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読書日記、ときどき食日記

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王妃に別れをつげて / シャンタル・トマ 

Chantal Thomas2002年のフェミナ賞受賞作にして、シャンタル・トマのベストセラー小説。フェミナ賞は、フランスの最も権威ある文学賞の一つで、女性作家に贈られる賞である。
既に公開は終了しているが、『トスカ』や『イザベル・アジャーニの 惑い』のブノワ・ジャコーの監督で映画化もされている。現時点ではまだDVDは発売されていないが、レンタル開始になったら小説とみくらべてみても面白いかも。

この小説自体は、ハードカバーとしてかなり以前に出版されていたのだが、昨年の映画公開や、「ベルサイユのばら」40周年記念展の影響もあり、新書サイズのUブックス版として再版された。お値段も手頃になったので読んでみた。そう、「王妃」とはマリー・アントワネットのことである。

そうか、「ベルばら」ももう40年か...。
日本人にマリー・アントワネットが馴染みあるのは、ひとえに池田理代子さんの功績といってもいいだろう。池田さんは高校生の時にツワイクの『マリー・アントワネット』を読んで、なんて素敵な女性なんだろう!と感動したのだという。
ちなみに、当時の少女漫画に歴史ものというカテゴリーはなく、そんなのは受けないと周囲に反対されたが、池田さん自身は絶対に受ける!と確信していたらしい。
その確信は当たって、空前のブームとなったのは言うまでもない。
この「ベルサイユのばら」40周年記念展は、地方ではこれからで、横浜でもこの秋の開催予定である。

→ ベルばら展公式サイトはこちら


それはさておき、この物語は、王妃の朗読係補佐だったアガート・ シドニー・ラボルドの目からみたベルサイユ崩落の三日間を描いたものである。

今は1810年のウィーン。65歳を迎えたアガートは想いを巡らし懐かしんでいる。はるか昔、1789年7月14日からの運命の三日間を。
アンシャン・レジーム(16~18世紀の絶対王政体制)が崩壊してしまった日々のことを。
そして、忌まわしきナポレオンが「オーストリアの女性」と呼び、決してその名を口にしようとせず、このウィーンでも誰も口に出そうとしなくなった王妃のことを…

7月14日はいつもと変わらぬ一日のはずだった。王妃のために、マリヴォーを朗読し、宮殿内の動物園を散策したが、そこでラロッシュ大尉と会話をかわしたのだ。
「ネッケルの代わりをみつけるのは、大変でしょうな。」
「その話はもうやめましょう。」
ルイ16世の治世になり財政はいよいよ逼迫し、飢饉によって物価は上昇し民衆は飢えていたが、ベルサイユは全く外の世界とは切り離されていたのだ。節約を訴えた財相ネッケルは罷免されたが、ベルサイユは静かどころか平穏そのものだった。夕食は王にふさわしい豪華さで、ロワイヤルとしか形容のしようがないほどだったのだ。
しかし、15日の未明センセーショナルなニュースが拡がりはじめる。バスティーユが襲撃されたのだ。何者かがあえて王の眠りを妨げ、宮廷の様子は一変する。召使いたちは離反し、近衛兵は逃亡してしまった。ベルサイユに住まう貴族たちは
怒れる民衆から逃れようと、右往左往。
そして王妃は…

王妃に別れをつげて (白水Uブックス 180)王妃に別れをつげて (白水Uブックス 180)
(2012/11/13)
シャンタル トマ

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Marie Antoinetteこの小説の主人公アガートは、朗読係の補佐だが王妃は読書好きではなく、そのために王妃との間には適度な距離がある。近しくないからこそ、利害関係のないアガートは王妃に魅入られているともいえるし、周囲もよく見えているのだ。

この物語のクライマックスは、王妃がガブリエルに見捨てられるシーンだと思う。それもいともたやすく。
ガブリエル・ド・ポリニャックは、その美しい外見と穏やかな性格で王妃の寵愛を受けていた。第一子誕生後、王妃はプティ・トリアノン(王妃専用の離宮)に引きこもりがちになるが、そこに招かれたのが階級の高い貴族ではなく、ガブリエルのような王妃のお気に入りの友人だけだった。そのことが貴族内に不満をもたらし、王妃への誹謗中傷につながったと言われている。

ガブリエルが王妃を見捨て、宮殿を逃げ出すことが明らかになったその時、王権と王妃の運命は転覆するのだ。王妃は、なぐさめを与えてくれる友人を求めて、薄暗く人気のなくなった宮殿をさまよう。一人燭台を手にして。痛ましい想いでアガートはそれを回想している。
が、おそらくはその時王妃は「強く」もなるのだ。

翻訳者があとがきでも述べているように、アントワネットには異なる二つの顔がある。一つは、ファッションや流行、娯楽に興じる浪費家で軽薄な女の顔で、もう一つは、裁判にかけられ処刑されるまでの毅然とした強い女の顔だ。前者から後者へ変わるその瞬間が、カブリエルに捨てられ宮殿を彷徨うあのシーンなのである。その時、マリー・アントワネットは本当の王妃になったのではないかと思うのだ。
その数ヶ月前、王妃とガブリエルはじゃれあって取っ組みあいをし、劣勢になった王妃はガブリエルに「あなたのほうが強い」と言ったことがあった。しかし実は王妃のほうが強いのだ。
この日から後、王妃は平民たちから屈辱的な言葉を浴びせかけられる。王は処刑され、自らも裁判にかけられ断頭台の露と消えることになるのだが、彼女は最後まで毅然としていたのだ。そして、死に際しては「生き様、死に様が歴史に残るならば、立派に死のう」と言い残すのだ。

ベルサイユ最後の夜、アガートが王妃に最後の朗読をした時、王妃はアガートにこう命じた。
「ポリニャック公爵家の逃亡にあなたも加わるのです。そして彼女の服を着て、馬車の中で彼女の席に座って。ポリニャック夫人が命を奪われないないように。」

ガブリエルのドレスを着たアガートが、王妃に別れをつげたこの日、アンシャン・レジームは崩れ去る。その後のガブリエルはといえば、トマは彼女から涙を枯れさせず、失意とともにこの世を去らせている。
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category: 文芸

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tag: フランス  フェミナ賞  マリー・アントワネット  ベルサイユのばら 
2013/03/13 Wed. 18:32 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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