースならば、本書はファストフード。Kindleなのでボリュームが掴みにくいが、はやい人でだいたい2〜3時間で読める。個人的には、もし時間があるのなら、やはりフルコースのほうがいいと思うな。

なんでも雑誌BRUTUSに連載されていたらしいのだが、ブルータスってまだあったんだ(←失礼!)
ブルータスなので、マガジンハウスなので、テイストはいかにもそういう感じです。


主人公は一男という男である。
昼間は図書館で司書として働き、夜は夜とてパン工場でパンを丸めている。百貨店に勤める妻と9歳になる娘がいるが、家族とは別居。今はパン工場の寮に独り住まいをしている。
そもそもの別居の原因は、一男の弟が3,000万の借金を残して失踪してしまったからだった。両親には経済的な余裕がなかったため、一男が肩代わりをすることになったのだ。妻も妻の両親も援助するといってくれたが、自分で返そうと心に決めていた。しかし、次第に妻とは口論が絶えなくなり、ついには娘をつれて家を出て行ってしまった。つまり、一男の今の状態の原因は"お金”にあった。
fukuzawayukichi.jpgところが、偶然商店街の福引きで貰った宝くじが当選していたのだ。しかも3億円という大金だ。
「うまくお金を使うことは、それを稼ぐのと同じくらい難しい」というビル・ゲイツの言葉を証明するかのように、ネットには高額当選者の悲劇が溢れていた。
銀行もその3億が一男にもたらすであろう不幸についてさんざん警告する。たくさんの人がお金によって不幸になっているという現実がそこにはあった。
一男はそれにとまどい、かつての親友にして今は億万長者の九十九に連絡をする。15年ぶりのことだった。あることがきっかけで、一男と九十九は疎遠になっていたのだが、一男にとって親友と呼べるのは九十九しかいなかった。九十九は今、億万長者だ。お金と幸せの答えを教えてくれるのは、九十九をおいて他にはいない。
しかし、九十九は一男の3億を持ったまま失踪してしまうのだった…。

えっとですね、私の感想は、一男はオロオロしてないでまず借金返そうよ?ということである。日々利息つくでしょ…。
そもそも弟の負債を兄が負う義務はない。勘違いしている人は多いんだろうけど、例えば兄ば亡くなった場合の相続は、当然のことながら兄の妻子、その妻子がいなければ親、親も鬼籍に入っていれば、ようやく弟に順番がまわってくる。法的には兄弟姉妹ってそういう扱い。
それに、なんの担保も財産もない人間に大金を貸してくれるほど世の中は甘くない。なので、駄目な弟の借金というのもリアリティ乏しくないだろうか。こういう設定は、よくドラマとかでもでてくるけど、そもそも担保でもなければ銀行や消費者金融はそんな大金は貸さない。ビジネスでだって、信用のない個人との取引なら、100万単位だって現金取引を要求されるのじゃないのかな。

主人公を金銭的な窮地に立たせるためなのだろうが、安直設定はちょっとラノベちっく。
一男自身も優柔不断だし、家庭を壊してまでして借金を肩代わりしたりする愚直な性格なのだが、これまた一男の妻も類をみないほどお金に欲のない人なのである。このあたりがどうもやはりリアリティがない夢の世界の人々というかなんというか。現実味がいまひとつ。
妻が、弟の負債を夫が背負うことに了解したのも不思議だし、お金を得た夫から、やり直さないかといわれて断るというのも、なんだか立派すぎる気がした。「問題はお金じゃないから」という人はそうはいないと思うんだけど。DVとかじゃないかぎり。
いっそラノベかゲームストーリーだと思って読んだほうがいいのかも。

ただ、所々差し挟まれる著名人のお金に関する金言はとても興味深かった。トルストイ、ビル・ゲイツ、チャップリン,etc,etc こうした金言や、一万円冊のリアルな大きさや重さなどをちゃんと調べてあるのも感心した。
お金のことを知らずにお金に好かれたいと思うな、という九十九のセリフに、「おおう、その通り」と納得してしまった。

九十九にお金を持ち逃げされた一男は、その行方を追ってかつての九十九の同僚を訪ね歩く。その3人はかつて九十九とともに会社を立ち上げたメンバーであり、その会社の成功と買収で今では九十九同様億万長者なのだ。
彼らのそれぞれのお金に対するスタンスは面白い。お金から自由になったと思っているが、逆に絡めとられている十和子。百瀬は常にアドレナリンを求め、賭けを続けている。お金を持ってるということの恐怖とたたかうためだろう。また、千住はお金というものの実体のなさに取り憑かれている。
彼らに共通しているのは、形こそ違えど、皆、お金を恐れているということだろうか。
「お金と幸せの答え」について最後に一男がたどり着いたのは、あなたの予想通り。常識的ではあるが、使い古されているものだった。ありきたりでさえある。
だが、これよりも良い答えは見つからないのかもしれないなとも思った。

さて、さて、あなたにとってのお金と幸せの答えとは?
私? 私はね、何を隠そう、6億の使い道を常に妄想している人間なので…。

億男

単行本 – 2014/10/15
川村 元気 (著)

Kindle版はこちら→ 億男






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『ミステリクッキング』は、引き続き募集してますので、是非是非!


※4月27日をもちまして、締め切らせていただきました!



category: ミステリ/エンタメ(国内)

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 本屋大賞     
2015/04/20 Mon. 17:23 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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