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読書日記、ときどき食日記

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バチカン・エクソシスト/トレイシー・ウィルキンソン 

以前から興味があったのだが、文庫化されたのを機に読んでみた。

バチカン・エクソシスト (文春文庫)バチカン・エクソシスト (文春文庫)
(2010/04/09)
トレイシー ウイルキンソン

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低予算ホラーとして話題になった「パラノーマル・アクティビティ」、あれも一種の悪魔憑きの話だよね。
が、エクソシストと聞いて一番に思い浮かぶのはやはりあのホラー映画だろう。
あのように芝居がかったものは、映画の中だけの話かと思いきや、のっけから現代においても普通に行われているということに驚く。

小説「エクソシスト」のなかにこんな台詞がある。「エクソシストに会いたければタイムマシンにのって16世紀へ行くことだ」
しかし著者はいう。その必要はない。現代のイタリアへ行けばすむ話だ。


エクソシズム-悪魔祓いの儀式は中世の物語ではなく、バチカンも公式に認め現代イタリアで実際に日常行われている儀式だという。
信仰の篤い敬虔なクリスチャンの多い土地柄では、人々は何か問題が起こると、エクソシストの元を訪れたがるという。
しかし、自らが「悪魔憑き」だと訴える人々のほとんどが、本物の「悪魔憑き」ではない。
多くの人は精神科をはじめとした医療を必要としている。
エクソシストたちのその見極めは思いのほか慎重であり、精神科医と連携をしているものもいるくらいだ。
エクソシストたちは、意外とというと失礼だが、理性的な対応をしているように見える。
ふるいにかけて、本物の悪魔憑きを選別するのだ。

多くの精神科医やリベラルな考え方をする人は、それら自称悪魔憑きは、「ほとんど」ではなく「全て」精神疾患を抱える人達だと言うだろう。
おかしな現象は精神病の症状のどれかで説明がつくと。

しかし、全てが精神疾患を抱えるものだとして、その全てを医者が救えるわけでもない。
医療が見捨てた症状をエクソシストが救った例は現実にあるし、精神科医のなかにもエクソシストを信じている人はいる。

また、悪魔祓いの儀式は一回の儀式で悪魔が退散し被術者が回復するというものではなく、数ヶ月、ときには数十年にも及ぶものであるというのも興味深い。


本書はロサンゼルスタイムズ誌の記者による、エクソシストへの多面的なアプローチによって成り立っている。
複数のエクソシストと実際に悪魔祓いを受けている被術者にインタビューを行い、飽くまで客観的な視点に立ち、読者に現代における悪魔祓いの持つ意味を問いかける。

悪魔の存在それ自体に対する著者自身の考えは述べられていない。

私自身は、「悪魔憑き」という現象についての真偽は未だよくわからない。
幽霊を捕まえようとした科学者たち (文春文庫)のように、説明のつかない出来事は現実にあり、それを信じたいという気持ちもまたあるからかもしれない。


エクソシストに関して最も興味深いもののひとつは、バチカンの抱える信仰的な矛盾だ。

バチカンは正式にエクソシストを認めてはいるものの、その扱いは非常に慎重だ。
エクソシストは必要だが、実はあまりエクソシストに表に出て欲しくない。
カルトや迷信と同一視されるのは嫌だし、バチカンは理性的でありたいからだ。

この”理性の時代”、悪魔という概念はいかにも時代遅れだ。
悪が角を生やした容姿と人格を持つ知的存在で、どこかに存在し能動的に活動をしていると思うより、悪という普遍的で抽象的な概念を受け入れるほうがはるかに理性的だ。
聖書に書かれていることは全て真実であると妄信しているような人々はともかく、現代社会に暮らし教育を身につけているものには当然のことだろう。司教の中にさえ、そう考える人がいる。

しかし神への信仰によって成り立つバチカンは、悪魔を否定できない。
悪魔とは神に使えていた天使が堕落し変容したものだというストーリーが崩れてしまうからだ。

バチカンは現代にあわせ信仰を理性化する必要があるが、その理性化はともすれば信仰の根本に対する否定になりかねない。

悪というものが人格あるものとして存在するのか否か、についての統一された見解は得られていない。
これがバチカンのジレンマだ。
かくして、エクソシストはバチカンにとってやっかいな存在となる。

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category: ノンフィクション・新書

thread: ノンフィクション - janre: 本・雑誌

tag: バチカン  悪魔祓い 
2011/01/13 Thu. 23:07 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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