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読書日記、ときどき食日記

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特捜部Q カルテ番号64 / ユッシ・エーズラ・オールスン 

「特捜部Q」の新作がでたー!!!
『Pからのメッセージ』もよかったが、本作も筆が乗っている。
第四弾ともなれば、完全にキャラも立っている。
よく小説家や漫画家が、「登場人物たちが勝手に動き出す」というような表現をするが、まさにそんな感じなのだ。
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今更だが、「特捜部Q」というのは、デンマークはコペンハーゲン警察のコールド・ケースを扱うセクションである。政治的駆け引きにより新設された部署であるにもかかわらず、オフィスは警察本部の地下で、メンバーはたったの3人。予算の殆どは他の課にまわされているからだ。刑事は、リーダーのカール・マークだけで、あとは、雑用係として雇われているシリア人のアサドと、他の部署から厄介払いされる形でやってきたゴスメイクのローセだけ。地下のオフィスにはアサドのシリア料理のスパイスが漂い、床には祈祷用の敷物が敷かれ、ローセときたら、時々双子の姉妹と称するユアサに変身する奇天烈ぶり。風変わりで超個性的な部下2人と、カール・マークのトホホ感が絶妙なのだ。このシリーズが、全世界的に受けている要因の一つは、間違いなく「陰鬱な事件」と「ユーモア」の融合にあると思う。
この人気シリーズも第四弾であるからして、前作までにはあったキャラの説明や過去のストーリーは概ね省かれているが、『特捜部Q』が初めての方でも、充分に楽しめると思う。

折しも、デンマークでは極右で知られる政党<明確なる一線>が次の選挙に打って出ようとしており、コペンハーゲンではたちの悪いインフルエンザが猛威をふるっていた。
「特捜部Q」でもアサドが鼻を「クェートの朝焼け」並に真っ赤にしており、鼻水を垂らしてる。カールはうつされないうちに、恋人のモーナとバカンスにでも出かけたいと思ってたが、そんな時に、またまたローセに事件を押し付けられるのだった。
彼女は、大量の未解決事件のファイルをかき集め、その中から、87年にエスコート・サービスを経営していた女性が失踪した事件に目をつけたのだった。自殺の可能性が高いという理由で捜査は中断されてたが、ローセは自殺の可能性はないと言い張る。
というのも失踪したリタは、風俗業の裕福なマダムで、金銭的な問題は抱えておらず、その上、およそ自殺などしそうにない、他の人間を絶滅させるようなタフな女だったからだ。
ローセとアサドは、リタが失踪した同じ日に他に4人が行方不明になっていることを突き止める。人口の少ないデンマークでこの数字は異常だ。また、失踪した彼らは皆、一般的な失踪者の年代ではなく、50代から60代で、コペンハーゲンに赴く用があったらしいことが判明するのだった…

18z7ArDzgZ5Chjt1382586473_1382586662.png物語は、2010年の現在と、1987年とが交互に語られ、進行していく。
80年代の語り手は壮絶な過去を持つ一人の女性だ。
その女性ニーデの人生と、Qが捜査している失踪事件を結びつけるのは、スプロー島だった。

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このスプロー島は、今ではコペンハーゲンを擁するシェラン島と、フェン島を繋ぐグレート・ベルト・リンク上にある小さな島に過ぎない。
だが、1923年〜1959年までこの島は、反社会的な女性、つまりは「ふしだらな女」が送られる監獄だった。身勝手な医者たちの主張する"優生学”に基づき、彼女たちは”異常”だと判断される。病気とされながらも何ら治療が行われるわけでなく、島を出るには不妊手術が強制的に課された。
そして、そんな"優生学”に基づく思想が、今また、現代のデンマークで力を持とうとしていた...


今回の物語の一番のテーマは、スプロー島の史実だろう。これはオールスンの著作ではなく、歴とした史実なのだという。
大沢在昌の『魔女の笑窪』にでてくる、女が売られたら一生出ることはできない地獄島も実在のモデルがあるというが、こういう事実を知るにつけ衝撃を受ける。

今回オールスンがスポットを当てたのは、豊かな高福祉の国、幸福度調査では1位のデンマークの隠された黒歴史と、人間の本質の暗い一面だ。人の持つ差別意識というものは、あまりに根深く、決してなくなることはない。
「私たちは、不貞を働いた女性を石打ちの刑で殺すイスラムや、重度の身体障害者や精神病患者を虐殺したナチを批判するけど、全く同じことをやってきた」
ローセに言わせたこの言葉は、おそらく著者自身のものだろう。その意味でシリーズ中、もっともメッセージ性の強い作品かもしれない。

また、北欧諸国やドイツなど裕福な国への移民の流入は歯止めがきかず、人種間の軋轢にかかる問題は深刻になってきており、まさに「今」の問題でもあるのだ。
北欧ものならではの、重く陰鬱な気分にさせるテーマだが、こういうのは読後にどっと疲れるが、オールスンは違う。時に気持ちをリフレッシュさせつつ、読ませる技量はさすがだ。

faresfares_liekaas_-_h_2012.jpgところで、オールスンはこの『特捜部Q』シリーズを10作品は書くつもりだという。
テーマの選定も巧いし、筆力もあるので「また、そのパターンか!」とがっかりすることがないのは安心できる。でも10作も?!
それで、結局最後まで読んじゃうんだろうなぁ。

映画化計画も進行中らしいが、カールはかっこよすぎ!
もっともっとくたびれてると思うけど

特捜部Q ―カルテ番号64― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
ユッシ・エーズラ・オールスン (著), 吉田 薫 (翻訳)
早川書房 (2013/5/10)



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category: クライム・警察・探偵・リーガル

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  早川書房    特捜部Q  デンマーク 
2013/10/24 Thu. 13:16 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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