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読書日記、ときどき食日記

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特捜部Q 檻の中の女 / ユッシ・エーズラ・オールスン 

ユッシ・エーズラ・オールスンはデンマークのミステリ作家で、訳者によるとデンマークのお隣ドイツでは、ダン・ブラウンにも匹敵するほどの人気作家らしい。
北欧ミステリが世界的な脚光を浴びたのは、なんといっても故スティーグ・ラーソンの『ミレニアム三部作』によるところが大きい。スティーグ・ラーソンは、ブレイクの最中に急逝したことによって特別な存在になった。
一旦発火した北欧ミステリ熱は収まることなく、ポスト・ラーソンはしばらくJo Nesboが担っていた。だが、この『特捜部Q』シリーズによって、ユッシ・エーズラ・オールスンに引き継がれたといっていいんじゃないだろうか。

(Jo Nesboは英米では人気があるようだが、日本ではあまり知られていないと思う。唯一日本語に翻訳されたのは知るかぎり
『コマドリの賭け』のみ)

本書『特捜部Q 檻の中の女』は、ミステリのカテゴリではいわゆる「警察もの」に該当する。系譜はヘニング・マンケルに近いかな?
つまり、中年刑事が主人公で、様々なトラブルを抱え苦悩しているのだ。そして高福祉国家で日本では美化されすぎている北欧諸国の例にもれず、デンマークにも社会構造的な問題を抱えている。
ただ、マンケルと違うのは、『特捜部Q』って、クスっと笑えるんですよ!!!

さて、主人公は、コペンハーゲン警察殺人課のベテラン刑事カール・マークである。彼はある捜査の失敗によってPTSDに苦しんでいた。刑事の例にもれず私生活は破綻、挙げ句に二人の優秀な部下まで失ってしまったことから、捜査への情熱は完全に消えてしまっていた。
そんな彼を持て余していた上司は、カールを「特捜部Q」の責任者に据えることにする。「特捜部Q」はコールドケースを専門に扱うという目的で、パフォーマンス好きの政治家の肝いりで新設されることになったセクションだった。しかし、新部署のボスといえば聞こえはいいが、結局のところ体のいい左遷だ。
上層部は、カールを捜査の第一線から外すのみならず、その新セクションに割り当てられる予算を、自分たちの部署に流用しようと目論んだのだのだった。
特捜部Qにあてがわれたのは、地下室で、カールの部下はシリア系移民と思われる雑用係のアサドだけ。部下のアサドは刑事ですらない。やる気など微塵も起きないが、形だけでも何かに取り組まなくてはならない。山とあるコールドケースのなかから彼が選んだのは、5年前に起こった女性議員ミレーデ・ルンゴーの失踪事件だ。
当時、ミレーデは民主党の若き副党首であり、その美しさと媚びない姿勢から圧倒的な人気を誇っていた。それが、2002年ドイツへ向かうフェリーの中で行方不明となったのだった。
しぶしぶ始めた再調査だが、雑用係のアサドの思わぬ活躍によって真相が明らかになっていくのだが…。


2002年のミレーデに起こったことと、2007年現在のカールたちの物語は交互に語られていく。
この物語の主人公はカールだといってよいが、ミレーデはもう一人の主人公、ヒロインといっていいだろう。
彼女は、10代の頃に事故で両親を亡くし、その事故の怪我で脳に障害の残った弟の面倒をみてきたため、プライベートでの他人との付き合いは極端に制限していた。カール同様、ミレーデ自身も事故のトラウマを抱えていたのだった。

そんなミレーデに起こった出来事は、もう悪夢としか言いようがない。監禁はこの上なく残酷に人間としての尊厳を奪う。だがその先にもっとショッキングなことを企てられている。これはなかなか強烈だ。
憎しみや怨念は、次第に狂気へと変貌していくが、その不思議に整合性のとれた狂い方というのは一体何なのだろう?
これに鮮やかに対比させているのが、ヒロインであるミレーデの強さである。
内田樹氏は、「人が頑張れるのは、それが"自分のため"だけの場合よりも"他者のため"に働くときだ」と言っているが、これを思い出した。ミレーデは、面倒を見なければいけない弟のために頑張ったのだ。自分だけのためであったなら、とっくに発狂していただろう。

もう一つ、本書をありがちな刑事小説でなくしているものは、雑用係、アサドのキャラクターである。
彼の存在は、物語にユーモアとミステリを与えてくれている。このユーモアこそが、今までの暗〜い北欧ミステリとの違いだろう。
アサドの本来の仕事は雑用係で、掃除をしたり珈琲を入れたりすることなのだが、彼は捜査官として抜群に優秀なのだ。記憶力は抜群で人好きもする。特に女性受けは抜群で、カールを敵視している他部署の秘書も丸め込むことができる。カールとは実にいいコンビなのだ。
そして、なぜかQのある地下室に住んでいるのだ。そのため、Qの部屋には、アッラーへの礼拝のとき膝をつくための小さなカーペットが持ち込まれ、ランチに持参するお国のスパイシーなパイの臭いが充満する始末。このアサドの素性は謎のままで、どうもアサドという名前すら怪しいのだ。
カールの同僚に銃弾を浴びせた事件の真相とともに、アサドの正体は今後この『特捜部Q』のシリーズを貫く核となっていきそうだ。

欲を言えば、もう少しスムースに読みたかったかな。
訳はともかく、誤変換や句読点のダブりはチョットね。

特捜部Q ―檻の中の女― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1848)特捜部Q ―檻の中の女― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1848)
(2011/06/10)
ユッシ・エーズラ・オールスン

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英語版はMercyThe Keeper of Lost Causes (Wheeler Large Print Book Series)のツーヴァージョン。

やっぱりというか、第二弾では翻訳者が変更に...。
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category: クライム・警察・探偵・リーガル

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tag: 海外ミステリ  北欧ミステリ  特捜部Q  早川書房  デンマーク 
2011/10/22 Sat. 10:53 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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