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読書日記、ときどき食日記

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尋問請負人 / マーク・アレン・スミス 

ハードボイルドのジャンルでは、主人公の職業は大方決まっている。警察官、私立探偵、偶然事件に巻き込まれてしまうジャーナリストや元レンジャー等々...。設定もストーリーもパターンに陥りがちだ。しかし、この著者はよくわかっている。主人公にこれまでにない特異性を与えて、パターンを突き破っている。
だって、尋問官なんだもーん!!!

「これほど独創的なデビュー作は読んだことがない。読者は数日間部屋からでることはないだろう」
かの『将軍の娘』のネルソン・デミルは、本書にこう賛辞を贈っている。
マーク・アレン・スミスは小説家としては新人だが、長年テレビ業界の報道やドキュメンタリーといった分野で活躍してきた人間だけあり、我々大衆が何に食いつくのかを知っていると思う。

主人公ガイガーの職業は、曰く情報獲得業だ。だが彼の依頼人たちはガイガーのことを尋問請負人と呼ぶ。血なまぐさいスペルが表すように、ガイガーの仕事は拷問によってターゲットから”真実”を聞き出すことなのだ。
まばたきをしない瞳に抑揚のない声、ガイガーの佇まいは冷酷な依頼人をも不安にさせる。そして特徴的なわずかに脚をひきずるような歩き方。
苛酷な体験のせいでイカれてしまったのだとか、国家安全保障局の手の者であるとか、ガイガーにまつわる噂は数あれど、誰も彼の素性は知らない。相棒のハリーも。当のガイガー自身ですらも…。
実はガイガーには、15年前長距離バスでN.Y.にやってきた以前の記憶がないのだった。彼にファーストネームはない。名前はガイガーだけ。このガイガーという名前自体も、偶然通りかかった書店に陳列されていた美術書にちなみ自分でつけたものだ。
しかし彼にまつわるどの噂も、この道では最優秀だという点は共通している。
ガイガーはあらゆる痛みに通じており、また嘘を聞き分ける天賦の才があった。Inquisitorはいわば彼の天職なのだ。
彼の手法は極めて洗練されていて、ターゲットを殆ど損なうことなく目的を果たすことができる。生きて釈放する見込みのないやり方で名を馳せている彼の同業者ダルトンとは、その点において対照的だ。
ガイガーは、これまで一人としてターゲットを死なせたことはないが、それは彼が”仕事”を引き受けるにあたり厳密な決まりごとを設けているからだった。そのひとつが「子供の尋問は引き受けない」ということだった。だが、ある日、それが破られるような事態に陥ってしまう。
その依頼は、ガイガーの定めた厳密な手続きを踏んだもののはずだった。しかし依頼人はターゲットの捕獲に失敗、代わりにガイガーの元に連れてこられたのは、ターゲットの息子だったのだ。もしもガイガーが、エズラという名のその少年の尋問を断れば、その子はダルトンの元に送られるという。決して生きて釈放される見込みのないダルトンの元に…

感情すらも過去とともに失くしてしまったかのようなガイガーの印象は、これを契機に大きく変わる。第三者的視点からみていたガイガーに、我々はいつしか共感していく。
ここに来て、本書のテーマの何たるかが見えてくるのだ。訳者が指摘するように、尋問の手法といったInquisitorという特異性を描くだけの小説ではない。
我々が求めるのは、失われたガイガーの生い立ちや、なぜガイガーにとって尋問が天職となるに至ったのかである。正体不明の敵からエズラを守ろうとする戦いを通して、それは次第に明かされてゆく。そのシーンは、言葉ではいい表せないほどに壮絶だ。
だが、ガイガーの背景的事情については、なおも空白のまま。これには賛否あることだろう。だが、それは不必要なのかもしれないし、続編のためにとってあるのかもしれない。後者だと思いたいのはいわずもがなである。


尋問請負人 (ハヤカワ文庫 NV)尋問請負人 (ハヤカワ文庫 NV)
(2012/05/05)
マーク・アレン・スミス

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category: スパイ・冒険・ハードボイルド

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  早川書房 
2012/07/31 Tue. 17:09 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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