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読書日記、ときどき食日記

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赦す人 / 大崎善生 

本書は、2011年に亡くなったSM小説の大家、団鬼六の評伝である。

私は(さすがに)「花と蛇」も読んだこともなく、晩年のめり込んだという将棋界に興味があるわけでもない。団鬼六という人の文章を読んだのは、晩年、文芸誌に掲載されていた短いエッセイくらいのものだ。だが、この人の評伝は読もうと思っていた。SM小説の金字塔を打ち立てた人の人生はどういうものだったのかに興味があったのだ。

彼は、亡くなる直前に入院していた病院の特別室で、この評伝のゲラを読み「僕の人生は、やっぱ面白いなぁ。」と言ったのだという。
そうなのだ。本当にあなたの人生は最高に面白い!
SMの大家、エロの伝道師と呼ばれた鬼六のイメージは、本書を読んで全く変わった。
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鬼六は一時期ここ横浜に住んでいたことがある。
経済的にも一番いい時代だったのではないだろうか。紅葉坂を登り切ったあたりだろう。振り向けば、ランドマークタワーが大きく見える。
経済的な事情で、彼はこの鬼六御殿を追われる。没落の原因は、お金が入ってくる手段であるエロ小説の断筆を宣言し、将棋雑誌に有り金を全て持っていかれたことだ。
64歳にして借金2億。二番目の妻との間には就学に達したばかりの子供もいた。「アホか!」浜田山の借家の縁側で、鬼六は自分自身に低く唸る。

窮して夜逃げし、復活して栄華と浪費にあけくれる。そしてまた夜逃。鬼六の人生はその繰り返しだったが、それは、父親のとんでもない教育方針によるところも大きかったのではないか。
相場師だった鬼六の父親は、関西の豪邸街で一際立派な家を指しながら、「真面目にコツコツ働いたってこんな家は建たん。あれを手に入れるには相場しかない。」と滔々と息子に諭したとのだという。”一期は夢よ、ただ狂え”(『閑吟集』所詮、人生は夢よ。ただ面白おかしく遊び暮らせ)という父親の人生の詩は、鬼六に染みついてしまっていたのだ。
直木三十五の弟子だった母の紹介で純文学作家としてデビューするも、酒場経営や女や相場に手を出し、大借金を抱え、三浦へと逃亡をはかる。そこで最初の妻の世話により中学教師に納まるものの、いつしかその教壇の机でエロ小説を書き始めたという。こうしてSMの大家、団鬼六は産まれたのだった。
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著者は、鬼六の"夜逃げと栄華"のループを人生における縞模様の陰影だと表現する。光の時期があれば、必ず陰の季節が訪れ、しかしそのまま留まることなくまた光を取り戻す。這い上がるきっかけは、常に小説だ。
「私はね、書いた原稿はただの一枚も無駄にしたことはありまへん。すべて金になっています。」
小説家になりたくて、あらゆる本を読みまくったものの、いざ原稿を前にすると全く書けなかったという著者の大崎に対し、鬼六が言った言葉だ。
実際この通り、鬼六はどんなことも小説にしてきた。「新宿の殺し屋」といわれたアマ将棋の真剣師の裏切り、妻の不貞、最後の愛人の自殺…。そして小説で、経済状態も自分自身をも取り戻していくのだ。
浜田山に移った後には、一冊の小説をきっかけに、団鬼六の原稿を求め大手文芸誌からもオファーが殺到し、締め切りに追われる毎日となるのだったという。
この頃の鬼六の得意の台詞は、「新規参入の出版社は、可愛い子ちゃん編集者でなくては駄目。一発やらせてくれたら最優先で書く。」だったという。

著者は、鬼六の「花と蛇」に、他の猥褻小説とは一線をかくす潔癖さ、高貴さ、仄かな光を感じるという。それは希望の文字だけで語られた小説だからではないかというのだ。鬼六にいわせれば、「オナニー用のくだらない強姦エロ小説」だが、何度も絶版になりながらも、不死鳥のように蘇るこの希有な小説は、まさに鬼六の人生そのものといっていい。
子供のように天衣無縫で、あらゆることを赦す懐の深さを持つ。それが著者がみた団鬼六という人だ。
そして、その人生は波乱万丈で、吹き出してしまうほどに面白い。どんなことがあっても、それを撥ねのける明るさと周囲を楽しませてやろうというサービス精神があるのだ。
晩年、脳梗塞の後遺症で、「あ」が「ま」としか発音できなくなったとき、カラオケで「アンコ椿は恋の花」を熱唱したというエピソードには、私も声を出して笑ってしまった。

病に倒れ、死に際して鬼六は「死は観光や、サイトシーイングや」と言ったという。鬼六のような波瀾万丈な人生は、真似できないが、死に際しては鬼六のように、「サイトシーイングや」という境地に達したいものだと思う。

赦す人赦す人
(2012/11/30)
大崎 善生

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category: ノンフィクション・新書

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 評伝  団鬼六  花と蛇 
2013/03/22 Fri. 23:48 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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