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読書日記、ときどき食日記

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隠し絵の囚人 / ロバート・ゴダード 

Robert Goddard本書は、2011年度のMWA賞のPaperback Original 部門の最優秀賞受賞作である。
この年のエドガー長編賞は『解錠師』 だが、本書もなかなかのもの。

これまで、ゴダードは名前だけは知っていたが、読んだことはなかった作家だった。
人に勧められ何冊かチャレンジしてもどうもしっくりこない作家もいれば、一冊読んだだけでファンになってしまう作家もいるが、ゴダードは後者。
ちなみに、『千尋の闇』の解説者は、「ゴダードを読んだ人間は、その筆力に魅せられて必ず彼の愛読者になる」と言い切っているが、これは全く正しい。ほら、ここにもそのサンプルが(笑)
そんなファンの一人、キングは「一気読みするのはもったいない」というけれど、一気読みは必至ナンデスヨ。

さて、舞台は1976年。物語は、主人公スティーヴン・スワンが、仕事も結婚をも取りやめ、故郷に戻ってくるところから始まる。ヒースローから実家にかけた電話で、スティーヴンは36年前に死んだはずの伯父が生きていることを知らされる。
伯父のエルドリッチ・スワンは死んだと聞かされていたが、実はアイルランドの刑務所に入っていて、最近ようやく釈放されたらしいのだ。そして今は、スティーヴンの母が営むゲストハウスに滞在していた。他に行くあてがないのを彼の母は気の毒に思ったのだった。
外国で、36年間もの長い間の服役していたというだが、エルドリッチがどんな事情で投獄されていたのかは明かせないのだという。
スティーヴンはそんなエルドリッチが気に入らず、追いだそうと決心するが、数日たたないうちに別の事態が発生する。
事の起こりはロンドンからの客だった。その客は匿名の依頼人の命を受けた事務弁護士で、エルドリッチに、アメリカ人実業家所蔵のピカソが盗品であり、正当な所有者はメリドールの娘だと証明してほしいというのだった。
メリドールは、かつてエルドリッチが個人秘書として仕えていた富豪のユダヤ人ダイヤモンド商だ。メリドールの遺族は、アメリカで一度訴訟を起こしたものの敗訴したのだという。しかし今、ピカソはロンドンで巡回展に出ており、アメリカの司法は及ばない。匿名の依頼人とはメリドールの娘で、今がチャンスとみたのだろう。
エルドリッチはそう考え、莫大な報酬に惹かれてその依頼を受けることに決める。そして、スティーヴンにこう申し出るのだった。「自分は年寄りだ。助っ人がほしい。助けてくれるなら、報酬の10%をやるし、必要なことも話す」
そうして、エルドリッチは1940年に起きた出来事を語りはじめるのだった。
Antwerp.jpg当時ナチスはベルギーに侵攻しようとしており、ユダヤ人のメリドールはアントワープからアメリカへ向けて出航する船に乗っていた。妻と娘は既にアメリカに逃がしてあった。メリドールは、コンゴ人従者のニンバラに梱包させたピカソを船に持ち込んでいたが、メルドールはエルドリッチに、それらをドーヴァーで降ろしロンドンの画商カーディルの元に預けてほしいと頼むのだった。ドイツ軍は今や民間の船も沈めるようになっており、メリドールはピカソを持って大西洋を横断する危険はおかせないと考えたのだった。
果たしてメリドールの懸念は的中してしまう。メリドールが乗った船が、大西洋上で撃破されたのだ。生存者はゼロだったのだ。
物語は、1976年と1940年という今と過去、両方の時代を行き来しつつ語られていく。
エルドリッチに協力すると決めたスティーヴンは、件のピカソ・コレクションの展示の前で、一人の若い女性と出会うが、その女性レイチェルはメリドールの孫娘だったのだ…

エルドリッチはなぜアイルランドの刑務所に収監されることになったのか、メリドールのピカソコレクションの詐欺事件とそれはどう関係しているのか。そして弁護士に依頼した匿名の依頼人の正体とは?

Guernika.jpg
帯には「復讐と贖罪の美術ミステリ」とあるのだが、「美術ミステリ」というのはちょっと違うかなという気がした。本書はよくありがちな名画にまつわる謎の探求といったミステリではないのだ。

二心ある登場人物たちが織りなす欲望とたくらみ、裏切りと良心がしっかりと描かれており、ミステリ性もさることながら、ドラマ性がある。
当初"食えない老人"だったエルドリッチの印象が、物語が進むにつれて変化していく様は、訳者が言うように本書の読みどころの一つかもしれない。最後にはスティーヴンとともに彼を思い出せば、笑みをこぼせるほどにもなっているのだ。

ちょっと残念だなと思ったのは、『隠し絵の囚人』という説明的な邦題で、私はこれは原題の『Lomg Time Coming』のままほうが良かったかなと思った。
確かに「隠し絵」は謎を解く鍵になってはいるし、エルドリッチは「囚人」だったし、わかりやすいといえばわかりやすいのだけども(笑)
過去は時間に埋もれ眠っているかのようにみえても、現在に繋がっっていて今を形成している。後になってはじめて分かることも多い。それこそがゴダールのテーマだし、このことに特に留意してゴダールはタイトルをつけているとも思う。
そして、エルドリッチも、メリドールの孫娘レイチェルも、長い間待ちわびたからこそ、"最高の贈り物"を手に入れることができたのではないか。


隠し絵の囚人(上) (講談社文庫)
ロバート・ゴダード (著), 北田 絵里子 (翻訳)
講談社 (2013/3/15)

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隠し絵の囚人(下) (講談社文庫)
ロバート・ゴダード (著), 北田 絵里子 (翻訳)
講談社 (2013/3/15)

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千尋の闇〈上〉 (創元推理文庫)
ロバート ゴダード (著), 幸田 敦子 (翻訳)
東京創元社 (1996/10)

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千尋の闇〈下〉 (創元推理文庫)
ロバート ゴダード (著), 幸田 敦子 (翻訳)
東京創元社 (1996/10)

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category: 歴史・大河・ドラマ

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  ピカソ  第二次世界大戦  英国 
2013/06/04 Tue. 11:58 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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