Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

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流 / 東山 彰良 

あっつい!!!
トシのせいかなんなのか、やたら暑さがこたえる。
ナダルも低調だし、もし今日負けたらちょっと洒落にならないんだけど…

あ〜ああああああああ…



とうことで、目先を変えて直木賞受賞作を読んでみた。
お笑い芸人が受賞した芥川賞のほうが話題になってるが、私にはここ最近の芥川賞受賞作が面白いとは思えない。
例のお笑い芸人の本は読んでないのでなんとも言えないが、芥川賞は、ここ数年ず〜〜っと、"話題性ありき”な感じが否めない。
ただでさえの出版不況に加えて、純文はさらに厳しいので話題作りに走るのも仕方ない。でもあの髪型は不潔そうでちょっとイヤだ!(笑)
とはいえ、詰まるところ、大衆文芸のための賞たる直木賞のほうが私向きなかも…




akira higasiyama

吉本の芸人の陰に隠れてしまったが、このたび直木賞を受賞したのは、東山彰良である。
ミステリー好きには『逃亡作法 TURD ON THE RUN 』
といえばピンとくるだろうか。彼はこれで、第1回『このミステリーがすごい!』大賞と読者賞をダブル受賞したのだ。ちなみに『路傍』 でも大藪春彦賞を受賞しているので、直木賞も穫るべくして穫ったという感じである。

『さすらい』では垣根涼介氏が解説を書くというので、『逃亡作法』をはじめとした数冊を読んでみたのだが、確かにオフビート!筆力があり、世界と自分との境界というものが際立っている。そして「はずれ」がない。

Amazonレビューには「文章が良くない」というのもあったのだが、これには「エエッ」とのげぞってしまった。
東山氏の筆力を否定するなら、殆どの日本人作家を否定しなければならないと思うけど…

この『さすらい』の帯で垣根さんは「ひきこもりの小説に泣いている暇はない。」と言っているのだが、まさにそれだ!世界は「流れ」続け、自分はその中心にいる。

台湾人である自分のルーツを描いた本書にも、それらは当てはまる。本書『流』はそんな東山氏の祖父のことを描いた自伝的作品であり、青春小説であり、歴史小説でもある。




さて、本書の舞台は1975年の台湾だ。
蒋介石が没したその年、主人公、秋生の祖父何者かに殺害される。祖父は、自らが営んでいた布地屋の浴槽の中で後ろ手に縛められ、身体をくの字に曲げて死んでおり、第一発見者は秋生だった。

秋生の祖父は山東省の出身で、戦時中は多くの共産党員を殺したそうだ。「有槍就是草頭王 (鉄砲があればならず者の王)さ」それが祖父の人生哲学で、国民党の遊撃軍時代からドイツ製のモーゼル拳銃を肌身離さず持っていた。
短気な反面、兄弟分の忘れ形見である宇文叔父さんを引き取って我が子同然に育てるほど義理堅くもあり、また孫の秋生のことは猫可愛がりに可愛がってもくれた。
警察の見立ては怨恨による殺人だった。だが、祖父には暴行を受けた痕跡はない。よしんば警察の見立て通りだとしても、その恨みが生まれた場所は中国大陸以外には考えられなかった。

当時、秋生は台湾で一番の進学校に通っていた。しかし悪友・小戦の手引きで引き受けた替え玉受験がばれ、退学させられてしまう。それもこれも祖父の死によって受けた経済的ピンチを救おうとした結果だった。秋生に残されていたのは、軍隊に入るか、名前さえ書けば馬鹿でも入れる高校に編入することのみ。迷わず後者を選んだ秋生だったが、それは同時に囚人服とどっこいの制服に身をつつみ、犯罪者予備校に通うこととかわりなかった。
そして、そこでの学生生活も一筋縄ではいかない。心の底では誰もが望まぬ状況でも、闘わなければならないことも多くあるのだ…。


old taipei

たぶん当時の台湾は日本より20年は遅れていただろう。あいにくと私は台湾に行ったことはないのだけれど、物語の端々からノスタルジーが漂う。
”こっくりさん”そっくりの子供の遊び然り、秋生の祖父が守られていたと信じていた”お狐さん”然り。台湾は、中国は、一見欧米よりも遠い国でありながらも、やはり日本の隣国なのだと妙に感心してしまった。
だからなのか、舞台はほぼ台湾で、日本人の登場人物はいないという設定であっても、自然とのめり込んでいけるのだ。

台湾で一番の高校に通っていた秋生の人生は、あれよあれよという間に転落していくが、悲壮感はなくどこか楽しげでユーモラスでさえもある。この怒濤感。このセンス。

物語を貫くのは「祖父の死の真相」なのだが、秋生と幼馴染みとの初恋の顛末や、ついにはヤクザになる悪友・小戦との悪さの日々などのエピソードが読ませる。かなり過激なのに、それでもキラキラ輝いていて、本当に垣根さんじゃないが「引きこもりの小説なんかで、メソメソ泣いてる場合じゃない」と思ってしまう。
体験をすることで、人は傷つき、学ぶ。ただ、全てを体験するのは無理なわけで、だから人は本を読むのではないだろうか。ならば、自分と同じよりも、自分ができない類いのことをしてくれる本のほうがいい。





東山 彰良(著)
講談社 (2015/5/13)

Kindle版はこちら → 流










新装版 逃亡作法 TURD ON THE RUN (上) (宝島社文庫)
新装版 逃亡作法 TURD ON THE RUN (下) (宝島社文庫)

東山 彰良(著)
宝島社; 新装版 (2009/9/5)








さすらい (光文社文庫)


東山 彰良(著)
光文社 (2009/5/12)








路傍 (集英社文庫)


東山 彰良(著)
集英社 (2010/5/20)







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category: ミステリ/エンタメ(国内)

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 直木賞    このミス  台湾 
2015/07/27 Mon. 19:57 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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映画チョコレートドーナツ 

Wowowでやっていたのをたまたま観たのだが、これがよかったのだ。
ゲイのカップルとダウン症の少年の物語なのだが、
これは泣くよ〜

1970年代のアメリカ・ブルックリンで実際にあった話をもとにシナリオ化された作品で、ミニシアター系としては異例のロングランヒットとなったのだという。


舞台はまだ同性愛への理解がない1970年代後半のカリフォルニア。
ゲイであることを隠し検事局で働くポールは、歌手を夢見るダンサー、ルディと出会う。二人は互いに惹かれ合い、恋に落ちる。

ルディのアパートには、薬物依存症の母親と暮すダウン症の少年マルコが住んでいた。ある日、マルコの母親は男と姿を消し、挙げ句、薬物所持で逮捕されてしまう。
このままだと、保護者を失ったマルコは強制的に施設へと送られてしまう。ルディはなんとかマルコを手元に引き取ろうとポールに助言を求める。一旦は、「仕方ない」と冷たく突き放したポールだったが、「薬物依存の母親もダウン症もマルコのせいじゃない」というルディの一言に心を動かされるのだ。そして、自分たちの関係を”いとこ”と偽り、マルコとともに暮らし始めるのだった。

二人のもとで、マルコは生まれて初めて学校に通い始める。ポールはマルコの宿題を手伝い、ルディは毎朝朝食を作って、眠る前にはハッピーエンドの話を聞かせて眠らせる。二人は、まるで本当の両親のようにマルコを愛し、大切に大切に育てた。
だが、3人で暮らし始めて1年が経ったある日、ポールとルディがゲイのカップルであることが周囲に知られてしまう。関係を偽ったことが原因で、ポールは検事局を解雇され、マルコは再び施設へと送られてしまう。
二人は絶望する。
「これは差別よ。今こそ法律で世界を変えるべきなのよ」というルディの言葉で、ポールは差別と偏見のために奪われてしまったマルコを取り戻す裁判を起こすのだが…



any-day-drag.jpg

差別と偏見、愛とはどういうものかを問う、素晴らしい作品だが、とにかくルディを演じているアラン・カミングがすごくいいのだ。
最近では私のなかでは、ドラマ「グッド・ワイフ」のイーライのスノッブなイメージだったのだが、一転、この映画ではロングヘアで、オネエ言葉だし(字幕では)、女装も、プロ顔負けの歌も披露している。こんなにすごい俳優さんだったなんて!!!
聞けば、彼自身も同性愛者らしいのだが、それを抜きにしても素晴らしい。

最近でこそゲイをカミングアウトする有名人も多くなったが、まだ風当たりは根強いのだろう。いわんや日本人をや、一般人をや、だ。

同時に、愛情というものについても考えさせられた。
つい先日も、次々出産した乳児の遺体を遺棄した母親のことがニュースになっていたが、件の母親は「いらない子だったから」という趣旨の供述をしているという。そういう問題じゃないでしょ!と思うが、こういう母親もいるのがまた事実なのだ。
母親だからといって子供を愛せるというわけではないし、ルディとマルコのように血の繋がりがなくても愛情を育むこともできる。

ルヘイン原作の『愛しき者はすべて去りゆく』 をベン・アフレックが監督で映画化した『Gone Baby Gone』のラストを思い出したりもした。

せんだって、渋谷区でようやく同性婚を認める条例がようやく承認されたらしい。
ゲイのカップルが何の障壁もなく養子を迎えられるようになるのは、どれくらい先なのだろうか…

Wowowでは、7月29日(水)午後2:30〜と、8月1日(土)夜9:15〜に再放送があるみたいです。


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category: 行ってきた&旅行その他

tag: 映画  日常  wowow 
2015/07/22 Wed. 14:49 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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出口のない農場 / サイモン・ベケット 

一般に、入ったものは、出したほうがよろしい。
お通じ然り、カロリー然り。
だが、入ってこないのにもかかわらず、ただ出費するというのはいかがなものだろうか。
最近少々買い物しすぎ…
来月のカード請求が怖いわ…
この収入と支出の関係が、カロリーのことならいいのになぁ…


と、私も追いつめられているが、本書『出口のない農場 』の主人公ショーンにも文字通り出口がない。
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さて、舞台は太陽がギラギラと照りつけるフランスの田舎町である。イギリス人青年のショーンは、何かから逃げるようにこの地へたどり着く。イギリスから乗ってきたアウディのシートベルトには、血が染み付いており、バックパックの底には後ろ暗いものを隠し持っている。今いる場所も大雑把にしか把握していないが、彼には先の計画など何もなかった。
近くの農場で水を分けてもらった帰り、彼は狩猟用の罠に足を挟まれて大怪我を負ってしまう。
農場の娘マティルドに助けられ、傷が癒えるまで農場の納屋で療養することになるのだが、このアルノー農場の様子はどこか普通ではない。周囲はぐるりと有刺鉄線で囲んであるし、敷地内は侵入者を防ぐための狩猟用の罠があちこちに仕掛けてあるのだ。それにマティルドは、傷の手当を終え納屋を出て行くときには必ず閂を掛ける。
農場の主でマティルドの父、アルノーは独裁的で、この農場は彼のルールで成り立っていた。
次第にショーンは自分が怪我の療養しているのか、囚われているのかがわからなくなってくるのだった。
この農場は、彼らのほかに、まだ赤ちゃんのマティルドの息子ミシェルと、10代後半の妹、グレートヒェンが暮らしている。アルノー夫人はかなり前に亡くなったらしいが、マティルドの夫のことは話題には登らない。
何とか歩けるまで回復したショーンは農場を出て行こうとするが、マティルドからここで働かないかと持ちかけられる。考えてみれば、ここは身を隠すには最適の場所だし、足が完全に回復するまでじっくりと考える時間も必要だ。ショーンにとっても願ったりかなったりではないか。
かくして、ショーンはアルノー農場に留まることになるのだが、次第にこの農場が町の人に酷く嫌われていることを知る。それに、なぜマティルダはあんなに暗い目をしているのだろう。次第にマティルダに惹かれていくショーン。対称的に、妹のグレートヒェンは何かにつけてショーンを誘惑してくる…。
アルノー農場の秘密とは何なのか?
そもそもなぜにショーンはロンドンから逃げ出さなければならなかったのか?



wild-pig.jpg

現在進行形のアルノー農場での出来事と、ロンドンでのショーンの過去は交互に語られていき、特にショーンの過去はチビリチビリと明かされるので、読者はなぜショーンが逃げなければならないのかがわからない。
不穏な気配のなか、状況もわからないまま、読者はショーンとともに囚われの身となっていく。

アルノー家の秘密は、なんとなくわかる人もいるかも。私も、もしかしてそうじゃなかな、と最初から思いながら読んだのだが、これは予想通り。欧米はこういうの多いなぁ。ま、日本も表に出ないだけかもしれないが…
それでもこの独特な雰囲気は楽しめた。うだるような暑さと農場で飼育している猪豚(サングロション)の臭気、アルノー家とショーン自身の隠された秘密が相まって、なんとも言い難い不穏さを生んでいる。
一言でいえば、本書は、暑くて臭くてなんだか不安にさせる小説なのだ。

この農場の巨大な種豚の凶暴性は、『ハンニバル』のある場面を彷彿とさせるし、雌のサングロションを潰すシーンは血なまぐさい。豚は雑食で、何でも食べるから…
あまり書くと楽しみを削いでしまうのでこの辺にしておくが、この豚とアルノーのような人間との差は何なのだろうかと思ってしまった。
simon beckett

著者のサイモン・ベケットは、法人類学者デイヴィッド・ハンターシリーズで有名な人気作家。私はあいにくと未読なのだが、海外ドラマの『ボーンズ 〜骨は語る』みたいな感じなのかな?
このシリーズはヴィレッジブックスさんから出てるみたいだけど、まとめてKindle化してくれないかしら。




出口のない農場 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

サイモン・ベケット (著), 坂本あおい (翻訳)
早川書房 (2015/7/8)


Kindle版 出口のない農場




法人類学者デイヴィッド・ハンター (ヴィレッジブックス)

サイモン・ベケット (著), 坂本あおい (翻訳)
ヴィレッジブックス (2009/2/20)







骨の刻印 (ヴィレッジブックス F ヘ 5-2)

サイモン・ベケット (著), 坂本あおい (翻訳)
ヴィレッジブックス (2012/3/19)








骨と翅 (ヴィレッジブックス)


サイモン・ベケット (著), 坂本あおい (翻訳)
出版社: ヴィレッジブックス (2014/2/20)






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category: ミステリ/エンタメ(海外)

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  早川書房  ポケミス   
2015/07/21 Tue. 15:14 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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クロニクル4部作 / リチャード・ハウス 

『トルコの逃避行』『砂漠の陰謀』 『ある殺人の記録』 『最後の罠』と、ようやく4部作を読み終わった!
うへ〜〜〜〜
最初に『トルコの逃避行』が文庫ででたのは、4月。その後は一月に一冊のペースで出版されるとのことだったので、ずっとそのまま放置していた。
ところが、アナタ、知らない間にキンドル化されてるじゃないの!!!
なので、2部の『砂漠の陰謀』以降は全部Kindle版で読んだ。こんなことなら最初から全部Kindleで読みたかった。
最初からKindle化してよ…

ちなみに日本語版は文庫4冊だが、原書は1000ページ越えという大作!
放置してなくても、読み終えるのには結構時間はかかったと思う。

と、どうでもいい話はさておき、なんでも本書は2013年のブッカー賞にもlonglistされたらしい。全部読んでみると、納得の通好みの癖のある作品。当初は有力視する声もあったらしいが、結局最終候補には残れなかった。
日本人の、しかもエンタメを中心に読む層には、まず受けないと思う。

どこかのレビューには「ル・カレの再来」とかいう文字が踊っていた記憶もあるが、でも全然違うものだと思った。似たところがないわけでもないが…
少なくとも、「ル・カレのファン」=「この小説が面白い」にはならないのじゃないかと思われるがどうだろうか。ただ、もしかして「ル・カレのファン&マキューアンのファン」≒「面白い」はあり得るのかな?


richard-house.gif

第一部の「トルコの逃避行」はスティーヴン・サトラーことフォードがイラクからトルコへと逃亡するというお話だ。
おもな舞台は戦争後のイラクとトルコ。イラクではアメリカの民間請負業者HOSCOが、焼却炉(バーンビット)の管理や道路建設、物資の補給などを行っていた。HOSCOは他にもイラクの砂漠に街を建設するという”マッシヴ”と名付けられたプロジェクトを進行していた。まさに無から全てを作り上げるという大掛かりなプロジェクトだ。その莫大な予算はアメリカ政府から出ている。

フォードは、HOSCOのヨーロッパ支部のポール・ギーズラーから命じられ、"スティーヴン・サトラー"という全く別の人物になって、イラクの地にやってくる。「サトラー」Sutler の意味は、酒保商人ー軍のために物資を提供する人や会社で、本来はオランダ語で"汚れ仕事をする者”を指す。
ところが、ある日、そのギーズラーから「問題が発生した。君には消えてもらわなければならない」という電話を受け取る。サトラーとしての仕事を受ける際、フォードは二つの約束をさせられていた。ひとつはサトラーとして行動すること。そしてもうひとつは、去れといわれたら去ることだった。
約束された報酬と引き換えに、フォードは逃亡をはじめるが、それはあまりに入り組んだ陰謀だった。サトラーとしての報酬は25万ドルに過ぎなかったが、サトラーに賭けられた嫌疑は"マッシヴ”の全予算5,300万ドルの横領だったのだ。
そんなフォードを追うのは、HOSCOに雇われた保険調査員のパーソンズだった。ところが、HOSCOがこの莫大な金の横領犯の追跡に割いているのは、自分ただ一人だと知ったパーソンズは思わぬ行動に出て…



第二部の「砂漠の陰謀」は、時間軸を遡った第一部の前日譚だ。サトラーをはじめとして、HOSCOの請負人たちが、号学の報酬と引き換えになぜイラクの地にやってきたのか、なぜサトラーが逃亡をしなければならなくなったのかという経緯が描かれている。
ここでの主役はサトラーことフォードから、請負人のリーダー、レム・ガナーセンへと移される。レムたちが働くのはキャンプ・リバティというバーン・ビット(焼却炉)だ。
レムがこの地で働くようになった不幸な経緯や、バーンビットから排出される有害物質は、まさに戦争の裏側。そしてそんな窮地のレムをスカウトしたのも、またしてもポール・ギーズラーなのである。
HOSCOによって砂漠の地にもたらされた物資は、そこで処分されなければならず、バーンビットでは文字通り"なんでも”燃やされる。バーンビットとは聞こえがいいが、ようは砂漠に掘った穴に軍事廃棄物だろうが、人の切断された手足などの医療廃棄物だろうがを、一切合切を放り込みジェット燃料で燃やすのだ。その際でる煙には、カドニウムやダイオキシンなどの有害物質が含まれている。


iraq.jpg

第一部と二部だけ読むと大掛かりなスリラーなのかなと思わせるが、第三部は徹底的にそれを裏切る。
三部は、一部と二部にもチラリと登場する本「ある殺人の記録」、つまりは作中作そのものなのである。第一部で、フォードが逃亡中に知り合ったアメリカ人の青年エリックが大切に読んでいた本であり、二部でレムが妻と最後に見にいった映画の原作でもある。
この「ある殺人の記録」の舞台はイタリアのナポリだ。ある小説を模倣して実際に殺人を犯した兄弟と、その変わり蓑にされた男マレクや時を同じくして行方不明になった人々を題材にし、ある青年によって書かれた本という入れ子構造になっている。


続く四部は現実世界へと戻り、舞台はキプロスへと移り、主人公もまた変わる。ここでの主役は、サトラーでもレムでもなく、リーケという若い女性なのだ。
リーケの姉の夫はドイツ大使館員で、第一部でサトラーを追うパーソンに、こう言ったヘニング・バスティアンだ。「あなた(パーソン)がサトラーは見つけることはない。それは保証します。そしてHOSCOはあなたお役御免にして、それでこの件は終わりです」その言葉を受けて、パーソンは物語を複雑にする突飛な行動にでるのだ。

冒頭、三人のサトラーが発見されたという知らせから物語は始まっている。
一人目はローマで列車に轢かれてバラバラになり、三人目は砂漠で大火傷を負い、キプロスの治療施設へと運ばれてた。
出産間近な姉の付き添いのために、姉夫婦とともにキプロスに滞在することになったリーケは、ノルウェー人のトーマス・ベーレンスという男性に英語の個人レッスンをすることになる。トーマスに惹かれる一方で、どういう意図でトーマスが英語を習いたいのかについていぶかしく思うリーケ。
そして、次第に彼女はサトラーを取り巻く謎に巻き込まれていくのだった…


四部作中、もっとも混沌としているのが第三部の「作中作」である。
スパイ系スリラーを期待していた人は、たぶんここで脱落するのではないだろうか?しかし、再読して一番読み応えがあるのもまた第三部だとも思う。

後に第四部で、エリックの母親が息子が所持していたこの「ある殺人の記録」を読み、「まとまりがなく、不快で、なんの理由も書かれていなければ、謎の解明もされていない」と言っているのだが、これはそのまま「クロニクル4部作」を通しての感想でもある。本当に何も解決しないし、何も明らかにはされていない。
だが反面、エリックの言うように私も「よくわからないとこがあって、読み落とした箇所があるのかもしれない」とも思うのだ。
この感じは、ロベルト・ボラーニョの『2666』を読んだ時を思い出させた。それぞれの繋がり方も、なんだかわからない感がそっくりなのだ(笑)"くさや”のようにはまる人はとことんはまってしまうというまさに"通好みの作品"だと思う。

余談だが、第四部の舞台キプロスについてのリーケの姉やロシア人のソルの持論はなかなか面白い。
タイムリーだが、キプロスは、まるで、もしかしたらそうなっていたかもしれないギリシャでもある。
と言うか、殆どギリシャと同類だけども(笑)
ソル曰く「彼ら(キプロス国民)は、中途半端さを好むんだ。紛争で有名な島のままのほうがいいとさえ思っている。中略ー自分たちの行為が哀れだと気づくこともなく、国家全体がますます貧しくなっていく。問題はヨーロパの腐敗ではなく、キプロスの怠惰だ。」

怠惰!
ピケティさんは同情的だけど、彼らはあの騒動の最中にもビーチでくつろいでたし…
でも、デモとかそういうことには俄然元気。借金棒引きにしてもらっても不満を主張できるのはすごいわ…
ギリシャは何年かしたらまた同じことになりそう。



クロニクル〈1〉トルコの逃避行 (ハヤカワ文庫NV)
クロニクル (2) 砂漠の陰謀 (ハヤカワ文庫NV)


Kindle版 クロニクル1 トルコの逃避行
Kindle版 クロニクル2 砂漠の陰謀






クロニクル 〈3〉 ある殺人の記録 (ハヤカワ文庫NV)
クロニクル 〈4〉 最後の罠 (ハヤカワ文庫NV)


Kindle版 クロニクル3 ある殺人の記録
Kindle版 クロニクル4 最後の罠




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category: ミステリ/エンタメ(海外)

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tag: 海外ミステリ  早川書房  文庫   
2015/07/16 Thu. 12:26 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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マッダ〜〜ム中華 

暑いですね〜〜〜!!!

暑いのは超苦手。
寒いのも駄目なので、「は」というより「も」というべきか…

さて、先日はスイーツ祭りだったので今回は中華ということで、
お料理教室にいってきた。

もう当分、私は甘いのはいいや…

先月からはじまったこの教室は公募してない内々のもので、実は二回目なのだ。
友人の友人の先生で、なんと三ヶ国語堪能というスーパーウーマン。
しかも美人!
いるんです。世の中にはこういうパーフェクトな方が。
なんでもできるのよ…。
生徒さんはマッダ〜〜〜ムと爪の先までキラッキラのお嬢様。
お別荘にもお手伝いさんにも無縁な庶民は私だけ!?
マイナーなB級本ばかり読むオタクも私だけだろうな…


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メインは「大根餅」で、その他に4品作った。
大根餅って本当に大根が入ってるのね。
パウンド型ふたつに、大根はまるまる一本!
これを蒸しあげて、冷めたものを切ってフライパンで焼いていただく。
こんがり焼くと香ばしくて、美味しさアップ。

KIMG0171.jpg

余りはタッパーに詰めてお持ち帰りするのだが、それが夫の夕食となる…

この会は作るのや食べるもの楽しいのだが、その後の会話が楽しい。
しかし、いい加減ダイエットしなきゃなぁ…と細っそりとお綺麗なマッダ〜ムたちを前にして思ったのだった。
この日もまた食べ過ぎ〜〜!


そうえいば、NHK Eテレ「カズオ・イシグロ 文学白熱教室」の放送は明日 7月17日(金)23:00-23:54 だそうです。

自作を紐解きつつ、自身の読書暦や発想法、21世紀の文学の位置づけについて語るという興味深い内容のよう。
サイン会の日の日中に、慶応で講演したとか聞いたけど、その時の様子かな?

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category: 料理

2015/07/15 Wed. 08:24 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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