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読書日記、ときどき食日記

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64 ロクヨン / 横山秀夫 

「このミス」「文春ミステリー10」ともに1位!
今年は、宮部みゆきも久しぶりの現代長編ミステリーを上梓しているので、実は私は「このミス」の方は『ソロモン』に軍配が上がるのでは、と踏んでいたのだが、「64ロクヨン」は強かった!
両方読むと、やはり「64ロクヨン」の出来は際立っていた。海外作品をあわせても、本書より優れた警察小説ってあるのだろうか。ここ数年、国内モノにはあまり食指が動かなかったが考えも変えさせられた。

その出来のみならず、本書は、「産みの苦しみ」でも話題となっている。
思えば、7年もの間、横山秀夫は書いていなかったのだ。『64ロクヨン』に入れこんだあまり、心と身体を壊し一時は作家廃業も頭を過ったというのだ。しかし、長い間苦しみ、模索し、ようやく掴んだものの素晴らしさは作品から滲み出ていると思う。

kako-3YX5ZiqKMcBKGifl.jpg物語の舞台は『陰の季節』でおなじみのD県警である。主人公の三上はこのD県警の広報官だ。『陰の季節』の二渡も、三上と同じ高校出身の同期という設定で、登場人物の一人として物語を彩っている。
さて、タイトルの"ロクヨン"とは、今から14年前に起きた少女誘拐事件のことである。田舎警察のD県警管内で初めて起きた本格的な誘拐事件だった。しかし、犯人に身代金をまんまととられ、人質の翔子ちゃんは無惨な遺体で発見されたのだった。
昭和64年は、天皇崩御によってたった7日で幕を閉じてしまったが、64年の1月に少女は誘拐され殺されたのだ。必ずや犯人を昭和に引きずり戻す、"ロクヨン"そういう願いのこめられた符丁だった。
しかし、長い時を経て事件は年月とともに風化しつつある。時効があと1年となった今、突如として警視庁長官が翔子ちゃんの遺族を慰問することが決定される。(この時代まだ時効撤廃はなされていない)その目的は凶悪犯は必ず挙げるという内外に向けたPRだった。広報官の三上は、刑事部には内密にその段取りをつけるよう命じられるが、殺された少女の父親は長官の訪問を拒否するのだった。
なぜ、少女の父親は警察に背を向けるようになったのか?それを探ろうとする三上だが、そこにはなぜか警務部のエース二渡の姿が。
14年の時を経て、ロクヨンが再び動き出そうとしていた…


hideoyokoyama.jpg三上は一時期とはいえ広報室に身を置いたことを ”前科”と感じ、それを埋め合わせるかのように、がむしゃらに働いて実績を挙げてきた自負を持っていた。しかし、今、また46歳にして意に沿わない出戻り異動を命じられ、広報官を勤めていた。
本庁寄りの警務部と刑事部の間には、相容れない背景があるが、元刑事で現警務付きの三上は、そのどちらの部署からも信頼されていない。三上の心は今でも捜査官のままだが、職責は果たさなくてはならない。
記者クラブはコントロール不能なまでに暴走し、警務部と刑事部が一触即発の中、三上はジレンマに身を焼くことになる。
ロクヨン事件の結末も見事ではあるが、本書の良さは、組織の中での自分の立ち位置に悩む三上の姿に尽きる。警察に限らず、組織に生きる数多の人は、三上に我が身に重ねるのではないだろうか。
D県警の大物OBが、苦しむ三上にこう言うのだ。「たまたまが、一生になることもある。」この言葉こそが本書のテーマだろう。
三上がそうであるように皆が皆、己の意に沿う職に就いているわけではない。才能と運の両方に恵まれている人は少ないのだ。世の中の多くの人は、様々な事情によって「たまたま」その職にある。
だが、不遇をただ嘆くだけではなにも結実しない。ならば、「たまたま」でもそこで踏ん張ってみるのも手じゃないか。
そういう仕事観を通し、家族、人との繋がりを描いた小説なのだ。

ただ、横山さんの白いジャケットはどうかと…



64(ロクヨン)64(ロクヨン)
(2012/10/26)
横山 秀夫

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category: ミステリ/エンタメ(国内)

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 国内ミステリー  横山秀夫  このミス  文春 
2012/12/12 Wed. 23:28 [edit]   TB: 0 | CM: 8

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この記事に対するコメント

Re: はじめまして

ちゃよさん、

コメント有り難うございます。

『64ロクヨン』は是が非でも!
横山作品のベストではないかと思います。

Spenth@ #- | URL | 2013/05/09 Thu. 19:15 * edit *

はじめまして

実はまだ64って読んだことないんですよ。気にはなるんですけどね~。
ミステリー対象本の紹介をしている雑誌みたいのを読んだ時に、すごく横山さんが苦しんだことが載っていたので、気にはなっているんですが。

でもやっぱり面白そうなので、今度チャレンジしてみようと思います!

ちゃよ #- | URL | 2013/05/09 Thu. 12:45 * edit *

Re: マリック的組み合わせ?

> ロバート・リテル著『CIAザ・カンパニー』これは読むと徹夜になるね

ああ〜、これ読みたいなぁと思いつつ、そのままになってた本です。
これを機会にチャレンジかな。
こうして、読むべき本は増えていくのでした(笑)

> ただ、その質量はレンガ2個分S・キング『アンダーザ・ドーム』といい

大丈夫。長い分には平気です!
ストーリーテラーならなおさら。

Spenth@ #- | URL | 2012/12/14 Fri. 20:40 * edit *

白ジャケは場末のマジシャンとは違います

思い出したので連投します。
スマイリー5部作読んでるんだったら、実はル・カレに匹敵する
すごい作家がいるのを思い出しました。
『ティンカー・テイラー・・・』他がMI6側からみた2重スパイの作品
に対し、おそらく同じ題材でCIA側から見た作品が

ロバート・リテル著『CIAザ・カンパニー』これは読むと徹夜になるね
最初、ル・カレと同一人物じゃないかと思ったほどの
ストリーテラーですけど、ル・カレよりはるかに読みやすくテンポがいい
ただ、その質量はレンガ2個分S・キング『アンダーザ・ドーム』といい
勝負、他の作品もかなりの水準 ル・カレの次にお薦めです。

アラフォーおやじ #- | URL | 2012/12/14 Fri. 11:15 * edit *

Re: 黄ジャケでゲッツにならないだけマシ?

naoさん、こんにちは。

> 二渡りの動きにはドキドキさせられました・・デキル奴なので不気味。
そう、そう!
三上の二渡へのライバル心みたいなのも、そのドキドキを盛り上げましたよね。

しかし、さすがは横山秀夫!安心の文章力に、圧巻の心理描写。まさに渾身の長編でした。
『ロクヨン』の後は、またしんどくなるでしょうが、マイペースで良い作品を書いていって欲しいですね。


> 英国人(気質?)がよく描かれている大人向けの(シブ好み)作品。
>(作家の資質としてコナリーよりもル・カレを高く買ってます)。

私もです(笑)
といっても、コナリーはボッシュを読んでないのですが、好み的にはル・カレの圧勝?
私は『ナイロビ〜』は映画でのみ、あとはスマイリーものしか読んでないのですが、
静謐な文章が、逆に東西冷戦時代の水面下の緊張を感じさせて、非常に雰囲気を持ってる作家ですよね。
これは彼にしか描けない。
ちょっと昔、ル・カレ路線の現代米国版を狙ったかのような『ツーリスト』というスパイ小説が鳴りもの入りで日本に入ってきたのですが、ものすご〜〜〜〜くがっかりしたのを覚えています。映画のほうが有名かな?
N.Y.Timesのベストセラーランキングに乗り、米国各書評で大絶賛だったのですが、当時これの日本語版を読んで、これをどう映画にするというのじゃ?と思いました。
案の定、超のつく駄作に...。

Spenth@ #- | URL | 2012/12/14 Fri. 09:18 * edit *

来年は「ル・カレ祭り」など希望


『64』の魅力、巧く文章(記事)にあらわされておりますなぁ・・さすが。
二渡りの動きにはドキドキさせられました・・デキル奴なので不気味。
(白ジャケはNGだな・・何か吹っ切れたのかな?)。

ル・カレの作品はいい感じの娯楽作品ですなぁ・・(懐かしさでいっぱいの)最初期の作品が好み。
グリーンの『ヒューマン・ファクター』もそうですが、
英国人(気質?)がよく描かれている大人向けの(シブ好み)作品。
(作家の資質としてコナリーよりもル・カレを高く買ってます)。
ミステリの用語の意味とは別に、
ああいうタイプのものを「本格」とよびたい(・・と個人的意見)。
・・と言いつつ『ナイロビの鉢』以降はまったく知らないのでした。
なので読後は作品紹介お願いします。
ではまた!

nao #6gL8X1vM | URL | 2012/12/14 Fri. 01:32 * edit *

Re: 白ジャケは演歌歌手にみえる

アラフォーおやじさん、こんばんは。

はい。ロクヨン、後悔しないと思いますよ!
naoさんもおっしゃってましたが、私も海外作品をあわせてもかなり上位に来ます。
とはいえ、久しぶりに横山秀夫の文章をみて、それだけで嬉しくなったりもしたのですが...。
私みたいな自分の行く末が見えてきた中高年には、ぐっと来るものがありました。

宮部みゆきは、本当に器用な人で、何を書かせてもそれなりのものあげてくる。小説家が天職なんでしょうねぇ。
宮部作品にはない「産みの苦しみ」の結実が横山作品にはあり、それが両作品の差となった気がしました。

らも氏渾身のエンタメ『ガダラの豚』ですが、東西ミステリー100の結果(83位!)をみた時、
不思議に思いました。 もっと上であってしかるべきですよねぇ...。
こういうのを書ける人、今、いませんよねぇ...?
ボリューム的に敬遠されて読まれてないのかな?


> 確かに北欧・ドイツの作家も面白かったけど、『サイコパス』
『猟奇殺人』『近親相姦』等は食傷気味で、

あはは。そうですよね。
そして、どれも似てる...。
特に私は北欧ものの警察小説とやらには、胸焼けしてます(笑)

Kindleの課題はコンテンツですよね。
やっぱり未だにしょぼいというか。価格もなんとかしてほしいところです。

ところで、私もル・カレの『われらが背きし者』を買いました!
これって岩波から出てるんですよねぇ...。
積読本がかなりあるので、読むのは少し先になるでしょうが、楽しみです。
平行してスマイリー5部作をゆっくりと再読しており、「死者」「高貴なる」を読んでいるのですが、ル・カレの世界ってやっぱりいいですよね。
エンタメ傾向の強い横浜の読書会なのですが、ル・カレのファンもいらっしゃるので、
来年は、どこかで「スマイリー読書会」をねじ込んでやろうと思っているのでした。
もしも可能なら、いらっしゃいませんか?(笑)

Spenth@ #- | URL | 2012/12/13 Thu. 18:55 * edit *

確かに白いジャケットはいただけない。
ご無沙汰です。『64』そんなにspenthさんが絶賛するなら
読まなきゃね、今年読んだ日本人作家は中島らも『ガダラの豚』のみ
あれはかなり面白かった
あとは、ご推薦の海外ミステリー+ドン・ウィンズロウ+ル・カレ位です

確かに北欧・ドイツの作家も面白かったけど、『サイコパス』
『猟奇殺人』『近親相姦』等は食傷気味で、
コナリーのやり過ぎも、最近はちょっとね
自分は『わたしは眠りにつく前に』や『スマイリーと仲間たち』
みたいな地味だけど読後じわじわと来る作品が好きですね
ところで、kindleは重宝してますよ、
何が良いって字が読みやすい(笑)
あれは読書好きのある年齢層以上には必需品
コンテンツはまだスカスカだけど、来年辺りは充実して
値段も下がるんじゃないの?
本の調達先が一つ増えた感じ、好きな作家は本屋で新刊で買うけどね
また来年も面白い本の紹介、よろしく では

アラフォーおやじ #- | URL | 2012/12/13 Thu. 17:29 * edit *

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