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読書日記、ときどき食日記

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占領都市 TOKYO YEAR ZERO Ⅱ  / デイヴィッド・ピース 

davidpeacebyTyAllen.jpg本書は帝銀事件をモチーフにしたデイヴィッド・ピースの暗黒の東京三部作の第二部である。
帝銀事件を扱った書籍はフィクション、ノンフィクションを問わず多くあるが、帝銀事件といえば松本清張の『小説帝銀事件 』というほどに、清張によって既に尽くされていると思っていた。然るにピースの作り出すこの世界に驚かされたのだった。
この「東京三部作」はスタートもまずますであったが、本作にしてこれ極まれり、である。オッサンヤルジャン!
モチーフの違いもあるのだろうが、比べ物にならないほど面白かった。(ただしこれも万人向けとは言いがたいが。)

第一部との繋がりもごく僅かにあるのだが、おそらく本書のみで楽しめるだろう。しかし、毒を食らわば皿までというではないか。まずは狂気の文体で頭をパンクさせ、由紀ちゃんに取り憑かれてごらんなさい。

さて、さて、まずは帝銀事件の概略を簡単に整理しておこう。
1948年1月26日の3時過ぎ、豊島区にある帝国銀行椎名町支店に「東京都防疫班」の腕章をした男が現れ、「近くで赤痢が発生した」などといい、 行員らに「予防薬」と偽って毒物を飲ませた。そのせいで、12人が死亡、4人が重体に陥るが、その隙に犯人は現金・小切手合わせて18万余を奪って逃走したのだった。
前年には安田銀行荏原支店で、帝銀事件の約2週間前には三菱銀行中井支店で、同一犯によるものと思われる類似の未遂事件が起きているが、それらは帝銀事件の予行演習的なものであったとみられた。
毒物をピペットで扱ったり、二種類の薬剤を二度に分けて飲ませたりするなどの手口から、当初警察は、毒物や細菌による生体実験に携わっていた旧軍関係者を中心に捜査をしていた。しかし、安田銀行に残された唯一の物証である名刺から、テンペラ画家平沢貞道への嫌疑を深めていくことになった。結局、平沢は逮捕され、死刑判決が下されたのだった。
(この事件はいまだ多くの謎が解明されておらず、平沢の冤罪を疑う声も多いという。当時、超党派の国会議員や松本清張ら文化人、多くの法曹関係者が、死刑の執行停止や再審、恩赦の救援活動を展開したこともあり、歴代の法務大臣も刑の執行を見送った。平沢は95歳で獄中死するが、現在も「平沢貞道を救う会」によって名誉回復のための裁判は続いている)

warousoku.jpgこの未曾有の怪事件を、なんとピースは意欲的にも芥川の『薮の中』と、百物語の手法で描いている。(といっても、ピースは英語で書いているのだが)実験的であるといってもいいだろう。

占領された都市の黒門の下で、作家は12本の蝋燭の輪の中、巫女の手をとり膝をつくのだ。怪談の百物語ならぬ12物語だが、12人がそれぞれが自らの話を終えるごとに、蝋燭を吹き消していく。
その12人とは、まずは殺された被害者たちだ。次は平沢貞通を犯人だと妄信する刑事H。平沢は犯人ではないと確信するも、事件のことを忘れようとする生き残り娘と辞める決意をする新聞記者。生物戦の深層を暴こうとするアメリカとソヴィエトの二人の調査官。邪宗の素人探偵と彼を殺してしまうヤクザあがりの政治家。狂気に蝕まれつつ真犯人に近づく刑事N、無実の平沢貞通、忌まわしい記憶と狂気を抱えた真犯人、死んだ若者の母親だ。
そして、12人が話し終えた時、最後の蝋燭が消えるのだが…

芥川の『薮の中』は、ひとつの事件にかかわる複数の証言によって物語が構成されているが、それぞれが矛盾し錯綜していることから、真相の解釈は読者に委ねられている。作者である芥川の真意は見えないのだが、本書の12の物語はそれぞれ相関性を持っていて矛盾はなく、作者の真意も明らかにされている。
描かれているのは、帝銀事件という怪事件を取り巻く”黒い霧”なのだ。この霧がなんともいえず気味悪い。そこにあるのは陰謀なのか、過ちなのか…
平沢は帝銀事件の犯人か、ということは問題ではない。物語は最初から平沢の冤罪を前提に紡がれているのだから。アンチミステリだと言われる理由はここにあるのだろう。
とはいえ、大勢の、死者をも含んだ事件にかかわる者たちの告白や手紙、手記の12通りの物語から、読者は推理をさせられるのであるが…


占領都市 TOKYO YEAR ZERO II
占領都市 TOKYO YEAR ZERO II
(2012/08/26)
デイヴィッド ピース

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小説帝銀事件 新装版 (角川文庫)
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(2009/12/25)
松本 清張

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併せてこちらも再読すれば、さらに楽しめると思います。

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category: ノワール・ホラー・サスペンス

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 東京三部作  帝銀事件  デイヴィッド・ピース 
2012/10/03 Wed. 18:03 [edit]   TB: 0 | CM: 4

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この記事に対するコメント

了解です。

お仕事中、わざわざ有り難うございます!

Spenth@ #- | URL | 2012/10/04 Thu. 13:03 * edit *

ごめんなさい順番間違えました。
『わが心臓の痛み』が先、次が『天使と罪』
『ナイト・フォークス』はポシェトと被ります。
仕事の合い間なので乱文御免

アラフォーおやじ #- | URL | 2012/10/04 Thu. 10:22 * edit *

Re: 読書の秋・・

> 文章にして表わす事で、読了した本の理解がより深く確かになるのでしょうなぁ(アタリマエ)。

確かに、復習的な意味はあるかもです。如何せん、トコロテン的構造のオツムなので...
多分、一番よい感想は読んだその瞬間のものなのですが、瞬時に消えてしまうんです。困ったもんです。
特に本書はマニアックな魅力のせいもあり、12人の人物相関図を作っちゃおうかとまで思いましたよ(笑)

『ザ・ポエット』は、絶対naoさん好みだと思いますよ!
私も手元の今年の新作が片付いたら、コナラー・アラフォーおやじさんご推奨の『天使と罪の街』→『わが心臓の痛み』コースを走りたいなと思っています。余力があれば、『ザ・ポエット』の鏡のような作品といわれている『ナイト・ホークス』に行きたいのですが、さて、今年中にいけるかなぁ...。

> 愉しく秋の夜を過ごせそうです。ありがとうございます!
今の時期、テレビも面白くないですしね!(笑)

Spenth@ #- | URL | 2012/10/03 Wed. 22:39 * edit *

読書の秋・・


『占領都市 TOKYO YEAR ZERO II』・・こっちは読み通せそうな予感。
図書館に買っていただきましょう・・予約注文!
・・ところで、これはとくにSpenth@さんのブログの紹介(感想)記事を読んで思うコトですが、
文章にして表わす事で、読了した本の理解がより深く確かになるのでしょうなぁ(アタリマエ)。
自分はツイートで制限された以上の文章はニガテなのでした。

さて現在、本当は『ザ・ポエット』読んでいるはずでしたが、
『解錠師』スティーヴ・ハミルトンに急遽変更です。
昨日いただいた返信によると、あの『アイコレ』とともに、
今年のベスト5にランクインとか!
これはもう先ににいただくほかありますまい(図書館に普通にありましたし)。
また、『深い疵』『ダークサイド』『毒の目覚め』など、これらSpenth@さんの注目作の読書を先行させることに・・『ザ・ポエット』とはお別れ・・いつかまたね。

愉しく秋の夜を過ごせそうです。ありがとうございます!
また、おもしろい本、発見されましたら教えてください!・・では。

nao #6gL8X1vM | URL | 2012/10/03 Wed. 22:06 * edit *

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