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読書日記、ときどき食日記

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燃える男 / A.J.クィネル 

例の忘年会でKameさんよりいただいた本。
D.ワシントンの『マイ・ボディガード 』の原作なのだそうだ。映画も観てなければ原作も読んだことのなかった私。

クィネル作品は、欧米では「なんでクィネルの本が絶版なんだ!」というファンの声に応えて最近Kindle版として復活してもいるという。


gozo2.jpg

さて、本書の主人公は、50歳に差し掛かろうとしている元傭兵のクリーシィである。かつて彼は凄腕の傭兵としてならしていたが、旧友グィドーの元にやってきた時は生きる理由すら見失っていた。
ローデシアでの戦争で、彼は戦争というものが持つ”不毛の無限循環”を覚ってしまったのだ。アルコールに依存し肉体は弛緩し、無気力になっていた。
グィドーはそんな彼に、「プレミアム・ボディガード」という仕事を半ば強引に斡旋する。プレミアムとは聞こえがいいが、高額な保険料を割引させるためだけのものであり給料も安い。だが、クリーシィの問題は金ではなく、事実上アル中の状態にあることだった。グィドーはたとえしばらくの間であっても、クリーシィーの気力の喪失を食い止める何かが必要だと思ったのだった。
雇い主は、経済的に窮地に立たされているミラノの実業家バレットだった。妻は社交界でも有名な美女だ。クリーシィがボディガードをするのは、その11歳になる娘ピンタだった。
生来無口で子供嫌いなクリーシィだったが、頭がよく好奇心旺盛な彼女に次第に打ち解けていく。彼女は彼を理解し、繊細なやり方で慎重に彼の心をこじ開けたのだった。
しかし、クリーシィの酒量が減り、再び活力を取り戻した矢先に、 ピンタが誘拐されてしまう。クリーシィの目の前で起こった出来事だった。そして、クリーシィ自身も重症を負ってしまうのだったが…


Kameさん曰く、「いわゆる冒険アクションもので、男の再生の物語です。」
この「再生」部分は二段構え。第一段はあらすじにあるピンタによる再生であり、第二段が本書のメインになっている。
クリーシィがピンタと過ごした日々は、わずか2〜3ヶ月に過ぎず、ストーリー上これは前座の役割でしかない。が、ここが適度にページを割いて丁寧に描かれている。だからこそ、後半がより魅力的になっているのだ。
彼は再び、今度はマイナスの状態から立ち上がらねばならなくなる。絶対にやりとげなくてはならない使命、すなわち復讐が彼の原動力になるのだ。
解説者も「冒険小説で最も大切なのは動機付けだ」と言っているが、全くその通り。(関係ないが、『グレイマン』に決定的に足りないのはこれなのかも!)

後半には激しい暴力シーンもある。だが、単なる復讐の物語というわけではない。
クリーシィが再び立ち上がる準備のため身を寄せるのは、マルタのゴゾ島である。地中海の宝石と称されるこの島の美しさとそこに住まう人々の牧歌的な暮らしは丁寧に描かれている。
Quinnell.jpgところで、A.J.クィネルのWikiをみると、「彼は、3度の結婚をしており、最初の妻、Elsebeth Egholmは、デンマーク出身のミステリー作家であり、デンマークのゴゾ島の住居で、執筆活動をしていた。」とあるのだが、これは、日本語版の執筆者による誤訳だ。
これは「デンマーク。のゴゾ島なのではない。英語版の「The couple maintained residences on the island of Gozo and in Denmark .」マルタのゴゾ島である。
クィネル自身もマルタのゴゾ島に居を構え、地元のバーでウォッカのソーダ割りを楽しみ、ゴゾのサッカーチームを後援していたのだ。ゴザのシーンが陽ざしをまぶしく感じさせ、ビビッドで美しいのはそのためだろう。

映画『ゴッドファーザー』でも、アルパチーノ扮する若きドン・コルレオーネが、シチリアに身を隠している間に地元の美しい娘と恋に落ちるシーンがある。私は、その結婚式で、アルパチーノが彼女に結婚の贈り物のネックレスをかけてやるシーンが好きなのだが、あれはあの映画における唯一といっていい幸福を象徴するシーンなのだ。直後に、彼女は車ごと爆破される。あの平和で美しいシーンがあるからこそ、その後コルレオーネとその家族に起こる悲劇の暗転が引き立っているのだと思う。
このゴゾのシーンでも同じようなことを思った。
地中海の美しい島では、その舞台にふさわしい物語が芽生えるものだ。それは「冒険小説」に欠かくべからざる要素でもあり、ストーリーに彩りを与えてバランスを良くする。
加えて、このゴザの女ナディアの“強さ”が、また良いのだ。

読後ついでに『マイ・ボディガード』がHuluにあるならば観ようかと思ったけど案の定なかった。
レンタルするほどじゃないので、観てないのだがどうなのだろう?
ただ、クリーシーィーが黒人というのはちょっと違う気が…


燃える男 (集英社文庫)
A・J・クィネル (著), 大熊 榮 (翻訳)
集英社 (2000/4/18)


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パーフェクト・キル(新装版) (集英社文庫)
A・J・クィネル (著), 大熊 榮 (翻訳)
集英社 (2000/4/18)


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category: スパイ・冒険・ハードボイルド

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  読書会  映画化 
2013/12/19 Thu. 17:56 [edit]   TB: 0 | CM: 2

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この記事に対するコメント

Re: タイトルなし

naoさん、こんばんは
関東地方は今日初雪の予報だったのですが(ゆえに極寒!)、初雪はならず。
で、ツタヤには結局いかず...

そっか、トニー・スコットさんが監督だったのか
自殺の報道を聞いたときは、衝撃でした。
映画、やっぱり観たいなぁ。
それと、この続編のあたる同じクリーシィものの『パーフェクト・キル』をどうしようかちょっと迷っています。

>ただ女性の裸身の方に注意が向いてしまい、

私もおっさん目線で、
「こりゃケイのことなんか忘れて、こっちに走っちゃうよな」って思いましたよ!(笑)
あのシチリアの雰囲気と、その時のアルパチーノの状況を考えるとなおさらですよね。
名前は覚えてませんがあのすぐに殺されちゃう彼女が、あまりセリフも多くなく、
受け身だったのも、なんというか詩的な効果を高めて、彼女がネックレスを首に飾ってもらって、嬉しそうにはにかむシーンがすごくいいな、と思いました。
実際はシチリア女性は結婚後、もっとうんと身体も心も逞しくなるとは思いますけど(笑)

でも、ゴッドファーザーで一番印象に残っているのは、それまでファミリーに距離を置いていたマイケルが、リストランテで、初めて人を撃ち立ち去るシーンです。拳銃を置いて立ち去るんですよね。あれがマイケルの転機になった。ちょうどシチリアに潜む原因となった出来事のシーンですね。
ゴッド・ファーザーって本当にいいですよね〜。

『夜に生きる』もベン・アフレックが映画化するそうですから、こういう作品に仕上げて欲しいなぁと思います。

アーヴィングもいいけど、バチガルピもいいですよ〜!
一番好きなSF作家かも。

では、では〜

Spenth@ #- | URL | 2013/12/19 Thu. 23:12 * edit *

記事おもしろく読みました・・そしてある部分に愕然!
映画は(原作とは別に)映画として自分はおもしろく観ました
(トニー・スコットのあの特徴的なスピード感あるカットは魅力的!)。

それはいいとして・・
『ゴットファーザー』のある場面についての記述部分、
たいへんよい文章・・その視点というか感性にほとんど感動しました。
自分もこの名作は観たのですが・・あるいは観たつもり?
その場面にそういう美質を自分は見いだせず、
ただ女性の裸身の方に注意が向いてしまい、
その鮮烈を記憶に残すばかりなのでした・・ダメ人間。
同じ作品を観てこうも差があるとは・・ふう。
自分に足りないもの(知性)に気づかされましたわい。

アーヴィングの新刊、自分も気になっておりました。
また、Spenth@さんがかなり前に紹介され、
そのとき以来、興味惹かれていたバチガルピ『ねじまき少女』
近く読みます(SF作品は後回しになってしまう傾向あり)。
ではまた!

nao #6gL8X1vM | URL | 2013/12/19 Thu. 22:28 * edit *

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