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読書日記、ときどき食日記

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サルファ剤、忘れられた奇跡〜世界を変えたナチスの薬と医師ゲルハルト・ドーマクの物語 / トーマス・ヘイガー 

実はサルファ剤というのを、私はあのサリドマイドだと勘違いしていた。
共通するのは「サ」だけなんだけど…!!!
まぁ、そういう勘違いがこの本を読むきっかけだったのだが、これが予想以上に面白かったのだ。

Gerhard Domagk
サルファ剤は、ペニシリンが登場する前の世界初の抗細菌薬である。サルファよりもずっと効き目があり、副作用も少ないペニシリンの登場によって、文字通り忘れられてしまったが、サルファ以前、人々は外傷による感染、猩紅熱、産褥熱、髄膜炎などでいともたやすく命を落としていた。サルファ剤は、人類が初めて手にした細菌感染を止める手立てであり、まさにひとつの薬で多くの病を治す「魔法の薬」だったのだ。

このサルファ剤の発見者としてノーベル賞を受賞したのが、タイトルにもあるドイツ人医師ゲルハルト・ドーマクである。
彼と、彼の属していたバイエル社が世に送り出したサルファ剤の「プロントジル」はその色がポートワインやルビーに喩えられるほど美しい薬であったという。当初は、細菌に効く成分は色素のプロントジルほうだと考えられ、色素ありきで研究は進められていたのだ。細菌に効くサルファ剤は、数多の失敗の連続といった試行錯誤の中で、正解の真横をかするようにして発見されたのだった。
Port Wineプロントジルという色素ではなく、サルファのほうが細菌に効くと発見したのは、プロントジルを発売したドイツのバイエル社ではなく、フランスの研究所だったという。
しかも、サルファ自体、染料に昔から用いられた安価な化合物で、それ単独では到底儲けることのできないものだったのだ。

サルファ剤は、ルーズベルト大統領の息子を救ったことで、アメリカで一躍有名になる。それに端を発し、雨後の竹の子のような製薬会社がサルファ剤の発売に乗り出したのだ。
純粋サルファを何と組み合わせるか、そのレシピはその販売会社によって異なった。そのうちの一社は、子供や黒人受けを狙い甘く木イチゴの香りをつけた液体として売り出したが、それは甚大な被害を招いてしまった。サルファそれ自体は比較的副作用の少ない化合物だが、組み合わせた液体のほうに大きな問題があったのだ。当時は今のような臨床試験も安定性試験も行われなかった。この事件は、医薬品の開発を今日のお金と時間のかかる科学的プロセスにし、FDAのあり方までを変えてしまったのだ。

サルファ剤とそれを発見した立役者とされるドイツ人医師ドーマクと彼を取り巻く人々には、強烈なドラマやエピソードがある。医学用語や科学用語が少なくない本ながら、読ませる本として仕上がっているのは、こうしたエピソードがあるからだろう。
sulfonamides.jpgサルファ剤発見にいたったのは、確かにナチが席巻していた時代だった。だが、その功績は、ナチの肝いりなどではなく、ドーマクやその仲間たちの熱意の結晶によるものだったのだ。しかも、ノーベル財団が受賞の知らせをドーマクによこしたにもかからわず、ナチによって辞退を余儀なくさせられている。(受賞は財団からの二度目のオファーで実現)そればかりか、彼自身もナチによって投獄された経験があり、そのことは生涯にわたって彼の心を傷つけていた。ドーマクはナチに与した人間ではないのだ。
ドマークの人生をみると、彼の努力の結晶であるサルファ剤を「ナチの薬」というのは、絶対的に違うのじゃないかと思う。
二度目の正直で、ドーマクはノーベル賞を授与されたが、その授賞式にも、時代遅れの古い型の燕尾服で出席しているのだ。

サルファが我々にもたらした教訓は、計り知れないものがある。
サルファ剤は、確かに医学に革命をもたらし、控えめにいって何百万人もの命を救った。他方で、過剰投与による副作用や、耐性を持つ細菌の出現などマイナス面も露呈させたのだ。
著者はいう。「奇跡の薬、サルファから我々が学ぶことがあるとすれば、科学には「奇跡」というものは実際ありはしないということだ。」と。
クスリは逆から読めばリスクとはよくいったものだ。
私たちはそのことを肝に銘じなければならないのだろう。



サルファ剤、忘れられた奇跡 - 世界を変えたナチスの薬と医師ゲルハルト・ドーマクの物語
トーマス・へイガー (著), 小林 力 (翻訳)
中央公論新社 (2013/3/8)


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category: ノンフィクション・新書

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tag: 抗細菌薬  新薬  ナチ  ノーベル賞 
2013/06/19 Wed. 18:22 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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