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読書日記、ときどき食日記

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CIA ザ・カンパニー/ ロバート・リテル 

robertlitell.jpgこれもまたボリュームのある本で、実に上下巻あわせると1000ページを超えている。

本書は、1950年代に入局した若者たちを通して、JFK時代のキューバ危機からソ連の8月革命まで、史実を交えつつ、圧倒的スケールで冷戦を描いているスパイ小説なのである。
「あとがき」で訳者は、気合いと消化力が必要だと言っているのだが、なるほど濃く、深いのだ。
しかし、エンタメ性も抜群。超個性的で魅力ある登場人物もさることながら、キューバ危機などの"知っている”史実が出たときの興奮は、ページをめくらせる手を早める。


1950年、イェール大を卒業をしたジャックとレオ、エビーの三人は、スパイとしての一歩を踏み出そうとしていた。彼らはファームと呼ばれる訓練所でスパイとしての心得を学び、それぞれ配属先の支局へと散らばっていく。
一方、イェール大で、ジャックとレオのルームメイトだったロシア人留学生イヴゲニーもまた、KGBのスパイとしての道を歩みはじめていた。
ジャックの配属先は、ベルリン支局だった。そこはソーラサー(魔法使い)と呼ばれる男、トリッティが仕切っていた。トリッティは、安物のウィスキーを好み、常に酒の臭いをぷんぷんささせているものの、スパイとしては超一流だった。ジャックはそのソーサラーのアプレンティス(魔法使いの弟子)となったのだ。
ハンガリー暴動、アフガニスタンのソ連侵攻、ピッグス湾事件、ベルリンの壁の崩壊… ジャック、レオ、エビーの3人は、歴史的事件を生き伸び、それぞれ出世の階段を上がっていく。
そのころ、CIAでは、KGBのスパイが内部にいるのではないかと囁かれていた。重要な工作の情報が敵側にとこごとく流れていたのだ。実は裏切りものは身内に近いところにいた。工作部門の幹部のアングルトンの親友で、同盟国である英国MI6の幹部フィルビーがそのスパイだったのだった。親友に裏切られたアングルトンは、猜疑心の塊となり、猛烈なスパイ狩りをはじめる。このスパイ狩りで、ロシア・ソ連部門では退職者が続出しガタガタになっていったのだった。
だが、KGBはどこまでも用意周到だった。フィルビーに代わって、サーシャという新たな二重スパイを用意していたのだ。
ある時、ソ連大使館員の男が、サーシャに関する情報と引き換えに亡命を求めてくるのだが、その情報からアングルトンは、ある人物が二重スパイだと確信するのだが…


物語のクライマックスは、ソ連に逃げたサーシャが、そこで8月クーデターの阻止に奔走するシーンだろう。彼はソ連に渡り、労働者の天国であるはずのソ連の民の生活を目の当たりにし失望するのだ。そんなサーシャの最後の希望がゴルチョフだったのだ。
このくだりはピューリツァー賞を受賞した
『レーニンの墓—ソ連帝国最期の日々』に詳しいが、リテルは、見事に史実とフィクションの境目を消していると思う。

本書に登場するジャック・ケネディはJFKらしく、レーガンもいかにもレーガンらしい。
私の一番のお気に入りは、やはりソーサラーことトリッティだ。飲んだくれで、薄汚く、「シャンパンなんぞは、泡ばかりで屁がでるから嫌い」で、喉が焼けるような安酒を好む。だが、群衆の中に溶け込んでしまったかのように、個性を消すことができる。この凄腕スパイのトリッティのおっさん、実は、実在のモデルがあるのだという。
主役の三人は元より、猜疑心が高じ次第に精神を病んでいくアングルトン、少女たちをベッドに侍らせるKGB幹部のスターリクなど、灰汁の強い登場人物たちが、物語を彩りエンタメ性を高めている。

Alice.pngところで、スパイ小説といえば、ジョン・ル・カレだが、本書でも、ソーサラーことトリッティに、引退後の手慰みとしてル・カレを読ませてこう言わしめている。「冷戦について知りたきゃ、新聞を読むよりル・カレの小説を読んだ方がいい。」
だが、もっと真正面から知りたければ、米国サイドから書かれた本書のほうがいいかもしれない。冷戦の危機に瀕してから、ソ連崩壊によって終結をむかえるまでの間、常に中心にいたのは米国であるのだ。

本書では至るところで、『不思議の国のアリス』が引用されているのだが、『アリス』の内包するテーマは風刺とパロディ、それと"ナンセンス"である。ル・カレとリテルの視点は近いのだ。
リテルは、スパイの世界を、「兎の穴」に喩える。確かにスパイは、その「兎の穴」に「不思議の国」をつくり、その中にさらに「不思議の国」を作ってお互いを惑わせ合っているのかもしれない。


CIAザ・カンパニー〈上〉 (文芸シリーズ)CIAザ・カンパニー〈上〉 (文芸シリーズ)
(2009/01/15)
ロバート リテル

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CIAザ・カンパニー〈下〉 (柏艪舎文芸シリーズ)
CIAザ・カンパニー〈下〉 (柏艪舎文芸シリーズ)
(2009/01/15)
ロバート リテル

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なんと!ドラマにもなってた。
D10050691_24L.jpg CIA ザ・カンパニー
ツタヤディスカス









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category: スパイ・冒険・ハードボイルド

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  スパイ    冷戦 
2013/01/18 Fri. 20:11 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: こんな顔してたんだリテル

アラフォーおやじさん、こんにちは。

本当に、今年は寒いですね〜。

> 『本気出せば、これぐらい書けるんです わし』てね

ぶっ、これ笑っちゃいました。

しかし、ル・カレもリテルももういい年齢だけど、彼らの後継者っているのでしょうかね?
さすがに、冷戦を描くのは難しいとは思うのですが...

『裏切りのサーカス』は私はまだ観てないのですが、わかりやすくて良かったという人もいれば、絶対違う!という人もおり...賛否ありますよね?
とりあえず、ルックス的にはスマイリーっぽくない気がするんですが。

『CIAザ・カンパニー』を二時間の映画にするのはちょっと無理かな。
どのエピソードも一つとして省略してはいけない気がします。
となると、少なくともロード・オブ・ザ・リングのような三部立てが必要で、今の金欠ハリウッドには難しいかな?

> トリッティのおっさんは私の中では若かりし頃のジャック・ニコルソン
かな
おー、これはいいかも!ニヤっと笑う顔が、トリッティっぽい。

> まずはマリオ・バルガス=リョサに手を出してるところにそこへ2666も思わず借りてしまいましたは

リョサにボラーニョ...
す、すごいですね!くれぐれも『2666』で怪我をされませんように。
あれは凶器になりますから(笑)

アラフォーおやじさんの所も図書館環境がいいのですね。
羨ましい!

Spenth@ #- | URL | 2013/01/19 Sat. 19:08 * edit *

こんな顔してたんだリテル

おはようございます。今朝も寒いね~

『CIAザ・カンパニー』は肉厚重厚でも不思議と苦にならないよね
リテルの作品はどれもページを捲る手が止まりません
故に一気読み ル・カレだとこうは行かないけど

リテルは作中に頻繁にル・カレを引き合いに出すんですよ(笑)
『最初で最後のスパイ』では
『ル・カレかなんぞの本だったら、いかにもありそうだが』と
登場人物の口を借りて言わせてます。
揶揄というかおちょくってるというか、まあ悪意はなく
賞賛?と対抗心が垣間見れます
ひょっとするとスマイリー3部作への対抗心からこの作品を
書き上げたりしてね
『本気出せば、これぐらい書けるんです わし』てね
登場人物も魅力あるしね、ル・カレの『ティンカーソルジャー・・・』
が最近『裏切りのサーカス』として映画化されてるから
これも映画化してくれないかな
トリッティのおっさんは私の中では若かりし頃のジャック・ニコルソン
かな
話は変わるけど、今年はスパイ、探偵、サイコパス以外の
作品を読もうと思い まずはマリオ・バルガス=リョサに手を出してる
ところにそこへ2666も思わず借りてしまいましたは
近所の図書館は何故だかロベルト・ボラ―ニュが全部揃ってる
田舎なのにね 海外作家は待つ事なしに借りれます。

アラフォーおやじ #- | URL | 2013/01/19 Sat. 08:54 * edit *

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