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読書日記、ときどき食日記

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悪魔の羽根 / ミネット・ウォルターズ 

それにしてもギリシャはつい二日前まで、リスク回避っていうニュースだったのに一転デフォルトとか。何よ、それ…。
昨日は日経平均はMax612円も下げ、昨夜ダウもドーーーーーンと下げた。日経ちゃんは反発したが、中国もやばそうだし、まだヘッジは外せないなぁ。
とか言ってる間にプエルトリコよ、お前もか!!!

ウィンブルドンも始まったけど、ナダルはまだ駄目だろうし…。ゔ〜〜〜〜〜〜ぶるぶる
チャートを眺めていてもできることはないので、気分転換にこれを読んだ。(←現実逃避 = = 明日は美容院でもいこう)
人気女流作家ミネット・ウォルターズの『悪魔の羽根』である。日本では新刊だが、2005年の作品なんだとか。
深刻なPTSDを負った女性ジャーナリストが、ガッシャーンと切り返す物語なのだが、さすがはミネット・ウォルターズで、一筋縄ではいかないのだ。
この主人公みたいに、日経ちゃんもガッツリ切りかえそう!

挑戦的な試みがなされているサスペンススリラーで、好き嫌いは割れるだろうが、私はこれ好きかも。
こういうのを読むと、探偵小説を退屈に感じてしまうな。
そろそろ週末の読書会の課題本も読み直さなければならない。正直、面倒くさいが、すっかりさっぱりキレイにまるっと忘れしまってるからなぁ…。ただし、あれは定番ではないけれども。
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さて、主人公はロイター通信の記者コニー・バーンズである。
ジンバブエの農場育ちだが、幼い頃、ムカベの残党による農地略奪のため、家族で英国に亡命したきた。白人で背が高く、ブロンドにブルーアイの彼女は、今は30代半ばだ。彼女は人生の殆どをアフリカで過ごしてきたといって過言ではなかった。最初は子供として。次には報道機関に携わる人間として。
2002年、シレラレオネにいたとき、彼女は現地の女性5人がレイプされ殺害されたという記事を書いた。犯人は3人の元少年兵ということになったが、コニーは懐疑的に思っていた。
彼女が疑いを抱いたのは、ある英国人の傭兵だった。ジョン・ハーウッド。しかし、以前、キンシャサでも彼女は彼を見たことがあったのだ。その時はキース・マッケンジーという名だった。
その2年後、今度はバクダッドでコニーはマッケンジーと相見えることになる。彼はまた別の名を名乗っていたが、それだけではなかった。調べると、バグダッドの地でも、シレラレオネ同様のレイプ殺人が起きていたのだ。
身の危険を感じたコニーは、休暇をとり英国へ引き上げようとするのだが、その矢先に拉致監禁されてしまう。
3日後、コニーは一見無傷で開放された。
だが、彼女はその間のことを誰にも何も語ろうとせず、引きこもってしまうのだった。
彼女は明らかに何かを隠そうとしており、それが暴かれるのを恐れ、パニック発作を起こすようになってしまうのだった。
しかし、次第に、コニーの脳裏にはポール・ゴーギャンの言葉が浮かぶようになる。それは「生きるとは復讐の夢を見ることだ」というものだった。
深刻なPTSに苦しんでいたコニーだったが、借りている家の前の持ち主と懇意だったというジェスの助けで、イギリス西部の田舎での生活をスタートさせようとしていた。
だが、そんなとき、コニーの両親への無言電話が始まったのだった。
折しも、コニーが上司にかけあってマッケンジーの経歴詐称とレイプ事件の調査を始めたときの出来事だった。
マッケンジーの陰に怯えるコニーだったが…

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これね、特に後半が面白いのだ。さりげないが、毒気もたっぷり!
実際のところ、コニーがどう決着をつけたかについては、いかようにもとれる。

コニーが友人に送ったメールのなかに、ある教訓話があるのだがちょっとそれを紹介してみよう。ある意味、これがコニーの選択肢なのである。
あるお金持ちの男が、あなたに殺人光線銃を見せ、そのボタンを押したら大金をやるという。それを押せば、中国のある老人が死んでしまう。しかし、その老人は家族から疎まれ、はやく死んでもらいたいと思われており、しかも、誰もあなたが彼を殺したということを知るものはいない。
この場合、あなたには三つの選択肢がある。
一つは誰かが死ぬのはデタラメだと信じてボタンを押し、裕福になること。
二つ目は、ボタンを押してお金をもらい罪悪感に苛まれながら生きること。
残る三つ目は、ボタンを押すことを拒否して、貰えるはずのお金をふいにすることだ。

さて、あなたならどうする?その老人がもしも極悪人なら?
そして、コニーはどれを選んだと思うだろうか?
私も最初は迷ったが、コニーについては解説の松浦氏と同じ結論に至った…。

もっとも、コニーの場合はそう単純ではなく、彼女は拉致監禁の被害者で、拉致監禁の後遺症だけではなく自分自身とも闘わなくてはならなかった。丁寧な心理描写は読ませるし、私たちに考えさせる。
虐待の現場では、被害者はきまって自分を過小評価してしまい、虐待する側の知性と力を過大視してしまうのだという。自らが作り上げる記憶の改ざんに、また苦しむことになるのだ。レイプ被害者の女性たちはこういう風に苦しむのかと思い知る。
私も女性なので、ついついコニーに肩入れをして感情的に読んでしまったのだが、実はかなり毒の効いた物語でもあると思う。なにせ、最終章のタイトルは「深淵」なのだから。
コニーは当初、被害者として尋問された時には、何も語らないことに不審感をもたれたのに、二度目には平然としすぎていることで、刑事に疑いを持たれる。この二人は同一人物かと思うほどその態度は違うのだが、この対比もまた面白いと思った。

また、コニーの物語だけで終わらないのが、さすがはウォルターズで、何かとコニーの助けになってくれるジェスにも入り組んだ問題がある。この問題の根っこ自体はヘヴィなものだが、解明のプロセスには少しコージー的な風味もあったり。
あまり書くと楽しみを削いでしまうので、これは読んでのお楽しみ。

しかし、巻頭に、マデリーンという名を使わせてもらった友人への謝辞があるのだが、よくあのキャラに使うことをOKしたな(笑)

悪魔の羽根 (創元推理文庫)


ミネット・ウォルターズ (著), 成川 裕子 (翻訳)
東京創元社 (2015/5/29)



Kindle版はこちら→ 悪魔の羽根







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category: ミステリ/エンタメ(海外)

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tag: 海外ミステリ  英国   
2015/06/30 Tue. 17:47 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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ユー・アー・マイン / サマンサ・ヘイズ 

用事があり東京に出たついでに、シャングリラで友人とお茶をした。

エレベーターのシャンデリアがキラキラリーン
エレベーターの手すりまでキラキラ〜 フレグランスが香ってゴージャス!

さすが、香港系お高級ホテル。securedownload2.jpeg

で、3時間近く(!)おしゃべりしてきたのだが、なんとね、卵子の凍結保存をしようかとか言い出した。
ちなみに友人は私と同じ歳。今は出産年齢も上がったとはいえ、さすがにもう出産は難しい(と思う)。
というか、独身なんだけども。それに確か今フリーなんだけども…。
見た目も行動も若い彼女だが、なんというポジティブさ。

ただ、ひとつ問題があるそうで、それは年齢からくる卵子の質劣化…!!!

やっぱり、自分自身のためだけに生きることにするそうだ。ちゃん、ちゃん。


さて、さて、今日は子供繋がり。本書は何が何でも「子供を生みたい」という女性の物語である。

舞台はイギリスの中西部バーミンガム。三人の女性の視点で物語は語られていく。
一人は出産を目前にしたクローディア。夫ジェームズは海軍の少佐で、任務のため一年の殆どを留守にしている。双子の男の子がいるが、彼らはクローディアの子ではなく、ジェームズの亡き前妻の子供だ。ジェームズは前妻の莫大な遺産を相続したので、クローディアが働く必要はないのだが、妊娠後もソーシャルワーカーの仕事を続けている。
そのクローディアの出したベビーシッターの募集広告を見て応募してきたのが、ゾーイだった。まだ30代前半と若いながらも、シッターとしての経験は申し分ない。しかもゾーイの印象はとてもよく、双子たちもすぐになついたことから、クローディアはゾーイを雇うことに決める。
しかし、彼女には何が何でも住み込みのこの仕事を得なければならない事情が隠されていた。
短い休暇がすぎ、ジェームズが任務へと戻っていった。過去に何度も流産を繰り返したせいで、いささか過敏になっていたからか、クローディアは、ゾーイの言動に次第に疑問を抱き始める。
その頃、バーミンガムは、妊婦が腹を切り裂かれて殺害されるという事件が起きていた。むりやり胎児を引っ張り出れており、現場は堪え難い惨状だった。捜査の担当は、ロレイン・フィッシャーとアダム・スコット警部補。名字は違うが二人は夫婦であり、このロレインこそが物語の三人目の導き手だ。
ただ、かつての夫の過ちが原因で、夫婦仲はうまくいっておらず捜査も噛み合ない。
そこにまた新たな妊婦殺害事件が起こるのだった…。


samantha hayes後半には「あっ!」と言わせるどんでん返しあり。

クローディアとゾーイの語りは一人称の「私」で、ロレインは三人称で語られるのだが、それにもちゃんと理由があるのだ。
章が変わって数行ほどは、クローディアなんだかゾーイなのだかわからないのだが、それが不穏さを増長させている。

予想外の展開でも読ませるが、サイコロジカルスリラーとしてもよくできていると思う。
物語には、「何が何でも子供が欲しい」女性が複数登場するのだが、その執念の恐ろしいことといったら。もう精神疾患の域に入ると思うのだが、それがもたらす異常で残虐な行為よりも、「どうしてそこまで執着するのか」ということのほうが私には怖かった。

本書に登場する人物ほどではないにしろ、現実にもこの手の強迫観念に取り憑かれている人は大勢いる。それはそれで、非常に悲しい生き方だと思うが…。
男も大変だが、女もまた大変なのだ。

余談だが、ロレインとアダムの夫婦関係は、私にはよくわからなかった。もうかなり崖っぷちだったような…。
ま、夫婦喧嘩は犬の食わないというから、そういうものか。
著者の次作は彼ら夫婦が主人公なのだそうである。





ユー・アー・マイン (ハヤカワ・ミステリ文庫)

サマンサ ヘイズ (著), 奥村 章子 (翻訳)
早川書房 (2015/5/22)


Kindle版はこちら→ ユー・アー・マイン




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tag: 早川書房 
2015/06/26 Fri. 21:07 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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株とダイエット、そしてホリエモン  

ついに、日経平均がITバブルを抜いてしまった。
今はウッハ〜だが、一寸先は闇なのもまた事実。

先週は例のギリシャ問題でガツンとやられて、シュ〜〜〜ンとしていた。
その間読んだのが、『マーケットの魔術師』『利食いと損切りのテクニック』『臆病者のための株入門 』である。
ちなみにこれらは全てKindle版。




『マーケットの魔術師』は、アメリカのトップトレーダーたちのインタビュー集である。ちょっと時代は古いのだが、成功している人はどういうことをしているかを教えてくれる。

ここに出てくるのは歴史に名を残すような著名トレーダーばかりだが、ほぼ全員が共通して言っていたのは、「駄目なら、速やかに損切りしなさい」ということ。そして、それを引きずらないこと。
しかし、なかなかこの損切りというヤツができないのよ…。


私が株を始めたのは、かれこれ10年くらい前のことである。
実は私は、その当時買った某株を今年の春まで塩漬けていた!
損切りができなかったのだ。

しかしこの古漬け株は、なぜだか知らないが今年突如として暴騰し始め、奇跡の大復活を果たした。そればかりか利益までもたらしてくれた。
待てば海路の日和あり。
まるで10年間芽が出なかった演歌歌手が、紅白に出場するような快挙ではないか!
結果オーライだったが、資金を全て失ってしまうことだってあり得た。
わかっている。私はたまたまラッキーだっただけだ。それに、この10年間資金を凍結されていたも同然なのだ。

詰まるところ、投資とはポーカーのようなもので、駄目な手札ならばさっさと勝負を下りてしまうべきだ。いい札が手に入る時のみ勝負すればいい。機関投資家じゃないんだから。
成功者たちは、皆例外なくそうしている。
成功者たちのいうことは全て正しい。それを全部真似すれば、たぶん私だってお金持ちになれる。
それって、ダイエットの本と同じじゃない???





さて、株は買いから入るケースと売りから入るケースがあるが、私は臆病者なので現物買いしかしない。
買うタイミングもたぶんかなり微妙だが、売るタイミングはもっと微妙…。

よく「頭と尻尾はくれてやれ」というが、気前よくやりすぎてしまっている。
自分はいつもハラワタ部分のみというか…
そこ、全然美味しくないんですけども!!!


そこで、『利食いと損切りのテクニック』 ですよ。
この本が言っていることは、まんまどんな仕事でも同じことである。すなわち、失敗してもいいが、同じ過ちを繰り返すな!そのために、トレード日誌をつけその日のトレードの評価をしなさい。
業務日誌と人事考課みたいなものか…。

こ、これって…
毎日食べたものをノートに記録して、体重計に乗りなさいってことと同じだわ!!!








株とダイエットが似ているということはよくわかった!
しかし、しかし、私はもっと初心者向けの心構え的な本を読んだほうがいいのじゃないだろうか。
そこで、ポチったのが橘玲氏の『臆病者のための株入門』 である。

三冊中最も薄く、最も安く、最も初心者向け。上の二冊は少なくともチャートが読めるなどの知識も必要だが、この本は知識ゼロでも全く問題ない。



結局株式投資の本質はゼロサムゲームであり、時代が変わってもその本質は変わらない。そう納得し割り切ってしまえば、気持ちが軽くなる。精神面での効用は大きい。
最も合理的だという投資法も紹介されているし、株をやらない人でも面白く読めると思う。

本書のなかで、特に面白かったのは例の「ライブドア事件」にみるホリエモンの錬金術の解説だ。
なんだ…。
やっぱりホリエモンはそんなに悪くなかったんじゃん。
彼はただ単に資本主義の申し子だったにすぎない。
橘氏曰く、ホリエモンを否定することは、資本主義を否定することになる。
結局、彼は服役したが、彼の量刑と証拠を捏造して人を陥れようとした元検察官の量刑がほぼ同じというのは、やはり変じゃない?
橘氏は「ライブドア事件」の被害者はいないといっているが、しかし、世の中にはホリエモンを恨んでいる人が結構いるのも事実だ。なんでかっていうと、たぶんホリエモンのせいで損をしたから。
ライブドアに投資していた人たちが損をしたのは自己責任だとしても、特捜部が場中に乗り込んだために、東証全体がパニックに陥り、結果、他の投資家にも迷惑がかかってしまったからだ。
特捜部も空気読みなさいよね〜。

それにしても、ホリエモンは最近テレビに良く出ているなぁ…。
美味しいものをたくさん食べてるのだろうか。また少し丸くなってきた?
お互い、ダイエットには苦労するわねぇ…






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category: ノンフィクション・新書

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2015/06/24 Wed. 21:17 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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ドクター・スリープ / スティーヴン・キング 

『シャイニング』のダニーには"REDRAM”という文字が追いかけてきたが、私には目下、"ギリシャ”が立ちはだかっている。
あの地中海の怠け者の国の破綻問題のせいで、先週はドーンとやられた。金融株は惨憺たる有様。しかし、週が明けたらこれが打って変わって超強気。逆に怖いんですけども…。
なんでもデフォルトは土壇場で回避するとの見方が強いが、でも、それって、またもやペンディングってことでしょー。それもどうなのよ?

ところで、本書『ドクター・スリープ』 『探偵は壊れた街で 』同様、先のコンベンションのビブリオで紹介されていた作品である。あの『シャイニング』の続編くれば、それはアナタ、読まなきゃでしょう!キングというだけで私は自動的に購入するので、敢えてビブリオで投票しなかったのだけど、やはり出来はこっちのほうが数段上だったな。
しかも今回、文藝春秋さんが親切にもKindle版で同時に出してくれているときた。なんと『シャイニング』も一緒に電子化してくれている。『シャイニング』自体、もうかれこれ36年前の本なので有り難い人は多いだろう。文春さんグッジョブ!
本書を読むにあたっては、なにせ『シャイニング』は大前提なのである。もう読んでなきゃ始まらない。ええっ〜〜〜面倒くさぁい〜〜〜映画じゃ駄目なのという人は、心を入れ替えるべし。映画じゃ駄目なのである。何しろ、キング本人も、映画ではなく"原作”こそが”トランス一家の正史”なのだと言っているのだから。
ちなみに、私は続編が出ると知った時に実家の本棚をひっくり返して文庫を探し当てておいた。Kindleも迷ったが、ほら、なにせ上述のような有様なので節約しとかなきゃ…。もちろん再読済みである。

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さて、『シャイニング』ではわずか5歳だったダニー(ダン)・トランスは、長じて中年になっている。
ダニーは酒が父親に及ぼした影響を目の当たりにした自分なら、大人になっても決して酒は飲まないと信じ込んでいたが、現実は違った。酒浸りになり各地を転々とした挙げ句に、最悪の経験をしたダニーは悪夢に苦しんでいた。
そんな時、自分の内側から聞こえてきた「お前さえ望むなら、こんな暮らしをしなくてもいいのに」という声に導かれる。いい加減、酒を断ってやり直すのだ。
そして、ようやくニューハンプシャーの小さな田舎町フレイジャーに落ち着くことになる。そこで、ダンはアルコール依存症の会に入り、ホスピスで介護士として働きはじめるのだった。
子供の頃ほどではなかったが、ダンにはまだ"かがやき”の力があり、町にきて酒をやめて以来それは再び復活していた。ダンはそれを用い死に行く人々に安らぎを与えていた。

そんなダンに、ある女の子が接触してくる。彼女とダンの出会いは、直接にではなく彼女がダンの部屋の黒板にメッセージを書いたことから始まった。
彼女の名はアブラ。ダンの住む町から30キロほど離れたアニストンに生まれたアブラは、生まれた時から強烈な"かがやき”を持っていた。まだ5ヶ月の赤ん坊の頃、911の惨事を予知して両親にそれをテレパシーで知らせようとしたり、自分の子守唄代わりにピアノでビートルズの曲を演奏したりしていた。10歳の誕生日には、家中のスプーンを天井から吊るしてみせたりもした。
そして、何よりアブラにも"トニーという秘密の友人"がいたのだ。幼い頃のダン同様に。

一方、"真結族”(トゥルーノット)と呼ばれる謎の集団は、アメリカ各地をキャンピングカーを連ね旅していた。彼らは遥か太古から存在している人間ではない者たちだ。一族を束ねているのは、ローズ・ザ・ハット。シルクハットが目印の背の高い美しい女だ。
彼らは"かがやき”を持った子供たちの命気をすすることで、その命を長らえてきた。だが、昔は200人を誇った"真結族”も今は残り少なくない。圧倒期に命気が足りないのだ。このままだといざという時のために保存してあるものさえ、底をつきかねない。彼らにとっては死活問題だった。
だが、幸運にも、一族は道中で、ある少年にありつくことができる。一息つけたものの、一族を維持していくためには、もっと強烈な命気頭が必要だった。
そんな時ローズは、遥か遠くから自分を覗き見ている存在に気づく。それは女の子だった。しかも、これまで見たこともないほどの量の命気を持っている。なんとしてでもあの子を捕まえなくては、とローズは決心する。あれほどの命気なら、殺さずに家畜のように飼えばいい。
新聞で偶然その少年の写真を目にしたアブラは、その力で、彼がどんな力を持っていたのか、どこでどういう風に殺されたのかを知る。そして、自らに迫り来る危険に気づくのだった…



昨年『NOS4A2-ノスフェラトゥ-』を読んだ時、やっぱり親子なんだなぁ!と思ったが、今回もそれを強く感じた。今回、『NOS4A2-ノスフェラトゥ-』のキャラも少しだけ出てくるので、余計そう感じたのかもしれない。

あとがきでキングは、「人は変わる。『ドクター・スリープ』を書いた男は、『シャイニング』を書いた気のいいアルコール依存者とは別人だ」と言っているのだが、なるほど『シャイニング』と『ドクター・スリープ』では雰囲気がまるで違う。しかしそれでいて、ストーリーは完璧に繋がっている。全くストーリーは異なるのだが、『シャイニング』で重要な役割を果たした"忘れていたこと”もまた形を変えて甦ったりもしていて、まさに、ぐるりと回って元どおりなのである。
個人的には『シャイニング』と本書、二つ揃って初めてこの"トランス一家の正史"は完結したのだという気がした。
『シャイニング』を読み終わった時、訳者の深町さんのあとがきにあった「父子三代にわたるアンビヴァレンス」というこの言葉がずっとひっかかっていた。それを象徴するものとして、彼女はダニー本人(本書ではダン)の祖父、父のミドルネームを含むフルネームを挙げているのだが、その時は私にはそれほどピンとこなかったのだ。
ちなみに、それぞれの名は、ダニエル・アンソニー・トランス、マーク・アンソニー・トランス、ジャック・ダニエル・トランスである。(なんと、"本当に"それぞれ作中にはたった一度しか出てこない!)
本書『ドクター・スリープ』には、その「父子三代にわたるアンビヴァレンス」とは何なのかについての明確な解答があり、それが本書の最も重要なテーマにもなっている。

ダンは父親のジャックから、あまつさえ殺されそうになり、望ましくないものも受け継いだ。でもそれにもかかわらず、父親を憎むような大人になっていなくて本当に良かったと思う。
キングの作品でいいところは、その根底に愛情が感じられるところだ。作者本人の人となりが感じられるというか。そしてそれは、作を重ねるごとにそれは強くなっているような気がする。





ドクター・スリープ 上
ドクター・スリープ 下
スティーヴン キング (著), 白石 朗 (翻訳)
文藝春秋 (2015/6/11)

Kindle版はこちら
ドクター・スリープ(上) (文春e-book)
ドクター・スリープ(下) (文春e-book)




下記はいずれもKindle版のみ



シャイニング(上) (文春文庫)
シャイニング(下) (文春文庫)

スティーヴン・キング (著), 深町眞理子 (翻訳)







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category: ノワール・ホラー・サスペンス

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tag: 映画化  キング  モダンホラー   
2015/06/22 Mon. 20:29 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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夏の沈黙 / ルネ・ナイト 

先日のイイノホールが寒かったせいか、風邪をひいてしまいこれが治らない。なので家でじっとテレビ三昧。
その間、なんとあの酒鬼薔薇こと元少年Aが手記を出版したというではないか。ワイドショーによれば、出版は元少年Aから持込まれたものらしい。聞けば、版元は有害図書で有名な出版社である。
遺族は出版の中止と回収を求めているらしいが、それはそうだろう。
「地べたを這いずりまわる生活」に嫌気がさしたのだろうか。酒鬼薔薇本人と彼が起こした事件は、未だある種のバリューがあり話題性も抜群。それを裏付けるかのように、このご時勢に初版は10万部だという。
しかし、この出版は、本人にも版元にも結果的に禍いしかもたらさないのではないかという気もするのだが…。
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さて、本書も一冊の本がもたらす波紋に打ちのめされる女性の物語である。
先のコンベンションの二次会の際、東京創元の編集者の方が「これは面白いですよ」とおっしゃっていたのだが、おっしゃる通り!
個人的にはビブリオで推されていた『探偵は壊れた街で』よりも断然読み応えがあった。『ゴーン・ガール 』が好きだった方には特にオススメ。読書会向きでもあると思う。
一言付け加えるならば、『ゴーン・ガール』ほどのイカレちゃった過激さはない。ただし、似たようなことは誰に起こっても不思議ではないという逆の恐ろしさがあるのだ。

物語は二人の人間の視点で章ごとに語られていく。追いつめられる者と追いつめる者だ。
追いつめられるのは、ドキュメンタリー番組のプロデューサー、キャサリン・レーヴィンズクロフトである。輝かしいキャリアに弁護士の夫、既に独立した一人息子、彼女の人生は順風だった。新居でその本を手にとるまでは…。
E・J・プレストンという著者の『行きずりの人』というその本に書かれていたのは、20年前にキャサリンの身に起きた出来事だった。名前は変えてあるものの、まぎれもなく主人公は彼女自身で、あの日の午後に何を着ていたかまで寸分違わない。「生死にかかわらず実在の人物に類似している点があるとすれば…」という思わせぶりな断り書きには赤字さえ引かれていた。
それは、今まで夫にも息子にも話したことのない彼女だけの秘密のはずだった。その事実にキャサリンは打ちのめされ、同時に恐怖する。それこそ嘔吐するほどに。
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いま一人の追いつめる者は、引退した元教師のスティーヴン。彼は二年前、亡くなった妻ナンシーの遺品のなかからある原稿を発見する。それは今や復讐のツールだ。自費出版によって製本されたその本は、ターゲットに向けて放つ矢そのもの。ターゲットはあの女。彼女には苦しんでもらわないと…。

果たしてスティーヴンの思惑通り、キャサリンは追いつめられていく。
スティーヴンによって、あの本はまずキャサリンの息子ニコラスへ届けられ、続いてはキャサリンのいかがわしい写真とともに彼女の夫ロバートにも届けられる。ニコラスはともかく、ロバートは強烈な拒否反応を起こす。円満な家庭は今や崩壊寸前。おまけにそのストレスからキャサリンは職場で失態をおかし、今やキャリアまでも失おうとしていた。

20年前に何が起こったのか?キャサリンが誰にも言わずに秘めていた秘密とは?
やがて、その真相が明らかになるのだが…。
renee knight

これね、何がすごいって、後半に真実が明らかになると様相がガラリと変わってしまうのだ。キャサリンの印象はもちろんだが、それまでの研ぎすまされたサスペンスが、一転、家族愛の恐ろしさを痛感させる物語となる。言うまでもないが、後者のほうが遥かに恐ろしい。
人間、誰しも見たいものだけを見るという傾向を持っている。見たくないものには無意識にフタをする。家族間、殊に親子間だと尚更だろう。酒鬼薔薇の両親はどうだったのかは知らないが、彼らとて当初は息子の無実を信じたのではないか。
解説者は、これをして「家族という人間関係が狂気を生み出す触媒になりうる」と表現する。その「狂気の触媒」は、愛情の裏返しでもあり、多かれ少なかれ誰しもが持ちうるものだ。

著者ルネ・ナイトは本書がデビュー作であるというが、描写力も群を抜いている。
一人称で語られるスティーヴンの章では、狂気と正気の狭間を行き来する彼の内面のその不穏さが漂ってくるよう。ナンシーのお気に入りだったカーディガンを男のスティーヴンが常に身につけるということもさることながら、チャツネの瓶に入っていた亡き妻ナンシーの長い白髪をスティーヴンが綺麗にしゃぶるシーンは、ぞっとすると同時にどこかしら気持がわからなくもない気もして、それがさらに肌を粟立たせた。
その反面、キャサリンの章の語りは三人称で、この意図的な語りの違いは非常に効果的に作用している。

真相は、この粗筋からは遠く想像の及ばないものだろうと思う。けれども、憎らしいことにちゃんと伏線らしきものもあったりする。
この結末がわかったという人は、濃い繋がりのない人か、もしくは余程酷い目にあった人なのではないだろうか。
それは言い過ぎにしても、キャサリンの体験をどう感じたか、彼女がどうすべきだったのか、または今後どうすべきなのかをも含め、人それぞれに異なる意見を持つだろう。男女によっても差異があるだろうし、親という立場か否かによっても異なるかもしれない。
これで読書会をやったらさぞ面白いことだろうなぁ。




夏の沈黙


ルネ・ナイト (著), 古賀 弥生 (翻訳)
東京創元社 (2015/5/29)


Kindle版はこちら→ 夏の沈黙




しかし、しかし、次回の読書会の課題本は『探偵は壊れた街で』なのです。
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category: ミステリ/エンタメ(海外)

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

2015/06/15 Mon. 21:29 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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