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読書日記、ときどき食日記

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白鳥泥棒 / エリザベス・コストヴァ 

本書の著者はあの『ヒストリアン』エリザベス・コストヴァである。
Léon Riesener Leda
もしもあなたが、旅先では必ず美術館を訪れるほど絵画が好きで、不幸にしてこの夏の旅行を断念せざるを得ないとしたら、この本はあなたにぴったりではないかと思う。
ソウイウ、ワタシモ、ドコニモイケマセン…

本書の主人公はワシントンの精神科医アンドリュー・マーロウだ。絵画を愛している彼は、もし時間があれば絵筆を握仕事りたいと思っていたが、実際は一筋で恋もせずな、気づかぬうちに50歳を超えてしまっている。
「画家のことなんか、おれにはわからないが、おまえなら理解できるんじゃないか?」そう言って友人の精神科医がマーロウに回してきたのは、高名な画家のロバート・オリヴァーだった。
ロバートは、ナショナルギャラリーに展示してある絵画「レダ」に襲いかかろうとしたのだという。彼は、精神疾患が疑われ病院に送られたのだ。
「なぜ、あなたはあの絵に襲いかかろうとしたんです?」と聞くマーロウに、彼はこういい、それ以外口を閉ざしてしまう。
「彼女のためにやったことだ。あれは愛する人のためにやったことだ。」
古い手紙の束をマーロウに渡した後は、ただとりつかれたかのように”黒い巻き毛のレディ”をひたすら描き続けるだけだった。

マーロウは、フランス語で描かれたその手紙の翻訳を依頼し、「レダ」を観に、ワシントンギャラリーに赴く。絵のモチーフになっている「レダ」はギリシア神話の登場人物で、パルタの王、テュンダレオスの妻だった。類いまれな美貌の持ち主で、その美しさは遠く離れた全能の神ゼウスの目を惹いてしまう。なんとかレダをものにしたいと考えたゼウスは、白鳥となってレダの気をひき思いを遂げるのだ。
ジルベール・トマの「レダ」は、よくあるソフトポルノ的なものでなく、生身の女性だった。巨大な白鳥が、今にもレダに襲いかかろうとしており、彼女は絶望と諦め、いや奔放さを表すポーズで、あおむけになっており本気で恐れおののいているのだ。

なぜ、ロバートはこの絵に襲いかかろうとしたのだろう?彼のいう愛する人とは誰のことだろう?なぜ、とりつかれたかのように、黒髪の巻き毛のレディを描き続けているのだろう?

物語は、現代と19世紀を行き来しつつ、ゆっくりと進行してゆく。

ロバートが大事にしていた古い手紙の束は、ベアトリス・ド・クレヴィルという19世紀に実在した女性と、その伯父にあたる男性との秘められた恋の書簡だったのだ。
マーロウは、ロバートの秘密を紐解くべく、ノースカロライナに住むロバートの元妻やニューヨークの元教え子の元を訪ねるてまわる。そしてアカプルコ、そしてパリへと旅をし、そこで一枚の絵にたどり着くのだが…

Elizabeth Kostova
コストヴァは、ゆっくりと慎重に物語を綴ってゆく。二つの時代を行きつ戻りつし、語り手を変え、視点を変えつつ、コストヴァは筆を重ねていくのだ。やがて、それは幾重もの層になり、そこからは、愛の物語が香り立ってくる。
ニューヨークの喧噪、アカプルコの目映い太陽、パリの石…コストヴァは読者を旅に誘い、その土地土地ですばらしい絵画を披露してくれる。ワシントンでは、種馬のように猛々しく舞い降りようとしている白鳥とそれにおののく「レダ」を、ノースカロライナのケイトの家では生命にあふれ笑う「黒髪の巻き毛のレディ」を。アカプルコのカイエ邸で出会うのは、モネに匹敵せんばかりの「最後の白鳥」であり、パリで最後の絵に出会う。その描写には感嘆するばかり。
そして、物語が終盤にさしかかると、冒頭のシーンがよみがえるのだ。

「絵にはどこか謎めいたところがないとうまくいかない」
そう、ロバートがいうように、愛の感情もまた本質的にミステリアスなものなのだ。
それにしても、マーロウをみてふと思ったのだが、何かを追いかけ、その謎を追求するということは、結局は自分自身を探求し、知ることなのかもしれない。


白鳥泥棒 上白鳥泥棒 上
(2012/12/07)
エリザベス・コストヴァ

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白鳥泥棒 下白鳥泥棒 下
(2012/12/07)
エリザベス・コストヴァ

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category: 文芸

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tag: 絵画  印象派  白鳥とレダ  ミステリー   
2013/03/18 Mon. 18:56 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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