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読書日記、ときどき食日記

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われらが背きし者 / ジョン・ル・カレ 

John Le Carré


”この油断ならない時代に、『ティンカー・テイラー』が歴史小説になっているのをみるのは、妙なものである。”
映画化にともなう改訂版の序文でル・カレはこう言っているのだが、その彼は、もう80歳を超えている。本書は、そんなル・カレの新刊だ。


さて、本書の主人公は、オックスフォードの元教員、ペレグリン(ペリー)・メイクピースだ。
30歳を目前に、彼は自分の第二の人生について考え、そこで思い切って生涯一度の贅沢な休日を過ごすことにしたのだった。弁護士の恋人ゲイルとともに季節外れのバカンスに出かけ、カリブ海のアンティグア島でのテニス三昧をするのだ。
アンティグアで島で、ペリーはディマというロシア人に試合を申し込まれる。
だが、ディマの目的は単なるテニスではなかったのだ。屈強なボディガードを伴い、ダイヤ入りの金のロレックスを手首に巻いたディマは、実は世界規模でマネーロンダリングを手がけるロシアンマフィアの幹部だった。
実は、ディマは犯罪組織から足を洗おうとしていたのだ。そこで、重要な情報と引き換えに英国当局に対し、自分と自分の家族たちの英国移住と身の安全を求めていたのだった。ディマはペリーをスパイだと思ったのだ。英国の貴族、紳士、知識人は皆スパイじゃないか。そしてイギリス人はフェアプレイの精神を持っているはずだ。

そして、ディマはペリーに、ロンダリングの一例や、旧ソ連時代最も過酷だといわれた収容所コルイマでのことを話し始めるのだった。ペリーは自分はスパイではないと主張したが、結局その過分な荷を受け入れることにした。そして、今、諜報部のルークとその上司を相手に、ディマの伝言を話をしているのだった…
ペリーはゲイルをディマの件から遠ざけたかったが、ゲイルは、ディマの娘ナターシャと親しくなっていた。実はナターシャは、父親に言えぬ秘密を抱えていたのだ。
ペリーが再びディマと接触するのに選ばれたのは、全仏オープンテニス男子シングルス決勝の会場だった。果たしてディマの願いは聞き入れられるのか…

ペリーを主役と書いているものの、本書はペリーとゲイル、そしてディマの群像劇的趣きがある。
登場人物の個性も魅力だが、亡命者との再会の場に、全仏オープンテニスの会場が使用されるとは!!!
federer RG 2009

最も過酷といわれるあの赤土のコートは、なんとル・カレの世界にはまるのだろう。実際、あのラグジュアリーなボックスシートでどんな密談が行われていたとしても、不思議ではないと思う。
ル・カレが選んだ2009年のこの年は、ナダルが膝の故障もあってソダーリングに敗退した年だ。2005年以来、はじめてナダルがいない決勝だったのだ。その時の決勝カードはソダーリング(作中はセーデリングと表記されている)と全仏初優勝を狙うフェデラーである。
試合の様子もリアルに描かれており、あの時の興奮が蘇る。ル・カレはエレガントなフェデラーのテニスが好きなんだろうなぁ!

ディマとの出会いもそうだし、再開の場としてのセッティングも然りで、テニスは、ストーリー上重要な役割を果たしている。
紳士のスポーツだあるテニスには、フェアプレイの精神が尊ばれるのだ。フェアプレイという作中何度もディマが口にするこの言葉は、実はアイロニカルなテーマともなっている。公平な取引、公平な勝負。イギリス紳士なら誰でも持っているだろうとディマが思っていた精神だが、政治的な駆け引きの前には…
ル・カレが懸念しているのは、それが当たり前の世界になってしまったということなのだろう。ル・カレのいう「油断のならない世界」だ。
そして今や、誰もが「背きし者」なのである。

「ーソマリアの将軍のベッドの下に隠されていようが、シティの銀行でビンテージ物のワインと一緒に保管されていようが、金の色は変わらない。」
ロシアのオルガリヒ(新興財閥)とディマの属しているマフィアも、さして違いなどないように、IOCとロシアンマフィアもさしたる違いはない。


われらが背きし者
われらが背きし者
(2012/11/08)
ジョン・ル・カレ

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category: スパイ・冒険・ハードボイルド

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  映画化    岩波書店 
2013/02/21 Thu. 19:41 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: 実はまだ読んでない

あら、ル・カレニストとしたことが...。

岩波から出てるんですよね、これ。
でも、かえってよかったのかも。
訳者の上岡氏は、ドン・デニーロなどを訳している方なのですが、すんなりなじめましたよ。
新訳版の『ティンカー〜』よりはよほどいいです。
ちなみに、この本は、当初『偽りの地平線』というタイトルだったみたいですが、改題してよかった。
映画も『裏切りのサーカス』じゃなくて、そのままの『ティンカー、テイラー〜』でよかったのに。

> ラテンアメリカの作家に寄り道をしている最中なので
> しかし、ラテンは自由すぎるは!

そうそう、自由すぎて時々ついて行けない(笑)
でも、面白いですよね。私も少し体力が戻ったら、またチャレンジしたいです。


> ラストは映画の方が辻褄が合うんだよね
そうか、ちょっと原作と違うのか。
ふふ、私まだ観てないんですよ。でも、今週末観る予定です!

> ただし、『ティンカー・テイラ・ーソルジャー・スパイ』
> を熟読していない人には何が何だかさっぱり
> 解からないだろうね

映画のパンフか何かに、小説を先に読んで登場人物の相関図などを把握してから観ることをおすすめします、とか
書いてあるそうですよ(笑)

フォーサイスの『コブラ』もそうだけど、マイケル バー=ゾウハーの『モサド・ファイル』も面白そうですよね!
こうして積読本はふえてゆく...。

Spenth@ #- | URL | 2013/02/21 Thu. 22:36 * edit *

実はまだ読んでない

ご無沙汰です。

『われらが背きし者』
実は本は本棚にあるのですがまだ読んでません
ラテンアメリカの作家に寄り道をしている最中なので
しかし、ラテンは自由すぎるは!

レビューは読んでからまたじっくり読ませていただきます。
それより『裏切りのサーカス』spenthさんもう見た?

最高にいいよ、スパイ映画ではこれ以上に無い出来
ラストは映画の方が辻褄が合うんだよね
ゲーリーオールドマンは原作とイメージは違うけど
逆に映像ではその方がいいんじゃないかな?

ただし、『ティンカー・テイラ・ーソルジャー・スパイ』
を熟読していない人には何が何だかさっぱり
解からないだろうね
そう言えば、引退するするから早、10年のフォーサイスさんの
新作『コブラ』これ酷評されてるけど、意外といい仕事してます。

アラフォーおやじ #- | URL | 2013/02/21 Thu. 21:57 * edit *

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