Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

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極北 / マーセル・セロー 

本書は、Post Apocalypseの世界を生きるタフで意外性に満ちた小説である。村上春樹が指摘したように、3.11以降Apocalypseは現実味を帯びた。もしかして現在もその道程にあるのかもしれない。

本書の設定は近未来である。”人類が消えた世界”のシュミレーションを少し前にテレビでやっていたが、主人公のメイクピースの生きる世界は、まさにその一歩手前かもしれない。人類はもはや地球が支えきれないほどに増え、食料と資源をめぐる戦いが勃発し、地球温暖化は進行した。そして何か劇的なことが起こり世界は崩壊してしまう。
メイクピースの両親は、メイクピースが生まれる以前に、物資に溢れたアメリカの生活を捨てこの極北の地に移住してきた。彼らのような入植者たちは、金銭、物欲、偶像崇拝というものを捨て、広大で静謐な極北の地で本来人間があるべき生活を回復するのだと信じていたのだった。
世界の崩壊はメイクピースたちの暮らす極北のエヴァンジェリンの町にも影響を及ぼす。外の世界からの避難民で町は膨れ上がり、治安は急激に悪化。人々は今では温かい食事にありつけるなら、喜んで人を二度殺せるほどに堕ちてしまった。メイクピースを残し家族は皆その犠牲となった。人がチャーミングで寛大でいられるのは、お腹と食料庫が満ち足り、温かな暖炉が燃えているからだ。

著者のマンセル・セローは、かつてドキュメンタリー番組のためにチェルノブイリの原発事故現場から半径30キロ圏内の立ち入り禁止区域に暮らす老女を取材したことがあるという。そのとき思いついたのがこの小説なのだとか。
ガリーナという名のその女性は、禁止区域の中で家畜を飼い、野菜を育てて暮らしていた。放射線がいかに人体に危険であるかを知っている我々からすれば、彼女の生活は危険極まりない愚かなことだ。だが、その時著者はふと思ったのだという。もしもこの世界が崩壊すれば、我々が今価値を置いているものは一瞬にして無価値になるだろう。我々が今尊んでいる全てのことは、文明や科学がもたらす快適性の上にこそ成り立つものだ。世界が崩壊した時、役立つのはガリーナのような原始的なタフさだ。
メイクピースには、メイクピースの父親にはなかったそのタフさがある。
メイクピースは、哀しい出来事のため自殺を試みるが、その時見た飛行機に光を感じて旅にでる。その旅はと言葉通り生易しいものではない。メイクピースの目を通して、絶望と飢餓が人間性を奪うためには、ほんの数日あればよいことを目の当たりにする。

文明社会に住まう我々にとって「人としての正しさ」は、"真北”のように揺るぎないものだ。それは愛とか良心、義務といった不変のもののはずだ。が、世界が変わり、北の極限まで進んでしまうと、コンパスはその役割を果たさなくなる。世界が極北に踏み入れたとき、針はただグルグルと回るだけでどこも北でありどこにも北はなくなる。
それでもメイクピースは、心の底で家族を求め、他者を求める。

これまで、私がメイクピースのことを語る時、ただメイクピースとのみ呼んでいることにお気づきだろうか?なぜなのかはどうぞ本書のお楽しみ。もちろん意外性はこれだけではないことを付け加えておこう。メイクピースの顔がなぜ現在のようになったのか、はミステリーのような真相を孕んでもいる。
読後ズシリとくるものはあるが、同時に希望も感じさせる秀作だと思う。

極北
極北
(2012/04/07)
マーセル・セロー

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”このミス”にちなみ、10月31日を区切りとするならば、この本は私の2012年で読んだ本のベスト5に入る。ちなみに他は、『シャンタラム』『解錠師』『アイ・コレクター』 『占領都市 TOKYO YEAR ZERO II』かな。『わたしが眠りにつく前に』は、入ってないの?と思われるだろうが、この本を読んだのは確か去年なのでした。


ところで本書はストルガツキー兄弟のSF『Roadside Picnic』邦題『ストーカー 』に一部プロットのヒントを得ている。本作におけるストーカーとは密猟者のこと。突如地球に出現した異星(もしくは別世界)の超文明の痕跡“ゾーン”に不法侵入し、謎なものを命懸けで持ち出し売り払う者のことだ。著者は「ピクニックで道ばたに捨てられたゴミは、野の虫たちにとってどんな意味があるのか」という視点で描いたという。
この"ゾーン”は、放射線に汚染された文明社会の痕跡という形で『極北』にも登場している。
ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)
ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)
(1983/02)
アルカジイ・ストルガツキー、ボリス・ストルガツキー 他

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category: 文芸

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tag: 村上春樹 
2012/10/31 Wed. 17:33 [edit]   TB: 0 | CM: 10

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TOKYO三部作ディヴィッド・ピースの講演に行ってきた! 

   IMG_3120.jpg
ディビッド・ピースの講演に行ってきた!
ピースは『TOKYO YEAR ZERO』『占領都市 TOKYO YEAR ZERO II』で話題沸騰中の作家である。多分『占領都市〜』のこのミス入りはもう間違いないかな?

本講演は、専修大学のLL教室が主催した催しだ。来場者は学生から年配の方まで幅広かった。

さて、まず作家による原文の朗読、その後作家本人や上記の作品についてのQ&Aや裏話、及びディスカッションという流れで行われた。司会進行と通訳は同大学の小山准教授だった。

以下のトークについては、メモをもとにレビューしたものです。

peaceLL.jpg小山氏(以下敬称略):あなたのバックグラウンドについて教えてください。
ピース:私は1967年、イングランド北部のヨークシャー地方に生まれました。サッチャー政権時代に過ごしましたが、今振り返ってもあまり楽しいとはいえない時代でした。というのは、70年代はヨークシャー地方の主要産業であった石炭産業が崩壊をはじめた時期でしたし、ヨークシャー・リッパーと呼ばれた連続殺人鬼による陰惨な事件や、北アイルランド紛争などが起きました。人々を脅かす暗い時代だったのです。

小山 :プロの作家になろうというきっかけは?
ピース :まず、書くということについては、私の父が小説を書こうとしていたことが挙げられます。父は夕食の後、毎日書斎で執筆をしていました。なので、私自身にとって物語を書くという行為は、至極当然のことでした。プロの小説家を志すにあたって影響を受けたのは、子供の頃に読んだRoald Dahlです。 

小山 :どうして日本に興味を持つようになったのですか?
ピース :作家を志していましたので、マンチェスター大学を卒業したときに、自分の原稿をありとあらゆる出版社に送ったのですが、残念ながら不採用だったのです。しかし、学費の返済がありましたからイスタンブールで英語教師をしていました。ところがトルコが経済が崩壊してしまい...実は、日本にやってきたのはお金のためだったんです(笑)日本でも英会話講師をしていたのですが、様々な人々や文化、文学に触れることで、日本への興味を深めていきました。

この"東京三部作”の特徴は、現代日本文学の影響を色濃く受けている。『占領都市〜』の冒頭に出てくる小説家は、坂口安吾をイメージしており、それはピース自身にも重なるという。さらに『TOKYO YEAR ZERO』に頻繁に出てくるトントントン....というフレーズは、太宰治の『トカトントン』青空文庫をreferenceしたものであるという。三波刑事は太宰をヒントに描かれたといい、妻子が三鷹にいるという設定にしたのも、太宰が三鷹に家を構えていたからであったそうだ。

小山 :アマゾンなど一般読者のレベルでは、(理解が難しいため)その表現手法が批判されていますが。
ピース :そもそも見かけ通りの物事や人間はこの世に存在しないと私は思っています。ゆえにStraightな(単純なというニュアンスなのかな?)物語などというのはないと信じています。しかし、私の物語は難解なもの、モンスターではありませんよ。
例えば『TOKYO YEAR ZERO』の三波刑事は、敗戦によって精神的に大打撃を受けています。自分の生活や自分自信のアイデンティティを再構築しなければならない。その重圧のためにStraightな物語を語れなくなっているんです。


小山 :終戦後という時代への興味はどこからきているのですか?
ピース :まず私は東京に住んでいますから、東京に興味を持っています。それに東京という都市は、終戦後異様ともいえるスピードで再建されました。それは、現代に生きる読者の皆さんにとっても、未だ終わっていない出来事ではないかという気がしました。例えば日中韓の抱える問題は、あの時代に起因していますよね?終戦後の時代に起こったことは、現代まで重要な影響を与えているのだと思います。

小山 :執筆にあたってJ.エルロイの創作態度に影響を受けましたか?
ピース :Yes.深い影響があると思います。エルロイは犯罪を通してL.A.という都市を語ろうとしています。私が" ヨークシャー4部作”でやろうとしたのも、それと同様です。実在の事件を使って、町の歴史や町自体を語ろうとしたのです。

小山 :あなたは、ノワールノベルの伝統を引き継ごうとしているのでしょうか?
ピース :私自身は、ノワールと言われるのは好みません。なぜなら、ノワールという言葉は、80年代以降(例えば探偵がバーでジンを飲むといったような)いわばstyleを表しているような感じを受けます。言葉自体が何やら異なったニュアンスで語られている。ですから、ノワールではなく、ブラックノベルと呼んで欲しいと思います。私はstyleに関わらず、desperateな人々がdesperateな人生を生きる物語を書いているのです。

小山 :あなたの小説は、暴力と狂気、強迫観念に満ちたobsessiveなものですが、それに対する批判をどう思いますか?
ピース :確かに笑いのシーンは少ないですよね。しかし私は犯罪そのもののために書いているのではありません。犯罪は時代を読み解く鍵だと思っているのです。犯罪を通じて翻って社会について考える、例えば小平事件は、に日本が窮乏し女性たちに食べるもの、着るものがない時代だったからこそ起こったといえ、また帝銀事件に至っては、GHQの腕章という錦の旗がなければ、疫病の蔓延という危機がなければ、ああも易々と銀行の人たちは騙されはしなかったと言えるでしょう。

小山 :文学性とジャンル小説とのバランスをどうお考えですか?
ピース :私はジャンル小説を書いているつもりはないのです。そこにあるのはtextであり、textが物語を語るというだけ。私のこれらの小説は、様々な文豪の影響を受けています。人によってはそれをパクリと呼ぶこともあるでしょう。しかし、小説を書くという作業は、先達から引き継がれ次世代に受け渡していくものである、と私は思っているのです。

続いては"東京三部作"の担当編集者長島氏に聞く編集裏話へ

小山 :"東京三部作"誕生のきっかけは?
長島 :ある時ディナーをご一緒した際、ピース氏から東京を舞台にした4部作からなるクライムフィクションを考えているのだが、実は迷っているんだ、というご相談を受けたんです。というのは、膨大な資料に当たらないといけませんから。早川出版の”ヨークシャー4部作”を面白いと思っていましたし、翻訳作業や資料提供ならば、我々編集者の当然の仕事でしから、喜んでサポートしますよ、と。そういう流れです。最初、ピースさんは4部作構成をお考えだったんですよ。※(当初は終戦〜東京オリンピックまでを想定していたという。しかし編集者と話をしていくうちに、終戦後という時代を象徴する三つの怪事件で構成をなす方が効果的だと判断したとのだいう)

小山 :翻訳小説が売れない昨今にあって、その企画は冒険ではなかったのですか?
長島 :全然心配しませんでしたね。外国人作家が終戦後の悪名高い事件を描くというのは、話題性もあるしビジネスとして充分行けるだろうと考えました。


質問のコーナーで印象に残ったのは、妙齢の女性が「自分は帝銀事件が起こった48年に東京で生まれ育ったけれども、どうも自分にはこれほど東京はdesperateな雰囲気というわけではなかった気がする」と言っていたことだった。
彼女は、当時の我々庶民は確かに貧しかったけれども、気持ちはこれから復興するのだ、再建するのだ、というプラスの方向へ向かっており、desperateなどに陥っている暇はなかったようだったというのである。
英国人であるピースが戦後の怪事件から読み解いた当時の日本と、今を生きている我々日本人の認識の違いというのを感じてしまう。
ある書評家が、「かつてこんなに禍々しい東京は見たことがなかった」と書いていたが、私も全く同感だったのだ。
しかし外国人のピースから見ると、我々はそこから継続しているのだ。それを外国人作家に指摘される意味は大きい。
ちなみに、ピースは彼女の言葉に「desperateだったか否かは見解の相違でしょう」と答えていた。

        
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category: 旅行&行ってきた他

tag: 海外ミステリ  文学  ディヴィッド・ピース   
2012/10/28 Sun. 18:42 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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毒入りチョコレート事件 / アントニイ・バークリー 

次回の横浜翻訳ミステリー"スピンオフ”読書会は、A.バークリーの『毒入りチョコレート事件』なのである。どっかにあったはずなんだけど…と探してみたが見つからず、結局Amazonで購入してしまった。
年末の大掃除の時くらいに出てくるのだろうとけど、やっぱり普段から整理整頓しなくちゃなぁ…

さて、非常に有名な本なので今更だが、都合上一応概略を説明しておくと、
103181590.jpgピカデリーにある名門クラブのユーステス卿宛に、新製品のチョコレートを試食してほしいという手紙とチョコレート一箱が送られてくる。
ユーステス卿は、「こんな下世話なものをこんなとこに送りつけるとは何事だ!」と激高するが、そこに居合わせたペンディックスがちょうどチョコレートが入り用だいうことで、それを譲ることにした。ペンディックスはそれを自宅に持ち帰り妻と試食するが、それには毒が仕込まれていたのだった。ペンディックスは一命を取り留めるが、妻は死亡してしまう。
スコットランド・ヤードはこの事件にお手上げだった。
そこでロジャー・シェリンガムが誇る”犯罪研究会”のメンバーが、事件の真相に挑むこととあいなったのだった。ロジャーを含め、会員たちは有名弁護士、女流劇作家、閨秀作家に推理小説家と知名の士ばかりで、唯一無名の徒はチタウィック氏だけだ。
彼らはそれぞれ独自に調査を行い、籤引きで決まった順番に一晩づつ、その推理を披露していくことになったのだが…


"犯罪研究会”のメンバー6人が6様の推理を展開していくのだが、一晩に一人づつの発表であるので、後になるほど有利になる。しかも、最後に発表された推理すら正解かどうかが曖昧にされているのだ。
このとこから、本書は、従来の探偵推理小説に対する批判を内包しているアンチミステリーであると言わていれる。
これがWikiをはじめとして大方の見解だが、改めて読み直してみれば、バークリーはそこまで意図せず、一応は"本格"の枠のなかで書いたのではないかという気がしてしまう。

私は、"この小説における"一応の真相は示されていると思うのだ。
ただ、その一番の拠り所が犯人の心情にあるために、実証できないというだけなのじゃないだろうか。かなり分かりにくいものの、伏線らしきものも一応は用意されている。
だからこそ、バークリーは、ーこんどばかりは彼も当たらなかったのでーという言葉とともに、本書を数学者の弟へ手向けたのではないかと思うのだが…

Edmund Clerihew Bentley   Dorothy Leigh SayersAnthony Berkeley Cox 22.34.49
John Dickson Carr
Agatha Christie1Freeman Wills Crofts1

ちなみに、本書本書には元となった短編『The Avenging Chance-偶然の審判』があり、こちらはシェリンガム一人の推理から成っている。この短編はアンチミステリなので、だからこそ『毒チョコ』では少々違うことをしてみたのではないだろうか。
『毒チョコ〜』にも登場するベラクル・ラ・マジレ夫人(短編では名前がヴェレカー・ル・フレミング夫人になっている)はこの短編にも登場しているのだが、長編とは少々異なる彼女の役割にも注目されたい。

それにしても、バークリーはシェリンガムに冷たい!、と思っていたが、それはシャーロック・ホームズに代表されるような天才的名探偵の否定という皮肉な役割のためばかりでもないようだ。
ロジャー・シェリンガムというキャラクターは、バークリー本人の投影かと思いきや、彼が昔知っていた無礼な奴がモデルなのだそうである。

ところで、本書の解説で杉江氏は、バークリーの女性描写に「同性愛者だと思っていた!」と言っていたが、私もそうだと思っていた!ベンディックス夫人や、アリシア・ダマーズをみてるとそう思えるのだ。
しかし、実際はバークリーには二度の結婚歴があったというから違うのだろう。
やっぱり「静かな河は流れが深い」のだった。

毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫)毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫)
(2009/11/10)
アントニイ・バークリー

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世界短編傑作集 3 (創元推理文庫 100-3)
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(1960/12/19)
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category: 古典・本格

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tag: 海外ミステリ  古典   
2012/10/26 Fri. 18:23 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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ソロモンの偽証Ⅰ〜Ⅲ / 宮部みゆき 

久しぶりの現代ものの宮部作品である。
しかも、Ⅰ〜Ⅲ巻あわせると2000ページを超える大作である。三部構成であることは予め知っていたので、Ⅲの『法廷』が出るのを待って全巻購入した。これが高いんだ!!!
著者本人は、本書をフルマラソンにたとえ、書き上げたときは完走したという喜びに包まれたと言う。
私は、もともと短編よりも長い小説が好きなのだが、割とあっという間に読めてしまった。
ただ、ハードカバーはヤメテホシインデスケド…
お高いし、重いんだもん…

SolomonPerjury.gif      SolomonPerjury.gif      SolomonPerjury.gif
さて、物語は1990年のクリスマスに始まる。
その朝、城東第三中学の裏庭で、半ば雪に埋もれた状態の生徒の遺体が発見される。死んでいたのは柏木卓也だ。彼はこの中学校の2年A組の生徒で、ひと月ほど前から不登校の状態だったのだ。死因は屋上からの転落死とみられた。精神状態が不安定だったということもあり、警察も親も自殺ということで納得していた。
しかし、匿名の告発状によって状況は一変してしまう。定規を使った直線で書かれたその”告発状”には、大出俊次という男子生徒ら札付きの不良三人組が、屋上から卓也を突き落とすのを目撃したと書かれてたのだった。そもそも卓也の不登校の原因は、その三人の不良との間に起こった喧嘩沙汰にあるとみられていた。いじめによる殺人という可能性は、なきにしもあらずだったのだ。
その告発状は、校長、亡くなった柏木卓也と同じクラスの藤野涼子、担任の森内の三人に送られていた。藤野涼子に送られたのは、彼女が2年A組のクラス委員であり、何より彼女の父親が警視庁の刑事であるからと思われた。
校長は事態を穏便に納めるため告発状の件を内密にしていたが、ある人物の悪意によってマスコミにリークされてしまうのだ。
学校は無責任なジャーナリズムにさらされてしまう。保護者たちは過敏になり、何も知らされない生徒たちは混乱に陥っていたた。学校側は急いで事件の幕引きしようとしていたが、そんなおり、また新たな犠牲者が出てしまうのだった。
自分たちの学校が汚されていくことに怒りを覚えた藤野涼子は、自分たちの手で真相を明らかにしようとする。
彼女が選んだ解決の方法とは、”学校内裁判”だった。
被告は、柏木卓也殺しを疑われている三人組のリーダーで札付きのワル、大出俊次だ。
大出は本当に卓也を殺したのだろうか…


school image あらすじだけみると、なんて中二的!!と思うだろうが、そこは宮部みゆき。読んでいるうちに、自分も中学生に戻るのだ。
主人公の藤野涼子は、完璧な優等生すぎて感情移入しにくい。だからか、語り手は途中で、野田健一という生徒にバトンタッチされるのだが、これは大正解だったと思う。この野田健一の自己克服の物語は、読者を共感させるからである。
野田以外の生徒のそれぞれの物語も並行したサイドストーリーとなっており、読ませる。

この”学校裁判”は、本当の裁判ではないので、その形式も、満たすべき用件も大きく異なる。ともすれば、「ごっこ」になりかねないが、逆に言えば、子供たちがやるからこそ、理想を追求できるとも言える。裁判の本質は、こういうものであってほしいとさえ思ってしまうのだ。

それにしても、なぜ著者は、『ソロモンの偽証』というタイトルをつけたのだろうか。この法廷において誰も偽証はしていないのだ。法廷で述べたことは、誰にとっても、告発状の主であってさえも、本人にとっては真実だったのだ。
また、本書にはソロモンに象徴されるほどに賢い生徒も登場するが、作者が”ソロモン”に喩えたのは、生徒ではないのではないだろうかと思う。

ソロモンの偽証 第I部 事件
ソロモンの偽証 第I部 事件


(2012/08/23)宮部 みゆき
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ソロモンの偽証 第II部 決意
ソロモンの偽証 第II部 決意

(2012/09/20)宮部 みゆき
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ソロモンの偽証 第III部 法廷
ソロモンの偽証 第III部 法廷

(2012/10/11)宮部 みゆき
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category: ミステリ/エンタメ(国内)

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 国内ミステリ  学校  法廷   
2012/10/20 Sat. 20:46 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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深い疵 / ネレ・ノイハウス 

いわゆる「ナチ」もののドイツミステリー。
ドイツものといえば、シーラッハや『アイ・コレクター 』のセバスチャン・フィツェック等、尖っている印象が強いが、こちらは割とオーソドックスな警察小説である。
「ナチもの」でありタイトルは「深い疵」とくれば、どれだけ暗いのかと思うだろうが、山村美沙的というかなんというか… そんな感じカナ。


主人公は、オリヴァー・フォン・ボーンデンシュタイン主席警部と相棒の女性警部のピア・キルヒホフ。(ドイツの警察って警部だらけなのか?)
オリヴァーは名前から分かるように貴族の家柄だ。妻もまたそうで、上流階級に顔がきくが、本人はいたって気さくで庶民的。物腰も柔らかで職務に忠実な受付嬢の懐柔などもお手のものだ。
一方、ピアは、株で儲けた金で牧場を購入し、犬と馬とともにそこに住んでいる。元夫の検死官との間には気まずさが漂っているが、新しい彼氏ができたばかりだ。目下の悩みは、妊娠しているわけでもないのにH&Mのマタニティコーナーでドレスを買わなければならいことくらいだろうか。
そんな対象的な二人が、事件を解決するというストーリーなのである。

nsdap6opener.jpg
さて、物語はゴルトベルクという92歳の老人が、自宅屋敷の玄関ホールで殺されるところから始まる。老人は頭を撃ち抜かれており、ホールの鏡には、血で綴られた16145という文字が残されていた。
ゴルトベルクは、ホロコーストを生き延び、戦後ドイツからアメリカに渡って、歴代の大統領顧問を務めたユダヤ人の大物だった。
司法解剖に立ち会ったオリヴァーとピアは、ゴルトベルクの左腕に入れ墨を発見してしまう。それはナチの親衛隊の証だった。ユダヤ人のゴルトベルクがなぜナチの親衛隊の入れ墨を?
ゴルトベルクの事件は外交上の特別扱いとなり、上層部からは捜査中断の命令が下ってしまう。
だが、悲劇はまだ終わらなかった。ゴルトベルクの知り合いの老人たちが、次々と殺害されたのだ。そして、皆ゴルトベルク同様に後頭部を打ち抜かれていたのだった。
オリヴァーたちは、ゴルトベルクの手帳に残されていた"ヴェーラ85"というメモから、ヴェーラ・カルテンゼーという女性にたどり着く。ヴェーラは、男爵令嬢でありながら戦争でその全てを失ったものの、夫のカルテンゼーとともに会社を世界的な機械製作所にしたセレブだった。殺害された人々は皆、ヴェーラの古くからの知り合いだったのだ…



Nele_Neuhaus_494web.jpgゴルトベルクにあった入れ墨から、容易に予想される通りの展開だ。
この手の”戦争成り済まし系”の話は、最近ではドラマ『クローザー』でも観たばかり。こちらはコソボ紛争でアルバニア人狩りと称してレイプや虐殺を行ったあるセルビア人が、戦犯にとわれることを恐れて自分が殺したアルバニア人に成り済ましていたというものだった。(シーズン6 「終わらない悪夢」)


「戦犯逃れのための成り済まし」については、「クローザー」に軍配があがるかな?
「ナチ」を題材にしたミステリは数多くあり、特に目新しいものはない。なので、私は特に「ナチが〜〜」「歴史が〜〜」みたいな感想は持たなかった。
本書の魅力はそれではなく「女のエゴ」にあるのではないか。物語の核になっているのもそれだと思う。
女性作家だけあって、女性の描き方は巧いと思う。馬好きであるという作者自身を連想させるピアのキャラクターも面白いし、老女ヴェーラのトーマスへの複雑な想いや、長男エラルドへの憧憬にも似た想いなども、女性ならではの見方かも。

ちなみに本書はオリヴァー&ピアのシリーズの第三作目ということらしい
。前二作はなんと自費出版であり、彼女の夫のソーセージ店で販売していたともいう。このバイタリティはどうよ?
本書にもそうした快活さと溌剌があらわれているような気がした。

深い疵 (創元推理文庫)
深い疵 (創元推理文庫)
(2012/06/21)
ネレ・ノイハウス

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オリヴァー&ピアの次作は『Schneewittchen Muss Sterben』邦題『白雪姫には死んでもうらう』
こちらはドイツ国内ではこのシリーズ最大のヒットになっており、タイトルの妙といい、楽しみである。
ところで、湊かなえの『白ゆき姫殺人事件』は、微妙にコンセプトが似ている気が?
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category: クライム・警察・探偵・リーガル

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  ドイツ   
2012/10/17 Wed. 15:51 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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