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読書日記、ときどき食日記

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エコー・メイカー / リチャード・パワーズ 

2006年度全米図書(National Book Awards)のフィクション部門に選ばれた作品。これは米国の権威ある賞のひとつで、著者は『囚人のジレンマ』リチャード・パワーズだ。
パワーズが天才であることも、この作品が素晴らしいことも間違いない。だからこそというべきか敷居は高い。そもそも価格からして4,000円台なのだ!高すぎない?


本書の題材は「カプグラ症候群」という脳の疾患である。このカプグラ症候群の患者は、自分の愛する人(配偶者、家族など)が当人そっくりのロボットや替え玉やエイリアンと入れ替わってしまったと思い込んでしまうのだという。

物語は鶴の大群が飛来するシーンで幕をあける。
ある冬の夜、27歳のマーク・シューターはネブラスカの田舎道で自動車事故に遭い大怪我を負ってしまう。マークのたった一人の姉であるカリンは、取る物も取り敢えずネブラスカのマークのもとに戻ってくるが、彼は意識不明の重体だった。
警察はマークの自殺ではないかという見解だったが、弟の性格を知るカリンには信じられなかった。
caranes nebraska面会謝絶だったマークの病室にカリンがようやく入れたとき、その枕元にメッセージが書かれた紙切れが置かれているのを見つける。それには、みみずの張ったような字の走り書きでこう書かれていた。

I Am No One.
But Tonight On North Line Road,
God Let Me To You.
So You Might Live,
And,Bring Back Someone Else.


誰かが面会謝絶の病室に入り込み、置いていったに違いなかった。でも誰だろう?
カリンの献身的な看病の甲斐あってか、マークは昏睡がら目覚めるが、元気になったマークはカリンのことを偽物だと思い込んでしまっていた。そして、カリンばかりか、愛犬のことまでも偽物だと言うのだ。マークは脳のダメージからカプグラ症候群を発症してしまったのだった。
マークはカリンより、看護助手のバーバラを信頼し頼るようになる。どう説明しようが、何かの陰謀だと思い込み聞く耳をもたないのだ。途方にくれたカリンは、著名な脳神経学者のウェーバーに助けを求める手紙を書くのだが…

カリン、ウェーバー、マークのそれぞれの視点から、そのメッセージの文言に沿う形で物語は展開していく。
human-brain.jpg
「SFのようで、SFでない。リアリズムのようで普通のリアリズムでない。」パワーズは本書をそう表現するが、マークのカプグラ症候群が起こす非現実感、非論理性は、谺のように物語を駆け巡り、カリンにも、ウェーバーにも影響を与え、ついには読者にも伝染する。
本書の構成は脳を模していると訳者はいうが、そう、我々は脳の迷宮にいる。

要所要所で差し挟まれる鶴はこの小説の象徴だ。原始の脳、元の人間の姿、谺を作る者...。鶴に何を感じるかは、人によって違うだろう。


エコー・メイカー
新潮社 (2012/9/28)
リチャード・パワーズ
黒原敏行 訳

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The Echo Maker: [Kindle Edition]
 
 Richard Powers
 File Size: 729 KB
 Print Length: 468 pages




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category: 文芸

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag:   カプグラ症候群  パワーズ 
2012/11/20 Tue. 13:44 [edit]   TB: 0 | CM: 5

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この記事に対するコメント

いやーまいったね、Spenth@さんのコメントで少し救われたような
気がします。
何だか、お宅の犬に先導されて、その後ろを着いて行く家の犬の姿を
想像してしまいました。
そういえば、実はいつの間にかアラフィフになってたんだよね
年とると涙脆くて、ちょっと駄目だね
どうもありがとう

アラフォーおやじ #- | URL | 2012/11/22 Thu. 19:36 * edit *

Re: パワーズ作品・・そのうち読もうと思っていたのに・・とか

> 「宿題はもうすませたか」と、親から注意確認された感じ?

やばっ...!!!
わたしもピンチョンが〜〜〜(笑)
本棚の奥〜〜〜〜の方に押しやられているし。

ドン・デリーロとか私も未読なので、チャレンジしたいなぁ。
来年は、文学系ももっと読みたいです。
naoさんのおすすめ作家、他にあったら教えてくださいよ。

> 田舎の図書館にはこのクラス(ハイ・レベル)の本は蔵書せず。
> なので注文を出して買ってもらうことにします・・(600頁越えかぁ、価格も挑戦的?)。

いかに翻訳モノとはいえ、英語→日本語で4000円って高いですよね。
ほんと、懐が(笑)
でも注文すれば買ってもらえるんだ!
いいなぁ。
重ね重ね裏山。
横浜って市民税高いのに・・・。

ところで、そろそろ『64』の順番が回ってきた頃?
感想聞かせてください!

Spenth@ #- | URL | 2012/11/22 Thu. 09:17 * edit *

Re: 虹の橋

アラフォーおやじさん、
私も、半年くらい看病して看取ったのでお気持ちよくわかります。
どう励まされても、元気なんてでないですよね。私も一年くらいグズグズとし、車で信号待ちをしてる時とか、ふと気がつけば涙が流れていたりしました。
ウチのは消化器系の癌だったのですが、16歳と高齢だったのでもう手術もできなくて。入院させて寂しい想いをさせるのは嫌だったので、仕事を辞め世話をしていたのですが、ただただ衰弱していくのを見ているだけでした。
亡くなったのは、ちょうど三年前の11月20日で、今でも色々な後悔があります。
私はもうクリスチャンじゃないし、人間だけが行く(なんて驕慢なんでしょうね)という天国も信じてないのですが、犬たちの天国は信じたい。そこではもうどこも痛くもないし、元気だった頃と同じように走り回っているんじゃないかと思いたいですね。
アラフォーおやじさんのとこのワンちゃんを、そこでお出迎えし色々と教えてあげてるんじゃないかな。

Spenth@ #- | URL | 2012/11/22 Thu. 09:02 * edit *

パワーズ作品・・そのうち読もうと思っていたのに・・とか


「エコー・メイカー 」・・というか、リチャード・パワーズ(全くの未読の作家さん)。
この著者やドン・デリーロなど取り上げられると焦ります。

「宿題はもうすませたか」と、親から注意確認された感じ?
「いまからやろう(読もう)と思ってたのに・・」との言い訳を自分は口ごもるしかなく・・。
(ヘンな状況説明のたとえでした)。

田舎の図書館にはこのクラス(ハイ・レベル)の本は蔵書せず。
なので注文を出して買ってもらうことにします・・(600頁越えかぁ、価格も挑戦的?)。
「エコー・メイカー」・・来年の宿題の一冊とします。
ではまた。

nao #6gL8X1vM | URL | 2012/11/22 Thu. 08:27 * edit *

おはようございます。
インポケのランキング1位の『真鍮の評決』、コナラーから見ても
ありえませんは、あれはおっしゃるリンカーンの使いまわしであり
邪道やね

日本のランキング自体、本屋大賞を含めかなり妖しい
『ジェノサイト』が去年?どこかで1位になってたけど
あれはだめでしょう、ストーリ以前に某国のロビイスト?
日本の出版業界自体、どこぞの政党と同じ匂いがしますは
売れる本と面白い本は全然違うような気がします。

ところで今、ようやく菊池訳と村上訳の『ティンカー・ソルジャ・・』
を同時に読んでます、どちらが正しいかは原書が読めないから
解からないけど、村上氏は言い回しに違和感が確かにあります。
『スマイリーと仲間たち』の時と比較すると全然違うわ
新刊は訳者が初めての人だけどちょっと楽しみです。

それと、応援していただいた犬は旅立ちやがりました
6歳、白血病でしたちょっと堪えるね

アラフォーおやじ #- | URL | 2012/11/22 Thu. 07:51 * edit *

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