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読書日記、ときどき食日記

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女性のいない世界 ~性不均衡がもたらす恐怖のシナリオ / マーラ・ヴィステンドール 

なんという刺激的なタイトル!
原題は『Unnatural Selection』、直訳すれば不自然淘汰である。
本書は、その人為的淘汰がいかにして行われたかを語り、そのせいでもたらされた性比のアンバランスが引き起こす深刻な社会問題を指摘するものだ。

人為的な女児の淘汰は、産み分けによってなされている。
日本や先進諸国では産み分けは禁止されているが、望ましい性別の赤ちゃんを求め、タイに渡航する日本人が急増しているという。
タイで産み分けをする日本人の9割は女の子を希望するというが、特に中国やインドなどのアジア圏においては、男の子ののほうが好まれる。姑からの圧力もあり、母親たちは「男の子が生まれるまで」妊娠をし続ける傾向にあったという。
しかし、80年代以降、超音波診断がメジャーになったことで、状況は劇的に変化した。超音波診断で女の子とわかると、中絶するようになったのだ。それには、爆発的な人口増加を懸念する国家の圧力も影響している。中国は、悪名高き一人っ子政策をとり、インドなどの発展途上国では「子供は二人まで」ということが奨励されていた。だから、絶対に男の子が欲しい親は、女児なら中絶を選択したのだ。子供の数の制限は、単に出生率を下げるにとどまらず、産み分けを促進したのだ。
デリーの中絶クリニックでは、野良猫が血にまみれの女の胎児を咥えてうろつき、中国では、胎児は無造作にバケツに入れられ放置されていたという。
このように、中絶によって生まれてこなかった女児の数は、アジア全体では実に1億6000万人にも及ぶという。これはアメリカ全女性人口よりも、日本の総人口よりも多い。そして、アジアのみならず、東欧諸国でも産み分けは増加しているという。
人為的な女児の淘汰は、猛烈な性比のアンバランスをもたらす。気がつけば、どこもかしこも男の子ばかりになるのだ。
中国の港湾都市、連運では、4歳未満の子供の性比はなんと163にも及ぶ。つまり女の子100人に対し男の子は163人の割合というわけだ。
彼らが成人期に達する頃には、深刻な嫁不足が生じるだろう。パートナーを見つけられない彼らは”余剰男性”と呼ばれる。余剰男性、余った男性。この言葉の持つ響きはどうだろう?
比較的裕福な余剰男性は、自分たちよりも貧しい地域から嫁を買い入れる。文字通り”買う”のだ。そして輪廻のように息子を持つことに執着するのだという。
女性不足は、女性の価値を増すものの、女性の幸福には繋がらない。価値を置かれるのは、セックスや出産といった部分に限られるからだ。花嫁ビジネスだけでなく売春ビジネスもまた需要を増し、人身売買は活況になる。
その上、多すぎる余剰男性は暴力犯罪を着火剤になりかねない。それはストレスと、高いテストステロン値が維持されるからだという。テストステロンは暴力の直接原因ではないが、攻撃性を促進する効果があると言われている。男性ホルモン量は、既婚で子供を持つようになると減少する傾向にあるという。既婚男性に比べ、独身男性のほうが統計的にみて暴力傾向が強いのはこのせいらしい。余剰男性には、この高いテストステロンを減らす機会はないのだ。
かくして世界的規模で暴力化は進んでゆく…

いやはや、SFかと思うほどのシナリオだ。性比のアンバランスが引き起こす問題に、対岸の火事ではいられない。
日本人がタイで行っている産み分けは、着床前診断という方法だ。受精卵の段階で性別を確認し、望ましい性別でなければ、子宮に戻さない。体外受精が前提なので費用はかかるが、経済発展を遂げたアジアのエリート層を中心に急速に拡がっているという。

今後、産み分けは男女の判定の他にエスカレートしていく可能性がある。瞳や髪の色、背の高さ、IQ…
行き着く先はデザイナー・ベビーだ。全ての希望を兼ね備えた完全なる子供の産み分けかもしれない。その診断を提供する準備のある医師は既にいるのだから。




女性のいない世界 性比不均衡がもたらす恐怖のシナリオ女性のいない世界 性比不均衡がもたらす恐怖のシナリオ
(2012/06/22)
マーラ・ヴィステンドール

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category: ノンフィクション・新書

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

2012/08/08 Wed. 17:20 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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