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読書日記、ときどき食日記

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シスターズ・ブラザーズ / パトリック・デウィット 

『HHhH (プラハ、1942年)』
同様これも白水社っぽいけど、これまた東京創元社。
そのせいか『このミス』入りもしている。けれど、この本はミステリでもなければ、犯罪小説というわけでもない気がする。
東京創元社や早川書房といった海外ミステリ御用達の出版社が文芸ジャンルに意欲を見せ始めているのに比例して、ここ数年「このミス」海外篇の顔ぶれも変わってきた。

選択の幅はなんでもOKのヨコミス並じゃないの。

本書はブッカー賞こそジュリアン・バーンズにさらわれてしまったものの、北米で高い評価を受け、多くの文学賞を受賞している本。そういえば、『終わりの感覚』 も今年の8位に入っいた。
ジャンル分けはもう意味を持たないのかもしれない。そろそろ「このミステリーがすごい」っていう名称自体も、変更すべき時期なのかも。


gold-rushes1.gifさて、本題。
まず、『シスターズ・ブラザーズ』というふざけたタイトルだが、シスターズというのはチャーリーとイーライ兄弟のファミリーネームなのである。そして、シスターズ兄弟は名の通った暗殺者なのだ。
物語は彼らが「提督」と呼ばれる親分の命令で、本拠地のオレゴン・シティからカリフォルニアに向かうところから始まる。今回のターゲットであるハーマン・カーミット・ウォームという男はカリフォルニアにいるのだ。時は1851年、カリフォルニアはゴールドラッシュに沸いていた。

物語の語り手は、弟のイーライだ。縦にも横にビッグで立派な太鼓腹の持ち主のイーライは、お人好しだがかっとなると見境がなくなる性格の持ち主。だが、憎めない。
一方、兄のチャーリーは欲しいものを手に入れるためには手段を選ばない冷血漢で、ケチで計算高い。
イーライたち兄弟は、前回の仕事のボーナス代わりに「提督」から二頭の馬を貰ったが、ニンブル(敏捷な)という名の良い馬を兄にとられ、イーライはもう一頭のタブ(太っちょ)をあてがわれている。その名が示す通り、タブはニンブルに比べ馬として著しく劣っている。この「馬の問題」に象徴されるように、イーライは一事が万事チャーリーにいいように操られているが、不満に思いつつもなんとなくやり過ごしているのだ。
女性に関しても、見かけよりもロマンチストなイーライは、女に「細身の男性が好きなの」と言われれば、ダイエットを決意するが、チャーリーはその女を金で釣ってたやすくモノにするといった塩梅なのだ。イーライは結局のところいつも兄の後を追っているだけだったが、カリフォルニアへの旅路で彼の意識は変っていく…

grizzly bear彼らは暗殺者であり、しかも兄チャーリーはそれに相応しい性格なので、行く先々でその名に恥じぬ事が起こる。
彼らに関わる人間はとにかくバンバン死ぬ。
だが、イーライが語るとそれらはとても”軽く”感じられる。作中でも兄弟の母が、「お前が言うと、やけに軽く感じられる」と口にしているくらいだ。訳者はこれを”激しい暴力をぼけっとした包む”と表現しているのだが、この”ぼけっと感”の妙こそが、本書の魅力なのである。底抜けのお人好しで、知性面で少々問題のあるイーライというキャラの魅力のなせる技なのだ。

patrickdewitt.jpg英国のThe Independent紙は、本書をC.マッカーシーの『ザ・ロード』と比べ評しているが、私は『チャイルド・オブ・ゴッド』のバラードを連想してしまった。
バラードとイーライはどちらも非文明的で暴力的な世界におり、いわばグリズリーのように生きている。が、その印象の違いは、第一にイーライにはチャーリーという調教師がいること、第二に、マッカーシーがバラードを突き放し俯瞰から眺めているだけなのに対して、デウィットはイーライに感情を吐露させ、読者に寄り添わせてようとしている点にあると思う。
ボケッとしたイーライの"苦悩に見えない苦悩"は、実はとてつもなく哲学的なものだったりもするのだ。人間として人間らしく生きていくのはいつだって、誰にだって難しいものだ。皮肉なことに、人というものは、「悲しい歌を聞いたからって、あたしが悲しくなるわけじゃない」という風にもできているのだから。

このイーライに語らせることで、同時に物語はスリップストリーム的な色合いも帯びている気もする。その"不思議感”は、途中、途中に、"幕間の挿話(インターミッション)”としても差し挟まれてもいるが、物語の本筋部分も細部に至るまでとてもよく計算されていると思う。

一見、プロジェクト・ランウェイに登場しそうなお洒落なデウィットさんだけど、これがなかなかなのだ。



シスターズ・ブラザーズ
パトリック・デウィット (著), 茂木 健 (翻訳)
東京創元社 (2013/5/11)


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category: 文芸

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: このミス    ゴールドラッシュ  ブッカー 
2013/12/17 Tue. 18:01 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: 私もタイトルからしてナメてました

naoさん、こんばんは!
そうなんですよ。私もこのふざけたタイトルからして超エンタメ系のお笑いものだとばかり思いこみ、ナメてましたが、これがこれが。
訳者の方があとがきで使用している「激しい暴力性をボケっと包む」というのがぴったりの傑作なんです。
そして、これが割と深い。

『烈しく攻むる者はこれを奪う』 う〜〜ん読みたい!読みたい!
図書館で上手く借りられるとベストなんだけどなぁ
私は先日の忘年会でいただいたクィネルを読んだら、J.アーヴィングの『一人の身体で』を読もうと思ってましたが、どうすべきなんだろう???
最近、積読本が溜まってるしなぁ...

>先のコメントで『舞踏会へ向かう・・』についての言及、驚きました。
>読んだことを憶えていただいていたとはうれしい・・

勿論覚えてますよ〜!
私も読みたいと思っていたし(でも読めてないけど)、なんたってnaoさんは私の一番の本友達ですから。

『アンダー・ザ・ドーム』のドラマは私も今や録画するだけ
観る日がくるのかも疑問だったり...
あれはやっぱり勢いで本で読むほうがいいかも。

それにしてもnaoさんがフチ子マニアだとは...(笑)

ではでは〜

Spenth@ #- | URL | 2013/12/17 Tue. 21:10 * edit *

文学賞受賞作であったとは・・フチ子もびっくり!

本作はそんな小説でありましたか・・知らなかった。
表紙のイメージから、普通のギャングの抗争がテーマの・・
「アイアンハウス」系統のものを想像しておりましたよ。
記事を読むと自分の好みに合う作品である様子、
知らずに見過ごす(読み過ごす?)とこでした・・セーフ。
早い時期に読もうと思います(図書予約待ちなし)
よい情報ありがとうございます!

今、フラナリー・オコナーの『烈しく攻むる者はこれを奪う』
というのを読んでいる途中ですが、久々にグッとくる一作です
(記事にもある『チャイルド・オブ・ゴッド』を少し連想)。
といっても古典の域にある作家(作品)なので今更・・なのですが。

先のコメントで『舞踏会へ向かう・・』についての言及、驚きました。
読んだことを憶えていただいていたとはうれしい・・
あの作読んだのは去年のこと、
時の経つのは早いですなぁ・・ふう。

ドラマ『アンダー・ザ・ドーム』・・ザセツしてしまいました。
『インフェルノ』図書予約待ち、あと十数人・・みんな急げ!?
・・以上、微糖のフチ子眺めつつ・・ではまた!

nao #6gL8X1vM | URL | 2013/12/17 Tue. 20:48 * edit *

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