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読書日記、ときどき食日記

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『羊たちの沈黙』読書会! 

この日の参加者は13名。
なんといっても、あの『羊たちの沈黙』なので、収拾が着かなくなるのは最初から分かってはいた。
しかし、今回はメモもとらなかったので(とれず)で、記憶も飛び飛び。
確か、3時間の規定の他に延長もしたと思うのだが、後半はもう何がなんだか状態(笑)
お酒は飲まなかったんだけど…。
おかしいな…?


20140407 1jpg
◆ 心理学
まず、最初に今回のキュレーターであるロデムさんから心理学的背景の資料等が配られる。

『羊たちの沈黙』はサイコスリラーの金字塔であり、その衝撃的な登場によって一瞬にしてミステリ界をサイコロジカル・スリラー一色に塗り替えてしまった作品だ。
私は心理学方面の知識が殆どないので気づきもしなかったのだが、ロデムさんによるとレクター博士の言葉は、随所にフロイト的発言があり、その影響が感じられるのだという。

例えば、レクターはクラリスとの初対面の会話
「だからあらゆる人間に"道徳的なおむつ"をはかせている」新訳版上巻P46

う〜ん、言われてみるとフロイトっぽいというか、スカトロ的というか。
他にもタイトルにもなっている「羊」も、心理学的によく使われる言葉なのだそうだ。とすると、村上春樹の羊男も?
クラリスのトラウマにもなっている子羊は、「ヨハネの黙示録」の第七の封印を解くところから採られたと思っていたが、そういう意図もあるのかもしれない。


◆ 映像の魅力
『羊たちの沈黙』といえば、映画だ。
アンソニー・ホプキンズの名演もさることながら、今のハリウッド女優とはひとあじちがう美しさが光っていたジョディ・フォスターへの賛辞が多かった。
私も前日にDVDを借りてきて観たのだが、ジョディ・フォスターの硬質な美貌には今でも息を飲んでしまうほどだ。
タフで美しいクラリスというヒロインがいたからこそ、エンタメとしての大成功をもたらしたのだろう。

映画の中では、水死体の指紋を採取するためにクロフォードに伴われて訪れたランキン郡の死体置き場で、鼻の下にメンソールを塗るシーンがあるのだが、クラリスが後ろを向いて塗る仕草に”萌えた〜”という人も。
小説ではただクロフォードたちをみて、それにならったとだけなのだが、あの演出も良かったと思う。

続く『ハンニバル』ではクラリス役は、ジョディ・フォスターからジュリアン・ムーアに変わったが、ジョディ・フォスターに比べると、ジュリアン・ムーアはもっさりしすぎていたという声もあった。
ただ、確かトマス・ハリス自身は、ジュリアン・ムーアこそ、当初思い描いていたクラリスだとどこかで発言していたような気も…


◆ キャラクターの魅力と描写
Nさん曰く「全てにおいて完璧!」の『羊たちの沈黙』だが、際立っているのはキャラクターの魅力だろう。
レクター博士は、稀少で価値あるものを好む圧倒的に洗練された嗜好と、人喰い(カニバル)の二面性を持つ、史上最強のダーク・ヒーローだ。私自身もそうだったのだが、読んでいると著者のハリス自身が自らが創ったハンニバル・レクターに”飲み込まれていく”のが分かる。
そしてレクター博士は、登場したその瞬間から、「全ての犯罪者の食物連鎖の最上位に君臨する存在」として描かれている。
その存在があまりに強烈であるために、物語上の連続殺人犯であるバッファロウ・ビルの陰すら薄く感じさせてしまうほどなのだ。

Goya Saturnodevorandoまた、レクター博士の食人嗜好についても盛り上がった。
緊急事態下や、薬効性を期待しての場合を除く食人嗜好は、どういう心理に基づくものなのだろうか?
日本語でも「食べちゃいたいくらい可愛い」という表現があるが、佐川君のように愛するがゆえに食べたい人もいれば、ニューギニアの部族のように自分たちの敵を食するというケースもある。

ただ、『羊たちの沈黙』におけるレクター博士の場合は、ライオンがシマウマを狙うように感情は一切介さずに、ただただ食材としてだけ捕らえているような感じだ。


レクター博士と双璧をなすのがクラリスで、コンプレックスとトラウマの造形は心憎いまでに巧い。
ファザコンで、田舎の貧乏白人層(クラッカー)出身というコンプレックスを、初対面でレクター博士がつくシーンは秀逸である。
バッグはいいけど、靴は貧しいとレクターに指摘されたくだりを読んで「靴はいいものを履こう!」と思ったという人も。私もとにかく色々と買いあさるのはやめなくちゃ…

それから、クラリスが自分の心のなかでつぶやいているセリフは、本文中ゴシックになっているのだが、これが本当にガラが悪い。原書で読んだ人に聞くと、センテンスの区切りのない汚い言葉だという。こういった細部にも"孤児院育ち"を匂わせているのだろう。本書はディテールに至まで本当によく出来ていると思う。



◆ 印象的なシーン
これは、なんと言ってもレクターとクラリスの対話シーンと、レクターの脱走劇に集中していた。
看守の顔の皮をかぶって、救急車で運ばれることでまんまと逃げおおす脱走シーンは、映画のクライマックスシーンでもある。「指でばれなかったのかな?」(レクターは多指症)という声もあったが、顔面は切り裂かれて血まみれで眼球が垂れ下がっていたら、誰も指には着目しないかも。

レクターとクラリスの対話シーンは、スリリングで『ハンニバル』の結末へと繋がるものでもある。案の定『ハンニバル』の結末は映画のほうが良かったという人が多かった。『ハンニバル』の終わり方にキレて『ライジング』は読むのをやめたという人も…。
結末に関しては、私は断然小説支持派である。だって初対面で既にレクターはクラリスにこう尋ねているのだ。
「私を見たまえ、スターリング捜査官、きみは、私が悪だ、と言い切れるか?私は悪か?」
そしてラストシーンではこう手紙にしたためている。
「しかし、きみにも見えると思う。私たちの星の一部は同じなのだ。」と。
これらを踏まえると、映画の結末にはならないような気がするのだ。

さて、皆さんはいかがだろう?


20140407 2◆ 旧訳と新訳の比較
『羊たちの沈黙』が刊行されたのは1989年。
私など、つい、こないだの話じゃない?という気がするが、なんと、なんと、横浜読書会にはこの年に生まれたという人もいるのだ!!!

今回、課題本にするにあたっては、新刊で入手可能な高見浩氏訳のものに限定していたのだが、案の定というか菊池版は、昔チャレンジしたけど読みにく、挫折してしまったという人も。
Amazonレビューでも菊池さんはさんざんな書かれようだが、これは読者の年齢によるものではないだろかと思うのだが…。かの”横浜読書会で最も若い彼”も読みにくいと言っていた。


私はそもそもが菊池光さんの文章が好きなので断然旧訳派。ディック・フランシスは読んでないが、『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』も『シブミ』も絶対に菊池さんでなければ!!!
時代を感じさせるセピア色の味わいがあるし、独特のリズムを持っていてそれがいいのだ。

いずれも瑣末的なものなのだが両者は解釈自体異なっているところもあって、例えばクラリスの寄宿舎の部屋にある金のビーズのネックレスは、菊池訳では「念珠」になっている。これはクラリスが南部のルーテル派の孤児院で育ったことなどから考えると、ロザリオだと考えるのが妥当なのかなと思う。
金のビーズだと、昔パークアベニューで流行っていた、女の子が生まれたら毎年誕生日ごとに一粒づつ真珠を送るという習慣を想像させてしまうのだ。クラリス、お嬢様ではなさそうだけど…

また、新訳では、バッファロウ・ビルことジェイム・ガムが、キャサリン・マーティンを拉致しようとするときに「きみは14歳くらい?」と聞いているのだが、これは誤訳ではないだろうか。
ちなみに菊池訳では「きみは14くらいか」になっているのだが、これは年齢ではなくサイズを聞いているのではないだろうかと思う。
ジェイム・ガムが興味があるのは、自分が着られるだけの幅のある皮膚なのだから。

それに、ガムの愛犬のプレシャスの「可愛い子ちゃん」を忘れてはいけない!(笑)
生前の菊池光さんと面識のあったKameさんによると、菊池氏は自分のことを”我が輩”といっていたらしいのだが、”我が輩”のセンスはやっぱり違うのだ!(笑)

トマス・ハリスはこの11日で74歳。ジョン・ル・カレのことを思えばまだまだ書けるはず…。
前作『ハンニバル・ライジング』からははや8年、そろそろ期待したいところである。



羊たちの沈黙(上) (新潮文庫)
羊たちの沈黙(下) (新潮文庫)

トマス ハリス (著), 高見 浩 (翻訳)
新潮社 (2012/1/28)







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category: 読書会

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2014/04/07 Mon. 23:48 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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