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読書日記、ときどき食日記

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お父やんとオジさん / 伊集院静 

伊集院静はどうしてあれほどモテるのか?
お世辞にもかっこい顔じゃないし、ギャンブラーの風来坊。それが夏目雅子を夢中にさせ、桃井かおり(若いときね)と浮き名を流し挙句、今の奥さんは篠ひろ子なのだ。(若い人は知ってるかな?)

そんなモテモテの伊集院さんは、奥様故郷である仙台在住なのだが、、先の311の東北大地震で被災している。原発事故も起き、海外の友人から「何人でも受け入れますから、すぐにこちらに避難して欲しい。」と懇願されたけど、
「大丈夫。ワシ、放射能強いから。」と言って断ったという。
避難せにゃならんのならまず子供と女性からだろうし、自分だけ真っ先に逃げ出すなんて格好悪いことは自分にはできないよ、ということなのだ。
それにしても、さすが伊集院静。この言葉、カッコいいではないか。


『大人の流儀』という彼のエッセイが売れているが、おそらく彼のいう「大人の振る舞い」とはこういうことなのではないかと思う。

伊集院氏は、韓国系日本人2世として山口県に生まれたが、本書に舞台も山口の田舎街だ。
本書と彼の生い立ちは否応でも重なる。小説の主人公、”ボク”とは伊集院氏自身であり、”お父やん”とは彼の父親だ。

この”お父やん”が凄いのなんの!こんな男、本当にいるの?ってくらい凄いのだ。
在日韓国人として、言葉もままならない日本に単身で渡ってきて一角の事業家として成功し、のみならず朝鮮戦争の最中に戦地に取り残さ苦境にある妻の家族を救出するために、朝鮮半島に乗り込んでいく。
”ボク"の母親=高山要子もまた在日韓国人だった。両親とともに日本で暮らしていたが、終戦後一家は嫁にいった要子だけを残して、半島に帰国してしまった。要子の夫、宗次郎(お父やん)が日本に残ることを選んだからだった。
その後朝鮮戦争が始まると、要子の弟 吾郎は、戦況に巻き込まれて立場を危うくし、過酷な潜伏生活を強いられていた。
それを知った要子は、泣き崩れ、夫に弟の救出を懇願する。「吾郎を助けて!」と。
ひとつ間違えれば命はない。けれども宗次郎は「何とかしてみよう。お前の親はわしの親だ。お前の弟はわしの弟だからな」といって半島へ向かうのだが…

驚くべきことにこの物語は実話だという。"ボク"がこの話を聞いたのはお父やん(=宗次郎)の番頭さんであるシミゲンさん(=清水権三)だが、おそらくこのシミゲンさんも実在の人物なのだろう。
改造船で海を渡り、半島をさまよう”お父やん”の逃避行はそこいらの冒険小説など目ではないくらいの迫力とリアリティがある。

"お父やん"はこの時、35歳。仕事で成功し生活は豊かで、妻のお腹には4人目の子供がいた。全く今の時代、どこにこんな状況で危険の最中に飛び込んでいける男がいるのだろうか。
伊集院静はこういう父親の血をひいているのかぁ〜と妙に納得する。
男の生き方、人生とは何なのか、著者はそう問いかけるが、今の"個"の時代、これはガツンとくる。

"お父やん"と”オジさん”、この二人の対照的な描かれ方も面白い。
貧しい農村の三男で、片道の船賃だけを手に単身日本に渡ってきて、言葉も分からず苦労した”お父やん”。
日本で生まれ、父親の庇護のもと韓国人ながら旧姓中学へ進学したが、半島に引き上げてからの差別に耐えられなかった"オジさん”
スポイルされてしまったため、苦労に耐えられないというのは、全く私のような世代の人間に当てはまることで、頭が痛い。

在日という言葉には、差別されることへ怨嗟がつきものだが、本書ではそれは感じられない。
「別に他所者でなくとも人間は弱い者を虐げるものですよ。強く生きていればそんなことは平気なはずです。」
「義兄さんは強い人ですね。」
「強いのではなく、そうするしか生きて行けないのだと思いますーーー」

今でも在日の人たちに対する差別は存在する。宗次郎が日本に渡ってきた戦時中はなおさらだっただろう。当然、日本人からはあからさまに軽んじられる。
しかし辛抱強く相手を仕事を続け、何年かすると相手は宗次郎を信用し、仕事相手として認めるようになったという。
生きるために必要なのは、覚悟と信条。そして自分が弱い者だということを知っていることだ。
冒頭の"いい女たち"は伊集院静に引き継がれる”これ”に惹かれたのではないかと思った。


お父やんとオジさんお父やんとオジさん
(2010/06/08)
伊集院 静

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伊集院静といえば長友さんの装丁。内容に比べあっさりしてるようにも感じたけれど、やっぱり味わい深い。
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category: 文芸

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 伊集院静  朝鮮戦争  在日  自伝小説   
2011/07/08 Fri. 17:40 [edit]   TB: 0 | CM: 3

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この記事に対するコメント

直木賞選考委員たる作家としては、叙情的な小説に絞って言葉遣いに責任をもつつもり...!?
エッセイの読者である私には、彼が自分の流儀には強力な自信をもっているのに、その表現について責任を持たないで書き飛ばしているかのようにも感じられて眩暈がします。
(しかもその肩書きがついて回る名前で書かれているもんですから...)

エッセイについては今のままの筆名の筆は折るという考え方をするのが、彼の披露してきた流儀の徹底としてふさわしく思えてしまう(少なくとも私には)。それらについては別の筆名とするなり...
これからもエッセイの責任のとりかたはこんなスタイルで行かれるんであればですけれど。

伊集院綾乃渚 #Zcvq3aKA | URL | 2012/02/20 Mon. 01:38 * edit *

Re: 弘法にも筆の誤り

読者さん・・・コメントありがとうございます。
厳しいっすね。
でも、これ、編集者もスルーしてるんですよね(笑)

確かに本来のつかい方とは違いますよね。
「貸し切り」という言葉が含有しているそもそも主体は店側であるということを私などもつい忘れがちです。
私自身も「じゃぁ、あの店貸し切りにしちゃう?」というように「貸し切る」という言葉をつまり英語でいうchaterという意味として捉え日常的に使っています。
”正しい日本語”であるならば、そこは「借り切っちゃう?」ですよね。
「貸し切る」主体は私ではなく店側ですから。

「ら抜き言葉」も昔はひどく非難されましたが、今はもうかなり定着してますよね。
言葉って生き物だから、元来の意味とは違う意味で使われていたとしても、それが次第にある種「正しい」言葉として通用していく、ということもあるのかなぁとも思います。

ところで読者さん、「リアル鬼ごっこ」という本をご存知でしょうか?
かなり以前ですが一時はコンビニなどにも置かれていたことがあるくらい若者に人気のあった作家の本です。
この本のAmazonレビューを是非是非ご覧になってください。
凄すぎるとかえって反応できなくなるものですが、本当にぶっ飛びますよ(笑)
多分、伊集院氏の些細なミスなど吹き飛ぶくらいに。

私は伊集院氏のファンです。が、それを差し引いたとしても彼が紡ぐ文章は美しいと思います。そしてその文章が織り上げる何とも言えない叙情的な小説を愛しています。私に限らず多くの彼の読者の方がそうでしょう。
だから、ちょっとした失敗に目をつぶって欲しいな。

Spenth@ #- | URL | 2012/02/16 Thu. 18:55 * edit *

伊集院静、進退の流儀

伊集院静氏は直木賞選考委員を務め、大学で日本語の素晴らしさに関する講演にも力を入れているようだ(*)
現在、週刊現代に「それがどうした 男たちの流儀」も連載している。傍若無人的な不遜さのスタイルで貫かれたエッセイである。
その第百十五回「大人の男だけが座れる場所」に、銀座の鮨屋が客に店を貸し切らせたという話が出てくる。
ここで目を疑う一文が登場する
  ・・・聞けば貸し切ったのは成金である。・・・
「借り切ったのは成金である」という意味のことを伝えようとしたのだろう。だが、氏の書いた日本語は結果的に「貸し」と「借り」を誤ったまま誌上掲載された。
さらには同じ回の末尾には、鮨屋とは別のエピソードの中であるが
  ・・・これが正しい日本語の使い方・・・
というように日本語を大切にする作家としてのプライドを見せつけている。
プロのプライドを見せ付けておきながら、完全に日本語を間違ったまま掲載させるなど、本当に責任あるプロなのか?
氏がまさに大切にしている日本語に関することである。作家としての筆を折るべきか覚悟が問われるはずである。

(*) 武庫川女子大学での講演(2010/2/27)「日本語のゆたかさ」
   ttp://video.mainichi.co.jp/viewvideo.jspx?Movie=48227968/48227968peevee298953.flv

読者 #Zcvq3aKA | URL | 2012/02/04 Sat. 01:13 * edit *

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