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読書日記、ときどき食日記

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少女の私を愛したあなた 〜秘密と沈黙15年間の手記/ マーゴ・フラゴソ 

margaux fragoso本書は7歳の少女の時にペドファイル(児童性愛者)と出会い、その後彼が自殺するまでの秘密の15年間を描いた、赤裸々で衝撃的な手記である。

世界20ヶ国で翻訳出版されたベストセラー・ノンフィクションだ。

子供を性の対象とするペドフェリア(児童性愛)は、性嗜好障害の中でも最も忌み嫌われるものである。
刑務所でペドファイルだと知れたら、他の囚人から袋叩きにあうというのも、もはや常識だ。
そんなペドファイルだが、大きなニュースやクライム・フィクションのなかでは、例えば宮崎勤のような凶悪犯罪者の「モンスター」であることが多い。だが、本書に登場するペドファイルは、凶悪犯像とは正反対だと言っていい。

プロローグで、著者が看守ペドファイルについてインタビューするシーンがあるのだが、その看守はこう答えている。
「あの人たちは最高の模範囚。礼儀正しくて、問題を起こさない。」
こちらの方が、圧倒的多数のペドフィリア像なのだろう。

本書でマーゴが綴っているのは、一見、「美しく悲しい愛の軌跡」に見えないこともない。しかし、その実、「モンスター犯罪」とはまた別の恐ろしさを秘めてもいるのだ。


7歳の夏の日、マーゴは近所のプールで51歳のピーター・カランと出会う。
ビートルズみたいな髪型で、その顔は皺だらけ。しかし、彼のアクアマリンの瞳は活き活きとしていてエネルギーに満ちていた。大人からは子供とは違う雰囲気が漂っているものだが、彼にはそれがなかった。マーゴと彼は自然に友人になったのだった。
知り合ってすぐ、マーゴ母子はピーターの家に招かれる。彼の二階建ての家には、ゴールデンレトリバーの雑種の犬、ポーズや、イグアナやインコといった珍しいペットがいる子供の楽園だった。マーゴと母親は、一目でその家と優しいピーターに夢中になってしまう。そして毎週その家を訪れるのは、母子の日課となるのだった。
doll.jpgマーゴの母親は、統合失調症と鬱をわずらっており、父親はおよそ父親に向いていない性格だった。決して母親にハグやキスをせず「愛してる」とも言わない。そればかりか罵詈雑言で母子を傷つけてばかりだった。
そんな彼女の家庭環境は、マーゴとピーターとの関係をより深いものへと発展させていった。マーゴにとって、ピーターは唯一自分を顧みてくれる人だったのだ。

しかし、マーゴが8歳になった時、ピーターはペドファイルとしての欲望を見せ始める。
「8歳は女の子が一番綺麗な年だ。」口にキスをしたがるようになり、ちょっとしたマーゴの我が儘と引き換えに、ペニスへのキスを強要するようになった。この時は断ることができたが、後のピーターの誕生日に、再びそれを誕生日プレゼントとして要求される。「無理にとは言わない。君がしたければ、だよ。」マーゴは断ることができず、ピーターは欲望をかなえるのに成功するのだった。
13歳の夏、マーゴは「ニーナ」を作り出した。
ニーナは性行為のときの架空の役柄で、ピーターを幸福にするためだけに生きているのだ。ピーターが幸せになるためには、手や口による多くの愛情行為が必要だったが、マーゴがそれをするためには、ニーナを演じることが必要だったのだった。
二人の絆は、一時期途切れたものの、ピーターが自殺を遂げる直前まで続いていくことになる。

 forest著者は自分を一方的な被害者として描いてはいない。一瞬、昔を懐かしむかのような恋愛物語かと錯覚するのはそのせいだろう。ピーターとマーゴの間には、愛情といってよいものが確かに存在していたし、同時に、「私はピーターの宗教だった」とマーゴが語る通り、ピーターはマーゴに依存していた。時にしたたかな女をのぞかせ、ピーターを翻弄したこともあるほどだ。
しかし、なんといっても、マーゴはまだ8歳の子供だったのだ。ペドフィリアの一番の問題は、合意の欠如である。あの時のマーゴのように、一見自発的に行ったように見えるものであっても、それは巧みにそうせざるを得ない状況をつくりだされた結果に過ぎないのだ。
マーゴが作ったニーナの存在は、虐待されている子供が、自分ではない第二、第三の人格を作り出すのにとても似ているという。マーゴは子供の自分に性的なことをさせるピーターが嫌で、本当は傷ついていたのだ。

今、母親となったマーゴは、当時のことをこう振り返っている。
ペドファイルと一緒の時間を過ごすのは、クスリでハイになるのに似ている。彼らは子供には絶対につくれないような世界を構築し、恍惚とさせるので、それが終わった後も幻影を追わずにはいられない。それは地球が焼き尽くされたかのようで、地面は黒く不毛にみえても、中はまだ燃えていると。

ピーターとマーゴの関係は複雑であるがゆえに、犯罪だと認識しにくい部分もある。彼らはお互い実際的に役に立っていたのだから。
ペドファイルの被害者は、思った以上に多く、性犯罪の被害にあった子供自身も、自分が犠牲者だと思っていないケースもあるのだ。本当は、多くの隠れたマーゴがいるのではないか。
ペドファイルによる犯罪の本当の恐ろしさは、その点にある。

一方で、ペドファイルは悲劇的な性嗜好だともいえる。
合意の欠如ゆえ、同性愛のように社会的に認知されることはあり得ない。そして、ペドファイルが性欲を満たそうとすれば、それは即、犯罪になるのだ。
ペドファイルに専門家による治療がなされるのは、大勢の犠牲者が発見され、逮捕されて有罪判決が出た後のことだという。しかも、治療法が確立されているわけでもないから、何年か隔離されただけで、また子供たちの隣で暮らすことになる。ならば、何らかの手段で性も性欲も消失させてしまった方が、ペドファイル自身もずっと幸福なのじゃないか、と思ってしまうが、それは残酷なことなのだろうか?

また、マーゴの母親とその姉は、子供の頃性的暴行を受けた過去があったのだという。祖父母がそれに蓋をし、正面きって対処しようとしなかったがために、マーゴの母はトラブルから娘を守る方法がわからないまま親になってしまった。
マーゴの両親も不注意だったとはいえ、ある時点でピーターとマーゴの不適切な関係に気がついたと思う。だが、二人ともそれに適切に対処するすべを持ってはいなかったのだ。そもそも、マーゴの家庭が幸福だったなら、ピーターの入り込む余地はなかった。
一方、ピーターも、また父親に虐待されて育った過去を持っていた。
生まれてくる家庭も、両親も、自分で選ぶことはできない。この不幸の遺伝も、どうにもやるせない気持ちにさせる。


少女の私を愛したあなた: 秘密と沈黙 15年間の手記少女の私を愛したあなた: 秘密と沈黙 15年間の手記
(2013/02/22)
マーゴ・フラゴソ

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category: ノンフィクション・新書

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: ペドファイル  性犯罪   
2013/04/03 Wed. 10:26 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: タイトルなし

もしかして文章を読み違えられたのではないでしょうか?
まず、私は、同性愛についてへの偏見は全くありません。 むしろ日本でもそういう流れが広がればよいと思っています。

文面について説明させていただくと、記事のとおり、同性愛とペドは「合意の欠如」という点において、根本的に異なると思っています。
ゆえに、ペドが社会的に認知されることはないのではないかと申し上げているのです。
決して、ペドと同棲愛をひとくくりに語っているのではありません。

申し上げたかったのは、同性愛は異性愛動揺、双方の合意さえあれば何ら問題はない反面、ペドには片方が子供であるがゆえにその「合意」があり得ないのだから、将来的にも認められることはないのではないかということです。
まわりくどい表現で誤解を招いてしまったのでしょうか?

Spenth@ #N6kp4qTg | URL | 2014/09/21 Sun. 00:21 * edit *

匿名にて大変失礼いたします。
とても楽しく拝読し、本に興味を持った者ですが、

>合意の欠如ゆえに、同性愛のように、ペドフィリアが将来社会的に認知されることはあり得ない。

これは如何なものでしょうか。
実際に海外では同性婚を認める国が多い昨今。
ペドフィリアの性倒錯、犯罪になってしまうそれと、同じようにと並べるのは大変疑問を感じます。
楽しく読み進めていただけにとてつもなく残念に思いましたので、一言を置いて。

乱文失礼しました。

匿名 #JalddpaA | URL | 2014/09/20 Sat. 23:36 * edit *

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