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読書日記、ときどき食日記

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ミステリガール / デイヴィッド・ゴードン 

『二流小説家』 のゴードンが描く、駄目男が、そのコメディが、オタクぶりが好きだったなら、おそらくこの小説も好みではないだろうか。

私は、毎日同じものを食べるということができないタイプで、本も、一番嫌いなのが「同じネタの使い回し」
だから、冒頭「また、負け犬駄目男モノか!!!」と思ったのだが、なぜかゴードンだと許せてしまうのだ。たぶん、ゴードン自身を彷彿とさせる彼の憎めない主人公が好きなんだと思う。


dancing girlさて、本書の主人公サムも『二流小説家』 のハリー同様、N.Y.の一流大学を出たものの、燻った生活を送っている。
自称は小説家だが、実際は古本屋で働いて生計を立てており、今取りかかっている小説『会陰』(どんな内容なんだか?!)もいつ仕上がるともしれず、さりとて発表の予定もない。
この10年で物書きとして稼いだ金はわずか10ドル。その頼みの綱の古本屋も潰れてしまい、失業の憂き目にあってしまうのだった。さらに追い打ちをかけるように、最愛の妻ララからも「このままじゃ、あなたは変わらない」と言われ、出て行かれてしまった。
次の夫婦セラピーの日までに、なんとしても仕事を見つけなければならない。職探しに奔走するサムだが、およそビジネススキルとは縁遠い文学と芸術の知識にしか誇れるものはなかった。
そんなサムは、就職支援サイトから私立探偵の助手の口を紹介される。面接に出かけたサムを待っていたのは、超がつく肥満体の自称私立探偵のロンスキーだった。彼には、太り過ぎの他にも自ら調査ができない重大な理由がありそうだった。その場で採用されたサムは、便宜上ロンスキーが"ミステリガール”と呼ぶ女性の監視を命じられる。胸と腰が豊満で、小柄な体型にココア色の肌をした"ミステリガール”は、心なしかララと重なった。
その女を追ってサンフランシスコ近くのビーチに着いたサムだったが、そこで彼女は謎の死を遂げてしまう。ホテルのバルコニーの手すりから身を投げたのだ。サムを誘惑し、一夜を過ごした後の一瞬の出来事だった。
実は彼女はロンスキーの片思いの相手だったのだった。彼女の本当の名はモナ・ノートで、今は亡き高名な映画監督の妻だった。ロンスキーが言うには、彼女は高所恐怖症でバルコニーに足を踏み入れることすらできないはずだったという。そして、サムに「私の愛する女を殺した犯人を見つけ出すのだ!」と命じるのだが…


The Big Lebowski本書のテーマは、扉で捧げられたゴードンの「ぼくを惑わせた女たちへ」という一言に凝縮されている。
こ〜れ、結構なものなんじゃないの?(笑)
ゴードンってば、実は女たらしなんじゃないのぉ?


その実、かなりなエロ路線でもあるのだ。が、このエロさも、不条理も、悲哀もコメディに溶け込んでいる。
やや冗長すぎるきらいもある映画や文学オタクぶりは、やっぱりそういうところがゴードンなのだ。これらの蘊蓄を随所に差し挟みながらも、物語は意外な方向へ突き進んでいく。
キーとなるのはもちろん、"ミステリガール"、モナの正体。長い旅路の果てに明かされるこの真相を、やっぱりねと思うか、意外だと思うか。

超肥満体だが頭脳明晰の私立探偵のロンスキーをはじめとして、ロンスキーの母親と家政婦、サムの親友ともいえるレンタルDVD店の店長にして希代の映画オタクのマルコなど脇役も個性的で楽しめる。

『二流小説家』 は本国よりも日本で大受けして上川隆也主演!!!で舞台にもなったが、これこそ映画向きのホンなのじゃないだろうか。
『二流小説家』 のハリーも本書の駄目男サムも、背後にゴードンその人をみるように描かれていて、読み手に深く共感させるが、これこそがゴードンという作家の持ち味というか武器なんだろうな、と思う。
また作中、コーエン兄弟の『ビッグ・リボウスキ [DVD]』のデュードを主人公サムは自分に重ねているが、読者も、知らずサムに自分をみる。この同一視ができるかどうかで、本書が面白いか否かは決まるのじゃないだろうか。

ところで『ビッグ・リボウスキ』をご存知ない方のために少し捕捉しておくと、この映画はコーエン兄弟監督によるコメディである。
コーエン兄弟といえばすぐさま陰鬱な作品を想像するだろうが、これはそれらとは毛色が異なる軽妙な作品なのだ。まさしく「喜劇だけが醸し出すことのできる悲哀に満ちた作品」であり、それは本書にも当てはまる

この『ビッグ・リボウスキ』のWikiに、「主人公が不可解な事件に巻き込まれ、怪しげな人物たちと出会い、事件の真相を探るという映画の基本的な構造は、チャンドラー作品と相似している」という解説があるのだが、なるほど!なのである。
この基本構造はなにもチャンドラーの専売特許というわけではなく、エンタメの黄金比のようなものなのだ。
しかし、昨今のミステリ作家というのは奇をてらい構造を変えたがる。そして、バランスを崩してしまう。
しかしゴードンはこれに忠実なのだ。
私が彼の作品を好きなのは、そのせいもあるかもしれないなぁと思ったのだった。



ミステリガール (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
デイヴィッド・ゴードン (著), 青木千鶴 (翻訳)
早川書房 (2013/6/5)


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category: コージー・男女もの

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  駄目男  早川書房 
2013/09/24 Tue. 20:55 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: 自分はコーエン作品のファン!

naoさん、おはようございます。
気温の変化が激しくて、な〜んか身体もダルダルな今日このごろ。
naoさんは大丈夫ですか?

> 紹介の仕方が抜群に巧い!
とか言っていただけるとお世辞でも素直にウレシイ!
しかし、この本は前作にも増して、好みがわれるだろうなぁという気がします。
少々ウザいことも確かなんですが、私は彼のテイストがやっぱり好きなんですよね。
時々、主人公ではなく作家自身のため息として突如として吐露されるかのような
「ぼくたちは貧乏貴族みたいなもので、世間一般の基準に照らせば、愚にもつかないつまはじき者でしかない」
こういう言葉にぐっときてしまう(笑)
それが彼の手だと分かってもいるんですけど、分かっていても、その手の輩心を捕らえることができるというのが、彼の強みかなぁと。 女にもモテるだろうと。
そういう意味では、一般受けする作家ではないよなぁ。 評価が低いのもある意味納得です。


> 意外に思ったことがひとつ‥(「ゴードンは忠実」に関して)。
ふふふ、最近二人で読書会みたいですね(笑)
ゴードンは確かに「駄目男の背後に作家本人を感じさせる」という独特の強みと個性と、ユーモアを持っていると思うのですが、ここで構造というのは、ストーリーの根幹となる幹の部分で、『二流小説家』でも本書でもそこは守ってると思うんですよ。つまり彼の独自性は、それをどう読者にみせるかの部分にこそある。
筋自体は、「主人公が怪しげな人物たちと出会い、不可解な事件に巻き込まれ、事件の真相を探る」
この一行に凝縮できる。
思えば全てのエンタメの名作の構造はこれかもしれないなぁと改めて思ったのでした。

しかし、何らかの目的があって、この基本構造をガチャガチャにいじったものや、最初からそれを無視している小説も、たとえそれが失敗であっても、好きだったりするんですけどね(笑)

ではでは!

Spenth@ #- | URL | 2013/09/25 Wed. 23:33 * edit *

自分はコーエン作品のファン!


本作について、あまり良い評価が伝わってきませんが‥
(次々刊行されるミステリ、評価(評判)の高いものに興味が向かいがち
 ‥自分はダメな読者なのでした)。
でもSpenth@さんの評を読んでグイグイ引き付けられましたわい。
紹介の仕方が抜群に巧い!

意外に思ったことがひとつ‥(「ゴードンは忠実」に関して)。
作家も読者も、やはり新しい構造(タイプ)の作品を求めていて、
そして「二流小説家」なども、そうした奇を衒った(ケレン)の部分が、
作品を魅力的(特徴的)にしていたようにも思うのですが‥。
(物語への真摯な思いを、その作品中に直截表明したことなど、
 創作へ向かう姿勢を評して「忠実」というのは適当かも)。
見方が反対になりましたね‥ちょっとうれしい。
(この他者との読み方の違いを知ることが読書の愉しみ)。

では!

nao #6gL8X1vM | URL | 2013/09/25 Wed. 10:57 * edit *

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