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読書日記、ときどき食日記

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罪人を召し出せ / ヒラリー・マンテル 

hiraly mantel2ヒラリー・マンテルがキャサリン妃のことを「子供を産むだけが役割のショーウィンドウに並ぶマネキン」と酷評し、物議をかもしたのは今年の始めのことだっただろうか。
あれほど国民がフィーバーしてるっていうのにそんな発言をするなんて…と思ってたら、

よくみれば、
おばちゃん、マツコ的横幅じゃないの!


ダイアナ妃も若いときは細かったけど、キャサリン妃も確かにマネキン並みに細い!
作家の見地からすれば、アン・ブーリンに比べたらどんな妃だって物足りないだろうが、
アンと違ってキャサリン妃は立派にその"役割"とやらを果たしたのだから、もっと褒めてあげてもいいのではないか。


雑談はさておき、前作『ウルフ・ホール』の続編である。前作に続いて本作でもブッカー賞を受賞している。本書は、最もスキャンダラズな英国王ヘンリー8世の重臣であるトマス・クロムウエェルを主人公にした歴史小説だ。

前作がトマス・クロムウエェルの少年時代からヘンリー8世の寵臣に成り上がるまでの長いスパンを描いているのに対して、本書はヘンリー8世の王妃の座を掴んだアン・ブーリンが、その座から転落するまでのおよそ1年を密に描いている。

the tudors 物語は1535年の秋に始まる。
前作でクロムウェルは、伝染病によって妻と娘を二人亡くしてしまった。そして、物語冒頭、その死んだ娘たちの名をつけた鷹がイングランドの空を舞うのを、彼とヘンリーは共に眺めている。
死者が空を漂い、季節は冬へ向かいつつある。訳者が指摘するように、"不穏さ"が霧のように立ちこめようとしている実に見事な始まり方だ。
この後1年足らずの間に、ウルフ・ホール(ヘンリー8世の宮殿)は、「死」に見舞われ続けることになる。王妃の座をおわれたキャサリン・オブ・アラゴンの病死、アンの死産、法臣たちの思惑と陰謀と策略、争いに破れたものたちの処刑は相次ぎ、王妃アンも処刑される運命にあるのだ。

絹擦れの音をかすかにさせながら雅やかな筆致は、数多くの「死」を描き出す。だがその色あせた雅かさは、また「疲労」も漂わせている。
『ウルフ・ホール』では顕著だった独特なくせは本書では姿を消している。叙情詩的だったのが、小説的になっている。その意味では前作よりもグンと読みやすい。

クロムウェルの視点から我々が見るアンは、底意地が悪い怜悧な策略家だ。だが、それはヘンリーには新鮮に映ったのかもしれない。従順で美しい女ならいくらでも手に入るから。だからアンは、そのなんでも手に入るはずのヘンリーに「お預け」を食らわせ、それこそ膝の上を1cm 単位で"切り売りしながら"、慎重に時間をかけてついに王妃の座を手にいれた。アンとヘンリーの関係は、アンが知恵を使うことによって成り立つ"男女間のゲームの高揚"のようなもので持っていたと言えるのかもしれない。
だが、たいていの男がそうであるように、ヘンリーもそのゲームに疲れはじめる。冒頭の秋の日の鷹遊びのシーンは、また、ヘンリーに忍び寄る「老い」と「疲れ」の象徴のようにも見えてしまう。
彼の心の変化は「余は、他の男たちとはちがうのか、ちがうのか」という"扉にある言葉"を思い出させる。答えは、ある意味で同じであり、ある意味で違うのだろう。

henry8.jpg他の男と同じなのは、キリキリした駆け引きではなく、やがては安らぎを求めはじめることだ。
加えて、アンは娘しか与えてくれないという不満も重なり、それがアンにとっての綻びの糸口になった。
キャサリン・オブ・アラゴンを王妃の座から下ろすとき、アンは彼に「息子を生んで差し上げます」と言ったのだ。しかしヘンリーに与えられたのは、彼が「できもの」と蔑む醜いエリザベスだけだった。

だから、ヘンリーはまた新しい女へ向かいはじめたのだ。
アンとは真逆の、大人しく、従順な女、ジェーン・シーモアに。作り笑いを浮かべた、まるで「ショーウィンドウのマネキン」のようなジェーンに。だが、ジェーンはただの「マネキン」ではなかった。



jane seymour話をもとに戻せば、世の他の男たちと異なって、ヘンリーには絶対的な権力がある。
彼には白を黒に変える力があるのだ。そして、クロムウエェルをはじめとしたブレーンもいる。
アンはまた政治力を公使する王妃でもあった。何にでも口を出しヘンリーを操れた
。マンケル女史は、アンのそういう所を、ヘンリーは「恐れた」のだと言っているが、私は恐れると同時に「疲れた」のだと思う。
そして今、クロムウェルは、アンを追放しなければ自分が追放されるであろうほど、アンと敵対している。生き残るすべは、恩師であったウルジー枢機卿が示したくれた。すなわち王の希望を叶えることなのだった。

本書は男と女の物語であるとともに、 クロムウェルという人物を主人公にした「企業小説」のような面白みを併せ持っていると思う。
絶対的権力をもつ社長の組織の中で、どう這い上がりどう生き残るか。どう策を廻らしライバルを廃除するか。マンテルはクロムウェルをこれまでの彼に関する常識をひっくり返し、好人物として描いている。家族に深い愛情を示し、他人を思いやる懐の深さを持っている。しかし、反面で道徳的なことには固執はしない。この多面性が面白い。

マンテルは、このトマス・クロムウェルの物語を三部構成にするつもりらしく、現在はその最終作を執筆中であると聞く。「奢れる平家は久しからず」というが、歴史は繰り返し繰り返しそれを私たちに指し示す。
我らのトマス・クロムウェルがこの後、劇的な最後をむかえることを私たちは知っているが、その最後の物語をマンテル女史がどうのように描くのか、非常に楽しみだ。


罪人を召し出せ
ヒラリー マンテル (著), 宇佐川 晶子 (翻訳)
早川書房 (2013/9/20)


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ウルフ・ホール (上)
ウルフ・ホール (下)

ヒラリー マンテル (著), 宇佐川 晶子 (翻訳)
早川書房 (2011/7/9)





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category: 文芸

thread: 読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 早川書房  ブッカー賞    歴史小説  ヘンリー8世  アン・ブーリン 
2013/11/20 Wed. 15:21 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: ヒラマン・デラックス!

ヒルマン・デラックスって、ぶっ(爆)
お衣装の生地は、マツコ同様た〜っぷり必要でしょうが、
エゲレス人のおばちゃんだと、これくらいザラですよねぇ。

この本、実は9月末くらいに読んでいたんですよ。
レビューのほうが、ついつい後回しになっているうちにこんな時期になってしまい...。
他にも読んだはいいけど、そのまんまになってるのが何冊かあるんだなぁ。
『ウルフ・ホール』ダメだったとおしゃっていましたが、こちらは大丈夫だと思いますよ。

クロムウェル(マンテル女史)はアンの容姿には辛口です。
「色黒で、出目気味の黒い目をランランとさせてる」とかって...それ、怖いよ(笑)
実際はアンも正統派の美人さんじゃないにしても、魅力 があったのじゃないかなぁ?
ちょっと悪女っぽい感じの。
本作では、その魅力も年齢とともに失われているけれども。
しかし、ナタリー・ポートマンてはあまりに美人すぎだな(笑)

『ゴーン・ガール』の男女の迷宮、楽しく嵌ってらっしゃるご様子(笑)
後半「おおぅ」となりますよ!

では、では〜

Spenth@ #- | URL | 2013/11/20 Wed. 21:30 * edit *

ヒラマン・デラックス!


いつお読みになりました・・このオニのような分厚。
風邪をこじらせ、寝伏しているという話でしたが、
どこにそんな気力が・・謎めくSpenth@さん。

昔の諸々の記録がおかしい、修正してほしいなぁ。
アン・ブーリンはナタリー・ポートマンですぜ、
メアリ・ブーリンはスカーレット・ヨハンセンだし(意味不明)。

自分もしかしクロムウェルさんのこと要修正かも。
どうもクロムウェルという名前の(歴史上の)イメージ、
よくないのでした・・クロムウェル≒策士策に溺れる・・偏見。

「半沢直樹」・・naoは直樹のnao(どうでもいいプチ情報)。
『ゴーン・ガール』二つの交互に展開するこの物語、
この先どうなるんじゃ・・では!

nao #6gL8X1vM | URL | 2013/11/20 Wed. 20:48 * edit *

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