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読書日記、ときどき食日記

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精神を切る手術〜脳に分け入る科学の歴史 / 橳島 次郎 

「精神を切る」とは、またすごいタイトルである。
そう思っていたら、ずばり脳に外科手術を施して精神疾患を治療する"精神外科"といわれる医療のことだった!
精神外科の代表的なものは悪名高き”ロボトミー”だ。そう聞けば、『カッコーの巣の上で』のジャック・ニコルソンの演技を思い出される方いるだろう。また有名なところでは、ケネディ兄弟の妹、ローズマリー・ケネディもこの手術を受けている。

ロボトミーを語ることなしに、精神外科を語ることはできない。だが、本書のテーマはロボトミーそのものの善悪を講じることにはない。ロボトミーの歴史と精神外科の現在を知ることによって、人体における脳の扱いと、脳に介入することについて考えさせることにある。
lobotomy2.pngロボトミーとは、こめかみあたりに穴を開け、細いヘラのようなものを挿入し、グリグリと上下に動かして白質の神経繊維を切る手術のこと。これを左右両側行う。頭皮切開のための局所麻酔だけでできたという簡易さだ。ワイルドだな...

ロボトミーの原型となる手術を考案したのは、ポルトガルのエガス・モニスで、これによってノーベル賞を受賞した。彼の名声に対し、ロボトミストとしての悪名を一身に背負わされたのは、米国の精神神経科医ウォルター・フリーマンだ。彼はモニスの手術を独自に改めてロボトミーと名付け、実に3,000人以上に施した。
フリーマンはナチの人体実験を行った医者と同じくらい嫌悪されている。が、一面だけで単純に語られるべきでもない。
Drfreeman lobotomistロボトミー最盛期には、それを受け入れる”社会の要請”もまた存在した。収容と拘束しかなかった当時の精神医療にあって、ロボトミーは唯一のアクティブな治療、希望だった。
ロボトミーの売りは、「暴力的で破壊的な患者を害のない人間に変えること」であり、あふれかえる公立の精神病院とスタッフを経済面と実利面から助けた。成功例である社会復帰できた患者は、「税金を食う人から税金を払う人へ変わった」と評価され、当時はメディアも肯定的に後押ししたという。
その後、猛烈な批判と反対運動によりロボトミーは終わりを迎える。激しい非難が寄せられたのは、その適応と目的が拡大され濫用されたためだった。本来の対象は、難治性の鬱病、不満障害、統合失調症だったが、それは粗暴な患者、精神病質者、犯罪者予備軍にまで拡大されたのだ。皮肉なことにフリーマンはこれらに与せず、効果はないと批判していたという。そして、晩年手術をやめた後も、自分が手術を施した患者の予後を調査し続けた。

フリーマン同様、精神外科を一概に禁忌として否定することはできない。誠に不幸なことではあるが、HMのイニシャルで知られる患者にみられるように、脳科学上のブレークスルーをもたらしたし、薬物療法や心理療法では治らず苦しむ患者の「最後の選択肢」としての役割を担ってもいる。
   Brain-Map.jpg
今後、10年で脳機能全容解明を目指す!」とオバマがその計画を発表したのはつい先日の話だ。
その日がくれば、重い精神疾患に苦しむ人々にとって僥倖となるかもしれない。しかし反面、”ちょっとした手術”によって、記憶力などの特定の能力が高まったるなどといった選択肢が差し出されるかもしれない。その時我々はどうするのだろうか?歴史は繰り返し、再び、凶悪な犯罪者の性格を変えるべきといった"社会の要請"が高まり、本人もそれを希望したとしたら?
脳への人為的な介入は、何が許されるべきで、どこからを禁忌とするべきなのか?それは誰がどう決めるのか?
それは、著者の専門である生命倫理と似た問題を孕んでいることに気づく。そして、そう悠長にしている時間はもうないのかもしれない。


精神を切る手術――脳に分け入る科学の歴史精神を切る手術――脳に分け入る科学の歴史
(2012/05/24)
橳島 次郎

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category: ノンフィクション・新書

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: ノンフィクション  精神外科  ロボトミー 
2013/02/28 Thu. 09:30 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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