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読書日記、ときどき食日記

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甦ったスパイ / チャールズ・カミング 

Snowden.jpgスノーデン情報によると、米国家安全安全保障局(NSA)が盗聴してる国家元首は世界に35人もいるらしい。
ドイツのメルケル首相は、オバマに直接抗議したという。全くNSAは...

今や、諜報機関の監視の対象は敵とは限らない。良好な関係を築いていても、国が違う以上利害は異なる。
冷戦が終わってもスパイ小説の題材に事欠くことはない。諜報機関は仕事がなければ自分たちで作るし、技術の進歩も相まって、逆にますます国家間の関係は複雑になっている。本書はその象徴のような本かもしれない。

さて、主人公はイギリス情報局秘密情報部(SIS 通称MI6)をクビになったトーマス・ケル。42歳で、妻とは別居している。単身用のアパートに暮らし、総菜を買って食べ、昼は映画専門チャンネルをみて、毎夜飲んだくれる、そんな生活を送っていた。
そんな彼は、二日酔いで目覚めたある朝、SISのかつての同僚、マークワンドからの電話を受ける。まもなくSIS長官に就任する予定のアメリア・リーヴェンが行方不明になってしてしまったというのだ。女性初のSIS長官とあって、就任には組織内部に様々な思惑が渦巻いていた。就任前に予告もなく休暇をとった彼女を怪しみ、ライバルだった高官トラスコットはマークワンドとともに彼女を監視させていたのだ。だが、アメリアがそのレーダーから消えてしまった。携帯も通じず、クレジットカードも使われていない。ロンドンは不安を募らせる。もしこの事実が外部に漏れれば、由々しき事態だ。そこで、彼女と親しかったケルなら、行動パターンが読めるかもしれないとお呼びがかかったのだった。
アメリアを追いニースに飛んだケルは、彼女が"フランソワ・マロ"というフランス人と連絡をとっていたことを突き止める。フランソワの両親はごく最近、カイロで殺害されてた。フランソワは何者なのか?ロンドンが考えているように、恋多き女アメリアの情夫なのか?
やがて、ケルはアメリアがその昔封印した秘密を知ることになるが、そこにはフランスの対外治安総局の策謀がめぐらされていて…

Nice.jpg今や、英国の正統派スパイ小説の後継というキャッチが定着したチャールズ・カミング(以下CC)は、この作品によって、前作ではノミネートに留まった「英国推理作家協会賞(CWA)のイアン・フレミング・スティール・ダガー」を受賞した。
『ケンブリッジ・シックス』を読んだ限りでは、"英国の正統派スパイ小説の後継"というよりも、もっと「エンタメな作家」だと思っていた。
実際、『ケンブリッジ・シックス』はその華やかなロケーションといい、アクションといい、美女にクラっとくるところといい、ハリウッド的なのだ。
だが、本書は前作とは印象が全然違う。これは、アイデンティティについての物語なのだ。「スパイであることと素の個人の間に横たわる矛盾」といった内面的なものに踏み込んでいる。
作品自体が持つ体温も『ケンブリッジ・シックス』よりもかなり冷めており、ル・カレの、特に初期の作品を思い出させる。

訳者「あとがき」にもあるように、タイトルの「甦ったスパイ」というのはケル自身のことだ。アメリアを、フランソワを探し出す任務は、同時にケル自身のアイデンティティを探求することでもある。

スパイでいることは、隠しごとの世界に身を置くことだ。人と一定の距離をおいて付き合い、妻にも嘘をつく。人を出し抜き、矛盾した考えを受け入れる。ケルがSISを去ることになったのは、いうなれば、ただイギリス情報部という組織の一員でスパイであったからだ。しかし反面で、スパイとしてしか自分を活かすことはできないとも思い、苦悩する。ケルの抱える問題は、我々一般人も無関係ではない。程度の問題はあるだろうが、組織に、仲間に従ったがために、自分のモラルを犠牲にしたと後に後悔することは誰だってあるだろう。
まさに「それ」を取り戻すシーンにはカタルシスが感じられる。

小技が効いているなぁと思ったのは、登場人物たちに読ませている本のチョイスだ。特に、ケルが読んでいた「アフリカを奪え(日本未訳)The Scramble for Africa」は、事態の収斂ともマッチしており上手いなぁと思う。

ナダルのことを馬鹿にさえしなければ、もっと良かったのに!!!


甦ったスパイ (ハヤカワ文庫NV)
チャールズ・カミング (著), 横山 啓明 (翻訳)
早川書房 (2013/8/23)



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category: スパイ・冒険・ハードボイルド

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  早川書房  スパイ   
2013/10/25 Fri. 23:31 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: ナダルのルーティン・・なかなか癖はなおせない?

naoさん、おはようございます。

でも、舞台はニース、パリだし、美女も悪女と良い子両方でてくるし、それほど地味ってわけでもなくなかなかですよ。海外では、ル・カレファンにおすすめな一冊とか言われてるみたい。
確かに今のスパイ小説界では、若手の旗手といっていいと思います。CCもイートン出のスノッブなインテリですしね。
スパイの「なんだかなぁ...」感は似てるといえば似てるけど、スマイリーよりは年齢も若いんで、「まだまだやる気はあるんだ!」みたいな(笑)
ただ、ル・カレの世界はもっと冷たくて湿ってる。ディープなファンにはどうなんでしょう?

ナダルのルーティンは...あれ、お尻に手をやったすぐ後に、鼻を触るんですよね...
CCは「ケツを掻く」という表現をしてますが、「嗅いでる」ようにも見えちゃう!
しかも、ナダルはアルマーニの下着モデル。
いい身体してるからなんだろうけど、よくアルマーニはナダルをモデルに起用したなぁと。
ま、いいんだけどね(笑)

『特捜部Q』のデンマークのグレート・ベルト・リンク、私もデンマークには行ったことがないので、
一度訪れてみたいです。
北欧諸国は綺麗だけど、馬鹿みたいに滞在費がかかるんだよなぁ!

> 「死刑囚」の著者のものが最近刊行され喜んでおります。
> 「三秒間の死角」ルースルンド&ヘルストレム(角川文庫)。

例のランダムハウス倒産で、どうなることかと思ったけど、引き取り手はいるんですよね
私は『死刑囚』しか読んでないのですが、角川的ではない気が(笑)
ああ、南アフリカの大物、デオン・マイヤーはどうなるのかと思ってたら、こちらは早川になりましたね。
ただ、訳が...orz
デオン・マイヤーがメイヤーになるのは、いいんですが、訳は大久保寛さんのままにしてほしかった。

さて、私もそろそろ『時の娘』読まなくちゃ
最近(だっけ?)リチャード3世の遺骨も見つかったことだし、色々と盛り上がりそうです。

では、では〜!

Spenth@ #- | URL | 2013/10/26 Sat. 14:49 * edit *

ナダルのルーティン・・なかなか癖はなおせない?


ついこの前「ケンブリッジ・シックス」の評を読んだようにおもいますが、
もう次が刊行されておりましたか。
本作は地味目であるとか、しかしジェームズ・ボンドは別にして、
諜報活動(部員も)は実際そうした(陰陰滅滅・・)ものなんでしょうなぁ。
(自分なら女スパイにイチコロで、人生を終わらせることが易く想像される)。
本作は自分の興味を惹くものでありました。

特捜部Q・・先の旅行報告でもドイツの書店で平積みであった様子。
自分も年末あたり読む予定です(先に未読の前作を読まなくては)。
記事にあったスプロー島、その島を渡る道(長い)というか橋(デカイ)、
デンマークのそのあたりをグーグルで散策してみましたが、
海の上を行く景観はなかなかな美しいものですなぁ・・でも寒そう。

北欧ミステリについて、以前Spenth@さんに教えていただいたミステリ、
「死刑囚」の著者のものが最近刊行され喜んでおります。
「三秒間の死角」ルースルンド&ヘルストレム(角川文庫)。
先の出版社(版元)がエライことなって、どうなるかと思ってましたが。

週末は「時の娘」でも読んでみます・・では!

nao #6gL8X1vM | URL | 2013/10/26 Sat. 09:47 * edit *

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