Reading For Pleasure

読書日記、ときどき食日記

03« 2017 / 04 »05
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.

跡形なく沈む / D・M・ディヴァイン 

本書は英国の本格推理作家、ディヴァイン最晩年の作品で本邦初訳である。
1978年発表の作品でありながら、「このミス」海外編に入る資格も有しているので、私はランクインを予想しているのだが、さて、どうだろう?
「本格」マニアからすると、この作品のシンプルなレッドへリングは、少々物足りないかもしれない。だが、トリックなんてどうだって良いじゃないの。小説自体に魅力があるならば。

penmanship.jpgさて、物語はチャネル諸島のジャージー島の自宅で、ルース・ケラウェイの母親が亡くなるところから始まる。ルースは母親と確執があり憎んでさえいた。母親が亡くなった直後も、彼女は悲しみにくれることもなく、目当てのものを探し出す。それは、”シルブリッジ”と書かれた箱形のファイルだった。
ルースは父親を知らずに育った。母は父については何も話してくれなかったが、時折スコットランドのシルブリッジから手紙を受け取っており、それをルースに見られぬよう金庫にしまっていたのだ。
ルースはその手紙を二度三度と舐めるように読み、じっくりと計画を練る。どうすれば最も自分に有利に働くだろうかと。
シルブリッジの役場でタイピストとして働きはじめたルースは、ジュディ・ハッチングスにまとわりつく。そして彼女の家族に近づく。ジュディの父のハッチングス議員は、次のシルブリッジ自治区協議会の議長と目されていた。
一方、ジョディとルースと同じ役場で、記録文書係として働いていたケン・ローレンスは、だらしないリズと同棲生活を送っていた。仕事は彼にふさわしいものとはいえず、リズにもうんざり。彼は、元婚約者のジュディを通じて知り合ったルースに興味を惹かれていく。
「何も教えてくれなかった母をわたしは憎んでいたの」という彼女にケンは同情を覚え、彼女の父親探しを手伝いはじめるが、彼女が興味を持っていたのは、父親探しだけではないようだった。
ルースは執拗に昔の選挙の記録を見たがっていたのだ。
そんな折、ある人物が殺され、ルースは姿を消してしまう…

mud.jpgディヴァインの作品は、巻き込まれ型で、きっちりと伏線が張られ、意外な結末をむかえるといった特徴があると言われるが、本作品もまさにその三つが揃いぶみのフーダニットである。
だが、ディヴァインの良さは、それにとどまらず、彼の物語は、男女のポップなドラマとしての魅力があるのだ。そこだけとっても、月9ドラマなんかより余程面白いのではないかと思う。

ちょっとしたツキのなさから、本来の実力からは遠くかけ離れた仕事に甘んじ、怠惰な同棲相手との生活を倦んでいるケン・ローレンス。そんなケンを未だに忘れることのできないジュディ。ケンはジュディが、美人で、自分よりも仕事上有能だと認められており、しかも町の有力者の娘であることから引け目を感じて素直になれないでいる。駄目男と優等生の美女の二人のツンデレ関係はとても現代的で、これが70年代に書かれた作品だとは思えないほど。
しかも、演じるのはジャニタレでも名前ばかりの棒読み女優でもなく、ディヴァインが丁寧に作り上げた最高のキャラたちである。
もしもあなたが今、ケンのような駄目男と、良い仕事に就いてはいるが何にしろ自己のエゴを優先させる男性との間で迷っているなら、ディヴァインは本書でとても洒落たアドバイスをしてくれるのではないだろうか。また、その逆も然り。



跡形なく沈む (創元推理文庫)

D・M・ディヴァイン (著), 中村 有希 (翻訳)
東京創元社 (2013/2/27)

詳細をみる





関連記事

category: ミステリ/エンタメ(海外)

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  本格  東京創元社  英国 
2013/11/27 Wed. 22:33 [edit]   TB: 0 | CM: 2

go page top

この記事に対するコメント

Re: タイトルなし

おう、さすがはnaoさん!
ただ、本作は『五番目のコード』などに比べると、やや評価は低いみたいですね。
私は割と好きだったけのですが。

ベリンダ・バウアーの『ハンティング』は、チェックしてましたよ!
このヒトも巧いんで、早いうちになんとか読みたいなぁと思ってます。
いいなぁ。naoさんトコは図書館で借りれて。

そうそう、
ハヤカワミステリマガジンの2013年ランキングを、
横浜読書会おてもと氏から教えてもらいました。

1位遮断地区
2位緑衣の女
3位冬のフロスト
4位夜に生きる
5位シスターズ・ブラザーズ
6位ポーカー・レッスン
7位11/22/63
8位コリーニ事件
9位終わりの感覚
10位スケアクロウ

ええっ?!『冬のフロスト』が『夜に生きる』より上なの?!とか、
『終わりの感覚』は文芸として扱えよとか、
『スケアクロウ』はコナラーの組織票が入ったな、それしか考えられないなとか、
色々と思うところがございました(笑)

『暗殺者の鎮魂』を読んでるくらいなら、やっぱりインドリダソンは読んどくべきでしたわ(笑)

> ヨコミスの自分の選出作はちと奇を衒ったものなので、
>Spenth@さんをガッカリさせてしまうことでしょう。

いやいや、naoさん評は非常に楽しみにしていますよ〜
ちなみに私のヨコミスはミステリ作品は二作品のみでした。

ところで、『冬のフロスト』は私は不覚にもノーマークだったのですが、確実に「このミス」上位に入ってくるでしょうねぇ
横浜読書会の忘年会で、文庫交換会っていうのをやるのですが、
誰か私にプレゼントしてくれないかなぁと甘い期待をしたりしてます(笑)


では、では〜

Spenth@ #- | URL | 2013/11/29 Fri. 20:25 * edit *

そうですなぁ・・ディヴァインさんは鰊(レッド・へリング略)を仕掛かける(?)のが巧い技巧派。
ミステリ(特に本格)に親しんだ読者は、
鼻が利いて(?)、鰊の怪しげな匂いには警戒してるワケで、
それでも著者の作品がおもしろく読むことができるのは、
物語が一転、真犯人を照らし出すその演出の巧さにあるように思いました。
また記事にあるように、登場人物の人物造形がしっかりしているので、
劇的に暴かれた人物(犯人)のその意外性はもちろん、
人物(事件)背景(裏の顔・暗部)が明らかになっても、
説得力がある・・とはいえ、
今やウォルターズ他、分厚く描かれた作品世界の凄味を味わったヒトには
レトロ感ただようものなのかも?

そう、べリンダ・バウアーの作品が刊行されたの知っていました?
「ハンティング」(「ブラックランズ」「ダークサイド」続編)
昨日、図書館で海外作品の文庫の棚見ていて見つけたのでした。
興味薄?

ヨコミスの自分の選出作はちと奇を衒ったものなので、
Spenth@さんをガッカリさせてしまうことでしょう。
まわりでは「冬のフロスト」なども評価高いようです。
では!

nao #fEJ3w3TM | URL | 2013/11/29 Fri. 12:27 * edit *

go page top

コメントの投稿

Secret

go page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://spenth.blog111.fc2.com/tb.php/328-ea7952bd
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

go page top