Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

05« 2017 / 06 »07
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.

催眠 /ラーシュ・ケプレル 

スウェーデンミステリに惹かれるようになったのは、なんといっても故スティーグ・ラーソンのミレニアム三部作の影響だ。

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上 
ミレニアム2 火と戯れる女 上 
ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士 上 

全くこの小説には恐れ入った。
今世紀最大のミステリという看板に偽りはない。

またラーソンは、私がスウェーデンという国に持つ従来のイメージを打ち破った。
スウェーデンは静かで美しい高福祉の国というイメージがあるようだが、実のところ自殺者は多いし、一人当たりの抗精神薬の使用量もずば抜けて多い」生前、ラーソンはこう語った。
イメージを覆すスウェーデンの裏の顔。
ミレニアムにおいても、そこに巣食う病巣が巧みに描かれている。

北欧ミステリブームは静かに、しかし確実に起こっている。
元々評価の高いヴァランダー刑事シリーズのヘニング・マンケルはいうに及ばず、この「催眠」もスウェーデンミステリのブランド力の確立に大きく貢献しただろう。



催眠〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)催眠〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2010/07/30)
ラーシュ ケプレル

商品詳細を見る


催眠〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)催眠〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2010/07/30)
ラーシュ ケプレル

商品詳細を見る

さて、本題。
前置きが長くなったが、肝心の「催眠」のストーリーをご紹介する。
(ネタばれは配慮してあります)

ストックホルム郊外の運動場で男性の惨殺死体が発見される。
その男の自宅では、男の家族がメッタ刺しにされていた。唯一生き残ったのは、瀕死の状態の15歳の長男ヨセフのみ。独立して家をでている長女エヴェリンは難を逃れたようだが行方不明だ。
大方の見解では、借金まみれの父親を狙ったマフイアの犯行だろうということだったが、国家警察のヨーナ・リンナ警部は、このヤマを何者かによる一家惨殺とみる。
検視結果はヨーナの説を裏付けていた。
すなわち、犯人は、先に父親を殺してから残りの家族を殺しにいった。
父親が目的ならば、逆のはずだ。
残虐で執拗な殺害の手口から、犯人は残された長女エヴァリンの命も狙う可能性が高い。
一刻も早く犯人を捕まえなければエヴァリンの命が危ない。

だが唯一犯人を見ていると思われるヨセフは昏睡状態。事情聴取などとてもできる状態ではない。
ヨーナは、いまだ意識のはっきりしない長男ヨセフから捜査に繋がる有力情報を引き出そうと、著名な催眠療法士エリック・マリア・バルク医師に協力を要請する。
実はエリックは10年前に起こったある出来事をきっかけに、”催眠”はもう二度とやらないという誓いを立てていた。
長女エヴァリンの命を救うためと説得され、封印を解くエリック。
しかし催眠状態のヨセフ少年から発せられた言葉は、予想だにしないことだった...。

その直後からエリックの周囲に不可解なことが起こりはじめる。誰かか家に入り込んでいるようだった。
そして、ある晩決定的なことが起こる。
息子のベンヤミンが何者かにさらわれたのだ...。


巧みに捻られたプロット。スリリングな展開、圧倒的な臨場感とスピード感。
環境によって捩じ曲げられた人間の狂気の恐ろしさと不快さに追いつめられていくようだ。
物語全体を靄が包み込み、先は全く見えない。
謎は次々に現れる。
なぜ、エリックは催眠を封印していたのか?謎を解く鍵はここにあるが、これが一筋縄ではいかない。
物語終盤まで真相は巧妙にカムフラージュされている。
一気読み必至というのに、誰も異論はないだろう。

また、キメ細やかな設定や描写、登場人物の特異性も魅力。
エリック夫妻を蝕む過去の浮気に尾を引く不信感は、ストーリーの迷宮とシンクロするようだし、さらわれたベンヤミンが血液凝固剤を定期的に投与しなかればならない特殊な病気であることも、物語をよりスリリングにしている。救出により差し迫ったタイムリミットを設けたのだ。

読者は、綴り手の思いのままにコントロールされ誘導される。
「催眠」とはまた、これ以上ないタイトルだ。

登場人物で特に言及するべきは、ヨーナ・リンナ警部だ。

ミステリ界にまた一人、ヒーローが誕生した。
決して間違えない”いつも正しい男
頑固で、それを自らも自覚しており、頑固でなくては前進はないとも考えている。
ときに上司に直訴してまで自分の捜査を貫く。
そして最後に言うのだ。
「ね、ぼくが正しかったでしょう?」

少し茶目っ気を含み発せられるこの台詞は、ヨーナをよく表している。

本書では、まだヨーナの秘密や過去が語られることはないが、おそらくこの男には何かがあるに違いないと読者に思わせる。実際、著者はヨーナを主人公にした作品を8部作構想しているのだそうだ。

匿名作家の作として上梓された本書の処女作らしからぬ完成度に、スウェーデン出版界は大騒ぎになったという。後にこのラーシュ・ケプレルはスウェーデン文学界の大物アンドリル夫妻だということが判明する。
この完成度と筆力はさもありなん。(といってもアンドリル夫妻のことは知らないけど)



 
関連記事

category: クライム・警察・探偵・リーガル

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: スウェーデン    ケプレル  匿名作家 
2011/01/20 Thu. 08:27 [edit]   TB: 0 | CM: 0

go page top

この記事に対するコメント

go page top

コメントの投稿

Secret

go page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://spenth.blog111.fc2.com/tb.php/20-efa72de6
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

go page top