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読書日記、ときどき食日記

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KGBから来た男 / デイヴィッド・ダフィ 

一日の寒暖差が大きく寒いんだか暑いんだかよくわからないこの季節は、決まって風邪をひく。
摂取した水分は全部鼻水になっている気がするし、咳もくしゃみも止まらない。ここ数日扁桃腺までも腫れたため外出もままならず、家で大人しく本を読んでいる。
だが、風邪薬のもたらす眠気のために、数行読んではうつらうつらしまた数行といった"カメ読書"だ。

Lubyanka.jpgそのカメ読書で読了した本書『KGBから来た男 』は、2012年度のMWA新人賞の最終候補にノミネートされた作品である。キングは端から諦めていたが、本書と、本書をおさえ賞を射止めた『赤と赤』は、10月中に読んでおきたかった…
だが受賞を逃したとはいえ、これもなかなか。T.R.スミス『チャイルド44 』にはじまる"レオ三部作"もそうだが、あの時代の就中KGB、グラーグ関連のものの魅力は、はっきり言って"ずるい"。
そういえば先の読書会ではないが、この著者も参考文献に挙げていたデイヴィッド・レムニックの『レーニンの墓—ソ連帝国最期の日々』も、臨場感溢れるソビエト崩壊の様子とともに「別の側面からみたゴルバチョフ」が描かれていたことを思い出す。「ノンフィクションなんて!」という人にこそ読んで欲しいと思う。
ところでロシアには、そのゴルバチョフに次ぎ、あのプーチンに"ノーベル平和賞"を与えるべきだという意見もあるそうだ。ロシアンジョークは相変わらず分かりにくいが、歴史とは多面的なものであると改めて思う。


poker.jpgさて、『KGBから来た』というタイトルが示す通り、本書の主人公ターボ・ブロストは元KGBで、強制収容所(グラーグ)で生まれ育った。
彼自身は勿論、彼の親にも落ち度はないが、犯罪行為も法律もその境界線は揺らぎ、誰かを陥れるのが唯一の生きるすべといった時代だった。だが彼は幸運だった。語学力を買われKGBにスカウトされたのだ。
彼はグラーグから救い出してくれたヤーコフ・バルスコフのことを父親のように思っているが、ゼーク(囚人)だったという過去は常に彼に付きまとっている。
ソビエトは崩壊したとき、ターボはその機に乗じてN.Y.にやってきた。あることが原因で、KGBを去らねばならなかったからだった。妻とも別れ、息子アレクセイとも彼が2歳の時以来会っていない。そして、20年がたち、今は「Vlost and found」という調査会社をやっている。役員は、美女にモテモテの巨漢でPCの天才"フーズ"と、彼のヨウム"ビッグペン"。
あるとき、そんなターボの元に、5番街に住まう銀行家のマルホランドから依頼がくる。19歳の継娘エヴァが何ものかに誘拐されたというのだ。マルホランドの妻の連れ子だが、彼は実の娘のように可愛がっていた。そのマルホランド自身にもFBIの手が迫っている。今や彼の銀行は死に体だ。
果たしてターボの目の前でマルホランドは逮捕されるが、その騒ぎを聞き出て来たマルホランドの妻をみてターボは驚愕する。それはターボの別れた妻ポリーナだったのだ。
エヴァ誘拐事件の調査をすすめる中、その誘拐にはポリーナの二番目の夫でロシアンマフィアのラーチコ・バルスコフの手下がかかわっていることが判明する。ラーチコはターボの恩人ヤーコフの息子で、二人の間には根深い確執があった。
エヴァの居所を追うターボは、そこで麻薬で朦朧としているエヴァと、遺体となっているラーチコの部下リスリャコフを発見する。リスリャコフはラーチコのマネーロンダリングのキーマンだ。そしてそこには銃創を負っているヤーコフがいたのだった。なぜヤーコフがここに...?
ポリーナ、ラーチコ、ヤーコフ...決別したはずの過去がターボの前に再び姿を現す…


African grey parrotちびちびと読むはめになった本書であるが、だからこそその周密さ、緻密さがより感じられる。何気ない一文が含意に富むのだ。

過去”から逃れられない男、ターボのキャラクターがいい。ジェイソン・ステイサムのように頭を剃り上げ毎日6時に起きて走り、嫌みな奴から大金を巻き上げることに逡巡することはないが、金のないものからはとろうとしない。
ターボの過去のみに焦点をあてれば、ただ暗いだけのものになってしまうが、ヨウムの存在がそれを和ませている。PCの天才フーズの"相棒"にして、好物の「ピザ」を連発するも、唇がないために「リザ」になってしまうというおしゃべりな大型のインコだ。

スターリンを始めとしてロシアは数々の受難と辛苦に耐えてきたが、その時に人々の救いとなったのはユーモアだったという。その意味でヨウムのビッグペンは完璧な脇役といっていい。
今一人、ターボにとって重要な登場人物も出てくるのだが、その人物なくてしはエンタメの名折れだろう。が、それは読んでのお楽しみ。

訳者あとがきにもあるとおり、原題は『Last to Fold 』で"最後に勝負を降りる者"という意味だ。確かにターボはその通りの男で、たとえ手持ちのカードが悪くとも途中で降りることはない。そしてその"勝負”とは彼の人生そのものだ。

"過去"がこの小説の旋律だとしたら、「ロシアでさえ、血は金より濃いものだ」という言葉は本書における和音かもしれない。これは、登場人物の一人、隻眼のペトローヴィッチが口にした言葉なのだが、こういったウィットは随所にみられる。


KGBから来た男 (ハヤカワ文庫NV)
デイヴィッド・ダフィ (著), 山中 朝晶 (翻訳)
早川書房 (2013/5/10)


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category: スパイ・冒険・ハードボイルド

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  早川書房  MWA 
2013/11/07 Thu. 20:12 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re:風邪の秋...

あら、naoさんもですか?
私は今日ついに観念して病院へ行ってきましたよ...。

> 想像するのにも体調の良しあしが関係する様子

そうなんですよね。具合がよくないと本も味わえない。
本当に健康第一ですよねぇ。

『KGBから来た男』の陰謀はドラマがあるので、今手をつけはじめた『赤と赤』はどうも物足りない。
どうしてこっちがMWA新人賞なんだろう?
ペースがあがらないのは鼻炎の薬のせいばかりでもない気がします(笑)

キングはなんとか読みたいですねぇ...
私もはやくジョン アーヴィング の新作とか行きたいなぁ

では、では
お大事に〜


Spenth@ #- | URL | 2013/11/08 Fri. 17:26 * edit *

読書の秋とはいうけれど・・


こちらもこの時期のどの痛みと言うか不調のせいで、
まったく小説は読めていないのでした。
亀の歩みでも、読む気力のあるSpenth@さんには感心であります。
(年取ってから、ヒトと会うと健康の話を多くするようなったなぁ・・やだやだ)。
不調ゆえ、ヒトの読書記事(評)を読んで、読んだ気分に・・。

記事を読むと、登場人物たちの濃密な関係図(因縁)は、
そのまま誘拐事件の狭い関係者と不自然に相対(合致)・・、
スミス作品のようなソビエト(ロシア)社会の暗黒を映すわけでもなし、
私怨が絡む裏事情の背景のためのグラーグの設定(借景)かな。

この物語設定だと、主人公ターボの運命を裏工作(謀略)して陥れたであろう人物、
ラチーコ(根深い確執があるとか・・)との因縁の対決という単純な話になってしまう。
ターボにとって重要な登場人物・・主人公の息子さん?
「ロシアでさえ、血は金より濃いものだ」・・やはり金に汚くてだれの諌めも聞かないラチーコ、いいひと(?)ヤーコフの父子関係について言及したもの?
Last to Fold ・・ポリーナとターボと関係(別離)を言ったものかな?・・などなど、
想像はふくらみません・・何を書いているのか判らなくなりました。
想像するのにも体調の良しあしが関係する様子。

ああキング・・読む気力がわかないまま、
図書返却日が近づいてくる。
では。

nao #6gL8X1vM | URL | 2013/11/08 Fri. 12:31 * edit *

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