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読書日記、ときどき食日記

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シンドローム E / フランク・ティリエ 

観るものの視力を奪ってしまった奇怪な短編映画、工事現場で発見された頭蓋骨が切開された5体の遺体うんぬんかんぬん・・・
『リング』かよ?ということは、貞子かよ?
と思いきや、意外なことにマイケル・クライトン風だった!という…あまり話題にならなかったけど、個人的にはお気に入りとなった一冊。
そしてもっと驚くべきことに、これ、フレンチミステリなんですよ!!!

さて、主人公はリューシー警部補(♀)とシャルコ警視(♂)という二人の刑事である。(おフランスというが非英語圏は名前がねぇ…)
シャルコ警視は、かつてはパリ警視庁の辣腕刑事だったが、過去のある事件で家族を失い、その苦しみを抱えながら猟奇殺人犯と日々対峙しているうちに精神に異常をきたしてしまった。妄想型統合失調症を患ってしまったのだ。そのせいで、第一線を退いたが、懇意にしている上司の計らいで行動分析官として再び働くようになったばかりだ。
今もまだ彼には抗精神薬は欠かせない。未だ、彼には彼にしかみえない少女がみえるし、その少女のためにいつもカクテルソースとマロングラッセをせっせと買い込んでいる始末だ。
一方のリューシーは、文書整理に追われる下っ端だったが、ある事件の捜査で功績を認められて警部補に昇進したばかり。燃え尽きた感のあるシャルコに対し、リューシーは仕事に情熱を持っていて、二人の女の子のシングルマザーであるにもかかわらず、目下のことろ仕事のほうが面白くて仕方ない。

そんなリューシーのもとに、かつてのボーイフレンドから一本の電話がかかってくるところから、物語は始まる。
熱心な映画マニアである彼は、ベルギーのコレクターから入手した短編映画を自宅で観ていた途中で目が全く見えなくなってしまったというのだ。
その短編映画は、1995年に制作されたもので、不気味なシークエンスがただ連なっているというストーリーのないものだった。
同じ頃、シャルコ警視はフランス北部のパイプラインの工事現場で発見された5体の遺体の捜査を担当を命じられる。遺体は全て頭蓋骨が切り取られ脳と眼球が摘出されていた。手首から先は荒っぽく切断され歯も抜き取られていることから身元は分からない。
八方ふさがりの状態の中、インターポールから送られてきた一通の電報によって事件は大きく動き出す。
一見なんの関係もなさそうな短編映画と工事現場に埋められていた5つの遺体の事件は、意外な繋がりを持ち始めるのだが…。

フレンチミステリってあまりピンとこなかったのだが、著者のフランク・ティリエはフランスではダントツ人気の実力派作家なんだとか。
フランスものというと、さぞかし読みにくいんだろうと思ったけれどあにはからんや。これが全然。翻訳も上手いんだろうけれど、おそらく原文もシンプルで簡潔な文章なんだろうと思う。おフランス臭はほとんどない。
物語の舞台も謎を追って、フランスを飛び出しケベックへと移っていくのだが、このケベックの暗黒の歴史もしっかり調べてあって読み応えも充分だった。

インタビューを読むと、ティリエは終始「心の闇」をモチーフに描いてきた作家ということだ。本作で扱う事件も暗く陰惨だ。だが、ティリエは「心の闇」をただわからないもの、不気味なものというだけでは終わらせない。その根の本質に科学的にアプローチしようとするのだ。サイコスリラーの多くが同じ穴にはまり込んでしまう中にあって、彼の脳化学やニューロマーケティングを用いたアプローチは、新鮮だった。

暴力的な映像は子供たちの従順な脳にただならぬ影響を与えている、というのはよく聞く話だし、アメリカの高校で起こった銃乱射事件などもそれが一因であるとも報じられている。激しい暴力シーンのある映画には、R指定をして制限をかけることも義務づけられてもいるし、一定の規制もあることにはあるが、それでも今日私たちは意識しているとしていないとに関わらず様々な形で映像を目にし、無意識にそれに支配されている。
恐ろしいと思ったのは、主人公の二人が捜査の過程で意見を求めた画像診断学の専門家のこんな言葉だ。
「あなた、疲れたときはどうしています?家に帰ってディスプレイの前でくつろいでいるのでは?映像の前で脳を全開にさせてうとうととまどろみながら意識を朦朧とさせて。それが一番狙われやすいときです。こちらで望んだ通りのものを、あなたの頭に注入できるんです。」
いわれてみれば最近特にテレビを観るほどに疲れるのだ。

本書には続編『Gataca』があり、既に刊行されているフランスでは本書と同じくらいの高い評価が寄せられている。エピローグではこの続編『Gataca』を読まずにはおれないような演出がなされているのだが、ずるいというか上手いというか…。もう、こんなことされたら、絶対次も読んじゃうでしょ!!!
ただ、この続編の日本語版の刊行は決定しているらしいので、ご安心を。


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category: サイエンス系ジャンルミックス

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag:   早川書房  フランス  ティリエ 
2012/02/20 Mon. 17:09 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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