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読書日記、ときどき食日記

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皇帝のかぎ煙草入れ / ジョン・ディクスン・カー 

昨年あたりから、東京創元社がカーの作品の新訳に着手し始めているようだ。
カー作品の中で、おそらく一番新訳版が望まれているのは、『三つの棺』ではないだろうか。あれはもう見事なまでの悪訳だもんなぁ ...( = =)
ただ、カー作品の人気投票を行えば、この『三つの棺』と『皇帝のかぎ煙草入れ』の全く異なるこの二作品に割れるのではないだろうか?

その『皇帝のかぎ煙草入れ』が次回の読書会の課題図書なのである。

横浜読書会の素敵なHPはこちら→ http://www32.atwiki.jp/yokohama_rg/

初めての古典、初めての本格、ということで盛り上がりそうなので、これを機会に新旧訳版をざっと読み比べてみた。確かに読みやすくなっている箇所や、表現が変更されているところも少なからずあるが、『三つの棺』とは違って、そもそも旧訳には不都合なところはない。
そうなると単純に好みの問題である。新訳版もいいけれど、懐古的な趣のある井上訳のほうが私は好みだったカナ?

例のゴロン署長の「zizi-pompom...」も「目にもあやな大輪の花」より「打ち上げ花火みたいな女」のほうがしっくりきた。実際はもっと品のない言い回しみたいだけども…。

さて、本書のヒロインのイヴ・ニールは、フランスの避暑地ラ・バンドレッドで優雅に暮らす英国人だ。底抜けのお人好しで、疑うことを知らない性格の美女。前夫ネッド・アトウッドとは、最近離婚が成立し、今は、お向かいのロウズ家の息子トビィと婚約している。
夏も過ぎたある夜遅く、前夫のネッドはイヴの寝室に忍び込んで復縁を迫る。バツが悪いほど向かい合ったロウズ家の真向かいの部屋では、トビィの父親のモーリス卿が趣味の収集品を眺めているらしいが、イヴは誤解されるのを恐れて助けを求めることができなかった。ネッドに部屋から出て行くように訴えるが、その最中に、カーテンの陰から死体となったモーリス卿を目撃してしまう。その時、まさに茶色の手袋をはめた人物が部屋から出て行こうとしていた。
ロウズ家がモーリス卿の死を知って騒ぎ始めたので、彼女は慌ててネッドを追い出すが、思いがけない出来事から彼女がモーリス卿殺害の容疑者にされてしまうのだった。
無実を証明してくれるのはネッドだけだが、彼が夜遅く自分の寝室にいたということは誰にも知られたくはなかった。しかもネッドは慌てて追い出された時に転倒したことから脳震盪を起こし、ホテルで意識不明に陥っていたのだ。
状況証拠も揃っており、身の証を立てることのできない彼女は窮地に立たされるのだが…


トリックを成立させると同時に、それを暴く「皇帝のかぎ煙草入れ」という道具を、ずばりタイトルに持ってきているのは心憎いばかり。「さすがの私も脱帽する」とクリスティが賛辞を贈ったのは有名である。
私はあまり「本格」は好んで読まないのだけど、これくらいエレガントなトリックもそうないのじゃないかと思う。
敢えて些細なことを言うなら、ロウズ家のスパニエル犬は何やっとたんじゃ?という気もしないでもないが、きっとお腹いっぱいで、ぐっすり眠っていたのでしょう(笑)
ほぼ完璧で破綻がない上に、きっちりとヒントを与えてくれているので、「Why」はともかくとして「Who」と「How」については「わかってしまった!」という方も結構いることだろう。
実は私もわかってしまったクチ。だから、昔読んだときには、どうして皆が絶賛するのかがよくわからなかった。

よく心理的盲点を突いたものであるとか言われるが、読者を欺くという意味では実は「叙述」というべきなのかもしれない。ネッドの登場シーンなどもその最たるものだ。

イヴを窮地から救い出す探偵役は、これ一話きりの登場となるキンロス博士である。彼は、犯罪心理学ではイギリスで一番という精神科医で、地元警察のゴロン署長の友人という設定だ。
「へっ、へっ、へっ」と笑うフェル博士のような不気味キャラではないし、人徳があり風采も悪くない。とくれば、誰しももうひとつのストーリーを予想するだろうが、それは間違ってはいない。

昔々、この本を読んだ時はトリックの他に読むべきものはないと思っていたが、今こうして読み直してみると、どうしてなかなかのものだ。カーのシンボルたるオカルト趣味もないし、登場人物も薄味だと思っていたが、最低限の登場人物と短い物語の中に、実はエンタメの要素は詰まっている。
お馬鹿なだけだと思っていたイヴは、四十路の斜め目線でみてみれば、「すごい男殺しのように見える」のではなく、なんとそのものだったりした!!!

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(1981)
ディクスン・カー

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(2012/05/18)
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category: 古典・本格

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  本格  ジョン・ディクスン・カー   
2012/07/23 Mon. 21:30 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: タイトルなし

naoさん、こんばんは。

> 「かぎ煙草」はどうかなぁ・・ビミョーな感じです・・。
> 新訳になって読みやすく鮮度はあがっても、トリックのそれまで変わるはずもないからなぁ・・。

あはは。私も昔昔読んだ時は、チョーつまらないと思ってました。
そもそも本格自体が好みじゃないので...。
でも、ひねた読み方をすればこれもなかなかかもなぁ、とイヴちゃんとキンロス博士の顛末を読んで思ったのでした。鮮度はかえって井上訳のほうがよかったやもしれません。せっかくの新たに訳すのなら、もっと砕けても良かったんじゃないかな?という気がします。

> ところで、カーの人気作は「三つの棺」と「皇帝のかぎ煙草入れ」に二分ですか?
> 自分は「火刑法廷」派と「皇帝のかぎ煙草入れ」派だと思っていました。
ああ、「火刑法廷」がありますね。
でも、やっぱりメタミステリの走りでかつダブル密室、おまけに「密室講義」のある『三つの棺』は外せなくないですか?私だけかな?

> 最も、自分のお気に入りは「帽子収集狂」なのでした・・少数派閥に所属。
> (そう、この作品、ある部分が「オリエント急行」と類似していましたなぁ)。
私はこの作品は未読です。というか未読のほうが多いかも。
図書館で探してみようかな?

> ・・例の「わたしが眠りに・・」発売日、暑いさなかを買いに行きましたが、
> 書店を三つも巡ったものの、ありませんでした(買えませんでした・・怒!)。
> で、図書館に注文(ヴィレッジブックスめ!もう絶対に買うもんかい!)。
さすが、弱小出版社というべき?
あれほどの作品が、どうして大手から出なんだか・・・orz

> Spenth@さんお気に入りの古典ミステリは何です?
私は古典あまり読んでいないんですよ。正直今更面倒というのが先に立ってしまって。
おまけに新しいもの好きで、飽きっぽいしときてる(笑)
今度の古典読書会で、その道の達人に聞いてみます。

Spenth@ #- | URL | 2012/07/24 Tue. 20:36 * edit *

読書会の課題図書、「かぎ煙草入れ」ですか、古典ミステリの話題で盛り上がりそうですなぁ。
自分も先月、クリスチアナ・ブランドの作品をまとめて読み(といっても七冊ほど)、
愉しい読書時間を過ごせました・・『未読』が多かったせいかも・・というのは、
最近「オリエント急行」など『再読』したところ、あまりのつまらなさに愕然としたのでした。
古典ミステリの『再読』は、初読のよいイメージの破壊に繋がりそうでコワい(トラウマ)です。
「かぎ煙草」はどうかなぁ・・ビミョーな感じです・・。
新訳になって読みやすく鮮度はあがっても、トリックのそれまで変わるはずもないからなぁ・・。

カー作品はかなり出来不出来の差がはげしいと聞いていますが、
幸い自分の読んだものの中にはそうヒドイ作品はなく・・いやいやいや、
国書刊行会の例のシリーズ(?)の中にヒドイのあったっけ(タイトル失念)。
ところで、カーの人気作は「三つの棺」と「皇帝のかぎ煙草入れ」に二分ですか?
自分は「火刑法廷」派と「皇帝のかぎ煙草入れ」派だと思っていました。
最も、自分のお気に入りは「帽子収集狂」なのでした・・少数派閥に所属。
(そう、この作品、ある部分が「オリエント急行」と類似していましたなぁ)。

・・例の「わたしが眠りに・・」発売日、暑いさなかを買いに行きましたが、
書店を三つも巡ったものの、ありませんでした(買えませんでした・・怒!)。
で、図書館に注文(ヴィレッジブックスめ!もう絶対に買うもんかい!)。

Spenth@さんお気に入りの古典ミステリは何です?
おススメがあれば教えてください・・では!

nao #6gL8X1vM | URL | 2012/07/24 Tue. 19:26 * edit *

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