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読書日記、ときどき食日記

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We Need to Talk About Kevin 少年は残酷な弓を射る / Lionel Shriver 

オレンジ賞を受賞し映画化もされた話題作である。
日本でも『少年は残酷な弓を射る 上として刊行されている。
当初、この日本語版を購入する気だったのだが、旅行中読むためにコンパクトさを優先させた。辞書機能もあることだし、たまにはKindleも使ってやらねば。
それに何より、Kindleだと9$!なのだ!!!

http://www.weneedtotalkaboutkevin.co.uk
WeNeedtoTalkAboutKevin.jpgさて、これは特に女性にとって母親にとって、悪夢のような物語である。

切りたくても切れない縁の最たるものは親子関係、就中、母子の関係だろう。
子供は親を選んで生まれてくることはできないが、それは母親とて同様である。
世の常識とモラルにおいて、母性というものは人間生来の”本能”であるとされている。

母親はたとえどんな子供であっても愛するものであるし、またそうしなければならないともされている。それは神聖で不可侵なものだ。
でも、それができなかったら?... 著者はストレートにそれを問う。

物語は全編、エヴァから夫フランクリンげ宛てた手紙という形式で、エヴァの一人称で語られる。
手紙にはエヴァとフランクリンの息子、ケヴィンについて書かれている。ケヴィンを身ごもり、産み育て、成長したケヴィンがあの事件を起こしたことまでを。なぜエヴァが夫にむけて手紙を書いているのかについても、次第に明らかになっていく。

旅行情報誌の会社を経営するキャリアウーマンだったエヴァは、唐突に愛する夫フランクリンの子供が欲しいと思う。それまで子供を持つ事など考えもせず、自由を謳歌していたのに。晴れて妊娠するが、妊娠中からすでに後悔しはじめる。思えば、エヴァはこれから起こる災いを感じ取っていたのかもしれない。
難産の末、ケヴィンは生まれるが、なせか母親なら自然に湧き出るはずの愛情がわいてくることはなかった。赤ん坊のケヴィンもエヴァを嫌っているように感じてしまう。
ケヴィンは疳が強く手がかかる子供だった。ベビーシッターもすぐに逃げ出すため、エヴァは仕事も半ば諦めざるを得なかった。エヴァを困らせることに力を注いでいるかようなケヴィンを嫌悪し、悪意ささえ感じ取る。
成長につれケヴィンの邪悪さは顕著になって、偶然で片付けることのできない事故が立て続けに起こる。エヴァは全てケヴィンの仕業だと思い込み、夫フランクリンはそんなエヴァを非難する。ケヴィンが邪悪さを見せるのはエヴァの前だけだった。フランクリンの前では理想の息子を演じており、お気に入りの息子だったのだ。フランクリンにとってケヴィンは母親に理解されない可哀想な息子だった。ケヴィンをめぐり、やがて夫婦関係にも亀裂が生じ始める。
そして、ついにあの木曜日が訪れる。ケヴィンが16歳をむかえる3日前。ケヴィンが全て計算ずくで周到に用意した、エヴァから全てを奪い去ることになる事件を起こした日が…。

責任能力を問われない少年が重大事件を起こした時、世間は親を、特に母親を責める。裁判においては必ずその育成環境が着目され、それが少年を犯罪に至らせたのだと思いたがる。だが、本当に母親のせい、環境のせいだけが原因なのか。
物語は全編エヴァの視点から描かれているので、ケヴィンからみる事実はまた異なっているのだろう。しかし、エヴァの立場に立つ限りにおいて、彼女になすすべがあったのか、私にはわからなかった。
邦題は、この木曜日の出来事を表すものだ。確かに少年は残酷な弓を射た。しかし、誰より”残酷な弓を射た”のは神ではなかったか。もし神がいるとするならば。ケヴィンは災厄だった。エヴァにとっても、大勢の被害者にとっても社会にとっても。何よりケヴィン自身にとって。
ただ、確かだと言えるのは、エヴァはケヴィンを愛することこそできなかったが、エヴァとケヴィンはどんなことがあろうとも母親と息子であり、手紙を書いている今この時、それを受け入れているということだけだ。


            
 We Need to Talk About Kevin       少年は残酷な弓を射る 上 ・

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category: 洋書

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  映画化 
2012/09/18 Tue. 16:52 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

なかなか出ない日本語版Kindle。障壁は思いのほか高かったということなのでしょうか。
まぁ、出ても今の状況だと、楽天の端末みたいになりそうですが...

『少年は〜』、この手のものはありがちなのですが、ここまで母親目線で母性の危うさを描いたものはなかったと思います。女性の中でも、エヴァに対する意見は分かれるのじゃないかなぁ。

『湿地』よりも次の『緑意の女』のほうが海外でも評価は高いみたいですよ。『ガラスの鍵』も受賞している作品です。またソフトカバーで出るんだろうなぁ...。


Spenth@ #- | URL | 2012/09/19 Wed. 08:06 * edit *

本(活字)は紙で読まなくちゃ(でも情報端末も欲しい)


『少年は残酷な弓を射る』・・これもおもしろそうですなぁ。
記事を読んで、いくつかの類似作品が思い浮かびましたが、
いやぁ・・何が起こってどうなったんですか?気になるじゃありませんか!
で、即図書館に予約注文(待ち人わずか)・・これは早い時期に読めそうです。

そう、『湿地』アイスランド作家のミステリ・・読了しました。
優等生的な手堅さを感じる佳品・・という印象でした。
正直、あまり次の刊行予定作品には期待しておりませんが・・読むかも。

『わたしが眠りにつく前に』・・今ほぼ中盤です・・この先どうなんの?
なんていう、愉しい状況にあります。

いつもおもしろい作品の紹介ありがとうございます。では。

nao #6gL8X1vM | URL | 2012/09/18 Tue. 23:18 * edit *

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