Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

01« 2014 / 02 »03
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.

第三の銃弾 / スティーヴン・ハンター 

ソチオリンピックも終わった。鉄人葛西の四十路メダルもよかったけど、なんといっても真央ちゃん!
もうメダルとか点数とかそういったものを超越した。熱狂的ファンのオバちゃんたちのみならず、日本中が涙した瞬間だったかも。

そんな中、「JFK暗殺」ネタは引き続き密かにマイブーム中で、第二弾はS.ハンターの『第三の銃弾』なのである。
S.ハンターといえば、何と言っても「このミス1位」にも輝き、映画にもなった『極大射程 』
だろう。すごく良かった記憶があるのだが、読んだのはなにせ10年以上前のこと。何か新しいものをひとつ読めば何かひとつ忘れるといったトコロテン式のアタマゆえに、ボブ・リー・スワガーのこともさっぱり忘れてしまっており、『第三の銃弾』にあたり『極大射程』も併せて読み直してみた。そのボブとの初対面をもう一度やり直したかったのだ。

Bob Lee Swaggerその『極大射程』のボブ・リー・スワガーっていうのはどんな男なのよ?という方のために簡単に説明しておくと、彼はヴェトナム戦争で負傷して海兵隊を退役した"伝説のスナイパー"なのである。
この手の冒険小説のヒーローとしては、クラシカルなタイプのストイックな一匹狼の男だ。93年を舞台にしている『極大射程』では40代半ばといったところで、故郷のアーカンソーのトレーラーハウスで、犬とともに静かに暮らしていたが、ある日、そこに法執行関連の会社の男二人が現れ、ボブに新しく開発したばかりの弾丸の"試射”を依頼をするのだ。
ボブはその"試射"がきっかけで巨大な陰謀に巻き込まれ、エクアドルの大司教狙撃の犯人に仕立て上げられてしまう…というストーリーである。

驚いたことに、この二冊は単なるシリーズの域を超えており、ほとんど続きものといっていい関連性がある。
ああ、だから書店にはわざわざ隣にセットのように平積みしてあったのかと納得した(『極大射程』は98年当時、新潮社からでていたが、昨年『第三の銃弾』扶桑社より改めて出版されている)いうなれば、S.トゥローの『推定無罪』と『無罪』のような関係で、版元の扶桑社も頑張ったというわけだ。

著者自身があとがきでも触れているように、そもそも『極大射程』のアイデアの根本には「JFK暗殺」があったとのだいう。そして、本書『第三の銃弾』は、そのボブ・リー・スワガーが、"銃の専門家”としての件見地から「ケネディ暗殺」の謎を解明するということが軸になっているのである。
加えて『第三の銃弾』は『極大射程』の後日談にもなっており、すべてはこの『極大射程』から始まっているといえるだろう。
ゆえに、『第三の銃弾』単独でも読めないこともないとは思うが、まず『極大射程』を読んでから『第三の銃弾』を読むことをお薦めする。

Dal-Tex Building舞台は『極大射程』から20年後の現在。物語は、ボルティモアで、ジェイムズ・アプタプトンという作家が、酔って帰宅する途中で轢き逃げにあうところから始まる。作家は即死し、警察は事故として処理するが、それはプロによる犯行だった。
その事故から数週間後、一人の女性が、アオダホの片田舎で暮らしているボブ・リー・スワガーの元を訪れる。彼女は件のひき殺された作家の妻で、ボブに夫の死の真相の調査を依頼するためやってきたのだった。
彼女の夫、アプタプトンは、冒険小説でそこそこ名の知れた作家で、近く「JFK暗殺」の真相にかかる本を出そうとしていたという。「JFK暗殺」は犯人とされるオズワルドが殺害されてしまったため、多くの謎を残したが、アプタプトンはある手紙をきっかけにしてその謎が解けたと言っていたらしい。
彼女がいうには、その手紙の差出人は、ダル・テックス・ビルで70年代にエレベーター技師をしていたという。
そのビルは、オズワルドがJFKを狙撃した教科書倉庫ビルの隣に位置している。彼はエレベーターのエンジンルームで偶然見つかったタン色の高級素材のオーヴァーコートのことがずっと心に引っかかっていた。そのコートには銃腔洗浄剤の匂いが強く残っていたからだった。銃の匂いがするコートは「JFK暗殺」とは無関係だったかもしれないが、技術者は気になって仕方なかった。そこで銃に詳しい作家アプタプトンに手紙を書いたのだった。アプタプトンは、その手紙を元に「JFK暗殺」の謎解明に可能性を見出したという。
話を聞いたボブは、その話とアプタプトンの死を関連づけて考えるのはやめるべきだと諭そうとするが、ある事実を聞き考えを変える。コートにはイギリス風の自転車のタイヤのような"細いタイヤ痕"があったというのだ。コートの背中のタイヤ痕は、長らくボブの心の奥底に埋もれていた記憶をくすぐった。
ボブは調査のためダラスに飛ぶ。アプタプトンは決して知られてはいけない「JFK暗殺」の真相を解明したがゆえに殺されたにちがいない。彼は何を掴んだのか…


この小説の読みどころは二つある。一つは、ボブ・リーという古典的ヒーローの前の事件のオトシマエであり、いま一つは、ハンターの(ボブの)解明した「JFK暗殺」の謎解きである。
物語それ自体は完全にフィクションであるが、このJFK暗殺の謎の解明はなかなか楽しめる。著者自らを連想させるアピタプトンという作家もさることながら、諸々小ワザもきいており良く出来ているのだ。

Dal-Tex Building2前エントリ『ケネディ暗殺 ウォーレン委員会50年目の証言』 でも触れたが、「JFK暗殺」には未だ多くの謎とそれに伴う陰謀説が存在する。ウォーレン委員会やその後の下院委員会が出した結論は、皆を納得させるに不十分なのだ。ゆえにそのミステリーは多くの作家のイマジネーションと推理力を刺激する。
『ケネディ暗殺〜』のシノンは、オズワルドを単独の実行犯と認めた上で、Why?の観点から、重要かつ新しい証言を得ることに成功し、オズワルドの背後にカストロの陰を匂わせた。

他方、ハンターのアプローチはWhoなのだ。つまりオズワルドは囮で、実は真犯人がいるのではないかというものだ。
オズワルドが放ったとされる銃弾は三発。そのうち最初の一発目は狙いをはずし、次の二発目はケネディの首を貫通し、前のシートに座っていたコナリー知事の身体を貫き、彼の手首を砕いて太ももに当たった。いわゆる「一発の銃弾説」と呼ばれているもので、今はこの説の正当性はほぼ認められている。
だが、ケネディの命を奪ったのは三発目の頭部を吹き飛ばした銃弾なのだ。これを本当にあのオズワルドが撃てたのか?というところにボブは(ハンターは)着目するのだ。問題は「第三の銃弾」なのだ。これを本当に撃ったのは誰なのか?

オズワルドは、海兵隊において「一級射撃手」でしかなかった。それほどの腕ではないということだ。しかも標的は、移動を続け、オズワルドがいた教科書倉庫からは離れようとしており、植木の隙間からという彼にとっては難しい射撃となったはずだ。
また、使用したのは、"マンリヒャーカルカノライフル"という63年当時からしてもかなり時代遅れのライフルだった。このイタリア製のライフルの特性は厚着をしたドイツヤオーストリアの山岳兵の体内の奥まで弾丸を届かせることができることにあるのだという。つまりボタンなどにあたっても逸れずに、骨にあたっても砕けることなく体内を進んで内蔵に到達できる丈夫な弾なのである。だが、「JFK暗殺」で見つかった弾丸は「一発の銃弾説」の一発のみ。その弾丸はケネディと知事二人の身体を貫通してもほとんど無傷に近かったことから魔法の弾丸とも呼ばれている。外したとされる一発目は見つかっておらず、大統領に致命傷を負わせることになった「第三の銃弾」は、頭蓋骨に当たったショックで粉砕しているのだ。本来頑強なはずのこの弾丸が、なぜ三発目だけ砕けてしまったのか?この点に疑問を抱く。

この視点は新鮮だった。
誰しもが問題は、第二目の銃弾、「一発の銃弾説」にあると思い込んでいたからだ。昨年CBCで製作され年末にNHKで観た実証ドキュメンタリーでも、三発目の弾丸は単に堅い頭蓋骨にあたって砕けてしまったのだと説明していた。頭蓋骨は人間の部位のなかでもとりわけ堅くできているから、おそらく誰もがそれに納得していたのだろう。
両者のどちらが正しいのかは私には判断がつかないが、これも「可能性」であることには違いない。

ここから導きだされる「JFK暗殺」の真相とボブ個人の因縁の物語の繋がり方は圧巻だ。それが『極大射程』で一度目にしたものであっても、"陳腐”に陥ることはなく成功しており、かつ銃に詳しいハンター(ボブ)ならではの視点が生きているため、真正性が確保されている。



第三の銃弾 (上) (扶桑社ミステリー)
第三の銃弾 (下) (扶桑社ミステリー)

スティーヴン・ハンター (著), 公手 成幸 (翻訳)
扶桑社 (2013/11/30)








極大射程 上 (扶桑社ミステリー)
極大射程 下 (扶桑社ミステリー)

スティーヴン・ハンター (著), 染田屋 茂 (翻訳)
扶桑社 (2013/6/29)
関連記事

category: スパイ・冒険・ハードボイルド

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  このミス  JFK  暗殺 
2014/02/24 Mon. 22:02 [edit]   TB: 0 | CM: 0

go page top

ケネディ暗殺 ウォーレン委員会50年目の証言 / フィリップ・シノン 

未明にテレビを観ていて叫んでしまった。ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
なんで、なんで、どうしたのよ?!
女子フィギュアは揃って悲劇を通り越してもはや惨劇といった体だったが、何があったのだろうか?



今回の悲劇は別にしても、フィギュアスケートにはかねてから根強く”陰謀”がつきまとっているが、本書も”陰謀”にかかる本である。

JFK1.jpeg本書の著者シノンを一躍有名にしたのは、9.11の調査委員会がなぜ真実に到達することができなかったのかをテーマにしたノンフクションだった。

本書が誕生するきっかけになったのは、その『委員会 9.11調査の本当の歴史』を読んだ人物がかけてきた一本の電話だったという。
彼はシノンにこう言ったそうだ。
「きみは我々の話を語るべきだ」
その人物はかつてウォーレン委員会の調査スタッフだったという。シノンの前著とその好意的な書評から、彼こそがJFK暗殺にかかる顛末を語るにふさわしいと考えたのだろう。


"ウォーレン委員会"は正式には「ケネディ大統領に関する大統領諮問委員会」である。この委員会はJFK暗殺後、その真相解明のため副大統領から大統領になったジョンソンによって設置された。

JFKは人気のある大統領だったため、暗殺の背後にキューバやソ連がいるとなれば、核戦争に突入する危険性すらあったという。その意味では、委員会の視点は当初から、陰謀があったのかではなく、なかったことに置かれていたのかもしれない。
委員長に任命されたのは、最高裁の首席判事だったアール・ウォーレンだ。ウォーレン委員会は、後の大統領、フォード上院議員や、アレン・ダレス前CIA長官など7名の委員からなる超党派の組織だった。
だが、実際には実地に調査を行いその報告書の作成に寄与したのは全米から集められた優秀な若き法律家たちだったのだ。シノンに電話をかけてきた人物は、そのうちの一人だった。

その人物は、シノンに「委員会の裏話は、"聞いたこともないような最高の探偵小説”だ」と言ったという。
確かにケネディ暗殺にかかる謎の解明はこの言葉に尽きるといっていい。同時に非常に複雑で巧妙なプロットのスパイ小説のようでもある。そしてスパイ小説には悲劇がつき物である。
とりわけ悲劇的で皮肉かつドラマティックだったのは、兄を失ったロバート・ケネディが、なぜあれほど長きにわたって悲しみから立ち直れなかったのか、ということだろう。

Warren Commissionウォーレン委員会は、最終的に評価を得ることができなかったが、若き法律家からなる調査員たちは、熱意を持ち真実にたどり着こうと奮闘していた。これらが仔細に書かれた第二部は読み応えがある。
例えば、JFKを殺害したとされるリー・ハーヴェイ・オズワルドは単独犯だったのか?
オズワルドが狙撃した教科書倉庫からみつかった薬莢は三個だった。彼は一発目は外し、二発目はケネディの首に命中させた。その少し後に、ケネディの前の座席に座っていたコナリー知事の背中を貫き、その後の銃弾がケネディに致命傷を負わせている。
薬莢は三個なら彼は3発撃ったことになる。そのうちの一発目ははずしているのだ。有効な弾丸は二発だったが、被害状況をみれば、弾は3発必要だと考えられたのだ。これでは数があわない。
そして最後の銃弾を受けたとき、ケネディは後方にのけぞったのだ。最後の一発は教科書倉庫ではなく、ケネディの公用車の前方のどこかから受けたものではなかったのか?

この謎を解いたのは、「一つの銃弾説」だった。この仮説は調査スタッフのスペクターの熱意の賜物といって過言でない。この「一つの銃弾説」は、二発目の銃弾はケネディの背後から首を貫通し、それが横に回転しながらコナリー知事の身体を貫通した後、右手首を貫通したというものだ。のけぞったように見えたのは、脳を銃弾が粉砕した際、電気パルスがケネディの身体を走ったからであるという。人間の背筋は通常腹筋よりも強いため、身体はのけぞったのだった。
JFK2.jpeg昨年の11月22日、JFKが暗殺からちょうど50年目にあたる日にNHKBSで放送された「コールドケース"JFK"真相に迫る」というドキュメンタリーも最新科学を用いて「一つの銃弾説」の実証を行っていたが、ウォーレン委員会の調査スタッフも当時陸軍に要請して、山羊を使用したり、解剖用死体の手首を使用したりして検証させていたのだ。
だが、調査スタッフのそんな熱意さにもかかわらず、司法解剖写真や遺体のエックス線写真といった重要な証拠の提供は得られなかった。
ウォーレンがケネディ家を特別視し、彼らに配慮しすぎたのだ。同様の多くの調査でこのようなことがあった。
とりわけ問題だったのは、オズワルドの愛人だと言われていたシルビア・ドゥランという女性の宣誓証言をとらなかったことだったという。彼女は、在メキシコシティのキューバ大使館に勤め、CIAが監視下においていた人物だったのに。

ウォーレン委員会が真相にたどり着けなかった責任は、CIAやFBIが重要な情報を隠蔽したことと同時に、委員長のウォーレンに、そして亡き大統領の弟であるロバート・ケネディにあったと著者は指摘している。

私はキューバによる陰謀は存在したかもしれないとも思うが、それよりもケネディが暗殺された後にCIAが、フーヴァーのFBIが行ったことが、そのためにウォーレン委員会が謎を謎のままに放置してしまったことこそが陰謀というにふさわしいと思った。

本書の原題は『A CRUEL AND SHOCKING ACT 冷酷で衝撃的な行為』だ。これはウォーレン委員会の最終報告書の前書きの「1963年11月23日のジョン・フィッツジェラルド・ケネディの暗殺は、ひとりの人間、ひとつの家族、ひとつの国家、そして全人類に直接向けられた冷酷で衝撃的な暴力行為だった」という一文から採られているという。
この一文は、本書にとって二重の意味を感じさせる。それはプロローグにいきなり登場する自殺を遂げたある外交官にもそのまま重なるからである。



ケネディ暗殺 ウォーレン委員会50年目の証言 上
ケネディ暗殺 ウォーレン委員会50年目の証言 下

フィリップ シノン (著), 村上 和久 (翻訳)
文藝春秋 (2013/11/11)





特に上巻は直訳っぽくて読みにくいのですが、読みにくいから読まないというのはもったいないなと思います。なんとこれ、米国とほぼ同時に刊行されているんですよね。
関連記事

category: ノンフィクション・新書

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: JFK  暗殺  陰謀 
2014/02/20 Thu. 22:04 [edit]   TB: 0 | CM: 0

go page top

古書店主 / マーク・プレイヤー 

パリが舞台のスタイリッシュなミステリ。
つい最近パリから戻ったばかりの友人と会ったばかりで、パリの土産話の余韻が残っていたので余計に楽しめた。いいなぁパリ、全仏行こうかなぁ…

paris2.jpg

「イギリス人はリヴィエラの太陽と砂を好み、アメリカ人はプロヴァンスの洗練された魅力に夢中になり、日本人はパリからでない」というが、当たらずとも遠からず…。
そうそう、パリといえば金メダル有力候補のフィギュアの羽生君のSP「パリの散歩道」だが、どうなることだろう。



さて、本書の主人公ヒューゴー・マーストンは元FBのプロファイラーで、今はパリのアメリカ大使館で外交保安部長の職に就いている。テキサス出身でカウボーイブーツがトレードマーク、元妻からは往年のケーリー・グラントに似ていると言われたこともある。その元妻にまだ彼は未練があるのだが。
そんなヒューゴーは、休暇の初日だというのにやることもなく、セーヌの河岸をぶらついていた。
セーヌ河沿いには観光客相手の露天の古書商、ブキニストが軒を連ねている。そこで、ヒューゴーは顔なじみの老ブキニストのマックスから、クリスティーとランボーの初版本を購入する。元妻好みのプレゼントで、関係の好転しての買い物だった。
だが、その直後に店にやってきた強面の男に、ブキニストのマックスは船で連れ去られてしまう。ヒューゴーはすぐに警察に連絡するが、担当の刑事は捜査に乗り気ではなかった。その上、マックスは自ら進んで船に乗ったという証人も現れ、拉致事件は「捏造もしくは勘違い」として処理されてしまうのだった
Bouquinistes1.jpgヒューゴーは自らマックスの行方を探そうとするのだが、マックスについての情報は殆どないに等しかった。名字さえ知らないのだ。
CIAに身をおく旧友トムの力を借り、調べたマックスの過去はヒューゴーの想像をこえるものだった。彼はかつてナチ・ハンターだったのだ。それとともに、マックスから最後に買った古書のうちの一冊が、コレクター垂涎の稀少な本だということが判明する。
ヒューゴーが試しにオークションに出したところ、信じられない額の値がついたのだった。もしかして、マックスはこの本のために拉致されたのだろうか…
ヒューゴーは手がかりをもとめてマックスのブキニスト仲間の女や、古書店組合の会長の元を訪れる。そんななか、その女ブキニストがセーヌ河に水死体で発見されて…




Mark Pryorタイトルからして『THe Bookseller』だし、作中にはクリスティーの『雲をつかむ死』やコナン・ドイルの『緋色の研究』、ランボーの『地獄の季節』などの稀覯本が登場する。
著者が本好き、ミステリ好きであるのは一目瞭然だ。ヒューゴー自身も時々シャーロックよろしく推理を披露してもいる。

ただ、ストーリーや設定に少し難がなくもない。ヒューゴーという主人公が少々完璧過ぎるのだ。ケーリー・グラント似のイケメンで、引き締まった身体に185cmの長身といった容姿のみならず、人当たりがよく正義感が強いというのはどんだけなのよ w

このヒューゴーを主人公にした物語はシリーズものらしい。あとがきによれば米国では第二弾は既に刊行されており、第三弾もまもなくその予定だという。


古書店主 (ハヤカワ文庫NV)
マーク・プライヤー (著),
澁谷 正子 (翻訳)
早川書房 (2013/12/19)


詳細をみる



関連記事

category: スパイ・冒険・ハードボイルド

thread: 推理小説・ミステリー - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ 
2014/02/13 Thu. 21:00 [edit]   TB: 0 | CM: 0

go page top

『Xの悲劇』読書会〜レーンは殺人を黙認した?! 

snowman.jpg土曜は記録に残るような大雪で、横浜もこんな感じ。

公式には横浜の積雪は24cmだったけど、実際はもっと凄かったような。
「スキー場じゃないんだから」ってくらい降って積もり、我が家の近所にも雪だるまさんが出現した。


『Xの悲劇』読書会は、金曜の夜だったのが、その時はまさかこんなに降るなん。
金曜開催でよかった(笑)

さて、今回のスピンオフ読書会は"タマさん"プレゼンツの『Xの悲劇』読書会なのだ。
ご存知のように本書はレーン4部作の最初の作品である。この4部作全てで読書会をする読書会もあるそうだ横浜は1作品づつやる予定(予定は未定…)
そのため、今後3年間にわたって、残りのレーン4部作を年1作品づつやっていくという壮大な計画もある。
名付けて「レーン4部作4カ年計画」なのだ!


参加者はゲストの越前敏弥氏を含めて13名。場所は横浜駅近くの某カラオケ屋の個室である。
「カラオケ屋で読書会ぃ〜〜〜〜?!」って思われるだろうが、ところがどっこい、完全防音の個室なのでどっかの合コンの騒音も気にならないし、飲み放題付きの宴会プランは居酒屋に負けてないし、金曜日でも3時間確保できるしで、これがなかなかなのだ。

今回、初読の方は3名で、残りは再読組。
13人中、男性は越前氏と横浜読書会の世話人のおてもとさんのみ。
クイーンのような本格の「パズルもの」のファン層は多分理数系に強い男性が多いというが、この女子率の高さ!

   20140210 Queen 1
   20140210Queen2

初読の人がこれまで読まなかった理由は「とっつきにくかった」「いつか読めばいいかと思ってたら今に至ってしまった」とか、「以前読みかけたのだが訳が堅くて読みにくく途中で挫折してしまった」などなど。
ただ、読んでみると「すごく面白かった」そうだ。
今回は角川の越前氏の新訳バージョンに限定したのだが、読みやすいと好評だった。

ところでタマさんは、今回のためにカートで全バージョンの『Xの悲劇』を持ってきてくれた。越前氏によれば、なんとどれも1ページに一カ所は誤訳があるのだそうである。
古くには、レーンが自分のことを「私」ではなく、「あちき」と言ってるものもあるそうで、元シェイクスピア俳優を歌舞伎役者として解釈したものらしい(笑)

他方、再読組の人に共通していたのは、「ニコチンの針球は印象に残っていたけど、犯人が誰だったのかとかすっかり忘れてしまっていた。」ということだった。
この感想は、実はクイーンという作家の特徴をそのまま言い当てているのではないだろうかと思う。




エラリー・クイーン・ファン倶楽部会長の飯城勇三氏も指摘しているが、「クイーンにとって犯人はそれほど重要じゃない」のだ。
結果よりもむしろ推理の過程のほうに重きが置かれている。
だからフーダニットにはつきものの、長々とした「犯人の告白」もない。多くの「本格もの」が「犯人の物語」であるのに対し、「探偵の物語」だと言っていいだろう。

そのためか「クリスティのようなドラマ性がない」という声もあった。
だが、一概にドラマがないかといえば、実はそうとも言い切れないような…

最後の最後、タマさんが、「P282でレーンは、車掌が後部に進んでいくのをただ黙認してるけれども、これはドウィット氏殺しを犯人に敢えて遂行させていると言っていいのではないか」と指摘した。

人殺しをしようという人を敢えて見逃すのだから、レーンてもしかして悪い奴じゃね?というわけである。

となると、様相は異なってくる。
ドウィットは、"犯人ではありえない”コリンズと一緒にいるとレーンは思っていたので、私は一概にそうとも言い切れないと思うが、そもそも「ロングストリート氏殺しの犯人がわかった時点で、その犯人を警察に拘束させておけば、第二第三の殺人が起きることもなかった」のだ!

実はこの「レーン悪人説」には、ちゃんとした根拠もある。
いみじくも、初登場のシーンで、「作者の糸のままに操られてきましたが、自分が糸を操る側になりたいと思ったのです。」と言っているように、レーンは単に事件を解決するだけではなく、糸を引くことによって事件を変えてしまう探偵として設定されたキャラクターなのだ。

そもそもがクイーンがこのドルリー・レーンというキャラクターを生み出し、バーナビー・ロス名義でレーン4部作を書くに至ったのは、『レーン最後の事件』のトリックを思いついたことに起因しているのだという。
しかし、このトリックは既に使い古されているものだったので、それならば、シャーロック・ホームズ並の名探偵にその役をやらせてみてはどうかと彼らは考えた。だが、クイーン名義で書いている探偵エラリー・クイーンにそれをやらせるのはあまりに惜しい。そこで生み出されたのが元シェイクスピア俳優の名探偵ドルリー・レーンだったのだ。
つまり当初の意図としては、最終的に書きたかったのは『レーン最後の事件』であり、『Xの悲劇』などはレーンに難事件を解決した「名探偵」であるという”実績”を与えるための役割だったというわけだ。


最後に、前エントリで私が気にしていた「ニコチン針で実際に殺人は可能か?!」という疑問だが、これは結論からいって不可能らしい。
ちなみに越前さんも高校生の頃に調べてみたことがあるのだそうだ。

関連記事

category: 読書会

thread: 推理小説・ミステリー - janre: 本・雑誌

tag: 読書会  海外ミステリ  本格   
2014/02/10 Mon. 18:40 [edit]   TB: 0 | CM: 0

go page top

Xの悲劇 /エラリー・クイーン 

『Xの悲劇』ならぬ「N(ナダル)の悲劇」の後、

気がつけば既に2月……
気がつけば読書会は明日…(汗)




今回の横浜読書会スピンオフの課題本は、角川版の『Xの悲劇 』 越前 敏弥氏による新訳バージョンなのである。
それもそのはず、今回はゲストに翻訳家の越前氏をお招きする予定なのだ。
会自体もいつものテキトーにおしゃべりするというものでなく、メンバーのTさんにキュレーター役をお願いするという趣向なのだ。
昔、読んだことがあるとはいえ、ちゃんと角川版を読んでおかなくてはマズい…!!!

ということで、あわてて読んだのだった。




さて、本シリーズの主人公レーンは、引退した元俳優であり、同時に名探偵でもある。
物語は、ニューヨーク市警のサム警視と(角川では警部)、ブルーノ検事がレーンの自宅ハムレット荘を訪れるところから始まる。彼らは、レーンがさる未解決殺人事件の謎を解明した推理力を頼り、目下、捜査が行き詰まっているロングストリート殺人事件解決に力を借りにやってきたのだった。

被害者は、株式仲買人のロングストリート氏。彼は満員電車の中で毒殺されたのだった。
その日、彼はホテルの部屋で女優との婚約を祝うカクテルパーティを開き、そこに集った仲間たちとともに晩餐のため郊外の自宅に向かう途中だった。集まっていたのは、ビジネスパートナーであるドウィット氏とその妻、その娘と彼女の恋人、ドウィット氏の隣人で友人のアハーン、ドウィット氏、客のスイス人、税務官のコリンズだった。
雨でタクシーがつかまらず、一同はやむを得ず市電に乗車乗り込むことになった。そこでこの事件は起こったのだ。ロングストリートは、夕刊を読むためポケットから眼鏡をだそうとした矢先、突然よろけて通路に倒れてしまったのだった。彼の手は無数の刺し傷があり、出血していたという。

現場に駆けつけたサム警視は、コルク球に50以上もの針が刺さった手製の針球を発見する。針先には濃縮されたニコチン毒が塗られており、これが凶器に違いなかった。
殺害されたロングストリート氏は評判の悪い傲慢な人物で、ドウィット氏を筆頭に居合わせた皆に動機と機会があった。
サム警視の話を聞いたレーンは、「犯人はわかった」というのだが、その後第二の殺人が起こって…



elleryqueen.jpg
ご存知の通りエラリー・クイーンはF.ダネイとM.B.リーの二人からなる作家である。
『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』『レーン最後の事件』は、ドロリー・レーンという引退した全聾の元シェイクスピア俳優を探偵役にしたシリーズもので、"レーン4部作”と呼ばれているが、これらは当初エラリー・クイーン名義ではなく、バーナビー・ロスという名で書かれている。このいきさつは巻頭の「読者への公開状」に詳しい。

確か東西ミステリー ベスト100 の海外篇の第1位は『Yの悲劇』だったと思うが、私はXのほうが断然いいと思う。
緻密で論理的だし、本格ものにはよくありがちな小さな推理の齟齬もない。本当に驚くほど瑣細なことまできっちりと考えられている。ダネイとリー二人のうちどちらかが細かい性格だったんだろうなぁ!

クリスティ的なフーダニットでもなく、カーのような不完全犯罪でもない。派手さはないのだが、「本格」の中の「本格」といっていいのはクイーンだろう。
そもそも犯人を「X」と記号で呼ぶところがいいじゃないか。そして推理の課程もまるで数学のように数式を列ね、解たる「X」に近づいていく。
クリスティのフーダニットは比較的わかりやすい。カーの密室モノはマニアならば解けるかもしれない。
しかし、クイーンのものは、シャーロック並に神かがった天才でない解けないとも思うのだ。かといって、手がかりに抜かりがあったり、フェアでなかったりすることもない。ダネイはかつて「解けるはずだ」といい、それに対してリーは「読者が天才ならばね」と言ったというが、まさにその通り。

エラリー・クイーン・ファン倶楽部会長の飯野氏は、クイーンが読者に挑戦しているのは、「犯人を当てよ」でも「密室トリックを当てよ」でもなく「手がかりを当てよ」だと言っている。一段レベルが高いのだ。読者は、もっと前段階の謎に挑まなくてはならない。
読者は最後まで振り回されるのだが、謎が解けなくても、探偵役とともに道程を振り返ることで楽めるのだ。数学に例えれば、解そのものよりそれを導く数式に重きが置かれていると言える。
それがクイーンの最大の特徴で面白さだと思う。


クイーンの作品は、初読よりも再読のほうが面白く読めるし、二度目より三度目のほうがより楽しめる。また、私の蔵書は故大久保康夫氏訳の昭和50年発行の新潮版(高校図書用 どんだけ古いんじゃ?)なので、読み比べするのも面白かった。

当然だが、訳自体もより現代的で読みやすくなっているが、顕著な違いは角川の新訳版では「読者への公開状」が加えられていることだ。(新潮の現在のヴァージョンにはあるが、私の蔵書にはこれはない。)

また、今回読み比べるとことで、新潮版の旧訳には驚かされてしまった!!!
殺害されたロングストリート氏の秘書が、サム警視(角川版では警部)に「ただの秘書じゃないんでしょう?」と関係を問いただされたシーンで「二年ばかりあれするにはしてましたけど」新潮版P71だし、取引所の黒人のボーイは「制服のニグロ」新潮版P185なのだ w
これは今日の翻訳家は使えない表現かも…

殆ど完璧な理論武装をしているといっていい本書だが、ひとつ疑問なのは、ニコチンの殺傷能力についてである。
針先につけたニコチンという凶器は、金田一少年の事件簿でも使われているらしい。だが、こんな手頃な毒物がなぜそれほど凶器としてメジャーではないのかなと思っていた。
そんなとき、今回こんなサイトを見つけたのだ→刺激的なWikiニコチンを塗った針では死なない
ええっ?!
死なないの?

関連記事

category: 古典・本格

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  読書会 
2014/02/06 Thu. 17:05 [edit]   TB: 0 | CM: 0

go page top