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読書日記、ときどき食日記

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蛙鳴 あめい / 莫言 

文学好きを別にすれば、多くの日本人は莫言氏と聞いても、映画『赤いコーリャン』の原作者と言われて、「ああ、あの」とピンとくる程度でなかったろうか。
世界に数多いる春樹ファンも、今年のノーベル文学賞は今回こそは村上春樹の受賞を期待していたことだろう。かくいう私もそう。彼のオッズはかなり低かったはず。だが、受賞したのは中国人作家の莫言氏だった。中国国籍の作家としては初の快挙だという。文学界においても、中国の国力を改めて感じさせられたエポックを画した受賞とあいなった。次に受賞するアジア人は韓国人になるだろうとも言われており、もう村上春樹の受賞はないかもしれない。けれども、却ってその方が村上春樹らしいかな?
→ネットで借りて、ポストへ返すTSUTAYA DISCAS

nobel-moyan1.jpgしかしこの受賞には、中国国内外を含め批判が寄せられた。
ジャーナリズムは彼が「体制寄りの作家」であると批判的に書き立て、文学創作を妨害する体制側組織の幹部にその資格があるのかと問うたのだ。さらには、アカデミーサイドの問題までが明らかになった。選考委員が莫言氏の作品のスウェーデン語訳者であり、氏が受賞すれば、本が売れて莫大な翻訳料を手にすることが関係しているのではないかというのだ。

キナ臭さという点でも話題性は抜群。そこで『蛙鳴』を読んでみたのだが、これが割と面白かった。題材は悪名高き「一人っ子政策」である。
「蛙の鳴き声」は中国では「赤ちゃんの泣き声」に音に通じるのだという。蛙はゲロゲロという日本人には想像はし難いが、そうくれば、蛙は何を象徴するのか、どうしてタイトルが『蛙鳴』なのかは明らかだろう。

物語の語り部は、オタマジャクシという劇作家だ。
高密県で産婦人科医をしていた伯母は、多くの命を取り上げてきた。オタマジャクシ自身、そして彼の同級生、一体どれくらいの命が伯母によって取り上げられてきたことだろうか。中には「取りあげ婆」に任せていたら、母子共に助からなかった難産もいくつもあった。伯母は「神の手」を持つと言われ、皆に尊敬されていたのだ。
しかし、国は急激な人口膨張を懸念して「計画出産」をスタートさせた。農村部では多産は昔からめでたいことで、いかに国の命令とはいえ簡単になじまない。何より一番目の子供が女児である場合、夫婦は次の子供が男子であることを期待し諦めようとしないのだ。夫はパイプカットを拒み、妻は避妊リングを家畜の去勢業者の手を借りて手密かに外す始末だった。その頃、伯母は共産党に入党し高密県におけるこの計画の責任者となっていた。伯母は熱心にこれに取り組んだ。彼女は軍隊が脱走兵を追いつめるかのような情熱で、産まれてはならない子を孕んだ妊婦を探し出し、追いつめ強制的に堕胎させるのだった。
かつて皆に尊敬されていた伯母の威信は失墜し、忌み嫌われるようになっていた。命の誕生に貢献してきた伯母の手は、いつしか母親の身体の中の命を圧殺する手に代わてしまっていたのだ…


大半部分は、オタマジャクシの恩師である日本人作家へ向けた書簡という形で伯母を回想し、残る部分はオタマジャクシ自身による戯曲という形式をとっている。
いうまでもなくオタマジャクシというのは、莫言その人の投影であり、作中の伯母にも遠縁の女性にモデルがあったようだ。
伯母の人生は「計画出産」という政策に翻弄されるが、オタマジャクシ自身も軍属している時に、妻が第二子を身ごもってしまう。第二子が産まれれば、軍を追われることになり再び百姓に戻るしかない。結局、彼は自身の将来のために妻に堕胎させるのだが、これは莫言自身の実際の経験でもあるという。彼のこういうところが「体制側」と言われる所以なのかもしれない。
本書のテーマは、「計画出産」という政策に翻弄された伯母の相反する心情なのだろうが、私は中国の女性たちの”何がなんでも産みたい”という本能の強さに、とにかく圧倒されてしまった。そして逆に、「一人子政策」がもし実施されていなかったら、中国の人口はどうなっていたのだろうか、ということを考えてしまった。
オタマジャクシのお母は彼に言うのだ。「女は結局は子供を産むために生まれてくる。女の地位は子供を産むことででき、尊厳はも、幸せも輝きも子供を産むことでできる…」フェミニストにとっては噴飯ものだろうが、この盲目的ともいえる信仰が、50歳をいくつも過ぎたオタマジャクシの二番目の妻に子供をもたらすのだ。
この妊娠の顛末は、恐ろしいと同時に滑稽にも思えてしまった。


蛙鳴(あめい)蛙鳴(あめい)
(2011/05)
莫 言

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category: 文芸

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: ノーベル文学賞    中国  一人っ子政策 
2012/12/04 Tue. 17:08 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: 莫言の受賞は納得・・残雪もやがていつか

本当に、この人福々としたおっちゃんですよね(笑)
それにしても、ノーベル賞効果は絶大!日本でも売れているみたいですね。
今年は、この莫言と、「極北」のヒットで中央公論社はホクホクだったのかな?

「一人っ子政策」は、もう役割を終えたどころか、そのせいで、今後は急激なに人工分布が逆三角形になり老齢化に苦しむであろう中国ですが、それでも未だ廃止されないのは、”利権”が絡んでいるかららしいですよ。
人々が子供を産む度に、国に、お役人にお金が入ってくるのですから。拝金主義も極まれりというか...。
日本とは逆ですね(笑)

それから、本書でオタマジャクシが書簡をしたためている日本人作家ですが、NHKスペシャルで莫言の故郷に大江健三郎が訪れたことがあるらしく、彼がモデルなのではという声もあるみたいです。莫言氏自身は一応否定はしていますが、彼と親交のある恩師的な日本人作家というのは限られるでしょうし...。
大江といえば、有名な村上春樹嫌いで、芥川賞も彼の猛烈な反対に押し切られてしまったとか、そうでないとか(笑)
今回のノーベル文学賞受賞といい、何やら因縁めいたものを感じました。

Spenth@ #- | URL | 2012/12/04 Tue. 21:40 * edit *

莫言の受賞は納得・・残雪もやがていつか

莫言(笑ってる顔、近所の八百屋さんのおっちゃんにそっくり!)作品は
『蛙鳴』を読まれてましたか。
本書、ノーベル賞効果もあって図書予約人数がまだ多く、
本年中の読了は無理なのでした・・残念(田舎町のくせに・・暴言)。
紹介記事では、かなりおもしろい作品の印象を受けました。
(中国もそろそろ「一人っ子政策」終るのかも・・)。
グロテスク・リアリズム風な作風も健在な様子で、来年読むのが愉しみです。


明日、セローさんに会ったら早く新作書くように言っておいてください。
ではまた!

nao #6gL8X1vM | URL | 2012/12/04 Tue. 20:50 * edit *

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