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読書日記、ときどき食日記

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暗闇の蝶 / マーティン・ブース 

日本ではあまりなじみのない作家の幻の名作というのはたくさんある。
翻訳ミステリが好きな人でも、マーティン・ブースと聞いて「ああ、あの作家ね」と言える人は、かなりの通だと思う。
本書は再翻訳版だ。95年に
『影なき紳士』というタイトルでも刊行されているそう。
原題は「A Very Private Gentleman」
注目を浴びて再出版の運びとなったのは、7月2から公開になっているジョージ・クルーニーの映画「The American(邦題:ラスト・ターゲット)の原作になったから。

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ハリウッドの人気俳優の映画の原作にならなければ、本書が再度翻訳しなおされて刊行されることはなかっただろう。そういう意味で、映画化には感謝しなければならない。
どこかの古本屋の片隅でしか手に入らなくなってしまうには、あまりにもったいない。
映画は観てないけれど、大沢在昌の評を読む限り、かなりハリウッド的にカスタマイズしたのかなという印象。
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さて、本書は多分ハードボイルドミステリなんだけれども、ハードボイルドにありがちな派手派でしい銃撃戦やアクションもなければ、息をのむようなサスペンスもない。
本書は、ある男の静謐で詩的な告白録だ。
舞台はイタリア中部の田舎街。その男シニョーラ・ファルファッラは長期滞在者として暮らしている。外国人でイタリア語は上手くない。皆イギリス人だと思っており、彼もそれを否定はしない。
シニョーラ・ファルファッジ(Mr.Butterfly)と呼ばれているのは、彼が蝶の絵を描いて暮らしている絵描きだから。しかしそれは偽装だ。
彼の本当の名前が何なのか、本当の職業は何なのか、誰も本当のことは知らないし、彼は読者にすら出し惜しみをする。「影の住人」である彼はそれほどまでに用心して暮らしている。
ただ、物語中盤、彼が何者なのかということは彼自身から明かされるし、そうでなくともだいたいの察しはつく。
彼はもう若くはない。鍛え上げている肉体はまだ見た目は若いものの、引退を考える時期にさしかかっており、この仕事を最後にしようと考えている。
そんな折り、彼の周囲に「影の住人」の姿がちらつき始める...。

察しのいい人は、この後の展開が読めるだろうし、それは多分外れてはいないはずだ。
本書の読みどころは筋ではない。そしてハードボイルドでありながらも、賑々しいアクションは必要としない。
この小説というか告白録の素晴らしさは、最初にページを捲ったときから惹き込まれる美しいイタリアの風景と、数多くの蘊蓄や哲学であろうと思う。
数えきれないほどの戦争を体験し、数えきれないほどの山賊や政治家が跋扈していたイタリアでは、地図は買えない。地形や山道、使われなくなった道路の乗っている地図が一般には手に入らない。
「影の住人」たる主人公が身を潜めるには都合がよいイタリア。
いい車、いいワイン、いい女、いい本、いいサラミ、価値あるものの性別は全て女性であるイタリア。
イタリアはロマンスだ。
カソリックの神父との宗教談義、バールでの仲間との政治談義、そしてクララとの関係、このイタリアの街の全てが輝いている。
これほどまでにまぶしいのは、シニョーラ・ファルファッラつまりエドマンドの望郷だからだ。
いつも誰かが影のなかで待ち受けていることを無条件に受けれてきた彼が、過去を振り返らず未来だけのために生きてきた彼が、初めて戻りたいと願う場所だから。
人が戻りたいと願う場所には、愛おしい人間がいるからなのかもしれない。
ラストは苦い結末だが、時とともに主人公にとってさらに苦いものになっていくことだろう。
思い出の中のイタリアが輝けば輝くほどに、エドマンドのいる場所の影は色濃くなる。


暗闇の蝶 (新潮文庫)暗闇の蝶 (新潮文庫)
(2011/01)
マーティン ブース

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静かなのに、これぞハードボイルド。もうジリジリヒリヒリは求めないというような、男性好みの小説だと思います。


 いつもありがとうございます。

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category: スパイ・冒険・ハードボイルド

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tag: 映画化  原作    海外ミステリ  マーティン・ブース 
2011/07/20 Wed. 14:08 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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