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読書日記、ときどき食日記

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静かなる炎 / フィリップ・カー 

kerr.jpgナチもののミステリー。確かにナチがらみのものは題材にしやすく、話題性にも事欠かない。
ここ最近も『深い疵』『コリーニ事件』『HHhH (プラハ、1942年) 』など話題作揃いだが、そんな中にあって本書はとくに読み応えがあった。

刊行が2014年の1月だから、S.ハンター『第三の銃弾 』に続き、本年度の「このミス」に入るのではないか。少なくとも私の本年度のミステリーベスト10には入りそう!




さて、本書の舞台は1950年のブエノス・アイレス。
物語は、主人公のベルンハルト・グンターが、偽の身分証を携えて二人の元ナチ親衛隊とともにドイツからブエノス・アイレスへやってくるところから始まる。
共に旅してきたうち一人は、かの名高きアイヒマンだ。元ベルリン警察の刑事だったグンターも戦犯として裁かれるのを回避するためにアルゼンチンへと逃げてきたのだった。ファシズムに傾倒していたファン・ペロン大統領の治世下のアルゼンチンは、当時元ナチを大量に受け入れていたのだ。

上陸後、ペロン大統領の側近で公安幹部のモンバルタン大佐から、グンターはある事件の捜査を依頼される。ドイツ人の大佐はベルリン時代のグンターの活躍を知っていたのだった。失踪人探しの専門家だった私立探偵時代も含めて。半ば押し付けられたも同然だったが、母国へ帰国可能な正式な旅券と、逃亡の旅で患ってしまった甲状腺の病の治療を受けることとを引き換えに、彼はその事件を引き受ける。

失踪したのは、大統領夫妻とも親交のあるドイツ人銀行家の14歳の娘ファビエンヌだった。いわゆる"めかし屋”と呼ばれる育ちのいい娘だ。大佐は捜査対象をドイツ系アルゼンチン人絞ってよいと考えていた。
ドイツ系アルゼンチン人の少女の失踪はファビエンヌで二人目で、一人目のグレーテは既に遺体となって見つかっていた。グレーテの遺体は切り刻まれており、子宮をはじめとした生殖器官のをほとんど丸ごと切除されていたのだ。
それはグンターに、18年前にベルリンとミュンヘンで起きた事件を否応なく思い出させた。それらの二つの事件は同一犯による快楽殺人が疑われたが、ついに犯人を捕らえることのできなかったのだった。今回アルゼンチンで起こっている事件は、被害者の年齢といい、手口といい昔の事件に酷似していた。
犯人がグンターら同様にドイツからこの国にやってきたのだとすれば辻褄があう…。




Eva Perron物語は1932年のベルリンと1950年のブエノス・アイレスでの出来事とか交互に語られていき、時代を行きつ戻りつしつつ、意外ともいえる事件の真相へと辿りつく。

アイヒマンをはじめ、ペロン大統領やエビータ、サルファ剤を発見したドーマク(サルファ剤、忘れられた奇跡 )など実在の人物が物語に巧みに織り込まれ、また史実に忠実であるがために物語にリアリティと重厚さが加えられている。
就中、重大なテーマはといえば、アルゼンチンという国が未だ触れられたくない秘密だろう。これは衝撃だった。
その詳細は読んでのお楽しみとしておくべきだろうが、それはグンター自身がドイツ人として、そのドイツの警察官だった者として、そしてナチに屈することになった男として永遠に抱え続けることになるものに所以している。
グンターは、愛する女性アンナに対してこういう。「ドイツ人は誰しも、胸のうちにアドルフ・ヒトラー像をかかえている。わたしみたいにヒトラーと、ヒトラーが唱えるすべてのものを憎んでいるドイツ人でも…(中略)いつまでもわたしたちにつきまとい、消すことのできない静かな炎みたいに、わたしたちの魂に焼き付いている。」
グンターが抱え持ち続けるのは明らかに自責の念だ。それにもし色があるのだとすれば、青い色をしているのかもしれない。小さく静かではあるが、それが決して消えることはない。

物語終盤に、グンターはヒトラー像ではない別の「青い炎」を抱え続けることになるのだが、そういう視点でみれば、このグンターの物語は歴史ミステリというよりはハードボイルドといったほうがふさわしいかもしれない。

ちなみに本書は、主人公でもあるベルンハルト・グンターのシリーズの第5作目にあたるそうなのだが、関係なくのめりこめた。


静かなる炎 (PHP文芸文庫)

フィリップ・カー (著), 柳沢 伸洋 (翻訳)
PHP研究所 (2014/1/10)


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変わらざるもの (PHP文芸文庫)

フィリップ・カー (著), 柳沢 伸洋 (翻訳)
PHP研究所 (2011/9/17)


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category: 歴史・大河・ドラマ

thread: 最近読んだ本 - janre: 本・雑誌

tag: 海外ミステリ  ナチ  歴史 
2014/03/25 Tue. 21:06 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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