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読書日記、ときどき食日記

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青い脂 / ウラジミール・ソローキン 

文学といっていいのか、SFといっていいのか、小説といっていいのか、ある種のコラージュ作品なのか…。
カオスだということは知ってはいたけど、これほどだとは思っていなかった。
駅前の大型書店で悩んでは見送り、でもやっぱり読んでみたいなと思って手を出ししてしまったのが運のツキ…

冒頭はわくわくする。
舞台は2068年のシベリア極寒地だ。エネルギー開発を行う科学者たちの基地、遺伝子研18と呼ばれる研究所に、言語促進学者のボリスがやってくるところから物語ははじまる。
20130125Голубое сало
この研究所では、新たに作られたチェーホフやトルストイなどの過去のロシアの文豪たちのクローンがその創作活動によって体内に生成される "青脂"を採取するためのプロジェクトが進行している。

物語は、ボリスが恋人に送る手紙を通して読者に語られるのだが、この恋人は異性ではない。マルチセックスが常となったこの時代にあっては、男色のほうが一般的なのだ。
しかも、このボリスの恋人は後々あっと驚く役で登場することになる。

これら科学者たちと対立しているのが、地下に住まう宗教団体だ。大地と性交するという教義のため、彼らの男根は手押し車が必要なほど巨大化ており、また、過去世界へと繋がる独自のルートを持っている。
彼らは、ある時遺伝子研18を襲撃し、まんまと"青脂"を奪取する。そして、世界を変えるべく、その"青脂"を持ち込んだのは、1954年のソ連だった


粗筋だけざっくりみても、一体何のこっちゃ? ??
そもそも、本書のタイトルにもなっていて、キーとなっている物質、"青脂"自体が、一体何なのか、何を意図しているのかいないのか、私にはさっぱりわからなかった。
わかる必要もないのかもしれないが(笑)本文にはただ「エントロピーが常にゼロの物質」「どんな衝撃でも破壊することができず、たとえ世界が滅亡してもそこに残り続ける物質」としか書かれていない。
武器なの…?
希少で重要なものらしいのだが、具体的にそれがどういう役割を果たすものなのか、なぜそれを人が欲しがるのか、云々についての記述はない。

そして、文体がまたやっかいなシロモノだなのだ。
ボリスが語るのは、未来のロシア語である。この言語は中国語の影響を大きく受けており、端々に中国語が挟まれる。翻訳の方には相当の苦労がしのばれるが、巧くニュアンスを伝えるのに成功していると思う。
そして、このおびただしい造語の意味のために、見開きごとに注釈がついているのだが、実は注釈も注釈の役割をなしてはいないという…
ソローキンは、訳者にこの難解な表現について、「意味を訳さず、音を表記せよ」とアドバイスしたそうだ。なるほど、本書の表現にはそういう異質さが当然のようにあって、"読む"というよりも、"文字を目に入れることで刺激を受ける"というほうがふさわしいように感じた。
でも、私自身も「青い脂」がでそう…

加えて、本書には、まるででたらめなコラージュのように作中作品が挿入されているのだ。とりわけ前半部分にまとまって挿入されているクローン作家たちの創作作品は、まさにわけがわからん状態!
ドストエフスキー、チェーホフ、トルストイ、ナボコフ....etcこれらクローン作家たちは、その本家との相関率の高さ関わらず、見た目は人でさえない者もいる
しかし、その作品も、あたかも文学をあざ笑うかのようにウマヘタというかヘタヘタなパロディなのである。
訳者はロシア文学のマトリョーシカ的な構造と言っているが、これは、ロシア文学に詳しくなければ、読み解くのは難解なのではないだろうか。でも、そういう素養的なことは今更どうにもならない。なので理解できないことを耐えて読むしかないのだ。
その猥褻さも特筆すべきだろう。大地と性交したりするのは序の口で、後半のスターリンとフルシチョフとのベッドシーンなどは、妙にリアルでポルノちっく。
無秩序と騒々しさにまぎれており、セックスシーンが多く、グロテスクで、汚く、総じて残酷なシーンも多く見受けられる。

全てが何かの隠喩のようであり、逆に何の意味も持たないようでもあり…
通常、私は本を読みながら、そういうとりとめのないことを考えるのが好きなのだ。
"春樹文学の羊男は私にとって何なのか?"などといった類いのことだ。でも本書に関しては、なんだかとにかく圧倒されてしまっただけだった。
Совет
それには、単に趣味や教養だけの問題だとは思えない何かが障壁となっていた気もする。
でも、ある一部の人々には熱狂的に受けるのじゃないだろうかと思う。そういうアングラさや難解さがどぎつく漂わせている魅力があるのは確かだ。

あなたの感想はどうだろうか?リプス、你媽的!


青い脂

ウラジーミル・ソローキン (著),
望月 哲男 , 松下 隆志 (翻訳)
河出書房新社 (2012/8/23)


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category: 文芸

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: ロシア文学  ポストモダン   
2013/09/22 Sun. 21:00 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re:小説というか芸術

naoさん、こんばんは
連休も終わっちゃいましたね。

『青い脂』の冒頭、あの文体にやられるんですけど、なぜかやめられないとまらない(笑)
でも、ブログでも白状している通り、読むのにかなり苦労しました。実際"読めているか否か”さえ定かではないし。
思うに、あれは小説というよりも芸術なのでしょうねぇ。しかも爆発してるし(笑)

オースティンの『エマ』ですか?
いいなぁ。私もオースティン好きなんですよ。
何と言っても、あの女性独特のいやらしさがイイ...
思ったより秋らしい秋が訪れそうですが、秋にこそ読みたい作家ですよね。

Spenth@ #- | URL | 2013/09/23 Mon. 21:05 * edit *

かなり読者を選ぶ奇書!?


今日図書館で現物を発見、頁を開いたのでしたが‥
最初の一頁読んで、目まいがしましたわい‥こりゃ無理。
読者は文学的読解力(素養)と途方もない忍耐力が要求される作品。
つまりは初心者お断りの一冊でありました(予想していた以上に)。
読破されたSpenth@さんに(特に「ウルフホール」以降)、
どんどん離されていくなぁ‥。

『ジェイコブを守るため』ランデイが借りられたので自分も読んでみます。
でも、いまはオースティン「エマ」読んでおります。
では!

nao #6gL8X1vM | URL | 2013/09/23 Mon. 19:49 * edit *

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