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読書日記、ときどき食日記

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『極北』マルセル・セロー来日トークイベントに行ってきた! 

『極北』は今年読んだ中でも、ベスト5に入る素晴らしい小説だった。かの村上春樹が日本語訳を担当したことだけでも話題性は充分。加えてポストアポカリスを描いたストーリーは、311直後の日本人にとって、より深い感慨を与える。
その著者、マルセル・セロー氏のトークイベントに行ってきた!
marcel theroux場所は東京駅からも余裕で歩ける京橋は中央公論社1F会議室。
HPでは定員40名だったけど、実際はそれを超える応募があったみたい。師走で忙しない平日の19時という時間にもかかわらず、会場は満員だった。やっぱりというかなんと言うか、8割方は女性。読者層が"ハルキスト"とも重なっているのかな?

さて、トークイベントの流れは、まずは、原文の朗読に始まり、その後『極北』はいかにして出来たのかというミニトーク、Q&Aというもの。その模様は録画していたので、詳細が多分中央公論社のHPか何かで近々UPされると思うけれど、様子を紹介をしてみよう。

以下、『極北』について語る。
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僕はちょうど4年前に初めて日本を訪れたのですが、ちょうどその時この本の最終構成の段階でした。
日本とは何か運命的なものを感じます。新宿のホテルの窓から見える光景は、(「極北」の)物語世界とはあまりに違うので、なんだか妙な感じがしたのを覚えています。

根本には、僕はいつも「美しいものを作りたい」という気持ちがあるんです。その想いの結晶がまさにこの本なのだと僕は思っています。
日本でもそうだと思うのですが、昔、学校の化学の授業で、結晶を作りませんでしたか?
結晶をつくるためには、二つのものが必要です。一つは飽和状態に近いほどの濃度のある物質の溶液で、もう一つはクリスタルです。

この『極北』における溶液は何かからお話しましょう。
僕がこの本を書き始めたのは2006年のことでした。ちょうどその6〜7年前、テレビのドキュメンタリーの取材でチェルノブイリを訪れたのです。そこで、立ち入り禁止区域に暮らす、ガリーナ・ペトロヴィナさんという老齢の女性と知り合いました。その場所は汚染が酷く危険なところなのですが、政府は彼女がもう高齢であることから居住を認めていたのです。彼女はそこでまさに19世紀のような生活を送っていました。野菜や家畜を育て、それで保存食を作り、服を繕い、何でも自分でやる自給自足の生活です。
当時の僕は、彼女の暮らしぶりをみて、自分のイタリアの曾祖父母たちもそういう生活をしていたのかなぁと感じました。
gaia.jpg
その後、気候変動をテーマにした仕事を通じ、James Lovelock氏という英国人科学者にお会いする機会がありました。彼は「地球は一つの生命体として存在している」という「ガイア理論」の生みの親です。けれども、同時に彼は現状のCO2問題などから、地球の将来について非常に暗澹たる予測をしていました。
その時、僕はチェルノブイリのガリーナさんのことを思い出しました。
そして、もし何か大きな災害が起こり文明が崩壊してしまった時、僕は、そこで生き抜くための力を一つも持っていないことに気づいたのです。ガリーナさんに比べ、僕はなんて無力なんだろうと。
それは進化というものの代償なのかもしれません。現代では各々の能力は細かく専門化されています。僕たちはそれに慣れ、それを当然のものとして享受している。はっとしたのです。

その後、僕は執筆を始めました。
ところで、僕は愚痴日記というのをつけていて、小説がはかどらない時の日記に愚痴を書きなぐっているんです。このおかげで、妻は僕の愚痴を聞かなくてもすむのです(笑)
そんなスランプのある日、何気なしに、次のような一文を日記に書きました。

Every dary I buckle on may guns and go out to patrol this dying city.

この文章を書いた途端、何か自分らしくない文章だなと思いました。僕より全然タフで、たくましく、僕より断然機智に富んでいる。これは誰なんだ?
僕に語りかけようとしているのは一体誰なんだろう?
そこで、その一行を別の紙に書いてみたら、また別の文章が現れたのです。
正直その時は何がおこっているのか、よくわかりませんでした。でも、流れを追ってみたんです。それは未来に向かって進んでいるような気がしました。
そして気がついたのです。チェルノブイリのペトロヴィナさんは、僕の先祖なんかじゃないぞ!未来の、僕の娘、孫じなんじゃないかと!
それが、溶液の中のクリスタルでした。そしてその結晶は大きくなっていったのです。

この『極北』という本は、僕に僥倖をもらたしました。
この日本で命を与えられたばかりでなく、僕の文学のヒーローである村上春樹氏を通じて、日本と繋がることができた。2006年に、日記に愚痴っていた時には想像もつかなかったことです(笑)

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この後、Q&A(以下、一部抜粋です)

Q:自分の生み出したキャラクターを嫌いになってしまうことはありますか?

A:Good Question!
どんな悪人であったとしても、少しは好きなところがないといけないと思います。
そうじゃなきゃ、(執筆の)長い時間を共に過ごせない。
一番好きなのは、もちろんメイク・ピースです。

僕は、メイク・ピースに恋をしてしまったほどなんです。
メイクピースのあの生き抜くための力、逞しさ、前向きな心の有り様。optimismは人間の性質として最も素晴らしいものだと僕は思っています。

唯一、メイクピースに抱いた不満は、メイクピースが本を読まない人だということかな。
もう本を読まない人の話は書けないですね(笑)
だから、今の小説の主人公は、本を読む以外に何もしない人にしました(笑)そうやって、バランスととったのです。

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次の「本を読むこと以外何もしない」主人公の物語も楽しみですね〜!

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極北
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(2012/04/07)
マーセル・セロー

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ちなみに、セロー氏、この日本語版の装丁が一番好きなんだそうです。
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category: 雑談その他

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tag: マルセル・セロー  イベント  極北 
2012/12/07 Fri. 16:51 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: トークショー・レポート!(グッドジョブ)

> 愚痴日記をつけてるとは・・暗い奴(失礼)だなぁ。
> まあ、日記はある面、そうした捌け口でもあるのでしょうが・・。

あはは。でもそのおかげで彼の奥さんは、愚痴を聞かされずにすみ、何よりこの素晴らしい物語は、この愚痴日記に書いた一文から始まっているのですから、愚痴日記様様ですね(笑)

> 新作の様子も知ることができました・・感謝。
> 「本を読むこと以外何もしない」主人公の物語(!)。

新作、楽しみですよね!
「極北」がおそらく本人が一番びっくりしているほど良かったので、次作はプレッシャーでしょうけれど、また美しい結晶を作ってもらいたいですね。

> (実は偶然そのまんまの主人公の物語を今読んでいるところなのでした)。
えー、それどんな本?
是非タイトルと読み終えたら感想を教えてください。

> ごぞんじかも知れませんが、こんな動画を発見。
前回の来日は、このWabi sabiの取材だったとか。
Wabi Sabiをどう理解できた?みたいな質問もありましたが、それに対する彼のアンサーも非常にふるっていて、
「英語にはwabi sabi とか「もののあはれ」といった日本特有の美意識を表現する言葉はない。でもそれを表現する言葉はもたずとも、僕たちも確かにそれを美しいと感じる。経験は同じなんだ。その「美しさ」を僕たちは異なる言葉で表現しているんだ。それは非常に興味を惹かれる。」
表現形態が違うだけなんじゃないか、というのは、私も面白いなと思いました。

ちなみに、今回は、中央公論社に招かれたのかと思いきや、ガーディアン紙の「東京を歩く」という取材のためだそうです。高尾山から出発し、立川、吉祥寺、新宿、そしてあの日京橋の中央公論社にたどり着いたということらしいですよ。

Spenth@ #- | URL | 2012/12/08 Sat. 09:52 * edit *

トークショー・レポート!(グッドジョブ)


セローさんの作品創作(創造)における結晶作用?
興味深く読ませていただきました。
そういう化学反応の自身に起こった恍惚感がうかがえる一方・・ん!?
愚痴日記をつけてるとは・・暗い奴(失礼)だなぁ。
まあ、日記はある面、そうした捌け口でもあるのでしょうが・・。
(それも読んでみたい気がするのでした・・たぶん創作日記のコトを照れてそんな風に別称しているのだと思いますが)。

新作の様子も知ることができました・・感謝。
「本を読むこと以外何もしない」主人公の物語(!)。
ぜひ読みたい。
(実は偶然そのまんまの主人公の物語を今読んでいるところなのでした)。

ごぞんじかも知れませんが、こんな動画を発見。
http://www.youtube.com/watch?feature=endscreen&v=-In1lQd4Eno&NR=1
良い記事ありがとうございます!・・ではまた。

nao #6gL8X1vM | URL | 2012/12/07 Fri. 19:21 * edit *

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