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読書日記、ときどき食日記

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都市と都市 / チャイナ・ミエヴィル 

本書は、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞、ローカス賞、クラーク賞、英国SF協会賞受賞という錚々たるSF賞の受賞し、「このミス2013」のトップ10にも入った作品である。SFとしても、ミステリーとしても評価が高い本なのだ。
今日、ミステリーの「広義性」もその自由度も拡がり、小説のジャンル分けは困難になってきている。人によっても捉え方は異なるだろうし、昔のように容易ではなくなっている。ましてや、ジャンルを横断するNew Weirdの旗手たるミエヴィルの作品ならば、云わんやをや。
(といいつつ、SFにカテゴライズしているのは…
だって、これをミステリーにしてしまったら、SF枠が寂しくなってしまうんだもの…)

the city the city さて本題。
物語は一見ありふれた警察小説のように始まる。ベルジェ郊外の住宅団地で、若い女性の遺体が発見される。現場に駆けつけたのは、本書の主人公ベルジェ警察過激犯罪課のティアドール・ボルル警部補だ。
遺体を発見した少年たちは、サスペンションを軋らせ立ち去るバンを目撃していた。どうやら被害者は別の場所で殺され、ここに遺棄されたらしい。ボルルは早速、この地区に詳しいコルヴィ巡査部長とともに捜査を開始するのだが…

物語のメインストーリーは、この女性殺害の犯人探しだ。
しかし、このベルジュの町の設定が通常の小説とは大きく異なる。ミエヴィルがいうところのWeirdな、あり得ない世界なのである。

実は、ボルルのいるベルジェと、ウル・コーマという二つの国家は、地理的にほぼ重なりあい、互いの領土がモザイク状に組み合わさっている。
二つの国には物理的な障壁がないため、ある通りを隔てるとそこは隣国であったするのだ。だが、この二国はその事実を認めてはいない。そのため、ベルジェの人々は、ウル・コーマの建物や人々が、見えていても見えないし(unsee)、ウル・コーマの騒音も聞こえていても聞こえない(unhear)のだ。逆もまた然り。
magrittethe blanc check見えているはずのものが見えず、見えないはずのものが実は見えているというのは、R.マグリットのだまし絵のようだが、両国の人々は、幼い頃からそういった訓練を施されていた。他国のものはそれが何であっても、そこにはないものとして扱うのがルールなのだった。
この禁を破ると、たちま「ブリーチ」が現れどこかに連れ去られてしまう。ブリーチとは、二国間どちらにも属さない謎の組織のことだ。彼らはその種の行為を常に監視しており、両国の国民はブリーチに対して従順であるよう恐怖が刷り込まれているのだ。
ボルルはポスターを貼り被害者の女性の情報を集めようとするが、有益な情報は得られない。そんな時、一本の電話がかかってくる。不明瞭なベルジェ語のその電話はウル・コーマからかけられており、「女性はウル・コーマに住んでいた」と告げるのだった。
ウル・コーマの住人である彼女をベルジェに遺棄したのならば、犯人は「ブリーチ行為」を犯したことになる。もしそうなら、ボルル自身も危険だ。ボルルは、この事件をブリーチに委ねようとするのだが、バンは、コピュラ・ホール(両国公認の国境検問所)を通過し、正式な手続きを経て両国を行き来していたことが判明するのだった。犯人は法を犯してはいても、何らブリーチ行為は犯していなかったのだ。
ボルルは捜査協力のためウル・コーマに派遣されるのだが…


アンシー、アンヒア、ブリーチ、…多くの作中用語や、息の詰まる灰色世界はオーウェル『一九八四年』を彷彿とさせる。が、本書はディストピアではない。本書にあるのは、どちらかというとシュールレアリスムであり、そこにあるのは滑稽さだと思う。
解説者は、実のところこの小説の主人公は都市なのだ、と言っているが、これはその通りかもしれない。これは都市と都市の物語なのだ。ボルルの人物描写が淡白なのも、小説自体の体温が低いのも、このためなのだろうか。

ゴツいルックスのミエヴィルなのだが、小説においても見た目通りの豪腕ぶりだ。
china_mieville.jpg彼のこの非現実的な物語は、人間の無意識、偶然性を重要視した普段気が付かない現実を突きつける。

実は、意図的アンシー(見えているはずのものをみない)、アンヒア(聞こえているはずの声をシャットダウンする)ということは、我々も日常生活でよくやっているのではないか。
地下街の入り口のホームレスや、コンビニにたむろする若者たちを、見えていても見ないふりをしていることは割とあるのだ。

マグリットの絵、『白紙委任状』は、馬上の女性は樹木を隠し樹木は馬上の女性を隠している。だが、我々人間のの思考は、見えるものと見えないもの、両方を認めているのだという。
マグリットはこれを絵で表現したが、ミエヴィルは小説で表現しているのだろう。そして、さらに一歩進んで、誰もが知っているにも関わらず、誰も顧みようとしないものにも踏み込もうとしている。

それにしても、強面のスキンヘッドに左上腕にはスカルとオクトパスのタトゥーとか。
ミエヴィルさん…
一体、何を目指しているので?



都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)
(2011/12/20)
チャイナ・ミエヴィル

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ちなみに、本書は次回横浜読書会の課題図書なのです。
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category: SF ファンタジー

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 早川書房  SF  このミス 
2013/01/31 Thu. 09:40 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: はじめまして。

有り難うございます。

Spenth@ #- | URL | 2013/02/01 Fri. 21:42 * edit *

はじめまして。

はじめまして。
私は「読書ログ」という読んだ本の管理やレビューを書くサイトの運営をしています。

ブログを拝見したのですが、ぜひ読書ログでもレビューを書いて頂けないかと思い、コメント致しました。

トップページ
http://www.dokusho-log.com/

こちらでメンバーたちのやり取りの雰囲気がご覧になれます。
http://www.dokusho-log.com/rc/

読書が好きな人同士、本の話題で盛り上がっています。
もしよろしければ遊びにきて頂ければと思います。

よろしくお願い致します。

読書ログ #iE545MNQ | URL | 2013/01/31 Thu. 11:45 * edit *

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