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読書日記、ときどき食日記

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タイガーズ・ワイフ / テア・オブレヒト 

GWも中盤。今年はうまく有給がとれれば、実に10連休もできる。皆様、いかがお過ごしだろうか。

tea obrehtさて、本書『タイガーズ・ワイフ』は、本年度の本屋大賞の翻訳小説部門に選ばれた作品である。
本屋大賞とは、本屋が一番売りたい本に贈られる賞らしい。ノミネート作品の多くは"既に売れているメジャー本”で、必然的に選ばれるのも"既にベストセラーになっている本"が多い。
例えば、過去の大賞作は『謎解きはディナーのあとで』とか…実際、受賞とかする前からバカ売れしていた。

ちなみに、今年の大賞はベストセラー作家百田尚樹氏の『海賊とよばれた男 』である。

書店でこの『タイガーズ・ワイフ』を手にとったなら、裏表紙カバーの、お人形のような著者の写真に驚くことだろう。
著者のテア・オブレヒトはなんとまだ25歳!だという。
童顔のふっくらした彼女のデビュー作である本書は2011年度の全米図書賞の最終候補作に残り、英国の最も権威ある文学賞のひとつ、オレンジ賞にも輝いている。

ZarozjeSerbia.jpgそれはさておき、本書の舞台はバルカン半島のとある国だ。特定の国があげられているわけではないが、欧州の火薬庫と呼ばれるほど紛争の絶えないこの土地が舞台であることが、この物語ではとても重要なのだ。
流された血の量と関係するのかどうかは知らないが、かの地には伝説が数多く息づいており、人々にまことしやかに信じられているのだという。
旧ユーゴスラビア圏では、現在でも役所が住民に、ヴァンパイアよけのために"にんにく”と十字架を備えるよう警告を発しているのだという。ちょっとにわかには信じがたいが、生き残っている迷信や伝説にはそれなりの理由があるものなのだ。


主人公は、若き女医のナタリアである。彼女は幼なじみのゾラとともに、隣国の小さな村の孤児院に予防接種のボランティアに出かけるが、その道中、祖父の死の知らせを受ける。
祖父はナタリアに会いにいくと祖母に嘘をつき、国境の向こうの辺鄙な村ズドレヴコフで息を引き取ったのだった。
病の身体をおし、祖父は一体何のために旅をしたのだろう?そこに一体何があるというのだろう?
ナタリアにとっての祖父の思い出は、トラにまつわる記憶だ。祖父はナタリアが幼い頃、よく動物園にトラをみに連れていってくれた。ジャケットのポケットにはいつも"ジャングル・ブック”が入っていたものだ。その本は、祖父にとってのお守りのようなものだった。
外堀にいるトラをみながら、祖父はナタリアにこう話す。「お祖父ちゃんが昔知っていた女の子はな、トラが大好きで、自分もトラになってしまいそうだったんだ。」
祖父を理解するための全ては二つの物語につながっていた。「トラの嫁」の物語と、「不死身の男」、ガウラン・ガイレの物語だ。この二つの物語に関して、祖父は生前ナタリアにほとんどを語ることなく亡くなってしまった。
ナタリアは祖父ゆかりの地で聞き込みをし、それらの物語を再び組み立てようと試みるのだが…

tiger.jpg日本語というのは、時にまぎわらしいが「トラの嫁」というのは、嫁が虎なのではない。
『The Tiger's Wife』つまり、ある女の子の夫が虎であるということなのだ。そして彼女自身、トラになってしまいそうだった。
いかにして彼女は「トラの嫁」と呼ばれるようになったのか?
「不死身の男」ガヴォは、彼女「トラの嫁」とどんな因縁があったのか?
彼、ガヴォは何故に死ねない身体になってしまったのか?「トラの嫁」と「不死身の男」は、祖父とどんな関係があるのか?祖父が大切に持っていた”ジャングル・ブック”はどこに消えてしまったのだろうか...?

ダラダラと粗筋を語るのは私のレビューの常であるが、これらの物語に関しては、ここで語られるべきでないと思う。なぜならば、この小説を読むことで「不死身の男」と「トラの嫁」の物語が、ナタリアを通して、あなたの物語として息づくその"瞬間”を、感じることができると思うから。事前の知識は、その瞬間の感覚を邪魔するのではないかと思うからだ。

物語は通常、一人称か、三人称で語られることが多いが、本書では唐突に「あなた」という人称があらわれ、語られる。それによって、私は私のままで、あなたはあなたのままで、物語の中に誘われるように入っていくのだ。
物理的な距離を超え、時間を超え、気がつけば、非現実的な幻想ともいえる物語がごく自然に根付き呼吸している世界に、足を踏み入れている。かの地、バルカン半島の伝説がもたらす魔術のようなものかもしれない。
長い紛争によって国境が変わり、かの地の人々は複雑な思いを抱きつつ暮らしている。その現代に生きているナタリアと、遠い昔の「トラの嫁」と「不死身の男」の物語が交錯するとき、バルカン地の物語は、私だけのもの、あなただけのものになる。それは、年号とか、名前とかいった歴史のインデックスとは全く別の次元のものなのだ。


タイガーズ・ワイフ (新潮クレスト・ブックス)
テア・オブレヒト
新潮社 (2012/8/24)


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category: 文芸

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 幻想文学 バルカン半島  オレンジ賞   
2013/04/30 Tue. 17:10 [edit]   TB: 0 | CM: 1

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はじめまして!
いきなりで恐縮ですが、もしよろしければ、相互リンクしていただけないでしょうか??
よろしくお願いします。
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T人生研究所 #- | URL | 2013/05/05 Sun. 11:42 * edit *

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