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読書日記、ときどき食日記

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5分でわかったつもりになるアガサ・クリスティー 

Five Little Pig先週は連日図書新聞主催の『2666』のトークイベントやら、文芸フェスティバルやら”三島と春樹のマニアな比較の講義”などに出かけていた。(これらの話はまた次回!)
そしたらあなた、気がつけばもう3月じゃないの〜。そしてもう今週末は翻訳ミステリースピンオフ読書会。課題本はA.クリスティの『五匹の子豚 』である。やばいなぁと思って慌てて読む。

私にとってのクリスティは、「観る」ことのほうが馴染み深い。この本もドラマで観たことがあるので、ストーリーはほぼ知っている。だからかなぁ...正直に言えば、実は面白みは殆どなかったのだ。やばいな、私…
しかもこの『五匹の子豚 』は解説者によると、クリスティの通ならば本書を選ぶべきだというべきご本だという。
もう週末は、頭を低くしてやり過ごすしかないな(笑)

クリスティ作品は文学的な意義も持ち得ない。私はどちらかといえば活字派なのだが、クリスティ作品に限っては活字にこだわる必要性を感じない。原作も簡易だし、エンタメに向いておりシナリオとして活きる。だから後続の作家はこぞって真似をし乱作をしている。目に触れる機会が増えれば、味わいは薄れるのだ。

その代わりといっては何だけど、クリスティ自身の人生は小説より数倍面白く味わいがあった。
NHKのBSプレミアムに岡田准一が司会をやっている「ザ・プロファイラー」という番組があるのだが、1月にA.クリスティの回があって、録画しておいたのを今頃になって観てみたのだ。この番組はタイトルの通り、毎回異なる有名人のプロファイルをして、人物像を紐解いていくといったものである。
これが結構よくできていて、入門編としてはぴったりだった。前置きは矢鱈目ったら長いけど、今回の本題はここからなのです。


◆姉の言葉と薬剤師助手の資格
Poison.jpg彼女の自伝によると、大きな影響を与えたのは11歳年上の姉マッジの言葉だったという。ある時探偵小説を読んで、「私も是非書いてみたいわ!」と言ったアガサに、マッジは「あなたには絶対できっこない。賭けてもいいわ。」と言ったのだ。その時、彼女は絶対にいつか書いてやろうと思ったのだという。
二番目の転機となったのは結婚だった。彼女は軍人のアーチボルト・クリスティと結婚するのだが、それを機に陸軍病院でボランティアを始める。手足切断などが日常茶飯事の過酷な現場にあって、彼女は薬の効能に驚いたのだった。その後、薬局に配属になったことがきっかけで薬剤師助手の資格をとるまでになる。
その時に姉のマッジの言葉が蘇り、「せっかく、毒に囲まれているのだからこれを使おう!」と思いついたのだそうだ。毒なら、非力な女性でも扱うことができるし、じっくり時間をかけて殺すことも、アリバイ作りにも使える。かくして薬の調合とミステリーが結びつき、処女作『スタイルズ荘の怪事件 』は世にでたのだという。
彼女の長編66作品のうち、毒殺されるものは34作品、毒殺の被害者は62人、被害者の実に39%を占める。
歴史上の実在の事件などからみても、たいていの場合において毒は女性の凶器だ。非力な女性が男性を殺害しようとする場合に使われることが多い。そしてクリスティ作品は、この公式にかなり忠実なのである。
彼女が最も喜んだ批評は、薬の専門誌『調剤学時報』に掲載された「充分知識のあるやり方で毒薬を扱っており、自分の仕事に充分心得のある人だ」という一文であったという。


◆アガサ失踪事件
morris-cowley.jpgもうひとつ、アガサの人生を語るに欠かせないのは、失踪事件だ。
1926年アガサ36歳の時に彼女は失踪している。当時は新進気鋭の小説家として売り出し中で、購入したばかりの豪邸で、夫と7歳になる娘ロザリンドと幸福に暮らしていたはずだった。しかし、自宅から20キロ離れた場所で、彼女の愛車モーリス・カウリーが乗り捨てられた状態で発見される。車には衣類の入ったスーツケースや毛皮のコートなどが残されたままだった。結局、アガサは、10日後に自宅から遠く離れたヨークシャー州のハロゲートの高級ホテルで見つかるのだが、事故が原因の記憶喪失であったと発表されている。
当時の取材合戦はひどいもので、夫が怪しいとか、自作の宣伝では?といったことがまことしやかに報道されたという。実際、この事件をきっかけに彼女はミステリアスな作家として名声を高めていくことになった。
その執拗な取材合戦は、アガサの家庭の事情を暴き出し、当時、夫が若いタイピスト、ナンシー・ニールと不倫関係にあり、アガサに離婚を迫っていたことが明らかにされている。記憶喪失だということになっていたアガサは、発見された当時、テレサ・ニールと名乗っていた。
彼女は、この事件には一切口を閉ざしている。自伝でも全く触れていないのだが、メアリー・ウェストマコット名義で書いた『未完の肖像 』という恋愛小説の中で、当時の心境と思しきことをこう書いている。

「わたしは彼を愛し、ともに暮らした。子供ももうけた。
それなのに、彼は二度と私に会うことはないと考えている。ならば、私が出て行こう。こうしたことのすべてから。
どうせもう、我慢できないのだから。」


この小説は、アガサの第二の自伝だとも言われている。

彼女はなぜ失踪したのか?
この答えをゲストがそれぞれに推理していたのだが、おそらく一番的得ていたのは、山村紅葉の「愛ゆえに」という回答ではないかと思ってしまった。多分、どうしようもなくなってしまったのではないか。少なくとも、ミステリアスの演出のためや、それこそ本の宣伝のためなどではないように思う。


◆ミステリーの女王と女性読者
彼女の功績は、今から80年前に現代に通用する"ミステリーの王道"を作ったことだという。
1.華やかな舞台、2.完璧なアリバイ、3.セレブな顔ぶれ、4. 関係者全員が怪しい、5. 関係者全員を集合させての名探偵による謎解きという”スタイル”だ。
これは、今も続いている片平なぎさのドラマにもぴったり当てはまったりして、ミステリーの王道というよりも、2時間サスペンスの定番だと換言することもできる。
そして、我が読書会の男女比が指し示すように、小説を読むのも、この手のドラマを観るのも、圧倒的に女性なのだ。彼女の作品には、その女性を引きつけてやまない魅力がちりばめられてもいる。それは、旅、グルメ、ロマンスだ。

romance.jpgヴァン・ダインの二十則"などは無視して、彼女は女性好みの独自のスタイルを構築した。
これはマーケティングではなくて、彼女自身の関心と女性読者の好みがマッチした結果なのだろうが、それだけアガサは女性的な人だったのだろうと思う。
旅といえば、有名なところでは『オリエント急行の殺人 』。当時一等席の切符は、片道100万以上もしたといわれるが、これはちょっと前に私たちがHanakoのアマン系などの超高級リゾート特集なんかに憧れたりしたのと似ている。また、『雲をつかむ死』 では当時就航しはじめたばかりの旅客機をいち早く舞台として取り入れてもいる。クリスティは40歳の時に14歳年下の考古学者M.マローワンと再婚しているのだが、夫の遺跡発掘調査にほぼ同行しており、作品にいかしたのだった。

また、クリスティは49歳の時に故郷に通称グリーンウェイという白亜の豪邸を購入し移り住んだが、ここでの豊かな田園生活はミス・マープルのシリーズに反映されている。なかでもグルメの要素を取り入れたのだ。今も昔も美味しいレストランは女性客でいっぱい。グルメは女性の関心事の常に上位に位置するものだ。
作品でいえば、『バートラム・ホテルにて』ミス・マープルの 朝食のシーン。
PoachedEggontoast.jpg「トーストの上に見事なポーチドエッグが二つのせてあり、そのゆで具合もほどよかった。ミスマープルは慎重に、しかし自身を持ってナイフを入れた。期待通りだった。濃い黄身が流れ出た。りっぱな卵!みんなほやほやの温かさだ。」
個人的にあまりアガサは描写に秀でているとは思わないのだけど、この場面は、う〜ん、美味しそう!他にも、『鏡は横にひび割れて 』ではアフタヌーンティーを、『パディントン発4時50分』 では、ヨークシャー・プディングなどを描いている。
最後の要素、ロマンスは言わずもがな。『ナイルに死す』 では自らの離婚経験を元にしたかのようなドロドロの恋愛と、愛し合う二人に嫉妬しまとわりつく嫌みな女を描いている。これに限らず、クリスティ作品の殺人の動機は、男女のもつれにあることが多く、通好みだという課題本の『五匹の子豚』も全くこれに当てはまる。


Agatha Christie Madame Tussauds 晩年のアガサは、アガサ・クリスティである存在証明を求めていたといわれる。
1971年 エリザベス女王からDBE(大英帝国勲章第二位)叙勲。
81歳の時、蝋人形館"マダム・タッソー"からのオファーを二つ返事で受けた。
「あなたがみたままにしてちょうだい。ありのままがいいの」といったという。
マダム・タッソーといえば、『エッジウェア卿の死 』の中にもこういうのがあった。「女でわたしのような殺人者はいまだかつてなかったと思います。さて、もうお別れにしましょう。マダム・タッソーの蝋人形館で、わたしの蝋人形を陳列してくれないかしら?」
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tag: クリスティ  読書会  英国  古典   
2013/03/04 Mon. 18:27 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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