Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

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極北 / マーセル・セロー 

本書は、Post Apocalypseの世界を生きるタフで意外性に満ちた小説である。村上春樹が指摘したように、3.11以降Apocalypseは現実味を帯びた。もしかして現在もその道程にあるのかもしれない。

本書の設定は近未来である。”人類が消えた世界”のシュミレーションを少し前にテレビでやっていたが、主人公のメイクピースの生きる世界は、まさにその一歩手前かもしれない。人類はもはや地球が支えきれないほどに増え、食料と資源をめぐる戦いが勃発し、地球温暖化は進行した。そして何か劇的なことが起こり世界は崩壊してしまう。
メイクピースの両親は、メイクピースが生まれる以前に、物資に溢れたアメリカの生活を捨てこの極北の地に移住してきた。彼らのような入植者たちは、金銭、物欲、偶像崇拝というものを捨て、広大で静謐な極北の地で本来人間があるべき生活を回復するのだと信じていたのだった。
世界の崩壊はメイクピースたちの暮らす極北のエヴァンジェリンの町にも影響を及ぼす。外の世界からの避難民で町は膨れ上がり、治安は急激に悪化。人々は今では温かい食事にありつけるなら、喜んで人を二度殺せるほどに堕ちてしまった。メイクピースを残し家族は皆その犠牲となった。人がチャーミングで寛大でいられるのは、お腹と食料庫が満ち足り、温かな暖炉が燃えているからだ。

著者のマンセル・セローは、かつてドキュメンタリー番組のためにチェルノブイリの原発事故現場から半径30キロ圏内の立ち入り禁止区域に暮らす老女を取材したことがあるという。そのとき思いついたのがこの小説なのだとか。
ガリーナという名のその女性は、禁止区域の中で家畜を飼い、野菜を育てて暮らしていた。放射線がいかに人体に危険であるかを知っている我々からすれば、彼女の生活は危険極まりない愚かなことだ。だが、その時著者はふと思ったのだという。もしもこの世界が崩壊すれば、我々が今価値を置いているものは一瞬にして無価値になるだろう。我々が今尊んでいる全てのことは、文明や科学がもたらす快適性の上にこそ成り立つものだ。世界が崩壊した時、役立つのはガリーナのような原始的なタフさだ。
メイクピースには、メイクピースの父親にはなかったそのタフさがある。
メイクピースは、哀しい出来事のため自殺を試みるが、その時見た飛行機に光を感じて旅にでる。その旅はと言葉通り生易しいものではない。メイクピースの目を通して、絶望と飢餓が人間性を奪うためには、ほんの数日あればよいことを目の当たりにする。

文明社会に住まう我々にとって「人としての正しさ」は、"真北”のように揺るぎないものだ。それは愛とか良心、義務といった不変のもののはずだ。が、世界が変わり、北の極限まで進んでしまうと、コンパスはその役割を果たさなくなる。世界が極北に踏み入れたとき、針はただグルグルと回るだけでどこも北でありどこにも北はなくなる。
それでもメイクピースは、心の底で家族を求め、他者を求める。

これまで、私がメイクピースのことを語る時、ただメイクピースとのみ呼んでいることにお気づきだろうか?なぜなのかはどうぞ本書のお楽しみ。もちろん意外性はこれだけではないことを付け加えておこう。メイクピースの顔がなぜ現在のようになったのか、はミステリーのような真相を孕んでもいる。
読後ズシリとくるものはあるが、同時に希望も感じさせる秀作だと思う。

極北
極北
(2012/04/07)
マーセル・セロー

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”このミス”にちなみ、10月31日を区切りとするならば、この本は私の2012年で読んだ本のベスト5に入る。ちなみに他は、『シャンタラム』『解錠師』『アイ・コレクター』 『占領都市 TOKYO YEAR ZERO II』かな。『わたしが眠りにつく前に』は、入ってないの?と思われるだろうが、この本を読んだのは確か去年なのでした。


ところで本書はストルガツキー兄弟のSF『Roadside Picnic』邦題『ストーカー 』に一部プロットのヒントを得ている。本作におけるストーカーとは密猟者のこと。突如地球に出現した異星(もしくは別世界)の超文明の痕跡“ゾーン”に不法侵入し、謎なものを命懸けで持ち出し売り払う者のことだ。著者は「ピクニックで道ばたに捨てられたゴミは、野の虫たちにとってどんな意味があるのか」という視点で描いたという。
この"ゾーン”は、放射線に汚染された文明社会の痕跡という形で『極北』にも登場している。
ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)
ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)
(1983/02)
アルカジイ・ストルガツキー、ボリス・ストルガツキー 他

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category: 文芸

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 村上春樹 
2012/10/31 Wed. 17:33 [edit]   TB: 0 | CM: 10

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この記事に対するコメント

Re:もちろん、行く予定!

naoさん、情報サンキューです。

もちろん、申し込んでますよ〜。
定員40名と少ないですが、27日(火曜日)時点では、まだ大丈夫でした。

Spenth@ #- | URL | 2012/12/01 Sat. 10:49 * edit *

情報(中央公論のHPで発見!・・40名かぁ)


マーセル・セロー来日記念 トークイベントのお知らせ

 先の展開が読めない「意外性」を損なわないよう、設定やストーリーを伏せたままの刊行となった近未来長編小説『極北』(マーセル・セロー著/村上春樹訳)。

 「この小説くらい、一人でも多くの読者の感想を聞いてみたいと思ったものはない」という訳者あとがきの一文に応えるかのように、発売直後からインターネット上に読者の感想が多数見受けられ、熱い支持が口コミ的に広がっています。
読めば面白さを語らずにいられない――そんな魅力を持つ本書の著者マーセル・セロー氏が来日するのを機にトークイベントを開催します。

〈マーセル・セロー『極北』を語る〉

【日 時】 12月5日(水)19:00より
トークの後、希望者には本にサインをします。
(通訳がつきます)
【入場料】 無料、飲み物つき
【会 場】 中央公論新社(1階 )
東京都中央区京橋2-8-7
【交 通】 地下鉄銀座線・京橋駅徒歩3分

【申し込み方法】 1.お名前
2.電話番号
3.メールアドレス
4.『極北』は 未読・既読(いずれか選択)
5.マーセル・セロー氏に質問してみたいこと

以上を明記の上、下記のアドレスまでメールでお申し込み下さい。追って係より返信いたします。
なお満席(席数40)となり次第、締切とさせていただきます。

メールの送信先 : marcel@chuko.co.jp

nao #6gL8X1vM | URL | 2012/11/30 Fri. 22:39 * edit *

Re: えっ!・・・

ありがとうございます。
いえ、ただの肉離れなのでたいした事はないのですよ。
一週間くらいじっとしてれば治るらしいです。

「64」は...横浜じゃ、多分1年待ちくらいかな。
チャレンジしようとすら、もはや思わない。
私は密林書店で買うしか道はないですね(笑)

Spenth@ #- | URL | 2012/11/07 Wed. 09:45 * edit *

えっ!・・・


図書館環境は良好です。
『64』など早めに予約注文出したら、順番待ちは一ケタ台。

いやいや・・そんなことよりもSpenth@のお体が心配。
ジムで怪我ですか・・・ショック。
けれど落ち込んでばかりじゃいけませんぜ。
一日も早い回復をお祈りしています。
どうぞお大事にね・・では。

nao #6gL8X1vM | URL | 2012/11/07 Wed. 08:29 * edit *

Re: この本いいですよね

naoさん、はやかったですね。
この本、naoさんも好きだと思いましたよ!
しかし、その図書館環境、うらやまし〜

『毒の目覚め』はまだなんですよ。
読むつもりではいるのですが。でも「64」買ったりしたらまたまた後回しになりそう(笑)
このところ、ミステリーばっかりだったから、ちょっと寄り道したほうがいいかなと思って。
莫言の後くらい読めばバランスが取れるかな。
といいつつ、Wowowで溜録りしてた連ドラを観たりしております。

というのも、わたし、ジムで怪我しちゃいまして、
歩けないっていうのは、もんのすご〜〜〜く不便ですねぇ・・・
とほほ。

Spenth@ #- | URL | 2012/11/07 Wed. 07:56 * edit *

久しぶりに物語世界に浸る自分に気がつく・・


遅く図書館に予約した本書ですが、結果先に確保され・・読了となりました。

いやぁ・・これは良質の物語世界でありました・・深い余韻。
ストルガツキー『ストーカー』との近しさ(?)も理解しました・・ナルホド。
記事から連想し、先のコメントにも書きましたJ・G・バラード作品との連想、
その終末世界を描いたものに、やはり近いものを感じました。
その場合「枯れた世界」とでもタイトルはなるのかも?

そう、主人公もヒミツについて、驚きましたぜ・・そうかぁ。
最初の方でそれは明かされますが、いったんそこで読み進むのをやめて、
イメージの修正を行うことに・・。
またその場面でのピングとのふれ合い・・その美しさ(!)は、
本作にあって白眉であるように思いました。
本書のことを教えていただき感謝であります。

ところで、この次自分の読む予定の『毒の目覚め』について・・ん?
Spenth@さんは注目作品に数えられていたように思うのですが・・ん?
いまいちでありましたかナ?
・・ではまた!

nao #6gL8X1vM | URL | 2012/11/07 Wed. 01:22 * edit *

Re: タイトルなし

アラフォーおやじさん。おはようございます。

ああ、そういえば『シンドロームE』も面白かったです。続編まだかな?

> ル・カレを『ティンカー、テイラー、ソルジャースパイ』の新訳
> と旧訳スマイリーシリーズを読み返す始末。
私も是非これ真似してみたいですね。
しかしボッシュといい、色々と宿題が・・・

『わたしが〜』は、改めてすごいですよね。しかも全くの新人作家の手によるものだという。
私は昨年Kindleで読んだので、今年のBestには入れられなかったのですが、今年読んでたらこれが一番かなぁ。

> 『アイコレクター』はキャラの作りこみ過ぎと言うか
> 『ラジオキラー』でも同じように感じたのだけども、やり過ぎた時の
> マイクル・コナリーの臭いがする(笑)
やり過ぎのコナリー臭!笑えます。
『アイ・コレクター』は確かに諸々これでもかってくらいにあれこれやっているので、かなり好みは分かれるでしょうね。 私はこういうのも結構好きですが。

> 話しは変わるけど『テインカー、テイラー・・』の新訳の村上氏は
> 『スマイリーと仲間たち』も訳してるけど絶対に別人だよ

弟子にやらせた疑惑とか(笑)確か、村上氏も結構ご高齢でしたよね?

Spenth@ #- | URL | 2012/11/02 Fri. 09:35 * edit *

どうも
この中で読んだのは『アイ・コレクター』『解錠師』のみですね。

ベスト5の他の本も読みたいのですが
『シンドロームE』中島らも他未読の本が十数冊の上に
ル・カレを『ティンカー、テイラー、ソルジャースパイ』の新訳
と旧訳スマイリーシリーズを読み返す始末。

『私が眠りにつく前に』はル・カレが好きな人なら『アイ・コレクター』
より断然こちらを撰ぶと思うよ
登場人物、僅か3人で物語りは淡々とすすむがその中で
の精神的な駆け引きは、ル・カレの行間を読めじゃないが
推理を錯綜させます。
『アイコレクター』はキャラの作りこみ過ぎと言うか
『ラジオキラー』でも同じように感じたのだけども、やり過ぎた時の
マイクル・コナリーの臭いがする(笑)
話しは変わるけど『テインカー、テイラー・・』の新訳の村上氏は
『スマイリーと仲間たち』も訳してるけど絶対に別人だよ
時間あれば読んでみて

アラフォーおやじ #- | URL | 2012/11/02 Fri. 08:37 * edit *

Re: ベスト5!(そんな半端な・・)

あはは!半端かな。実は横浜翻訳ミステリ読書会で、10月31日までに読んだ作品のなかでのBest5を挙げよう!という企画(略してヨコミス)というのがあるのでした。でも、このヨコミス、ノンフィクションでもなんでもジャンルは問わなないという...
ミスじゃなかったりするんですよね(笑)

このミスベスト入りの私の予想は、『アイ・コレクター』、『解錠師』、『占領都市』の他には、定番のH.マンケルの『ファイヤーウォール』、J.ディーヴァーの『バーニング・ワイヤー』、それに今年はトゥローの『無罪』、インドリダソン『湿地』かな。
『わたしが眠りにつく前に』は入らなきゃ嘘だと思うけど、諸々どうなることやら。我々素人は読書力や感受性の問題もあるのであれですが、まがりなりにもその道のプロの選考委員のお歴々が、CWA受賞作の価値が分からないとなると・・・それってどうなのよ?という感じがします。

『極北』と『ストーカー』、テーマは確かに違います。
っていうか、『ストーカー』は良く覚えていないのですが、横浜図書館には蔵書がないんですよね〜。
似てるのは、ゾーンからいいものを拾ってきて高く売るってことかな?
終末系ということもあって、設定はまぁ『ザ・ロード』に似てないこともないかも。ただ人を喰ったりはしません(笑)あと、こちらは割と宗教には批判的かも。
ま、実際、何もかもが崩壊してしまったら、信仰よりも、食べられる茸の見分け方とかのほうが役に立ちますからねぇ。

Spenth@ #- | URL | 2012/11/01 Thu. 20:37 * edit *

ベスト5!(そんな半端な・・)


『極北』マルセル・セロー・・ですか、いただきましょう!
(といっても図書館に予約注文出しただけ)。

おすすめ図書などはどれも下巻が先に届いてしまい、
今はどうしようもない状況に・・ふう。

記事の最後にふれられてある『ストーカー』(地味・・失礼)は昔読みました。
ただ内容というか主題は『極北』のそれと違うように思うけれど・・
マッカーシーの『ザ・ロード』の灰色世界、
J・G・バラードの作品世界などを連想・・全然違うかナ。

ひょっとしたらこの『極北』が、一番先に読むことになるかも。
それはそれでかまわないのでありますが・・読書の秋が過ぎてく・・。
(長編「シャンタラム」は、もう年末用の読書計画・予定入れてありますが、
読み切れるかどうか・・ビミョー。夏の「ウルフ・ホール」の挫折は苦い記憶)。
・・では!

nao #6gL8X1vM | URL | 2012/11/01 Thu. 19:02 * edit *

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