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読書日記、ときどき食日記

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第三の銃弾 / スティーヴン・ハンター 

ソチオリンピックも終わった。鉄人葛西の四十路メダルもよかったけど、なんといっても真央ちゃん!
もうメダルとか点数とかそういったものを超越した。熱狂的ファンのオバちゃんたちのみならず、日本中が涙した瞬間だったかも。

そんな中、「JFK暗殺」ネタは引き続き密かにマイブーム中で、第二弾はS.ハンターの『第三の銃弾』なのである。
S.ハンターといえば、何と言っても「このミス1位」にも輝き、映画にもなった『極大射程 』
だろう。すごく良かった記憶があるのだが、読んだのはなにせ10年以上前のこと。何か新しいものをひとつ読めば何かひとつ忘れるといったトコロテン式のアタマゆえに、ボブ・リー・スワガーのこともさっぱり忘れてしまっており、『第三の銃弾』にあたり『極大射程』も併せて読み直してみた。そのボブとの初対面をもう一度やり直したかったのだ。

Bob Lee Swaggerその『極大射程』のボブ・リー・スワガーっていうのはどんな男なのよ?という方のために簡単に説明しておくと、彼はヴェトナム戦争で負傷して海兵隊を退役した"伝説のスナイパー"なのである。
この手の冒険小説のヒーローとしては、クラシカルなタイプのストイックな一匹狼の男だ。93年を舞台にしている『極大射程』では40代半ばといったところで、故郷のアーカンソーのトレーラーハウスで、犬とともに静かに暮らしていたが、ある日、そこに法執行関連の会社の男二人が現れ、ボブに新しく開発したばかりの弾丸の"試射”を依頼をするのだ。
ボブはその"試射"がきっかけで巨大な陰謀に巻き込まれ、エクアドルの大司教狙撃の犯人に仕立て上げられてしまう…というストーリーである。

驚いたことに、この二冊は単なるシリーズの域を超えており、ほとんど続きものといっていい関連性がある。
ああ、だから書店にはわざわざ隣にセットのように平積みしてあったのかと納得した(『極大射程』は98年当時、新潮社からでていたが、昨年『第三の銃弾』扶桑社より改めて出版されている)いうなれば、S.トゥローの『推定無罪』と『無罪』のような関係で、版元の扶桑社も頑張ったというわけだ。

著者自身があとがきでも触れているように、そもそも『極大射程』のアイデアの根本には「JFK暗殺」があったとのだいう。そして、本書『第三の銃弾』は、そのボブ・リー・スワガーが、"銃の専門家”としての件見地から「ケネディ暗殺」の謎を解明するということが軸になっているのである。
加えて『第三の銃弾』は『極大射程』の後日談にもなっており、すべてはこの『極大射程』から始まっているといえるだろう。
ゆえに、『第三の銃弾』単独でも読めないこともないとは思うが、まず『極大射程』を読んでから『第三の銃弾』を読むことをお薦めする。

Dal-Tex Building舞台は『極大射程』から20年後の現在。物語は、ボルティモアで、ジェイムズ・アプタプトンという作家が、酔って帰宅する途中で轢き逃げにあうところから始まる。作家は即死し、警察は事故として処理するが、それはプロによる犯行だった。
その事故から数週間後、一人の女性が、アオダホの片田舎で暮らしているボブ・リー・スワガーの元を訪れる。彼女は件のひき殺された作家の妻で、ボブに夫の死の真相の調査を依頼するためやってきたのだった。
彼女の夫、アプタプトンは、冒険小説でそこそこ名の知れた作家で、近く「JFK暗殺」の真相にかかる本を出そうとしていたという。「JFK暗殺」は犯人とされるオズワルドが殺害されてしまったため、多くの謎を残したが、アプタプトンはある手紙をきっかけにしてその謎が解けたと言っていたらしい。
彼女がいうには、その手紙の差出人は、ダル・テックス・ビルで70年代にエレベーター技師をしていたという。
そのビルは、オズワルドがJFKを狙撃した教科書倉庫ビルの隣に位置している。彼はエレベーターのエンジンルームで偶然見つかったタン色の高級素材のオーヴァーコートのことがずっと心に引っかかっていた。そのコートには銃腔洗浄剤の匂いが強く残っていたからだった。銃の匂いがするコートは「JFK暗殺」とは無関係だったかもしれないが、技術者は気になって仕方なかった。そこで銃に詳しい作家アプタプトンに手紙を書いたのだった。アプタプトンは、その手紙を元に「JFK暗殺」の謎解明に可能性を見出したという。
話を聞いたボブは、その話とアプタプトンの死を関連づけて考えるのはやめるべきだと諭そうとするが、ある事実を聞き考えを変える。コートにはイギリス風の自転車のタイヤのような"細いタイヤ痕"があったというのだ。コートの背中のタイヤ痕は、長らくボブの心の奥底に埋もれていた記憶をくすぐった。
ボブは調査のためダラスに飛ぶ。アプタプトンは決して知られてはいけない「JFK暗殺」の真相を解明したがゆえに殺されたにちがいない。彼は何を掴んだのか…


この小説の読みどころは二つある。一つは、ボブ・リーという古典的ヒーローの前の事件のオトシマエであり、いま一つは、ハンターの(ボブの)解明した「JFK暗殺」の謎解きである。
物語それ自体は完全にフィクションであるが、このJFK暗殺の謎の解明はなかなか楽しめる。著者自らを連想させるアピタプトンという作家もさることながら、諸々小ワザもきいており良く出来ているのだ。

Dal-Tex Building2前エントリ『ケネディ暗殺 ウォーレン委員会50年目の証言』 でも触れたが、「JFK暗殺」には未だ多くの謎とそれに伴う陰謀説が存在する。ウォーレン委員会やその後の下院委員会が出した結論は、皆を納得させるに不十分なのだ。ゆえにそのミステリーは多くの作家のイマジネーションと推理力を刺激する。
『ケネディ暗殺〜』のシノンは、オズワルドを単独の実行犯と認めた上で、Why?の観点から、重要かつ新しい証言を得ることに成功し、オズワルドの背後にカストロの陰を匂わせた。

他方、ハンターのアプローチはWhoなのだ。つまりオズワルドは囮で、実は真犯人がいるのではないかというものだ。
オズワルドが放ったとされる銃弾は三発。そのうち最初の一発目は狙いをはずし、次の二発目はケネディの首を貫通し、前のシートに座っていたコナリー知事の身体を貫き、彼の手首を砕いて太ももに当たった。いわゆる「一発の銃弾説」と呼ばれているもので、今はこの説の正当性はほぼ認められている。
だが、ケネディの命を奪ったのは三発目の頭部を吹き飛ばした銃弾なのだ。これを本当にあのオズワルドが撃てたのか?というところにボブは(ハンターは)着目するのだ。問題は「第三の銃弾」なのだ。これを本当に撃ったのは誰なのか?

オズワルドは、海兵隊において「一級射撃手」でしかなかった。それほどの腕ではないということだ。しかも標的は、移動を続け、オズワルドがいた教科書倉庫からは離れようとしており、植木の隙間からという彼にとっては難しい射撃となったはずだ。
また、使用したのは、"マンリヒャーカルカノライフル"という63年当時からしてもかなり時代遅れのライフルだった。このイタリア製のライフルの特性は厚着をしたドイツヤオーストリアの山岳兵の体内の奥まで弾丸を届かせることができることにあるのだという。つまりボタンなどにあたっても逸れずに、骨にあたっても砕けることなく体内を進んで内蔵に到達できる丈夫な弾なのである。だが、「JFK暗殺」で見つかった弾丸は「一発の銃弾説」の一発のみ。その弾丸はケネディと知事二人の身体を貫通してもほとんど無傷に近かったことから魔法の弾丸とも呼ばれている。外したとされる一発目は見つかっておらず、大統領に致命傷を負わせることになった「第三の銃弾」は、頭蓋骨に当たったショックで粉砕しているのだ。本来頑強なはずのこの弾丸が、なぜ三発目だけ砕けてしまったのか?この点に疑問を抱く。

この視点は新鮮だった。
誰しもが問題は、第二目の銃弾、「一発の銃弾説」にあると思い込んでいたからだ。昨年CBCで製作され年末にNHKで観た実証ドキュメンタリーでも、三発目の弾丸は単に堅い頭蓋骨にあたって砕けてしまったのだと説明していた。頭蓋骨は人間の部位のなかでもとりわけ堅くできているから、おそらく誰もがそれに納得していたのだろう。
両者のどちらが正しいのかは私には判断がつかないが、これも「可能性」であることには違いない。

ここから導きだされる「JFK暗殺」の真相とボブ個人の因縁の物語の繋がり方は圧巻だ。それが『極大射程』で一度目にしたものであっても、"陳腐”に陥ることはなく成功しており、かつ銃に詳しいハンター(ボブ)ならではの視点が生きているため、真正性が確保されている。



第三の銃弾 (上) (扶桑社ミステリー)
第三の銃弾 (下) (扶桑社ミステリー)

スティーヴン・ハンター (著), 公手 成幸 (翻訳)
扶桑社 (2013/11/30)








極大射程 上 (扶桑社ミステリー)
極大射程 下 (扶桑社ミステリー)

スティーヴン・ハンター (著), 染田屋 茂 (翻訳)
扶桑社 (2013/6/29)
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category: スパイ・冒険・ハードボイルド

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  このミス  JFK  暗殺 
2014/02/24 Mon. 22:02 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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