Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

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さよなら、ブラックハウス / ピーター・メイ 

11月最後の三連休、皆様いかがお過ごしだっただろうか。
私はディーラーと家具屋めぐりをしていた。車とベッド、どちらもそろそろ買い替え時なのだ。。。
7〜9月のGDP発表は芳しくなかったが、みなとみらいは買い物客でメチャ混み。企業のボーナスも増加傾向にあると聞く。
暖かかった連休とはうってかわり今日は冬の雨。師走も近づいてきた。

the blackhouse Lewisさて、連休中読んでいたのはピーター・メイ『さよなら、ブラックハウス 』と、『脳科学は人格を変えられるか?』という本である。
本書『さよなら、ブラックハウス』は、英国スコットランドの過疎の島、ルイス島を舞台にした小説なのだが、当初イギリスでは版元がみつからず、フランスで出版したのだそうだ。しかしフランスでは刊行されるやいなや高評価を得、イギリスでも刊行、一躍ベストセラー入りしたのだという。ル・アーヴル“黒い錨”ミステリ・フェスティヴァル賞、CEセザム文学賞、LP賞、バリー賞を受賞している。

northern gannet 主人公はエディンバラ市警の警部フィン。数週間前に事故で息子を亡くしたばかりで、そのショックから休職中で、夫婦仲もしっくりいっていない。そんなフィンに上司からルイス島での殺人事件の捜査の命がくだる。
ルイス島は、スコットランド北西岸に位置する小規模な農業や羊の放牧が主である島だ。ハリス・ツイードで有名なハリス島とは地続きになっており、南部がハリス島,北部がルイス島と呼ばれている。
ルイス島はフィンの故郷だった。そして被害者は昔なじみの男、アンガス・マクリッチ。粗暴な大男で地元の嫌われ者だった。このマクリッチ殺害の手口が、フィンが担当していたエディンバラで起きた殺人事件のそれと酷似していた。HOMES重大事件照会システムにそれが引っかかったのだ。船小屋で発見されたマクリッチの死体は、梁から首を吊られていて、その腹は端から端まで切り裂かれて内蔵を引きずり出されていた。そこで、フィンに白羽の矢が立ったのだった。
「時間は充分与えた。戻ってくるか、辞めるかだ」という上司の言葉に、フィンは気が進まないままにルイス島へ向かう。妻から逃げ出したいという気持もあった。戻ってきても彼女はもういないかもしれなかった。
島へ帰郷するのは、18年ぶりのことだった。フィンはルイス島の出身だが、本土のグラスゴー大学に進学したのだ。結局、途中でやめてしまったのだが…。
Lewis Iland島でのフィンの相棒となるのは、地元のジョージ・ガン刑事だ。
被害者のマクリッチは多くの人間から恨みをかっていた粗暴者だ。ごく最近も、”グーガ狩り”をめぐり、動物愛護運動家に暴力事件を起こしたり、レイプのかどで訴えられたりしていた。
”グーガ”とはゲール語でシロカツオドリの幼鳥を指す。フィンの地元クロウボストの男たちは毎年8月になるとルイス島の北部の岩場に行き、二週間かけてこの鳥を狩るのだ。そこは世界で最も重要なシロカツオドリの営巣地で、岩場は8月は巣作りをする鳥とその雛に覆い尽くされる。激しい雨風邪が吹き付ける300フィートの崖での狩りは文字通り命がけだ。かつては村民を養うために行われていた狩りだが、今は法律で年間2,000羽と狩猟量が決められている。だが、汁気の多いクーガの肉は、村では大変な需要があった。
フィンもかつてグラスゴー大学に進学する直前、"クーガ狩り”に参加したことがあった。そしてその時起こった出来事は、フィンにとってつらい記憶となっていた。
捜査を続けていくうちに、フィンは懐かしい幼馴染みたちと再開する。家が隣同士で一番の親友だったアーシューター、初恋の相手で苦い別れ方をしたマーシャリー、いじめられっ子で、少年時代の事故のために今は車椅子のカルム、牧師の息子で少年たちのリーダー格だったドナルド…。
物語は、少年時代と現在を交錯しながら進んでいく。
そして、フィンが記憶の隅に追いやり封印していた過去の出来事が明らかになったとき、事件の真相が明るみに出るのだが…。

peter may意表をつかれた!
これをこういう結末に持っていくとはね。
「苦く切ない青春ミステリ」などと簡単に評してはいけないだろう。ベストセラーになるのも納得、おそらくあなたの想像以上に深く余韻を残すことと思う。誰にでも幼馴染みはいるものだし、事の重大性の差こそあれ、誰しも自分を守るために記憶の隅に追いやってしまっている秘密の一つくらいはあるはずなのだから。
殊に、アーシャリー、フィン、アーシューターの関係には胸に泥を詰められたような気分になった。どうしようもなくやるせなく息苦しくさせる。近しい関係であればあるほど、また憎悪も膨らみやすいというのは残酷な皮肉だ。
救いとなっているのは、訳者もあとがきで指摘している"ルイス島の自然描写の美しさ"である。シロカツオドリの鳴き声が聞こえ、海の深い青さが目に浮かんでくるようだ。いっとき精錬な気分にさせてくれるが、その実、同時に美しさが物語の悲劇性を引き立ててもいるとも言える。

さらに驚いたことに、なんと本書には続編があるという。
これはこれで終わったほうが良い類いの物語のような気がするのだが、現在シリーズ三作まで刊行されていて、なんとイギリスではシリーズ累計100万部なのだとか。


さよなら、ブラックハウス (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ピーター メイ (著), 青木 創 (翻訳)
早川書房 (2014/9/10)



Kindle版はこちら→さよなら、ブラックハウス




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category: ミステリ/エンタメ(海外)

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 早川書房  英国 
2014/11/25 Tue. 17:22 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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本年度 私のこのミス10! 

ミステリーランキングの季節。
そろそろヨコミスも提出しなくては…というので
じゃ〜〜ん!今年のベスト10を選んでみた。
あ、ヨコミスは誰でも参加できるお遊び企画ですので、よろしければ是非是非。
こちらのサイトからどうぞ。

1位  ハリー・クバート事件(上下)
ジョエル・ディケール (著), 橘 明美 (翻訳)
東京創元社 (2014/7/30)

「登場人物たちにもう会えないかと思うと少し寂しさを感じ、もっと読んでいたかったと思うような本」
これは作中、主人公のマーカスの師であるハリーの言葉なのであるが、本書はまさにそういう本だと思う。
あとね、関係ないけど、ジョエル・ディケールって超イケメンなんですよ。




2位 ゴーストマン 時限紙幣
ロジャー ホッブズ (著), 田口 俊樹 (翻訳)
文藝春秋 (2014/8/8)

渇望していたタイミングで登場したダークヒーローもの。好き嫌いははっきりしているだろうが、私は大好き。
銀行強盗の蘊蓄といい、描かないことによって後を引かせるテクニックといい、本当に24歳で書いたの?と思ってしまう。
クアラルンプールの件には果たしてもう一段底があるのか?レベッカはアンジェラだったのか?今からもう次作が楽しみ!



3位 その女アレックス
ピエール ルメートル (著), 橘 明美 (翻訳)
文藝春秋 (2014/9/2)

読むに連れてアレックスに対して抱くイメージと感情がガラリと変わる。我々はいかに先入観に支配されていることか…。
人物造形もまたいい。低身長のカミーユ警部、その部下で金持ちで洒落ものルイとケチを地でいくアルマン。悲惨極まりない物語だが、彼らのキャラがほのぼのとした温かみを添えている。
ボリュームのあるものが多い中、文庫本一冊というコンパクトさもいいと思う。


4位 NOS4A2-ノスフェラトゥ-
ジョー ヒル (著), 白石 朗 (翻訳)
小学館 (2014/5/8)

人間はいつだって"幻想を現実のものに造り変えることができる"ということを信じさせてくれる本。後半に向かって盛り上がっていく様は、さすがは親子、キングを彷彿とさせる。
ダークファンタジーで片付けてしまうこはできないほどの読み応えもGood。





5位 ピルグリム
テリー・ヘイズ (著),
山中 朝晶 (翻訳)

今まさにここにある危機と言った感じ。著者は映画業界の人ということもあり、いい意味でも悪い意味でもハリウッド的。
全三冊とボリュームがあるように思えるけど、読みやすいのでサクサク読めますよ。



6位 後妻業
黒川博行(著)
文藝春秋 (2014/8/29)

直木賞受賞後の第一作。木嶋香苗の事件を下敷きに描いたということなのだが、本書の内容は、なんと今散々テレビで報じられている夫7人が全て死亡しているという関西の女の事件そのもの…!





7位 ラバーネッカー
ベリンダ バウアー (著), 満園 真木 (翻訳)
小学館 (2014/6/6)

アスペルガー症候群の少年パトリックが主人公のスリラー。"普通ではない"パトリックに読者を共鳴させる筆力はとにかくすごい。
個人的にはゴールドダガーを撮ったデビュー作の『ブラックランズ』よりこちらのほうが読み応えがあると思う。




8位 第三の銃弾 スティーヴン・ハンター (著), 公手 成幸 (翻訳)
扶桑社 (2013/11/30)

『極大射程』と対をなす作品。
JFK暗殺をあつかったものでもあるが、銃器の専門家ハンターならではの視点も面白かった。




9位 タックスヘイヴン TAX HAVEN橘玲(著)
幻冬舎 (2014/4/10)

『 マネーロンダリング』『永遠の旅行者』に続く金融ミステリの第三弾。
ドラマ「CSI」に鑑識の手続き的面白さがあるのと同様、本書には国際金融、殊にマネーロンダリングのからくりを知るという面白さがあるが、ミステリとしての醍醐味も。傑作エンタメ。



10位 ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密
トマス・H. クック (著), 駒月 雅子 (翻訳)
早川書房 (2014/2/7)

ジュリアンの著作のタイトルの章立てという凝った造り。終賞の仕掛けには驚くこと間違いなし。
それでいてこの文学性。ジュリアンの秘密を探る旅は、さながら人間の闇の深淵にまで潜っていくかのよう。





上記のマイベスト10はそのなかで2013/11〜2014/10/31までに刊行された本のなかから選んだ。
う〜〜 フィリップ・カーの『静かなる炎』 もナチものの沈黙を破る者もよかったんだけどなぁ…。

ちなみに、今年読んだミステリは国内海外含めておおよそで60冊くらい。(再読は含まず)
概してエンタメが多めだったかな。
☆は面白かったという本で、×は残念ながら好みではなかったという本。

☆ 『暗殺者の復讐』 マーク・グリーニー
『ザ・バット 神話の殺人』 ジョー・ネスボ
『カルニヴィア2 誘拐』 ジョナサン・ホルト
『裁きの鐘は』(上下) ジェフリー・アーチャー
×××    『ドールマン』(上下) テイラー・スティーブンス
『ウール』 (上下)ヒュー・ハウイー
☆☆☆☆☆ 『その女アレックス』 ピエール・ルメートル
『妻の沈黙』 ASA ハリソン
☆☆☆☆ 『ピルグリム』 (三部作)テリー・ヘイズ
☆☆☆  『後妻業』 黒川博行
☆ 『暗礁』 (上下)黒川博行
☆☆   『神の子』(上下)薬丸岳
☆ 『生誕祭』(上下) 馳星周
☆ 『復活祭』 馳星周
☆ 『闇に浮かぶ絵』(上下) ロバート・ゴダード
×××    『闇に香る嘘』 下村敦史
『コンプリケーション』 アイザック・アダムスン
☆ 『ブラック・フライデー』 マイケル・シアーズ
☆ 『秘密資産』 マイケル・シアーズ
『密室の王』 カーラ・ノートン
☆☆☆☆☆ 『ハリー・クバート事件』(上下) ジョエル・ディケール
☆ 『アンダルシアの友』 アレクサンデル・セーデルベリ
☆☆☆☆☆ 『ゴーストマン 時限紙幣』 ロジャー・ホッブス
× 『約束の道』 ワイリー・キャッシュ
☆☆  『沈黙を破る者』 メヒティルト・ボルマン
☆ 『特捜部Q 知りすぎたマルコ』 ユッシ・エーズラ・オールスン
☆ 『破門』 黒川博行
☆ 『ネルーダ事件』 ロベルト・アンプレロ
   『招かざる客たちのビュッフェ』 クリスチアナ・ブラント
『血の裁き』(上下) ロバート・ゴダード
『逆さの骨』  ジム・ケリー
☆☆☆ 『NOS4A2 ノスフェラトゥ』(上下) ジョー・ヒル
『駄作』 ジェシー・ケラーマン
☆☆ 『血の咆哮』 ウイリアム・K・クルーガー
『希望の記憶』 ウイリアム・K・クルーガー
『闇の記憶』 ウイリアム・K・クルーガー
☆☆ 『ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密』 トマス・H・クック
☆☆☆  『タックス・ヘイヴン』 橘玲
☆ 『監視対象 警部補マルコム・フォックス』 イアン・ランキン
☆☆ 『ラバーネッカー』 ベリンダ・バウアー
『地球最後の刑事』 ベン・H・ウィンタース
☆ 『ウィンブルドン』 ラッセル・ブラッドン
☆☆ 『パインズ』 ブレイク・クランチ
『失踪者たちの画家』 ポール・ラファージ
『黒のクイーン』 アンドレアス・グルーバー
×× 『インスブルック葬送曲』 レーナ・アヴィンツィーニ
×××× 『ナイン・ドラゴンズ』(上下) マイクル・コナリー
『狼の王子』 クリスチャン・モルク
☆☆ 『静かなる炎』 フィリップ・カー
☆ 『誰よりも狙われた男』 ジョン・ル・カレ
    『カンパニー・マン』(上下) ロバート・ジャクソン・ベネット
『チョコチップ・クッキーは見ていた』 ジョアン・フルーク
☆☆☆☆☆『11/22/63 』スティーヴン・キング
☆☆☆ 『第三の銃弾』(上下) スティーヴン・ハンター
『古書店主』 マーク・プレイヤー
☆ 『ハンティング』 ベリンダ・バウアー

(2013/11/1〜2014/1/1)
☆☆☆ カルニヴィア1 禁忌 ジョナサン・ホルト
☆☆  燃える男 AJ・クィネル
☆☆☆ シスターズ・ブラザーズ パトリック・デウィット
☆☆ インフェルノ ダン・ブラウン
死もまた我等なり(上下) ジェフリー・アーチャー
暗殺者の鎮魂 マーク・グリーニー
跡形なく沈む D・M・ディヴァイン
☆☆☆☆☆ 三秒間の死角(上下) アンディッシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム
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category: ミステリ/エンタメ(海外)

thread: 本に関すること - janre: 本・雑誌

2014/11/20 Thu. 17:15 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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窓際のスパイ / ミック・ヘロン 

族・旅のお伴本。
本書はひと味ちがうスパイ小説だが、私はこういうの大好きである。


原題は『Slow Horses (Slough House)』窓際のスパイという邦題より、断然こっちの方がよくない?(笑)
その部署は、通称<泥沼の家(スラウ・ハウス)>といわれている。文字通り、保安部における泥沼だ。

ところで、英国のスパイといえば007こと、ジェームズ・ボンドであるが、彼の所属はMI6である。我々もよく知る外務省の管轄下にある秘密情報部だ。007シリーズの映画で観るとおり海外での情報活動に従事している。一方、国内で活動を担当するのがMI5、本書の舞台となる保安部である。
我らが主人公、リヴァー・カートライトは昇級試験で大失敗をやらかしてしまう。そしてこの"泥沼の家"に左遷されてくるところから物語は始まる。本来ならクビになってもおかしくはなかったが、祖父が伝説のスパイだったことから"泥沼の家"送りで済んだというわけだった。まさに首の皮一枚…。
スラウ・ハウスはスロー・ハウスに音が通じることもあり、ここに所属する者は"遅い馬”と呼ばれている。揶揄の対象だ。いうなれば、ショムニといったところだろうか。
但し、ショムニは蛍光灯の交換など雑用といえども会社に役立つ仕事があるが、遅い馬たちに与えられるのは何の訳に立つのかわからないような単純なデスクワークのみ。自国育ちテロが増加する昨今、MI5の担う役割は大きくなっているなかにあって、”泥沼の家”は上層部から何の期待もされていないのだ。
"泥沼の家”のメンバーはリヴァーを入れて総勢10名。皆過去に大きな失敗をやらかしたワケありばかり。リヴァーを始め、皆それぞれに挫折感を胸に抱きつつも密かに起死回生を願っている。
そんな"泥沼の家”を束ねるのは、ジャクソン・ラム。太鼓腹の太っちょで、煮染めたような服を着ていて、所構わず屁をする。
かつて伝説のスパイだったリヴァーの祖父は「ジャクソン・ラムの下で言われたことをやっていれば、いつか戻れる。失敗は帳消しになる。」というが、"遅い馬”には明日はないのは周知の事実だ。
そんな折り、英国全土を揺るがす大事件が起こる。
48時間以内に首を刎ねるという脅迫文とともに、フードをかぶせられた若者を撮影した動画がBBCに投稿されたのだ。その手に持たされている新聞が本物だとすれば、犯行現場は英国国内ということなる。地下鉄爆破事件の比ではない衝撃がイギリスを襲った…。
その動画を目にしたリヴァーたちは、何か役に立つことを実のあることをしたいと願うが、"遅い馬"たちに出番はない。
ところが、物語は思ってもいなかった方向へ動きはじめる…。
  a1MI5.jpg
充分シリアスでありながらもどことなくユーモアが漂う。お洒落というわけでは全くないが、センスがいい。
なにせ、冷戦時のスパイ小説は「敵対われわれ」という構図だったが、いまや「敵はわれわれの中にある」時代だ。
一言でいえば、落ちこぼれ集団が結束し奮起する物語であるが、プロットが緻密にかつ複雑に練られている。なので、「よくある物語」に終わっていない。また、人物造形の巧いこと。太鼓腹、太っちょ…ジャクソン・ラムを表現する言葉は散々だが、このラムがいい。リヴァーはラムをカバに喩える。ずんぐりむっくりの身体でいかにも愚鈍そうに見えるが、実はこの世で最も凶暴な動物はカバなのだという。このカバの活躍が見ていて楽しい。
リヴァーのお祖父さんとも密かに親密な関係がありそうな感じ。

Mick-Herron-600x424.jpgこういう美味しい設定を一回で終わらせてしまう手はない。もちろん、この後も第二弾の『Dead Lions』は英国では既に刊行されており、2013年のゴールドダガーに輝いているという。ハヤカワから来年刊行予定だというから楽しみである。
ベリンダ・バウアーのラバーネッカー』
もよかったので、な〜んでゴールド・ダガーを逃したのかと不思議に思っていたら、ミック・ヘロンの窓際の第二弾と競合しちゃってたのか。
ところで、私はゴールドダガーはそうハズレがないと思っていたのだが、今年の『約束の道』だけはどうにも趣味が合わなかった…。こういうのは何千回も何万回も観たことがある気するんだけども。安手の韓流ドラマかなんかで。
今年から審査員がまるっと入れ替わるとかしたのか、それとも今年のレベルがイマイチだったのか…。

昨年鮮烈な印象で日本デビューしたチャールズ・カミングといい、御歳83歳にして、今なお執筆を続けているジョン・ル・カレといい、英国スパイ小説はなんだか盛り上がってる。
願わくは、ル・カレの本も文庫で出してくださいまし…。


窓際のスパイ (ハヤカワ文庫NV)


ミック・ヘロン (著), 田村 義進 (翻訳)
早川書房 (2014/10/10)















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category: スパイ・冒険・ハードボイルド

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  早川書房  英国  スパイ 
2014/11/18 Tue. 17:05 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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冷たい晩餐 / ヘルマン・コッホ 

ちょっと用があって留守にしていた。
この間読んだのは『冷たい晩餐』『窓際のスパイ』 である。
   2014111601.jpg
『冷たい晩餐』は、読書会を通じて版元のイースト・プレスさんからいただいた本。イースト・プレスさん、ありがとうございます!
オランダ発、映画化が決定しているイヤミスだという。実はもう一冊頂いたのだが、横浜読書会の岡本氏からは、「是非、こちらから読んでください!」と言われていたのでこれを旅の友にした。

ところで、今回は母親と出かけたのだが、もう、これが、これが…(汗)
どうしてあんなにしゃべりっぱなしで平気なのか??私は本を読んでいても全くお構いなし。
「ねぇ、お願いだから、ちょっとだけ本読ませてよ」と何回頼んだことか。全く無駄だったけど(笑)
ただでさえこの本は支離滅裂だというのに、余計に混乱してしまうじゃないの…。

そう。本書『冷たい晩餐』は支離滅裂なのだ。
イヤミスというよりも個人的には不条理ものという感じだった。

語り手は主人公のパウルなのだが、このパウルがいわゆる"信頼できない語り手”というヤツなのである。
元教師の彼には自慢の妻クレアがおり、クレアとの間にはまもなく16歳になる息子ミシェルがいる。
そして物語は、このパウル夫妻が彼の兄セルジュとその妻バベットとアムステルダムの高級レストランに食事に出かけるところから始まる。
一見、何不自由ない幸福な二組のカップルの食事のようだが、最初から不穏な空気に包まれている。
セルジュはオランダでは有名な政治家で、次期首相候補と目されている。スノッブでおしゃれな予約のとりにくい人気レストランでも、セルジュなら前日の電話で席は確保できるのだ。それをパウルが快く思っている気配はない。それどころか、「そのレストランに行きたくなかった」とさえ言っており、それを「地獄の入り口」に喩えている。
それもそのはずで、4人は好ましいとは言えない状況を話し合うために集ったのだ。
もったいぶった支配人が、押し付けがましく食前酒をすすめ4人のディナーはスタートする。前菜を終え、ようやくメインに差し掛かるころ、ようやく懸念事項が明らかにされる。それはパウル夫妻の息子ミシェルと、セルジュ夫妻の息子リックの犯した罪についてのことだった…。

alinea_most_expensive_restaurant_chicago.jpgもったいぶった支配人、一皿の量の少なさ、スノッブな高級レストランの滑稽さへの嘲笑についニヤリとしてしまう。ただ、今の東京のレストランは、客の目も舌も肥えているし、店側もそれがわかっているのでこういうことはあまりないように思うが。
少年に見られる暴力性、我が子をかばう親の心理、的外れな正義etc,etc……本書には多くのテーマが詰め込まれているが、最も印象に残ったのは、病んだ語り手である。いや、これ、パウルやばいでしょ。。。

訳者も言っているように「本書は頭で理路整然と考えながら読む本ではない」。本書を一言でいいあらわすなら、この言葉に尽きる。そして、こういう本は読み手によって解釈も受け止め方も異なる。
現在進行形のディナーの様子と、過去の出来事の回想シーンが交互に語られていくのだが、現在と過去が全く相容れない。辻褄があわないのだ。どちらが真実なのだろうか?それとも全てがパウルの妄想なのか?
セルジュの鼻から顎にかけてのつるつるした傷跡は、本当にクレアが白ワイングラスでつけたものなのか?パウルが熱いフライパンで殴った時の傷ではないのか?
そもそも過去に何度も手術を受け重病だった(はず?)のクレアは、本当に回復して現在に至っているのか?


疑問は膨らんでいくが、絶対的な答えなどあり得ないということもまた分かっている。何が本当で何が妄想なのかの区別はない。そこにあるのはパウルの世界だけ。そこの価値観はすべてはパウル個人のもので、それが我々から見てどうであれ関係ない。
パウルは独善的で驕慢な本当に厭な奴なのだが、読んでいくうちにそのパウルの世界に取り込まれていく。
精神科医は患者の妄想を聞いているうちに、時にその妄想に影響・汚染されることがあるという。本書を読んでいるうちに、これはそういう感覚に近いのかもしれないなぁと思った。

果たしてこの不思議な感覚を映像化できるのだろうか。
この手のものは、特にわかりやすさを旨とするハリウッド映画には向かないのじゃないかなと思うのだが…



冷たい晩餐


ヘルマン・コッホ (著), 羽田詩津子 (翻訳)
イースト・プレス (2014/9/7)





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category: ノワール・ホラー・サスペンス

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  映画化  イヤミス   
2014/11/16 Sun. 21:24 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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ゴーストマン読書会@横浜スピンオフ 

20141107Ghostman.png
先月末熱海 de ポンでも読書会をやったばかりだが、今度は横浜読書会スピンオフ。
金曜開催だったので、仕事でこられない方も多く参加者は12名だったが、実はこれくらいの人数が一番盛り上がったりもする。
熱海の時はすっかり読書会のことを失念していたが、今回はちゃんと読書会に備え再読した。私個人としては改めて読むとやっぱりこれはスゴいじゃないの!と思ったが、横浜ではフィフティ・フィフティくらいで絶賛派と否定派に割れた。

   
今回で『ゴーストマン』読書会が三回目だという福さん、

もしもし?
熱海とは言ってることが180度違うんですけど…


担当編集者と翻訳者がいないから正直になったのか。はたまた、三回目ともなるといい加減飽きたのか(笑)



あと、気になったのは、ロジャー・ホッブスの顔写真を回覧したあたりから、女性陣の意見が辛辣になった感じもしたんだけど??

ええ、確かに我らがぽっちゃり君は、ほれ、ご覧の通り、ルックスでは、トム・ロブ・スミスにも、『ハリー・クバート事件』ジョエル・ディケールにも遠く及ばない。
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しかし、ジョエル・ディケールの
この卑怯なまでのイケメンぶりはどうよ…。



顔で勝負はできないが、ぽっちゃりにはぽっちゃりの魅力と良さがあるのである。
こういう彼が、こういう小説を生み出したというギャップがまた良いではないか。
といことで読書会レポ、スタート!


銀行強盗の蘊蓄などについて

◆蘊蓄がうざい。無駄な部分も多く鼻につく。

でも、その蘊蓄がまた面白いのでは?
また、それゆえの面白さというものも存在すると思うのだが…。いかがでしょう?

映画、ドラマの影響と映像化について

◆映像化を前提として書かれている
◆物語自体も後に残らないし、それなら最初から小説ではなく映画で良かったのでは?


まぁ、どうせ小説を書くならば、そりゃ誰だってついでに映画化権もせしめたいと思うにちがいない。それに読者も慣れているので、脳内で風景が浮かぶことが売れる小説の条件になっている。
でも、この小説の良さはゴーストマンの「語り」。これを映像で決められた時間内に表現するのは実際かなり難しいのではないか。

◆多くの犯罪小説と多 くの映画のそれぞれの良い部分の寄せ集めのような感じ

確かに、アトランティックシティでコンシャルジェが手配してくれたホイールマンは、『ドライヴ』の主人公を連想させる。また、タイヤ痕から、マツダのミアータでタイヤは純正などを当てるのも、少しCSI的な感じも。私自身はそれを楽しんたが、寄せ集め的印象は受けなかったけどな…。


後を引かせるテクニックについて

主人公の背景を殆ど描いていない。

背景をあまり描かず、「どういう人なんだろう?過去に何があって犯罪の世界に入ったのだろう?」と読者に思わせるのは巧いと思う。もしかして編集者のアドバイスがあったのかもしれない。
そういうところがあざとい。ちゃんと描きつつ、一冊で読者を満足させる小説もあるではないか。

◆レベッカ=アンジェラだったのでははないか?という疑いも単なる疑いのままで終わらせている。
◆「アジアン・エクスチェンジ」の真の真相は別にあったのではないか?マーカスとアンジェラは実はグル?


敢えて後をひかせる描き方は賛否両論あった。私は個人的にそれが本書の魅力だと思ったのだが…。
全てが明らかであることより、人は隠されるもののほうに興味をそそられるものだということを、著者はよくわかっていると思う。
続編がどう描かれているかにもよるが、後を引かせるテクニックは新人とは思えないほどだと思う。期待させるがゆえに、続編のハードルは上がってしまった。

逆に、深読みしなければ、そうは思えないという意見も。
また、この一作で誰にでもわかるようキチっと纏めてほしかったという声もあった。


主人公ゴーストマンについて
◆悪人が主人公というのが、個人的に好きではない。

好みの問題なので仕方ないが、限定してしまえば、必然的に楽しみの幅が減ってしまう。
世の中、正義の味方だけで成り立っているのではないし、悪人には悪人の事情やドラマがありそれもまた小説の面白さでもあると思う。ダークヒーローにはダークヒーローの魅力があるのでは?

◆主人公が空疎でからっぽ。何も描かれていないので理解ができず、ゆえに魅力を感じない。

逆にその描かれていない事情や背景に興味をそそられた。
重複になるが、描かないのはおそらく敢えてのこと。秘すれば花ではないが、隠されると余計に知りたくなるのが人間の性でもある。
特に本書のようなスタンスの小説は、敢えて描かないことがポイント。どれだけ情報を出し惜しみするかだ。
そういう意味で、語り手である「私」ことゴーストマンは、"信用できない語り手"であるとも言える。


流行小説であることについて

「今日流行ったものも明日には消える」 プロジェクト・ランウェイのハイジの決めセリフではないが、本書のような流行小説には旬がつきもの。
時代設定を過去に置く『チャイルド44 』とはその点が大きく違う。テクノロジーも日進月歩で進化しているので、顔認識システムなどが飛躍的向上している可能性も考えられる。監視カメラ、空港での光彩チェックの義務化などが進めば、ゴーストマンも商売が難しくなるはず…。

犯罪が成功している犯罪小説は比較的稀で、それが非常に新鮮だったという声も。
実際、コトが終わってみるとウルフを嵌め、お金をせしめ、(グレイマンのような完治に半年以上もかかるような)怪我もせず、華麗にヨットで海に乗り出している。
くたびれた中年の正義のヒーローばかりだったミステリ界に読者は辟易している頃合いで、絶妙なタイミングだった。長らく待たれたダークヒーローの登場とあいなった。

アトランティックシティという舞台について

アトランティックシティは、ラスヴェガスなどに比べると確かに野暮ったく、さしずめ熱海といった雰囲気だろうか。(熱海の方、スミマセン)でも、犯罪を行うにあたっては、ラスヴェガスより、警備上の面からも成し遂げやすいという事情もあるのかも。
また、ウルフが支配する街という設定だが、ウルフ自体が大物というわけでもないのでアトランティックシティくらいが相応しいとも言える。


タイムリミットものということについて
「24」みたいという声もあったが、反面でゴーストマンは終始淡々とし動じず、また焦ることもないので、その赴きはあまり感じられなかったという人も。
私も後者と同意見。ゴーストマンはジャック・バウアーと違い、しっかり睡眠もとっているし(笑)


華やかな演出について
プライベートジェット、アンジェラの美術館で盗んだという豪華なイヤリング、ヨットでの優雅な逃走など意識的にハイエンドなものをとりいれているので、華やかさが増し、エンタメ度も上がっている。
アトランティックシティのコンシェルジェの容姿も所作も非常にエレガント。アメリカ人で筆記体が書けるのはアッパーな香りがした。
どういうものが人を惹付けるのかよくわかっていてやっていると私は思ったが、これも鼻についてしまい、あざといと感じた人も…。


文体について
文体についても賛否両論。読みにくさを感じた人と、勢いがあり、読みやすかったという人とに割れた。

ただ、「文体はトム・ロブ・スミスより上」「大人の男のVoice」など、文藝春秋の永嶋氏のキャッチに載せられてる感も多少あったのかも。
また、私はこれはこれで良かったとも思ったが、個人的には田口さんはウェットな作品のイメージがあり、そちらのほうが得意なのかもと感じた。

   
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否定派の急先鋒タケダ嬢がいたので、私は可能なかぎり擁護派にまわってみた。
けど、この手のスタイリッシュ小説は、結局はそのスタイリッシュさが嵌るか否かで全てが決まってしまうのよね。

とにもかくにも、
ぽっちゃり、頑張れ!!

私は続編も楽しみにしているわ〜!
そのまた続編も!

ということで、
それでは皆さん、次は忘年会でお会いしましょう。

ゴーストマン 時限紙幣



ロジャー ホッブズ (著), 田口 俊樹 (翻訳)
文藝春秋 (2014/8/8)





ハリー・クバート事件 上
ハリー・クバート事件 下

ジョエル・ディケール (著), 橘 明美 (翻訳)
東京創元社 (2014/7/30)

Kindle 上下合本版





チャイルド44 上巻 (新潮文庫)
チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

トム・ロブ スミス (著), 田口 俊樹 (翻訳)
新潮社 (2008/8/28)




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tag: 読書会  映画化 
2014/11/08 Sat. 16:49 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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