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読書日記、ときどき食日記

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コリーニ事件 / フェルディナント・フォン・シーラッハ 

あの『犯罪』『罪悪』のシーラッハの待望の長編だ。
といっても、長編というにはあまりに薄く、おまけに行間広め(笑)夕食後読み始めても、就寝前には読み終わることができるくらい。
前二作品が短編だったためか、シーラッハといえば短編のイメージが強い。たいていの場合、短編が得意な人は長編は得意ではないことが多い。なので実はあまり期待はしていなかったのだが、ページは薄くとも内容は濃く、どこまでもシーラッハらしかった。
IMG_0236.jpg

物語は、ベルリンのホテルの一室で85歳の男が惨殺されるところから始まる。
殺された男の名はジャン=バプティスト・マイヤー。4発もの銃弾で後頭部を撃ち抜かれ、その顔は執拗に踏みつけられていた。一体何回踏みつけられたのか、検死官が判断がつかないほどに。
ほどなく犯人は逮捕される。67歳のイタリア人、ファブリツィオ・コリーニだ。硝煙反応や衣服の血痕、ホテルに残された指紋等から、彼の犯行であることは疑いがなかった。
管轄当局は、被疑者に特定の弁護士がいない場合に、”刑事弁護ホトライン”に番号を連ねている弁護士に電話をかけるのだが、この時電話をうけたのが、駆け出しの弁護士ライネンだった。彼はこうしてコリーニの公選弁護人となったのだった。
しかし、ジャン=バプティスト・マイヤーの通り名は、実はハンス・マイヤーだった。実はライネンと被害者は無関係ではなかったのだ。ハンス・マイヤーは、ライネンの子供時代の親友の祖父であり、ライネンはマイヤー家で育ったといっても過言ではなかったのだ。彼はハンス・マイヤーという通名しか知らなかったのだ。
事実を知ったライネンは公選弁護人を辞退しようとする。しかし、マイヤー家に雇われた敵方の弁護士マッティンガーにこう諫められるのだった。「それは君の過ちであって依頼人の過誤ではない。君には責任があり、依頼人には君がすべてなんだ」ライネンは、悩みつつも辞退を思いとどまる。
ハンス・マイヤーは世界的企業マイヤー機械工業の元社長、かたや、コリーニは元自動車組立工だった。両者に接点は見つからない。そして、当のコリーニは「おれがあの男を殺した。何も話したくない」といったきり、動機を話そうとはしない。
なぜ、コリーニはハンス・マイヤーを殺したのだろうか?
果たしてその裁判の行方は…?


Walther P38シーラッハの出自のことも当然ご存じならば、この小説におけるWhyは謎ではないだろう。多分、あなたの想像通りだ。

訳者あとがきでも触れられているが、ライネンはシーラッハ自身の分身でもあるという。
だが、本書において重要な役割を果たしているのは、敵側の弁護士マッティンガーだろうと思う。このマッッティンガーにもモデルがあるというが、彼はシーラッハがこうありたいと望む人物なのではないだろうか。

作中、彼は、「人に後ろ指をさされることのない、非のない人間」というのは、事実滅多にいるものではないと指摘しているが、程度の差こそあれ人には多面性があるものだ。そのどこかの面は、ともすると影を帯びているものだったりする。そして、私たちは得てして、人の一面にしか目を向けようとはしない。

普通の人間と罪人は、ほとんど紙一重なのだということを、シーラッハは前二作品で強調し、本書では、前者が後者へと変わるまさにその瞬間に焦点を当ててきた。そして、罪や犯罪というものは、"込み入っているもの"なのだと分析する。

自覚している罪の有無に関係なく、「どう生きるべきなのか」というのは、私たち不変のテーマである。
だが、ヘミングウェイの言葉にもあるように、結局、われわれは自分にふさわしい生き方を、もっと言うなら、自分に向いた生き方をするほかはないのかもしれない。


コリーニ事件
フェルディナント・フォン・シーラッハ (著), 酒寄 進一 (翻訳)
東京創元社 (2013/4/11)


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余談だが、この間『世界ふしぎ発見』でみた”オランダのマキシマ王妃”のことをちょっと思い出した。
今では国民に多大な人気のあるマキシマ王妃だが、アルゼンチン出身の彼女の父親は、実はつての軍事独裁政権下の閣僚だったのだ。
国内世論は激しいアレルギー反応を示し、大量虐殺に荷担したかもしれない男の娘を王室に入れてよいのかという論争が巻き起こったとのだという。
結局、彼女の父親は大量虐殺には関与していなかったとの結論が出されたものの、オランダ議会が結婚を了承するにあたっては、彼女の父親が結婚式に出席しないことが条件にされたそうだ。
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category: クライム・警察・探偵・リーガル

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  ドイツ  法廷  歴史 
2013/06/27 Thu. 16:39 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: 今年の収穫長編(中篇)!

お、naoさん、お久しぶり!

三島由紀夫じゃないけど、往々にして短編が巧い人は長編は・・・なので、期待していなかったのですが、これ、予想外に良かったですよね。
でも、私の今年のNo.1はルヘインなんだよなぁ(笑)

> 本作「コリーニ事件」は今年の収穫の一つでありますが、
> もう一つ、昨年末刊行のバーンズの『終わりの感覚』もまた、
> ミステリ色のある質の高い小説でした。

これも、読書会のメンバーから勧められていて、読もう読もうと思っているのですが、なかなか(笑)

Spenth@ #- | URL | 2013/06/29 Sat. 23:07 * edit *

今年の収穫長編(中篇)!

本作「コリーニ事件」は今年の収穫の一つでありますが、
もう一つ、昨年末刊行のバーンズの『終わりの感覚』もまた、
ミステリ色のある質の高い小説でした。

nao #6gL8X1vM | URL | 2013/06/29 Sat. 22:19 * edit *

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