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読書日記、ときどき食日記

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クリスティー読書会〜『五匹の子豚』のマニアな読み方 

ミステリー好きが10人いれば、必ずといってよいほどそこにはクリスティマニアがいる。横浜翻訳ミステリー読書会もまさにそう。毎月開催している読書会では、現代ものと古典を交互にやっているのだけれど、今回ようやく?”クリスティ読書会”とあいなった。
課題本は『五匹の子豚』 何人かの翻訳者が訳している小説だが、今回は2010年の新訳版、山本やよいさんのヴァージョンだ。



以降は、ややネタバレがあります。



この日の参加者は12名。
スピンオフ読書会としては、『リンカーン弁護士』の時以来の人数じゃないだろうか。さすがミステリーの女王!

さて、『五匹の子豚』 は、いわゆる回想のミステリーというヤツで、ポワロが過去に起きた事件を解決するというものだ。
ある日、ポワロの元にカーラという若い女性が訪れ、母の無実を証明してほしいと依頼する。その事件は16年前、高名な画家だったエイミアス・クレイルが、妻キャロラインに毒殺されたというものだった。キャロラインは逮捕され、獄中死したという。事件当時カーラは5歳、事件後はカナダの親戚の元で育てられたという。21歳になった時、母親からの手紙を見せられ、両親の恐ろしい事件を知りショックを受けた。しかし、母の手紙には無実だと書いてあったのだった。「母親は嘘をつく人ではなかった。無実なんです...」カーラはいう。
当時事件に居合わせた人は、エイミアスの愛人だったエルサ、エイミアスの親友フィリップ・ブレイク、その兄でエイミアス邸の隣に住むメレディス・ブレイク、キャロラインの妹アンジェラ、アンジェラの家庭教師セシリア・ウィリアムズの5人。
カーラの願いに心を動かされたポアロは、事件の再調査に着手するのだが…


初クリスティの人も含めて「面白かった!」という声多数。あと「読みやすさ」をあげている人も多かったかな。活字も大きめだし、なんといってもエンタメの王道なのだ。
ややネガティブなものとしては、タイトルが上手いクリスティーにしてはイマイチなタイトルじゃないかという声も。
確かに実際それほどマザー・グースの「五匹の子豚」って関係ない?
201338reading.jpg
さて、どうして私が面白さが感じられなかったかというと、初期の段階で犯人の目星がついちゃたからなのだ。
まず殺害方法は「毒殺」、この段階で絞られる。そして殺されたエイミアスが抱えていた問題は…?
ほら!!!割とセオリー通りで、全てが女性の目線で描かれている。それがクリスティーなのだけども。

この日私が一番興味があったのは、クリスティーマニアであるTさん(女性)の感想だったのだが、なんと事件当日の登場人物たちの行動を時系列にエクセルにまとめて分析していた!!!
オツカレサマです。こうしてみると、いかに綿密に書かれているのかが分かる。

彼女はこの作品に限らず、クリスティの全作品についても分析してくれていた。その分析によると、クリスティー作品の動機のトップは「金銭欲」!続いて「愛憎・復讐」なのだそうである。これは私にとってとても意外で、絶対「愛憎」だと思っていた。
有名な作品がそうだからその印象が強いのだろうが、結構現実的!(笑)
それから犯人の末路は、その61%が逮捕となっている。これはTさん曰く、クリスティー自身が、「悪人は懲らしめるべき」という倫理観を持ってたことの反映ではないかと語った。首尾良く「逃走を図ったもの」と「見逃したもの」と両方あわせても1割に満たない。
本書『五匹の子豚』は、動機が「愛憎」に、結末は「見逃し」に該当している。しかも殺害方法は、クリスティ作品ダントツの「ザ・毒殺」なのである!
Gauguin Femme au mango

分析の白眉は、"なぜポワロは、アンジェラ(依頼者カーラの母親の妹)が事件の日に読んでいたのが、サマセット・モーム『月と六ペンス』 だと分かったのか"ということだった。(P364)
私も「なんでだろ?」とは思いはしたが、彼女はこれを徹底的に調べていた。『月と六ペンス』 を再読し、原文にもあたったそうだ。
そして答えを得たのである!
鍵はストリックランドの死因にあったのだ。これは『五匹の子豚』 日本語訳をいくら読み込んでみたところで、分からない。分かるはずもないのだ。事情により、アンジェラのセリフにでてきたその病名は、ただの”病気”へと変更されているからだった。

ディープなことこの上ないのだが、こういう分析をしていくのは面白い。
『月と六ペンス』 繋がりでいうなら、エイミアスの遺作となったエルサの絵は、どんな画風だったのだろうか?生命力と若さにあふれたその絵は?
私はゴーギャンとは作風が違うものなのじゃないかという気がしたのだが…

画風は違うだろうが、女を取っ替え引っ替えのエイミアスのプレイボーイぶりは、同時代を生きたピカソをモデルにしたのかなとも思った。当時著名画家となっていたピカソも、誰をも意のままに動かすことができ、気に入った女性をすべて手元に引き寄せ、芸術の中心に据えたのだという。けれども、情熱の頂点を越えると相手を破壊してしまうのだ。
ある意味で、エイミアスもエルサを破壊している。

興味深かったのは大多数が「エルサが可哀想」と同情している点だった。
エイミアス、キャロライン、エルサの三角関係は、自身も最初の夫アーチボルドとその愛人ナンシー・ニールとの三角関係のもつれで悩み苦しんだクリスティー自身が透けて見え、私はなんとなく切ない気持ちに…
だからこそ、彼女は、エルサがその後どんな男を勝ち取ろうとも、もう生を感じることを許さなかったのかもしれない。

ちなみに、この日の男女比は2:10!!!
「口うるさいイギリスの女どもの誰にも、おれの絵の邪魔はさせん」というエイミアスの台詞に、「俺、ほんっとうにこのセリフに共感した!」とDさんが発言したとき、一瞬空気が冷たくなったのは言うまでもない。

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category: 読書会

thread: 雑記 - janre: 本・雑誌

tag: 読書会  海外ミステリ  クリスティー 
2013/03/11 Mon. 18:56 [edit]   TB: 1 | CM: 0

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『スリーピング・マーダー』 アガサ・クリスティー 綾川梓訳 (ハヤカワ文庫)

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